motohashi


北アルプスの山裾にある長野県小谷村、山道を歩いて1時間半のところに40年間自給自足の生活が営まれている真木共働学舎、通称アラヤシキがある。そこでは、障がいを持った人や、世の中から少しはみ出した人、そして自給自足の生活に惹かれた人など動機も年齢も様々の老若男女が共同生活を行っている。何十年も毎日百葉箱の当番をこなしているくにさんや、作業はとてもスローだが、みんなのアイドル的存在のみずほさん、音楽が好き、特に永ちゃんが好きで、言葉遣いが独特のえのさん、そして真木共働学舎の代表であり、メンバーの父親のような存在でチェロ奏者でもある宮嶋さんなどのベテランメンバーをはじめ、入れかわり立ちかわりアラヤシキを訪れる若者たち、そしてアラヤシキで子どもを産み育てる井上夫妻など、時には賑やかに、時にはぶつかり合いながら、動物たちと四季を感じながら、農作業や酪農をして生計を立てているのだ。

私たちが忘れ去った遠い昔の生活や情景が思いおこされるようなアラヤシキでの一年間を、車道路のない「タイムトンネル」を通り抜け、何度も歩いて通ったのは、『ナージャの村』の本橋成一監督。本橋監督の高校時代の先生だった宮嶋眞一郎氏が「競争社会ではなく、協力社会を」という理念のもと、社会で弱い対場の人たちが共に働き、自立した生活を目指す場所として設立された共働学舎に、5年前ぐらいから撮影抜きで通い始めたという。

arayashiki


「相手を認めあうのが一番大切なこと。昔『人類はみな兄弟』という言葉があったが、そうではなく違っていても相手の価値を認めることが大事」と語る本橋監督は、ご自身の次女がダウン症で、自分の町で育てたいと、中学校で特殊学級を勧められるまで公立の学校に通わせ、学校の子どもたちにもいい影響を与えたという経験も語ってくれた。「自分とは違う人をなんとなく受け入れられないのは大人だけ」だとしながら、そんな大人もアラヤシキに来た人は、2週間ほどで変化が訪れるという。田植えをするのに立ち止まって3分ほど動かない人がいる一方で、カンツォーネを大声で歌いながら作業を進める人もいる。それぞれが他人を尊重しつつ、自分のペースで進めるアラヤシキの独特の時間の流れは、とても贅沢だ。

アラヤシキの魅力は、車が通れない“タイムトンネル”によって自然が守られていることにもある。「夏になるとトマトをもいで、夏だと実感できる。かつてはあった、その季節にしか食べられないものから感じる時間の流れがアラヤシキにはある。そして、ヤギや犬、猫と一緒に時間が流れている」と人間中心というよりは、自然や動物たちに寄り添うようなアラヤシキの暮らしを紹介してくれた。映画では、ヤギの赤ちゃんが生まれる場面や、井上夫妻の赤ちゃんがアラヤシキですくすく育つ様子も映され、季節が巡り、新しい命が生まれる循環も実感できることだろう。

最近は映画が簡単に撮れすぎてしまい、誰もが簡単に「監督」と呼ばれることに疑問を唱える本橋監督。「映画は編集とカメラと音にお金をかけたいと思っている。かつて暗室で現像プリントするときは、色々なことを考える“思想の時間”があった。今のような簡単さはいいけれど、考える時間があっていいのでは」と、“手間暇かけること”の大事さを最後に伝えてくれた。

自然の中でシンプルに暮らすこと、異なる他人と協力しながら生きること、動物や植物と共に生きること、そして効率よりも手間暇かけた丁寧な暮らしに気付かせてくれる本作は、人間本来の生き方をやさしく差し出している。
(江口由美)

『アラヤシキの住人たち』
(2015年 日本 1時間57分)
監督:本橋成一
出演:宮嶋信
2014年5月23日(土)〜第七藝術劇場、6月6日〜神戸アートビレッジセンター、今夏〜京都シネマ他全国順次公開
※5/23(土)12:10回 本橋成一監督、一澤信三郎さん(一澤信三郎帆布店主)トークショー予定、14:55回 本橋監督 舞台挨拶予定
公式サイト⇒:http://arayashiki-movie.jp
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