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石川梵監督インタビュー前編に引き続き、後編では撮影や、現地、日本での上映の様子、そして今後の展望について伺ったお話をご紹介したい。

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―――実際の撮影期間は?
1年強の間に7回現地に行き、1回につき2〜3週間滞在しました。6回は取材で、最後の1回は現地で上映会を行っています。今は小さなカメラでもいい画質が撮れますし、ドローンも使いながら、難易度の高い撮影も低予算で行えました。ハニーハンティングのシーンも何台カメラを使ったのかとよく聞かれますが、僕と助手のカメラにドローン撮影という少人数編成です。TV局が取材に行くと、予算2000万として1ヶ月ぐらいしか取材できないんですよ。スタッフの数も多いし、ご飯を食べるシーンを撮るにも大勢で囲むので、村の人たちも自然な演技ができない。僕はいつもカメラを持っていて、例えばプナムが「歯が痛い」と言い始めたら、すっとカメラを構えて撮るんですよ。

―――一緒に行動する中で、変化が起きた時にカメラを回すという偶然の出会いを待つような撮り方ですね。
これはカメラで撮る方法と同じで、写真か動画かというだけの違いです。写真家は写真集を作るときにシナリオを作りません。取材をしながら、いいシーンを拾って、最終的にまとめていくのですが、この映画もシナリオなしで、写真集を作るようにあるがままに撮っていきました。あるがままに撮っていったものが映画になるのは、理想じゃないですか。

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■映画の原点を感じた現地上映会

―――現地での上映会はいかがでしたか?
クラウドファンディングで集めたお金でプロジェクターを買い、現地に持っていって、進呈しました。スクリーンはないので、シーツを集めてスクリーンに仕立て上げ上映したのですが、途中で雨が降ってきて、ずぶ濡れになりながらも1000人ぐらいの人が見に来てくれました。本当に感動的でしたね。エンドロールの歌を歌ってくれた岩手県花巻市のユニット「はなおと」も連れて行き、ライブも行いました。まるでウッドストックみたいでした。映画の原点ですよね。映画づくり自体がドラマチックで、ドキュメンタリーになるような現場でした。

―――ナレーションの倍賞千恵子さんも、映画の世界観に馴染んでいますが、オファーのきっかけは?
東日本大震災以来、山田洋次監督や倍賞千恵子さんとはお付き合いがあります。倍賞さんのナレーションには愛がありますから、DVDを観ていただき、快諾してくださいました。「この年になると、いい作品しかやりたくない」とおっしゃりながら、今回はボランティアでも何でもやると、すごく応援していただき、舞台挨拶にも出て下さいました。いわきと釜石では「倍賞千恵子と『世界で一番美しい村』を見よう」という企画を行い、「私たちは家族との絆を口にしていたけれど、いつの間にか忘れてしまっていた。思い出させてくれてありがとう」と大反響でした。倍賞さんは歌も歌ってくれましたし、テレビ局がその模様を取り上げて、30分番組にもなりました。

―――上映会では大反響を呼んだとのことですが、既に東京では劇場公開もされています。初監督作、しかもドキュメンタリーということで、かなりハードルが高かったのでは?
個人で作ったドキュメンタリーをどこで上映してくれるのかと考え、山田洋次監督に見ていただき、そこから松竹の社長に見てもらうよう机上にDVDを置いてくれたのですが、押し付けられるのが嫌いなタイプなので、なかなか見ていただけなくて。山田組の仲間が何度も机上に置き直してくれました。ようやく見て下さった時は感激して「これは、儲からなくてもやるんだ」とおっしゃってくださって。東劇を2週間空けてくださったんです。

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■「震災云々ではなく、この映画には大事なものがある」SNS発の応援団も力に。

―――ドキュメンタリーの新人監督の初上映としては、異例の規模でのスタートですね。
東劇は歌舞伎しかやっていない劇場なので、とても興行が難しいんです。映画ファンは東劇で映画を上映していると思いませんから、この映画を観に来るお客様しかこない。とにかくパブリシティを頑張りました。山田監督をはじめ、錚々たるメンバーを集めましたし。1日2回、2週間の上映期間のうち中だるみはありましたが、後半は口コミとリピーターの方も多く来ていただけ、本当に良かったです。既に6回観ていただいている方もいらっしゃいますが、実は一番多いのが松竹の社長。「震災云々ではなく、この映画には大事なものがある」と12回もご覧になったそうです。ただ残念なことに会期は2週間と決まっていました。もったいないということで、新宿ピカデリーの一番大きいスクリーンで一日一回上映をやらせていただき、580席がほぼ埋まりました。そこから僕の地元の大分で上映し、7月からは下高井戸シネマやポレポレ東中野をはじめ、全国十数か所での上映が決まっています。大阪も大阪発で何かできないかと、期待しているんですよ。各地で満席というのも、チラシを除いてはFacebookからの告知のみで、そこで既に応援団が出来上がっているという新しい形ですよね。

―――映画を作り、上映活動をすること以外で、現在行っている支援活動はありますか?
劇中に登場したプナムのような女の子の進学を支援するプナム基金を作っています。現地の女の子は高等な教育は必要ないと言われ、高等教育を受けられません。彼女はとても賢い女の子なのに教育の機会が恵まれないのはもったいないと、SNSで支援を呼びかけ、今150万ぐらいの支援金が寄せられました。これで5人の女の子の学費支援をしています。僕は現地に直接行っていますから、支援している子たちの今の様子を撮り、SNSから映像で伝えることができ、リアルタイムでフィードバックできるので、やりがいがありますよね。この映画をご覧になった方は、「プナムの続編が観たい」とおっしゃる方も多いです。アシュバドルが主人公だったのに、いつの間にかプナムに移ってしまって(笑)。今後、現地を訪れる度にプナムの成長を記録していけば「プナムの成長記」も出来ていくでしょう。

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■次回作は、人間にとって食べること、狩りをすること、生きることを追求する「海の物語」を。

―――次回作はどんなテーマを考えておられますか?
僕の写真の中の代表作として、銛一本でクジラを突く漁師の話があります。インドネシアの小さな島なのですが、手作りの舟でヤシの葉の帆を立て、マッコウクジラを追う漁師たちがいるのです。20年前に僕が初めて取材して写真集を出したデビュー作で、タイム誌をはじめ、様々な雑誌に取り上げられました。その映像化になります。クジラ1頭とれば村人たちが2か月間暮らしていけるのです。『白鯨』のモデルになった大きなマッコウクジラを銛一本で突くのですが、その中には色々なドラマをはらんでいます。人間が殺られることもありますし、村人たちの期待を一身に背負うプレッシャーであったり、名人とその跡継ぎとなる息子とのドラマであったり、初めてクジラをとった時のドラマもあります。30歳で取材を始めてからこのクジラを撮るまで4年かかりました。クジラが死ぬときの断末魔の泣き声を聞いた時に、「僕はずっと人間の物語を撮ってきたけれど、海の中の生き物にも物語があるのだ」と気づき、水中撮影を始めたんです。そこから3年かけて撮影したものが「海人」という写真集になっています。本も執筆したので、これでこの仕事は終わりかなと思っていました。

ところが2010年頃現地を訪れた時、島の人から当時の写真や僕が現地で作ったドキュメンタリー番組を見せてほしいと言われたのです。クジラ漁も船にエンジンが付いたり、その他色々なことが変わってきたそうで、村人が一つになってクジラと闘っていた姿を、村の若い人たちに伝えたいと。インドネシアの姿を日本に伝えるのが僕の仕事だと思ってずっとやってきたけれど、それだけではなく、現地の若者に伝え、現地に貢献することができることに気付きました。『世界でいちばん美しい村』は山の物語ですが、次はインドネシアで海の物語が作れる。今までのインタビューや動画も挿入して過去を振り返りながら、モノローグで、人間にとって食べること、狩りをすること、生きることを追求する映画。それを次はやりたいと思います。
(江口由美)

<作品情報>
『世界でいちばん美しい村』(2016年 日本 1時間48分)
監督・撮影・プロデューサー:石川梵 
ナレーション:倍賞千恵子
出演: アシュバドル、プナム、ヤムクマリ、ボラムキャ、モティ、ジルバドル他
2017年6月17日(土)〜第七藝術劇場、他全国順次公開
公式サイト⇒http://himalaya-laprak.com/ 
(C) Bon Ishikawa

<第七藝術劇場スペシャルトーク情報>
6月17日(土)公開初日から1週間、13:55の回終映後、石川梵監督とゲスト対談あり。
来場ゲストは次の通り
                      (敬称略)
6月17日(土)Jun Amanto (舞踏家)    *はなおと* 生歌
  18日(日)関野吉晴(探検家)     *はなおと* 生歌
  19日 月)佐伯剛(元風の旅人編集長) *はなおと* 生歌
  20日(火)監督石川梵 ソロトーク
21日(水)原一男監督(ゆきゆきて、神軍)
  22日(木)内田裕士(美塾代表)
  23日(金)上野朝義(能楽師)