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『Playback』三宅唱監督インタビュー
(2012年 日本 1時間30分)
監督:三宅唱
出演:村上淳、渋川清彦、三浦誠己、渡辺真起子、菅田俊他
2013年3月30日(土)〜第七藝術劇場、4月20日(土)〜神戸アートビレッジセンター、5月4日(土)〜京都シネマ他全国順次公開
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(C) 2012 Decade, Pigdom

今一番好きな俳優はと聞かれたら、多分「村上淳」と答えるだろう。それぐらいここ数年、村上淳さんの出演作品での存在感の凄さに惹きつけられてきていた。そして、その村上淳さん自らが見出した才能というのが、在りし日の若松監督に叱咤されたこともあるCO2助成監督の一人、三宅唱監督であったことに驚きと奇妙で必然的な巡りあわせを感じていた。なにせ、その初々しいデビューの場に偶然観客として、私も居合わせていたのだから。CO2助成監督は数多く輩出されているが、こんなに短期間にメジャーデビューできるのは映画の神様に愛されているようにも思える。いや、類まれなる映画好きとインタビューで知った村上淳さん自身が映画の神様となって、若き才能の持てる力を最大限に引き出したのかもしれない。

村上淳さんが自身を体現するかのような、中年の役者が過去や現在を彷徨いながら、仲間との時間や、俳優という仕事に向き合っていくリアルとほろ苦いファンタジーすら感じる作品。時間がクロスする中、現代の大人のままで過去に戻るストーリーを黒白で表現することは、様々な錯覚を産みながら、自由に解釈してほしいという意思表示にも見える。フィルムの肌触りにこだわり、ストーリーを語るのではなく、映し出される役者に刻まれた皺や彼らの人生を感じさせてくれ、「ちょっと不思議な映画体験」へと誘う。

野球少年のような清々しさが印象的な三宅監督に、気が付けば恥ずかしいぐらい村上淳さんのことばかり聞いていたが、その奥に三宅監督の村上さんに対する尊敬の念や、映画監督として大きな一段を上った実感を共有させてもらった。「次は間違いなくカラー!」だそう。新世代の日本映画は、映画館で観て、ぜひ感じて欲しいのだ。

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───CO2助成監督として前作『やくたたず』を撮られてから、本作まで割と短いタイミングで撮られていますね。
2010年3月にCO2で『やくたたず』のお披露目が大阪であり、3ヶ月後に東京池袋のシネマロサさんで1度だけ上映があったんです。その時はお客さんが入ったのですが、すぐに劇場公開に繋がるわけではなく、映画を撮りたいと思ってCO2で撮らせてもらったけれど、次にどうなるわけでもない。もう一度イチから映画のことや人生のことを考えようと思ったときに、たまたま僕の友人が俳優村上淳さんに最近の若手の作品という流れで『やくたたず』のDVDを渡してくれたんです。そして、ある日突然村上淳さんからメールをいただいて、ものすごく丁寧に感想を書いていただいたんです。それがきっかけで、一度会って6時間ほど映画の話をし、その翌日に今度は「一緒に映画を撮りませんか」とメールをいただいて、そこからはトントン拍子ですね。僕が本作の企画の準備をして、気がついたら撮っていました(笑)村上淳さんから声をかけていただくことで、とてもリスキーだけどすごいチャレンジだと思い、自分としても勝負するものを撮りたいと素直に思えました。

───村上淳さんは、今映画や大河ドラマにも出演され、非常にお忙しい中ロケハンにも参加されたと聞きましたが、実際どれぐらい制作や準備に関わられたのですか?
シナリオが完成するまでは、「この映画は三宅監督の作品だから、僕は一切口を出さない」と何の関与もされませんでした。ロケハンに行ったときは村上淳さん演じる主人公が育った街という設定だったので、水戸の街を歩いてみたいということで、実際に一緒に行きました。たまたま水戸映画祭に携わっている友人がいたので、震災後のまだ早い段階でしたが、非常に協力してもらいました。

───冒頭のスケートボードのシーンは、疾走感がありましたが、村上淳さんご自身もなかなかの腕前でしたね。
10代の頃ずっとスケートボードしかやっていないそうで、そこからファッション業界、そして俳優と進んでいったそうで、自らの原点と村上さんからはお聞きしています。
40近い男の俳優で、スケートボードにあれだけ上手に乗れる人が映画の中で乗っている姿はきっとカッコいいに違いない。是非それは撮りたいと最初に思いましたね。

───他にも村上さんが主人公だからチャレンジしたかったことはありますか?
村上淳さんと映画を撮るということで、色々な映画や写真の顔をじっと見ていたら、顔の皺が素敵だなと思ったんです。人の顔に刻まれていく皺や、傷跡などが手に取るようにわかるぐらい撮影したい。とにかく顔を撮ろうと決めていましたね。

───私の印象では村上さんが演じる役は尖ったものが多い印象があったのですが、本作ではふわっとした感じがしますね。
村上さんの顔は二つあると思うんです。一つはヤクザや殺し屋で、かつ画面の中を動き回るような魅力があります。一方で、例えば『ヘブンズストーリー』で子どもが横にいるときのお父さんとしての優しい顔、動き回らずに誰かをじっと見つめている顔や眼差しが印象的だったんです。ですからこの映画は村上さんが主人公だけれど、誰かをずっと見つめたり、人の話をじっと聞いていたり、そういう姿をメインに捉えたいと思いました。

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───前作に引き続き、今作もモノクロですが、「モノクロシリーズ」は今後も続くのでしょうか?
いやあ、約束できますよ。次はカラーです(笑)昔の黒白映画や、カラーの時代にわざわざ黒白で撮っている作品も好きで、映画館で2時間ほど座っている特殊な時間を別の世界に連れて行ってくれる感覚が気に入っています。また映画を見ているときに、光と影がシンプルかつ力強く表現できるのが黒白だと思います。今回村上さんの顔の骨格や輪郭や皺を撮ろうとしたとき、自然と黒白で撮ることに結びつきました。本作はとにかく俳優が演技している時間を楽しんでもらう。それだけ見てもらえれば、映画が終わった後に何かが残るのではと思います。

───アドリブが多そうにも見えますが、脚本はどれぐらい描き込んでいたのでしょうか。
基本的には脚本どおりになっています。3つぐらい設定だけ書いて、こんな話をしゃべってほしいという中から自由に話してもらうところがあります。例えば渋川清彦さん演じるサンジが高校時代に好きな映画の話をするときは、「実際に好きな映画の話をしてください」とお願いし、本番一発で撮影しました。あとは基本的にアドリブっぽいところはありません。シナリオがある中で、どれだけ自由に見せてくれるかが俳優の力だと、僕も撮影しながら感じましたね。

───前作『やくたたず』は、プロの俳優はほとんどいない中での撮影だったそうですが、今回プロの俳優と一緒に仕事をしての感想は?
前作は演技をするのが初めてという人が大半だったので、下手に演技をすることよりも、ただそこにいてほしい。つまり素材としてとてもいい人たちと仕事ができました。今回はドンドン演技をしてくれて構わないという真逆な映画になったと思います。また俳優同士がもともと仲のいい方々なので、それもこの映画のお芝居の自由さや楽しさに繋がっているでしょう。

毎日ベテランの俳優さんがいらっしゃり、演技の間合いや、役へのアプローチや、僕とのやりとりの仕方など全員全く違い、僕と俳優さんたちとの関係がダイレクトに映画に影響してくるので、神経質にはなりました。でも撮影はとても楽しかったです。

あと、自分はお芝居をしたことがないので具体的にはわからなくても、「このままでは良くない、何かが違う」というNGは分かるんです。映画を観る一番最初の観客が映画監督なんだなと今回初めて思ったのですが、何かが違うと思ったときにちゃんとNGが出せるかどうか。最初は村上さんをはじめ、みなさんの演技をモニターから観て、どこからどう撮ってもかっこいい訳ですよ。でも冷静に観ると「もっといけるはず」と思うところがあったり、色々勉強になりました。

───現場レベルで俳優さんたちの意見を採り入れたシーンはありますか?
村上さんが1人で歩くシーンが結構あるのですが、歩くお芝居は実はとても難しいんです。歩く速度や力強さでカットの時間がすべて変わってしまうので、村上さんが微妙に歩く速さや歩幅などを調整してくださいました。歩く速さのリズムに観客が乗ってくだされば、それが映画のリズムになるので、映画の主演はスゴいなと改めて思いました。

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───三宅監督が感じる、俳優村上淳さんの一番の魅力とは?
矛盾するようですが、ものすごくアツい部分と、フラットで軽やかな部分があるんです。そのバランスをとるのは難しいと思うのですが、それが自然と身についていらっしゃる気がして、1人の大人の男性として素敵だと思います。

後、村上さんはものすごく映画が好きで、仕事の後でも映画2本続けて観たりするぐらい、映画館にもよく行かれていますし、年の差やキャリアの差を越えて、一映画好きとしてものすごく対等に話かけてくれるので、「映画の前で平等だ」と思いますし、一緒にモノづくりをしやすいなと思います。

───三宅監督が好きな映画や監督は?
基本的にアメリカ映画が大好きです。古いモノも新しいモノも。アクションも好きですし、止まらない感じというか、人物が常に動いていく感じも好きです。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』も好きですし、『ホーム・アローン』シリーズのマコーレ・カルキンはヒーローでした。部屋に仕掛けをして『ホーム・アローン』ごっこをしたりしましたし。そこから『アポロ13』を観て宇宙飛行士にあこがれてみたり、そんな感じでしたね。

───昨年夏にロカルノ映画祭コンペティション部門作品に選ばれましたが、CO2の次は海外映画祭と、大躍進ですね。
本当に大きな映画祭で、コンペティション部門に選ばれてゲストとして参加したのですが、聞く所によると、スイス国内で一年で一番大きなイベントだそうで、どこを歩いていても誰に見られているかわからないので緊張感がありました。ちゃんと「映画監督」として振る舞った方が映画にとっても映画好きの人たちにとってもいいだろうなと素直に思えました。こうやって人は「映画監督」になるのだなと冷静に思えました。

───審査員からの講評はあったのでしょうか?
アメリカ映画が好きなだけに、アメリカ人にこの映画が好かれるかどうか、全く自信がなかったのですが、タランティーノ監督『パルプ・フィクション』の脚本を手がけた審査員でアメリカのロジャー・エーバリー監督はすごく気に入ってくださったのは、素直に勇気づけられました。

───これからも映画を撮り続けていかれると思いますが、映画を作るにあたって大事にしていきたいことは?
人生一回限りじゃないですか。俳優であれ、場所であれ、今撮り逃すと次はないぞという気持ちで、「今は撮れる」ということがものすごく幸運だと思いながら、カメラをまわすことができれば、それだけでいいかと。それを忘れてしまうと、たぶん映画は撮れない。シンプルにそんな感じです。(江口 由美)