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 映画祭二日目は平日のゆったりとした幕開け。ゲストの質疑応答も始まりました。この日は最終回に上映の『トルソ』山崎裕監督が来場、本当は上映中の取材予定でしたが、監督が上映を見たいとのことで急きょ前倒しの取材となり、70歳目前の新人監督(撮影監督では超ベテランですが)を独占インタビューすることに!
『トルソ』山崎裕監督インタビュー

<脚本のアイデアのきっかけは何ですか?>

実は30年以上前から温めていました。75〜6年頃ロンドンで住んでおり、テレビの海外ドキュメンタリー番組の取材でカメラマンとしてヨーロッパにいたのです。
ヨーロッパは70年代にポルノが解禁となり、ポルノの規制が少なくなって、フリーセックスが叫ばれ、ポルノ映画も上映できるようになった頃でした。

今は亡き大和屋竺監督とヨーロッパの仕事でデンマークに行った時、ポルノショップで肌色の男性トルソ型を見つけたのです。そのときは非常に感動しました。それから、これをモチーフにしていつか短編映画を作りたいと思い、いつもチャンスはないかと伺っていたんです。もともと映画が好きでカメラマンをしていたので、ドキュメンタリーは制作しており、映画の仕事はずっとしたいと思っていました。

当時イギリスで作るのであれば、モンティ・パイソンのように形式ばった男性と独特の女性キャラクターをそろえたブラックユーモアの短編が作りたかっのですが、その時間がなかったんです。
今、日本のこの時代ではそれをあてはめる訳にはいかず、設定がなかなか見つからずにいました。

その後、是枝監督と「ワンダフルライフ」で一緒に仕事をし始め、「空気人形」をずっと撮りたいと言っていたので、こちらの「トルソ」のことも話をしていましたが、ある意味それがきっかけでちょっとまじめに考えてみようと思い始めました。そこで、父親違いの姉妹の話にしようと思いついたのです。

トルソを愛する35歳前後の女を主人公にし、年の離れた父親違いの妹と女性たちを長編で描くことにしました。以前女優とカメラマンだけで何が撮れるかという短編製作をやり、女性観察ができたので、「トルソ」では主人公を普通の女の子にして、ちょっとひきこもった状況に置き、それが壊されてしまうことでどうなるかと持っていくようにしました。


<映画づくりで心がけたことは?>

カメラマンにとってカメラは自分の肉体のもう一つの表現ツールであり、カメラマンが持っている生理感覚が匂うような映画にしたかったのです。

カメラを持ちながら演出もするので、見えるものしか映りませんが、見えないものがあるのはそれで良しとしています。自分が覗いている世界だけで何ができるかなんです。

人の人生の見えている部分は氷山の一角、その一角から見えない部分を感じさせたいし、ドラマを撮るというよりは、生きている人間の生活の積み重なりを表現しました。主人公の喜びや悲しみについて説明的な表現を省き、ミニマムな表現を心がけたんです。


<役者の演出についてはどのように行われたのでしょうか?>

目の前で起こっていることに、人間としてどういう反応をすればいいかを大事にしてもらい、セリフや動きはそのときに作っていくやり方でした。

諏訪監督や是枝監督のように、役者じゃない人を使うような監督の影響は若干受けていて、芝居で説明しようとしないで、自分の感情が入るようにと役者には希望を出していました。

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『トルソ』のモチーフが30年前のヨーロッパでの出会いだとは衝撃的でした。それだけ長い間温めていたものが、ようやく形になった山崎監督満を持してのデビュー作。

監督が意図したように、お芝居ではない自然な女性たちの心の動きや生活の積み重ねが表現された映像の数々。特別ドラマチックな展開が起こるわけではないけれど、少しずつ主人公の心が閉じこもった場所から一歩外に踏み出そうとしていく様子が静かに描かれています。

今年後半には劇場公開も決まったそうで、いち早くお話を聞けた貴重なインタビューとなりました。