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『演劇1、2』大阪公開初日となった10/27(土)。ついに生平田オリザさんに出会えると、ずっと楽しみにしていた。想田監督とのガチトーク、面白くないはずがない。『演劇1、2』上映後に行われたトークショーでは、5時間以上鑑賞した観客を気遣いながらも、トークで持論を展開。ここ大阪は『演劇2』で描かれているとおりロボット演劇研究の場としてオリザさんも馴染みが深く、今の大阪の文化、観光政策に危機感を感じていることがヒシヒシと伝わる激白トークとなった。その内容をご紹介したい。
想田:映画をご覧になった感想は?

平田:5時間あまりもこの顔を見続けて、まだこの顔を見続けなければいけないのが(お客様に)申し訳なくて。自分で作った訳ではないので、人に勧めにくくて。私の顔をずっと見続けろというのも、舞台俳優ではないのでほんと申し訳ないと思って、すごく勧め方が難しいんですが、各地でといっても東京と大阪だけですが、いつも満員でありがとうございました。パンフレットにも書きましたが、こんなに働いてないので(笑)。ちょっと騙されないでください。

想田:相当働いていると思いますよ。

平田:毎日領収書を見ているみたいですが、年に何回か領収書を見る日にたまたま撮っただけで、(映画を観ていると)すごいイヤな奴みたいじゃないですか。

想田:撮らせていただいたとき、最初は平田さんについていくのが本当に大変で。というのは、あまりにも朝から晩まで仕事をずっとされているんですよ。最初僕は全部撮りたいと思ったので、一緒にやっていると朝の10時ぐらいから夜中の11時ぐらいまでずっと撮っている感じになるんです。稽古も、あの当時5演目ぐらい同時にやられていて。こんなに仕事をされていて、いつ新作を書くのかと。あの年は10本ぐらい新作を書かれていましたよね。一年に10本なんて天才としか思えないのですが、どういう時間で書いているのかと思えば、「5分休憩」と言ってみなさんが休んでいる間に、パカっとパソコンを開けて何か書いておられるから「何かな」と思ってクローズアップしていくと、台本なんですね。そういう状態で書いているなんてすごいなと思って。スラスラ書かれてますけど、あれはもともと頭にあるものなんですか?

平田:頭にはないです。その場で考えます。構想はすごく時間をかけて、大体1本の作品の準備は3年ぐらいかけて、最後の2か月ぐらいでわっと書くので。登場人物をちゃんと吟味しておくと、あまり苦労しないで書けるようになっています。

想田:「領収書などの精算作業は気晴らしだ」とおっしゃってましたよね。

20代のとき中小企業の経営者として鍛えられた経験が助成金申請にも役立った。
平田:演劇はずっと集中してはできないので、他の人が休んでいるときに会計ソフトを見たりして。でも、劇団の経営者というのは、特に私は劇場も経営しているので、要するに普通の中小企業の社長ですから、普通の皆さんがやっていることをやっているんです。
映画に何度も出てくるこまばアゴラ劇場は私が作ったわけではなくて、父親が作ったんですね。うちの父親は本当に変な人で、すごい借金をして作ったんですけれど、すぐに経営が傾いて、僕が大学を出る23歳のときにそこの支配人になりました。一億円ぐらい借金があって、これをどうにかしなければいけなかったんです。

小説家内田百里気鵑慮斥佞法崋擽發聾充造任呂覆現象である」という素晴らしい言葉がありまして、現実ではないので返さなくてもいいんですよ。(場内爆笑)大阪だから言えるんです。地元で言うと、すぐ信用金庫の店長が飛んできますから。一億円なんて見たことないでしょ?ぼくも見たことがないから、現実ではないと言えるんですよ。−中略− こういうことを20代の時に経験できたのは、そのあとに『演劇2』の方で出てきた助成金を取ったりするときにすごく役に立ったんです。要するに銀行というのは、貧乏人にはお金を貸さない。威張っていないとダメで、「全然経営に困っていない。貸したいの?」といった風に。すごく内心困っていても「しょうがないな」という態度だと貸すんです。そういうことが分かって、助成金も同じで「出したいの?国が?しょうがないな、受け取ってやるか、ハシモト」ぐらいになると出るんだけど。(場内大爆笑)でも、今までの日本の芸術家は貧乏だから、「こんなに貧乏だから、お金を下さい」という風にやってきたので、そうすると官僚は付け上がりますよね。こちらの方が偉いので。だって政治家なんて5年、10年経てば名前も忘れられるんです。だから堂々とした態度で「私たちの仕事はどうしても社会に必要なので、(お金を)出さないとあなたたちが困るでしょ」ということを言っていく理論が、20代の頃に中小企業の経営者として鍛えられてきたからあるんです。

想田:すごく説得力あるでしょ。後で色々考えると、ちょっと飛躍があったり。僕は何度も映像を観る機会があったので、その場では「あー!」と思いながら、後で聞くと「あれ?」と思うこともあるんです(笑)。

平田:結構「大いなる飛躍」で。

想田:そういう手の内を明かして大丈夫なんですか?銀行の人もひょっとしたらいるかもしれないし。

平田:もう銀行の人も「しょうがないな」と思っているので(笑)。そうは言っても、こまばに土地を持っていて、それをちゃんと社会に還元するのが土地を持っている者の責務ですから。そんな偉そうなことを言わないで、バブルの時に土地を売って、オーストラリアにでも引っ越しておけばよかったと考えるときもありますが(笑)、こうなった以上しょうがないですね。

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想田:今ちょうど東京では『三人姉妹』というアンドロイド演劇をやられていますよね。文楽の方にも人形の使い方を参考に勉強されて、それをロボットを動かすやり方に応用されたと。

伝統芸能は科学でいえば基礎研究。基礎研究を閉ざすと応用化学は生まれてこない。
平田:手の動きなんかを習って、学生たちにも勉強してもらって。大阪大学でやっていますから、『三人姉妹』は関西での上演はないですが、来年の5月に梅田キタのナレッジシアターのオープニングでアンドロイド演目を予定しています。私たちとしても新しい文楽、大阪のキラーコンテンツになるものを作りたいと思っています。来年は『三人姉妹』をモスクワでもやるんですが、アンドロイドは世界中やっているので、成功させて世界各地で絶賛されたときに、「これはもともと文楽があって、この文楽が元になってこの作品があるんですよ」とことごとに言って、「みなさんは知らないかもしれませんが、大阪の文楽を絶やそうとしている市長がいる」と世界中に言って回るのが今の僕の仕事です。(場内大拍手)だから絶対に成功させなければいけない。それは冗談でも屁理屈でもなくて、要するに伝統芸能はそういうものだと思うんです。何に役立つか分からない。だって10年前に文楽がロボット演劇に役に立つなんて誰も思っていなかったんです。何百年も続いたものというのは、科学でいえば基礎研究なので、基礎研究を閉ざしてしまうと、応用化学なんて生まれてこないんです。そういうものを、たかだか一政治家の判断で途切れさせるようなことは、本当にあり得ないことなんです。

想田:おっしゃる通りで、映画の世界で言えばチャップリンの名作やオーソン・ウェルズの作品を破棄しましょうというのと同じことですからね。今現代の映画作家というのは、昔の名作、つまり遺産を参照して、今のクリエーションに使わせてもらっているわけです。やはり文楽は、それが途絶えたらおしまいです。今よければいいという話ではないんですよね。それでは最後にお客様から一つだけ質問をいただきましょう。

観客:韓国は演劇はすごく見やすいし、安いのですが、日本の演劇は有名女優が出て1万円ぐらいもする高いものや、小さなものはどうやってチケットを取っていいかわからないし、すごく観にくいです。もっと演劇を身近に見れればいいと思うのですが、どうでしょうか?

今観光は「どこに滞在するか」、そのためのナイトカルチャー、ナイトアミューズメントを充実させる風潮だが、大阪はまだ万博の成功体験をひきずっている。
平田:日本の場合は文化庁があるだけですが、韓国の場合は担当の大臣がいて、観光と文化が結びついています。例えばウィーンのオペラ座は法律で毎日違う演目をやるように決まっています。それは毎日違う演目をやれば、世界中から集まった音楽ファンはその間ずっとウィーンに滞在するからです。同じ演目だけやっていると、その日はウィーンにいても、次の日はパリに行ったりしますから。ヨーロッパはローコストキャリアの時代で、移動は100ユーロ以下で移動できるので、どこに滞在するかがお金を落とすポイントになります。だからナイトカルチャーやナイトアミューズメントをヨーロッパの各都市は競っているのです。ソウルも同じ考え方で、ソウルには外国人向けの国立劇場もあります。ここはノンバーバルで、ミュージカルですが外国人が見ても分かる話をやっていて、一番のお得意さんは日本からくる修学旅行生なんです。すごくきめ細かくて、最初入ってくると「大阪府立○○高校のみなさん、ようこそ」みたいな幕があって、(鑑賞後)出ていくと役者たちとハグできるとか。これは国立が政策としてやっています。国立だから料金は安い。でも観光に結びつくからもう一泊できるようになるわけです。

大阪府も大阪市もこんなに世界遺産が(移動時間)一時間圏内に集まっている都市は世界中でも珍しくて、本当は昼間に京都に行こうが、神戸に行こうが、姫路に行こうが、高野山に行こうが別によくて、夜大阪でどれだけ泊まってもらうかが、実は大阪の観光にとって一番のポイントなので、大阪のナイトカルチャーやナイトアミューズメントを充実させていくのが一番重要なのですが、そんなことは今の府や市の人たちにはできないですね。未だに万博の成功体験をひきずって、外から昼間何人呼ぶかしか考えていないので、これは世界の観光政策や文化政策から全く遅れています。

もう一つは全体の文化水準を底上げしていかないと、アーティストにやさしい街にならない限りは絶対にナイトカルチャーやナイトアミューズメントは生まれてこないので、そういう意味でも大阪はアーティストに最も厳しい街になっていますから、そういう政策は大阪ではちょっと難しいと思います。