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『シルビアのいる街で』(2007)で、その映像の美しさがセンセーションを巻き起こしたスペインのホセ・ルイス・ゲリン監督。幻の処女作『ベルタのモチーフ』(1983)を含め一挙上映される、世界初の『ホセ・ルイス・ゲリン映画祭』開催に合わせて来日。東京でのトークセッションを終え、今日は大阪で記者会見後、京都・同志社大学にて関西先行上映およびトークセッションが開催された。小津安二郎監督を敬愛するホセ・ルイス・ゲリン監督への記者会見の模様をご紹介したい。
━━━映画は監督にとって、国と国を結ぶ架け橋なのか。

そう思います。私にとって、小津安二郎監督が日本との架け橋でした。監督の映画を見る前は、日本のイメージはゲイシャとサムライでした。若い時代に小津安二郎監督の映画を見て、原節子が自分の姉に、笠智衆が自分の父のような気がしていました。映画というのはどこの国でも外務大臣よりもっと外交ができると思っています。また、映画によるイメージを持っている国は権力を持つことができるのです。

━━━『ベルタのモチーフ』をモノクロで撮ろうとした意図は?

私の初監督長編作で、22歳の時ですから今から30年前の作品ですが、若い自分にとってはすべてをコントロールすることが大事でした。何もない空間を選び、フレームの中の構成でラインを置きました。地平線と道路という水平のラインと垂直を表す木のラインです。そこまで統制された中で語り出すには、モノクロの方がもっと前にでてくると思いました。

絵画においては色彩が重要ですが、映画にとって重要なのは光です。ほとんどの場合モノクロに戻るというのが私の考えです。私が親しんだ映画(小津安二郎監督『東京物語』など)がモノクロだったことも影響があるでしょう。

━━━小津作品を見て、なぜ原節子たちが自分の家族だと思えたのか。

小津さんは映画の中で人を一番よく描いている監督で、奥ゆかしさ、謙虚さをもとに、非常にシンプルに描いています。それに加えて、フレームの決め方や構図が厳格に行われていて、それが日々の小さな出来事を映画という物語に変えています。お父さんがリンゴの皮をただ剥いているとか、単純な仕草が厳格なフレームの中でとても大きな意味を持ち、物語の大きな秘密を示しています。とても小さな出来事を映画で描ききるのが、現代映画で必要だと思っています。

小津作品をずっと見ていると、登場人物が一緒に年をとる感覚があり、それが家族のように思える感覚を与えてくれたのだと思います。北鎌倉で高齢の女性を探して、原節子に巡り合ったら抱きしめてみたいです(笑)。すべての小津作品の中で原節子は私の姉であり、娘であり、そして母でした。

━━━監督のモチーフでは失われた時間と記憶がよく登場しますが。

私のすべての映画の中で、常に二つの”時”が弁証法的に使われています。一つは神秘的な過ぎた時間、もう一つは現在です。それは常に探しているのではなく、偶然そうなることもあります。『工事中』という作品では、撮影中に古い建物を壊して掘っているとローマ人の遺骨がでてきました。それも偶然に起こったことです。

『ベルタのモチーフ』は、一番かっちりと最初に脚本を書いて撮影しました。それ以降は、常に起こったことに順応しながら、撮っていく中で過去と現在の緊張感を新鮮に出そうとしています。

━━━『ベルタのモチーフ』でシューベルトを使ったのはどういう意図か。

アリエル・ドンバールが歌っていたのは、スペイン語で『歩いていく』というその曲自体がベルタが大人になることを示していました。また自殺した男はドイツ的なロマンチシズムの具現化でそれを表すためにシューベルトを使いました。その両方をかけて、シューベルトを使ったのです。

━━━自殺する男の三角帽子を最後に未亡人に渡したり、撮影隊の女性が被ったりしたのが印象的だったが、どのような意味を持たせていたのか。

ベルタ自身の戻ってくる人を待っているロマンチックな解釈につながる気がします。『イニスフリー』という作品でも、撮影隊が閉ざされた村(共同体)の中に到着して、撮影をはじめる。その中でも少女と帽子というモチーフ使っています。

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カラーであることにこだわるよりも、「光」を大事にすることにこだわったり、小さな出来事を描ききることこそ今の映画に大事と、作品に対する様々な持論を展開してくださったホセ・ルイス・ゲリン監督。こと小津作品のことを語るときの語りつくせないといった表情が印象的だった。物腰が柔らかく、穏やかな雰囲気で、何度原節子の名前を聴いたかと思うようなあっという間の記者会見。最近日本の監督ではどの監督作品を観たかといった質問では、思わず「ホウ・シャオシェン」とも(笑)。こんなところでも小津監督つながりを感じながら、大阪でホセ・ルイス・ゲリン映画祭が開催される日が更に楽しみになった充実の時間だった。

『ベルタのモチーフ』@ホセ・ルイス・ゲリン映画祭(83スペイン) はコチラ