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夏に『Peace』の想田和弘監督をインタビューさせていただいた際に、監督が語っていたドキュメンタリーの巨匠フレデリック・ワイズマンのことが忘れられずにいたら、なんと来日、しかも京都に!これも何かのご縁と勝手に思い込み、初の立命館大学訪問&ワイズマン監督生トークを堪能。ブレない姿勢に納得、ワイズマン流ドキュメンタリーの極意が垣間見えましたよ。





フレデリック・ワイズマンレトロリスペクティブ企画として関西では神戸アートビレッジセンター京都立命館大学朱雀キャンパスに来場したドキュメンタリーの巨匠、フレデリック・ワイズマン監督。24年間上映が禁止された作品『チチカット・フォーリナー』から、最新作の『ボクシング・ジム』まで、アメリカの施設・制度や時代を映し出す作品を次々に発表してきたワイズマン監督の講演(Q&A)が1時間に渡って行われた。

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【ドキュメンタリー作家になったきっかけについて】
もともとはロースクールの先生でしたが、実はとても退屈していました。朝鮮戦争に行きたくないがためにロースクールに通っていたものの、入隊、除隊後パリに行き映画と多数触れ、30歳になったのを機に、好きなことをしたいと映画を撮る道を選んだのです。
16ミリカメラをケーブルなしで音と映像を撮れる技術ができたことで、動き回りながら映画を撮れるようになったり、暗い中でも撮れるようになったという技術の進歩も大きかったでしょう。普通は政治家やスポーツ選手など有名な人を撮りたがりますが、自分としてはありふれた普通の日常にドラマがあると思い、普通の人の日常を撮っています。一人の人物に焦点を当てるというよりは、組織や制度を対象にした映画を撮ろうと、2作目の『高校』からはそれを続けています。

【映画の中の言葉について】

大学時代英文学を専攻し、死を注意深く読む勉強や言葉の意味について学んでいたことを映画作りに活かしている。言葉の行き違いを取り上げることもあるが、それは組織の中の人のドラマが浮かび上がるからでもあります。
作品の中では、どのような言葉が意味を持つのか、撮った画像の中に出てくる人々の行動や理解に力を注ぐようにしている。なぜこの人がこの部分でこの言葉を言ったのか、ラッシュを見ながら考えていくのです。

【編集について】

私の作品で、編集はとても重要な作業です。シークエンス作りに大体6〜8か月かけます。3〜4日で構成し、完成版より30〜40分長い第一版ができると、さらに6〜8週間かけて映画の構成をしていきます。シークエンスの中と外のリズムを吟味したり、もう一度捨てたフィルムを見て、使えるところはないかチェックしたりしながら、頭の中ではなく実際の手で作り上げていきます。一つの作品ができるのに大体一年はかかります。

【ナレーションがないことについて】

見ている人と作品に出ている人の距離を近づけたいと思っています。見ている人がその場にいるかのような感覚を持ってもらい、自分たちが見たものを、自分たちで判断してもらいたいのです。私の作品は強い表現はしません。どちらかといえば、シークエンスを準備し、メッセージを間接的に表現しています。ジャーナリスティックというより、むしろ小説を書くのと似た手法です。登場人物のキャラクターや時間の経過など、問題の設定自体は同じですが、映画の中で何が起こっているかを見ている皆さんが理解できるように作っています。

【作品のテーマについて】

一つの枠組みで、できるだけたくさん違ったテーマを撮っています。そのときのアメリカの時代が見えてくるのです。同じテーマで撮ることもあります。『高校』も何度か撮りましたが、同じ建物で同じ年頃の登場人物でも中身はまるで違います。

私の中でダンスと位置付けている作品では、バレー映画を2本、クレイジーホース、そして本日上映したボクシング・ジムの4本があります。

自分の中では、色々な階級や民族を表そうというゴールがあります。ゴールに向けて、できるだけ違う状況のものを撮りたいのです。私の作品は自然史としても意味があると思っています。100年後の人が私の作品を見て、当時の人がどう生きていたのか分かる、そういった側面があると思っています。

【事前リサーチをしないことについて】

私は事前リサーチをしませんが、それはカメラを持たずに行って面白いことが起きるのがイヤなのです。むしろ、撮影しながらリサーチを行う手法をとっています。ふつうの人は突然カメラを向けて演技などできません。逆にカメラを向けられることがイヤなら逃げていきます。私の作品で登場人物はカメラを全く気にしていないように見えますが、彼らはカメラがあることや、映画に撮られることに興味がないのです。登場人物に演技をされることは自分の経験上ありません。ドイツの学者、ハイゼンベルグ氏が「観察することで、観察される人の行動が変わる。」と述べていますが、全くそれはあてはまりません。

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全人類へのメッセージはという問いには、”Hello!"
そして、何を撮りたいかという問いには、”Everything!”

と即答したフレデリック・ワイズマン監督。人々の生き生きした姿を切り取りながら、ドキュメンタリーでありながら独特のリズムとパンチ力で、観る者の胸に刻まれる作品はこうやって出来るのか!と監督の生トークに納得しきりだった。ぶれない巨匠の最新作『ボクシング・ジム』の躍動感あふれる映像に魅了されながら、ワイズマン氏が切り取るアメリカ史をもっと覗いてみたいと思った。