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セクシャルマイノリティを描いたヒット作『凍蝶圖鑑』の田中幸夫監督は、主人公となる未悠さん自らが監督に「自分を取って欲しい」と直談判した女子力満開のドキュメンタリーだ。

トランスジェンダーの未悠さんは、大学3回生の時、性別適合手術を受けることを決意する。手術するまでの半年間に渡り、未悠さんに密着したドキュメンタリーは、同じくトランスジェンダーの友達、みむさんやNaoさんの3人で、お互いの恋愛や未来について赤裸々な女子トークをする姿や、未悠さんの母、祖母の気持ちを映し出す。未悠さんが通う大学の先生や、アルバイト先の店長、高校時代の友人と彼女の周りの人に未悠さんが「女になること」についてのインタビューをする他、手術の当日は手術室までも密着取材。全てをさらけ出した作品になっている。

かと思えば、地元兵庫県の須磨浦海岸から始まるオープニング、そして神戸の街歩きを楽しむ未悠さんたちの姿は、神戸暮らしを満喫する青春映画としても記憶に残る。美しい女子大生の3人を見ていると、言葉だけが独り歩きしているLGBTsがとても親近感を持って感じられるのだ。

本作の主演未悠さん(写真左)と、出演者で友人のみむさん(写真右)に、映画や自身の人生について、そして将来の夢と多岐に渡ってお話を伺った。

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<映画について>
■ここまで笑いと涙のあるドキュメンタリーになっているとは正直思っていなかった。(未悠)
友人や親など色々な人がかかわった映画ですが、皆、素で語ってくれている。(みむ)

―――まずは、映画を観た感想について聞かせてください。
未悠:私自身のドキュメンタリー映画ということで、手術を機にこの映画を撮ってもらったのですが、ここまで笑いと涙のあるドキュメンタリーになっているとは正直思っていなくて。田中監督と出逢えたタイミングも良かったですし、今まで出会ってきた友達や家族にも感謝の気持ちを込めた映画になったと思います。
みむ:面白いところもあれば、感動するところもあって、素の部分が出ている。私たち自身だけでなく、友人や親など色々な人がかかわった映画ですが、皆、素で語ってくれているので、いい映画だと思います。

―――元々自分のことを記録しておきたいという気持ちはあったのですか?
未悠:私が手術をして女性に変わったとしても、男性だった記憶は一生残っていくことです。自分の中で辛い思い出でもありますが、どうにかして将来的にポジティブな方向に持っていけたらと。私が40歳とか50歳になった時、映像に残していれば、あの時こうだったなとか、手術をしたけれど楽しく暮らせている等と思えたらいいなと思ったのがきっかけで、田中監督に映像に残してもらえないかとお願いしました。

―――田中監督から、すぐに快諾していただけたのですか?
未悠:最初は両親も反対し、監督にも反対されました。私は当時21歳でまだ若いし、本当にドキュメンタリーの被写体になる覚悟があるのか。そこが監督には疑問を感じていた部分でした。「手術をする覚悟は分かるけれど、映画にするということは全国で上映するし、顔も、名前も公になる。賛成意見だけではなく、批判の意見もある訳で、それも含めて覚悟をして言っているのか」と。でも何回かお話させていただくうちに、私の覚悟を分かっていただき、撮っていただけることになりました。

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■3人組の女子の物語って面白いよねという気持ちがあった。(未悠)
同じセクシャリティで、進学や恋愛でも同じような悩みを抱えていた友達からの誘いなので、本当に何のためらもなかった。(みむ)

―――いよいよドキュメンタリーを撮影するにあたり、今回は未悠さんやNaoさんというお友達も登場していますね。
未悠:観る人の立場からすれば、「こいつの生活だけ撮っていても面白くない」と思われるだろうなと正直思っていたので、同じようなセクシャルの友達や、後輩もいるので、これは3人で出た方が、ドラマ的にもいいかな。3人組の女子の物語って面白いよねという気持ちが私にはありました。監督も同じことを考えていたみたいなので、こんな友達がいるけどと紹介して、監督も快諾してくれ、OKしてくれました。
みむ:LINEで「映画撮ってるねんけど、出てくれへん?」みたいな、飲みの誘いぐらいの軽い感じだったんですよ。同じセクシャリティで、進学や恋愛でも同じような悩みを抱えていた友達からの誘いなので、本当に何のためらいもなかったです。出演することによって私のセクシャリティを世間に明かす訳ですが、「伝えていない友達にバレルかも」という心配はあまりなく、そんなに迷いはなかったですね。

―――田中監督との撮影で大変だったことはありましたか?
未悠:結構怒鳴られましたね(笑)。監督も見た目は怪しさ満載ですが、誰よりも優しい心の持ち主ですし、熱い方です。手術当日も、お互い時間がない中イライラしていたようで、私の出て行き方が悪かったのか怒鳴られましたよ。「今から手術なんやけど!」みたいな感じでしたけれど、それだけ本気で作ってくれたのだと思います。

―――その甲斐あって、すごくキレイに撮られたドキュメンタリーになっています。色々な演出もあったのでは?タイトルを書くところも自然で良かったです。
未悠:電車の車窓に息を吹いて、そこにタイトルを書くというのは、私がやってみて面白そうと監督に提案したんです。女子トークでアルバムを持ち寄ったのも、私の方が提案して。幼少期の写真があった方が面白いんじゃないかなって。

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<女の子になるまで>
―――ちなみに、男の子であることに違和感を覚えたのはいつ頃ですか?
未悠:幼稚園の時からセーラームーンごっこが好きだし、周りに女の子の友達しかいないのが当たり前だったんです。小学校で文房具が女の子っぽかったことをからかわれると、まだ自分のことを分かっていない頃なので、なぜそんなことを言われるのか不思議でした。小学校高学年で男の子を好きになった時に、周りからホモとかオカマと言われて、「自分は身体は男の子だけど、気持ちは女の子だ」と徐々に認識するようになってきたんです。そこからは自分自身が何なのかと考えはじめました。中学校になると、テレビではるな愛さんとか出ているのを見て、自分もそうなのか感じるようになっていました。
みむ:私もセーラームーンごっこが好きだし、ままごとでもお父さん役ではなくお姉さん役が好きでした。でも男の子の友達もいましたし、小学校に入学してかわいい文房具を見てからかわれても、「自分が持ちたいから持ってるねん」と別に気にしなかったです。小学校4年生ぐらいから、女の子と発育の違いが目立ち始めると、なぜ自分には生理がないのかと思ったり、塾での出席順で男子が先に呼ばれることに、「自分の女子に入りたい」と思っていましたね。友達から「お前もはるな愛みたいになるんと違う?」と言われた時は、嫌な気持ちというより、答えを教えてもらったような気がしました。明確になったのは、やはり中学の頃だったと思います。

―――最初にカミングアウトするのは、タイミングや相手など、色々悩んだと思いますが、その時のことを教えてもらえますか?
未悠:高校生になると同時に、身体が成長し、自分が男性化していることをすごく感じ、一刻も早く止めたかったんです。これ以上男性化していく自分が嫌で、ホルモン注射のことも考え、高校2年生の夏、母親に初めて伝えました。薄々気付いていたとは言われましたが、父や同居している祖母は全く気付いていなかったです。昔から父は「お前はオカマか!」とよく言っていたのですが、まさか自分の子どもがと思ったみたいですね。

―――伝えるのは大変だったと思いますが、気持ちはラクになったのでは?
未悠:親に伝えると、一番気持ちがラクになりますね。私の場合、友達は親に言う前からあえてカミングアウトしなくても、女の子としてみてくれるありがたい環境でした。両親に言うことは一番大事だと思います。

―――大学の先生に手術のことを話すシーンも出てきます。学校側も授業での呼び名やお手洗いなど、トランスジェンダーの人を受け入れる配慮をしていることが伺えました。コミュニケーションをとり、先生にきちんと話ができているから環境を整えることができているのかなと思いましたが。
未悠:大学に入って初めて、自分のことにきちんと向き合いました。中高は自分のことを出し過ぎていたので、先生たちは敢えて聞かなくても私の事を分かってくれていたみたいです。大学は最初、男子としても女子としても見られていいような、中性に見えるラインを極めていたんです(笑)。でも、友達は皆知っていたし、ホルモン注射を初めていたので、少しずつ胸が膨らんできて、病院の先生から「そろそろ女性として生活しましょう」とアドバイスいただいたのです。周りの目が怖くて、なかなかできなかったけれど、病院側から言われるのならと、学校の先生、一人一人にカミングアウトして、いつから女性の恰好をしてくるのかなど、一緒に決めていきました。
みむ:学生課に支援センターがあるので、入学してすぐに相談しに行きました。もう既に授業が始まっていたので、最初の1年間は女性として過ごすのは我慢して、人間関係を築いていきました。仲良くなれば、カミングアウトしても理解してもらえるんじゃないかと。それこそ中性的なファッションで通っていましたね。2回生の春から友達や先生にカミングアウトしていきました。健康診断の時も、支援センターに相談して時間をずらして対応してもらいました。学生数が多いので、既に同じような生徒さんの対応をしてきているのだと思います。

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―――ホルモン注射まではできても、性別適合手術となると色々な意味でハードルが高く、なかなか決断できない人が多いのでは?
未悠:お金の面や周りへの配慮もありますが、21歳で手術をする勇気が凄いと言われました。私たちのような平成生まれのトランスジェンダーの人は、手術をする時点で怖気づいてしまう人が多いそうです。若くして手術をすると、勘違いだったと後悔するかもしれないということで、30歳前後で手術をされるケースが多いと聞きます。私の場合、不安はありましたけど、絶対に男として生きていくのは無理。それなら女として死にたいと思っていましたから。

―――術後の大変だった時期を乗り越えて、身体の調子も大分安定してきたそうですが、改めて身体も「女になった」気持ちは?
未悠:前からずっと女の子で生活していたので、戸籍が女性に変わって、病院などの手続きはプラスになったと思いますが、それ以外は身体だけ変わった感じで、そこまで変わっていないと思います。
みむ:高校から知っている仲なので、「ようやくだね」という祝福の気持ちがありますね。21歳で出来ているのも幸せなことなのかなと思います。

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<映画で出会った一般社団法人ELLY、そして将来の夢>
―――映画では、LGBT講演会、コンサルティングを行っている一般社団法人ELLYの交流会の模様も描かれています。みむさんは、それを機にスタッフとして活動に参加されているそうですね。
みむ:映画がきっかけでELLYの方と知り合い、先月も三重県の小学校での講演に参加しました。今までは冒頭トークをした三人でいることが多くて、県外に出ることはなかったのですが、新しいつながりができて、とてもありがたかったです。小学校では私が講師になってお話もしたのですが、その学校は昨年も人権学習の一環でELLYの講師が講演をし、ある程度知識を持っている状態だったので、私が「生まれた時には男だった」という話をしても、驚かれることもなく、そういう人いるよねという感覚で聞いてくれたので、すごいなと思いました。セクシャリティというよりは、多様性。人種だったり、小さな好き嫌いを認めていけたら素敵だよねという話をしましたね。
未悠:意外と神戸にはLGBTを支援するような団体がないんですよね。

■女子トークしたり、普通に学校に行ったり、アルバイト行ったり、普通の女性としての生活を送っていることを伝えていきたい。(未悠)
何十年後かに、誰かが「こんな映画があったんや」と『女になる』の話をした時、「ダサっ!」と言われることが素敵(みむ)

―――お二人の夢を教えてもらえますか?
未悠:一つは、LGBT社会を変えていきたい。この映画を撮ったのも、LGBTのイメージを変えたかったんです。どうしてもテレビに出ているオネエの方のイメージや、ニューハーフのお店の方のイメージの印象が強すぎるんです。私たちのように、普通に生活しているBTF(Boy To Female)の人がいないイメージがあるのでは。そんな世の中なので、この映画を観てもらって、女子トークしたり、普通に学校に行ったり、アルバイト行ったり、普通の女性としての生活を送っていることを伝えていきたい。今まで世間で持たれているイメージを変えていきたいです。男が女に変わるのではなく、たまたま男性器が付いて生まれてきたけれど、本来の姿は女性で、本来の姿に「戻る」というイメージを持ってほしいな。そいう考え方の人が増えてほしいなと思います。もう一つは、結婚はしたいですね。子どもはできないけれど、女性として、結婚したいと思います。
みむ:極端な話ですが、こういう取材がなくなればいいのかなと思います。LGBTの人がいる社会が当たり前になれば、こういうドキュメンタリーを撮る必要もないし、私たちが前に出る必要もない。当たり前になることがすごく大事なんだと思います。今年一年は講演会に行ったり、映画を撮ったりという活動に携わらせていただき、こういう活動が要らなくなるのがベストだなと思いました。何十年後かに、誰かが「こんな映画があったんや」と『女になる』の話をした時、「ダサっ!」と言われることが素敵なことだと思うし、そうなっていけばいいなという願望があります。そして、微力ながらそういうことに携わっていけたらいいなと思います。私自身は、今就職活動中なので仕事に就いて生活して・・・。結婚はしたいですね。

■トランスジェンダーの方が身近にいらっしゃれば、優しく声をかけて。(未悠)
未悠さんの思いがすごく詰まっている映画。当事者が3人も出ています。そういう映画はなかなかない。(みむ)

―――最後に、これからご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。
未悠:この映画は、当事者の方はもちろんですが、一般の方にもすごく観ていただきたい映画です。私たちはトランスジェンダーですが、普通の女性として生活しています。もっと身近にそんな存在がいるということを理解してもらい、トランスジェンダーの方が身近にいらっしゃれば、優しく声をかけていただければと思います。
みむ:未悠さんの思いがすごく詰まっている映画です。手術のシーンや、彼女のお母さんの思いもありますし、私自身を含め当事者が3人も出ています。そういう映画はなかなかないと思いますし、一人一人色々な思いがあり、そして女性として生きる覚悟も観ていただけるのかなと思います。色々な方に観ていただいて、少しでも理解につながればうれしいです。

公開劇場:10月28日(土)〜新宿K’s cinema、11月4日(土)〜元町映画館