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2016年に世界各地の映画祭で話題となった短編ドキュメンタリーの中から“デンジャラス”のキーワードで厳選した3作品を一つのプログラムにまとめた意欲的なオムニバス企画、『デンジャラス・ドックス』。
レバノンの難民キャンプに戻ってきた男のリアルな人間ドラマ『男が帰ってきた』、毎年10月に行われる松山市道後の秋祭り(けんか祭り)を体感する『渦』、ロンドンを舞台に6つの日常的なストーリーが同時並行で展開する『シット・アンド・ウォッチ』。いずれも30分前後の作品の中に、現代に生きる人間の生命力が凝縮されている。

パリの高校時代に日本映画に目覚め、2003年に来日し、映画美学校を卒業後はドキュメンタリー映画を撮り続けている『渦』のガスパール・クエンツ監督。そして『渦』および『デンジャラス・ドックス』の辻本好二プロデューサーに、お話を伺った。


■深作欣二監督作品に傾倒。『渦』ではサスペンス的要素を使いたかった。

―――パリの高校時代に、かなりの数の日本映画をご覧になっていたそうですね。
クエンツ監督:ポンピドゥー国立美術文化センターで1年間、20年代から90年代までのあらゆる邦画を特集上映した時に、ほとんど全ての作品を観ました。高校時代、オプションで映画のクラスがあり、そのクラスを選択すると、ほとんどすべての映画館で映画を無料で観ることができました。授業はほとんどさぼって、映画を観ていましたね。


―――日本映画のどこに惹かれたのですか?
クエンツ監督:中学の時は、アジアのカンフー映画が好きだったのですが、その後日本映画も観るようになりました。一番好きなのは深作欣二監督。60~70年代のヤクザものが気に入り、それがきっかけで、日本語を習おうと思ったのです。


―――深作欣二監督が好きだと聞いて、納得しました。本作もどこかヤクザ映画のような迫力がありますね。クエンツさんは、その後日本の映画美学校のフィクション科で映画作りを学んでいます。なぜドキュメンタリーの方にシフトしたのですか?
クエンツ監督:役者に色々演出もしましたが、結局学校で制作した作品では素人の方に出ていただいていたのです。ドキュメンタリーにシフトしたのは自然なことでした。フィクションとドキュメンタリーの境界線は僕の中では曖昧だと思っていて、ドキュメンタリーでも演出する部分もあります。我々も自分の様々な役を日常で演じていますし、カメラを置いただけでも人間は変わりますから。通常ドキュメンタリーでサスペンスは使われませんが、『渦』ではサスペンス的要素を使いたかった。オーソドックスなドキュメンタリーは、細かく全てを説明しますが、私は説明を省くことで、続きを観る楽しみ、サスペンス的要素を入れるという手法なのです。

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■最初から体感型アクションドキュメンタリーを目指す。

―――『渦』は、松山市で行われる秋祭り(けんか祭り)に密着したドキュメンタリーですが、この秋祭りを題材にしたきっかけは?
辻本:僕は撮影までに、5年間けんか祭りに通い続けていました。3年通った時に、ガスパールのインドで100万人以上集まる祭りに密着した作品を観る機会があり、「ガスパールがけんか祭りを撮ったらどうなるだろう」と思ったのがきっかけです。Youtubeの動画や資料をガスパールに見てもらい、けんか祭りを撮りたいか聞いてみると、「撮りたい」ということで、企画としてスタートさせました。

クエンツ監督:普通に撮るのではなく、内側から撮らなければ面白くない。それぞれの町内会ごとに祭りの記録DVDを作っているのですが、それと同じような客観的な撮り方はしたくなかった。辻本さんとも話し合い、最初から体感型のアクションドキュメンタリーを考えました。最初は総代の方に話を通し、二町会から撮りはじめました。最初はヤクザ映画のように対立の構図を映し出そうと思っていましたが、祭りの3週間前から現地に入って撮影をするうちに、考えが変わってきました。一番気になったのが、神輿の存在と、氏子たちの気持ちでした。神輿は担いでいる人たちにとって神様がいて守るものでもあるし、同時に担ぐとき後ろにいると、神輿は重さが1トンもありますから、倒れてきたときは本当に恐ろしい。氏子たちの気持ちと、神輿の視点があれば面白いと思ったのです。

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■人間と神輿の関係性を、独自の視点で編集

―――神輿の視点とは?
辻本:もし神輿が生きていたとすれば、神輿からの目線を、どこを見ているのかも考えて描き出すということですね。

―――神輿の釘を打つ動作と刺青を彫る動作。似たような動作を交互に映し出す演出が新鮮でしたが、そこにも特別な意味があったのですね。
クエンツ監督:神輿の肌と人間の肌と考えてみると、お祭りの後は、神輿も人間も傷を負います。釘と刺青のシーンは、それぞれの“肌”に打ち込むということを表す編集にしました。

辻本:神輿は、得体のしれない生き物というイメージでもあります。

クエンツ監督:面白いと思ったのが、上空からの引きの絵で見た時に、神輿が人間の海に浮いているように見える。どこが人間で、どこが神輿なのか分からない。まさに「渦」のような自然現象風に撮りたかったのです。人間がやっていることというよりは、神輿がしていることのように見せたかった。人間と神輿が合体するイメージを釘と刺青のシーンに込めました。


―――けんか祭りに飛び込んだような、内側からのリアルな映像ですが、どのようにして撮影したのですか?
クエンツ監督:カメラマンが1名、祭りの中に入って撮っています。あとは、神輿と氏子の頭部にカメラを付けています。全部で13台のカメラを同時に回しました。普通は神輿と神輿がぶつかるところを撮りたいと、神輿の前部にカメラを設置しようとします。でも私は一番興味があったのが胴裏でした。ぶつかって負けてしまうと神輿が落ちるのですが、神輿が絶対に地面に触らないようにしなければならない。

辻本:祭り中に、アスファルトがバッと映っているのが胴裏の映像です。

クエンツ監督:一番興味があったのが、人間の海の中の空間。神輿の下に自分の身体を入れ、神輿が地面に触らないようにする空間に一番興味があったので、神輿の裏側にカメラを設置しました。神輿の下にも設置しています。

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■通常は取材NGのけんか祭り。全面協力していただくに至った撮影秘話。

―――けんか祭りの取材を受け入れてもらうことは、結構難易度が高い気がしますが。
辻本:一般のメディアでもなかなか取材させてもらえません。一部けんか祭りの中で入ってもいいエリアはありますが、その場合も総代がOKしなければどこからコンタクトを取ってもNGです。とてもしっかりとした縦社会で総代の言うことが全てなのです。僕も何度も通ううちに、総代であろう人が分かりますから、最初は素直に映画を撮りたいと総代に話をしに行きました。話をする中で、祭りのことを理解していることが伝わり、また総代自身もチャレンジャーの一面をお持ちなので、私の素性が分からないなりにも任せて大丈夫と思ってもらえたのでしょう。「分かった、全部好きにやらせたる」と撮影の承諾をいただくことができました。

そうなると、各町会のトップに「映画を撮るから協力するように」と声がかかる訳です。総代がOKを出した人ならと、皆さん非常に協力していただきました。神輿に取り付けたカメラも、撮影スタッフがスイッチを押す時は、一度神輿を担いでもらわなければなりませんでしたから。取材も含めて全協力をしていただけたからこそ、撮れた作品です。だからこそ、ミスをしたら…という緊張感がありました。

クエンツ監督:命懸けの祭りですから、カメラマンには一人付いていただきましたし、我々のスタッフだけは赤い法被を着用していました。

辻本:「赤い法被には絶対に手を出すな!赤い法被に手を出すということは、俺に手を出すということと同じ」という総代のお触れがあるから、本当に助けていただきました。他の報道陣は、法被なしで、外側から撮っているだけですから。


―――どうやって撮ったのだろうというぐらいの迫力。人の渦に飲まれていく神輿が地面にぶつかりそうな様子などは、圧巻でした。
辻本:海外の映画祭でも大好評でしたね。ベルリン国際映画祭では賞を受賞した作品よりもガスパールにインタビューが殺到しました。日本人はもっとおとなしいイメージがあるらしく、「ヤクザの方ですか?」とか、イメージを覆す日本人像が新鮮だったようです。

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■魅力は「密度」と「下の世界」

―――やはり、このけんか祭りの一番の魅力は、男たちがぶつかり合うエネルギーでしょうか。
クエンツ監督:道後駅前の非常に狭い場所でぶつかり合うんです。客席もほとんどなくて、お客さんと氏子が混じっている。世界の祭りの中でも、この密度はなかなかない。この密度があるから、この世ではないような空間ができる。下の世界ですね。

辻本:四国は他でもけんか祭りがあったのですが、今残っているのは松山ぐらいです。ここは縦の組織がしっかりしているので、ある程度けんかをさせた後、ピタリと止めさせるという形もしっかり出来上がり、警察も静観している感じです。


―――ぶつかる場所ではなく、地面に近い足元の空間に着目するのは、監督ならではの視点ですね。
クエンツ監督:最初、地元の皆さんが撮った映像を観た時に、下が面白いと感じました。ぶつけた後のけんかより、ぶつける瞬間や、神輿と人間との闘いが面白いですね。


―――けんか祭り本番の迫力ある映像が印象深いですが、祭りがはじまるまでの様々なシーンがテンポよく挿入され、準備から祭りの後までの一連の流れを体感できます。
クエンツ監督:前半で一番重要なのは、麻雀をしているところに、色々な声が重なるシーンです。神輿の裏側で、一番危ない思いを経験している人たち(胴裏)の色々な体験談をオーバーラップさせました。麻雀のパイが真ん中に集まる様子を、皆さんの動きに重ねています。胴裏の体験は死の恐怖もあれば、神輿は神様に殺されそうになる場でもあるので、なかなかない体験だと思います。本当は鉢合わせの前後も重要で、全部で48時間ほど、皆、寝ずに祭りを行っているんです。しかもお酒を飲んで、かなりテンションが高まっている。そうでなければ、あんなぶつかり合いはできないです。祭り全体の映像もたくさん撮りましたが、むしろ省く方がサスペンス的効果があるので、かなり短くしました。


―――撮影できる貴重な機会を得て、それだけの素材があれば、長編にすることもできたと思いますが、そこはあくまで短編にこだわったのですね。
クエンツ監督:最初から短編と思っていましたし、長編にするとダラけてしまう。15分ぐらいのものを想定していたので、実際は27分と長くなってしまったのですが。

辻本:僕は、長編にしてもらいたかった。素材はたくさんあるのに、短編と主張するので、本当にどうしようかと…。

クエンツ監督:短編にする方が大変!

辻本:ガスパールの作品は、たくさんの要素が詰まっていて、見れば見るほど発見がある。でも、1回ではなかなか気づけない。ただ、それがガスパールのやりたかったことなので。15分と言われた時には、それはないよと抗議しましたが(笑)。

クエンツ監督:色々な映画で余計なショットが多いと感じるので、今回そういうことはしたくなかった。風景ショットも撮っていますが、ドキュメンタリーにとってそれは、使い方が悪ければ、作品が本当につまらないものになってしまう。今回は、太陽や月など「宇宙の中の祭り」をイメージしてもらう意味でのみ使っています。

辻本:松山でロケをすると、地元の方が松山のビューポイントを色々教えてくださるのですが、ガスパールは全然それを撮る気がない。趣旨が違う。むしろ、松山での撮影と分かる部分を省こうとしていましたね。


■感じるだけのドキュメンタリーだから、「祭り」のことを世界に伝えられる。

―――お話を聞いていると、短編の作り方といい、撮影する題材といい、本当にブレないガスパール流が確立されていますね。
辻本:だから『渦』は、ガスパールの作品の中でも22の映画祭でのノミネートと、一番海外での評価が高いです。7月にはグランプリも受賞しました。

クエンツ監督:ドキュメンタリー映画は、特に日本を題材にした場合、説明を入れた方が海外の人に分かりやすいと勘違いされがちです。でもそうではない。説明するとなると、どこからするのか。「お祭り」は何なのかというところから始まるととてもややこしい。『渦』のような映画は情報が何もなく、感じるだけなので、誰でも分かります。海外で見せる場合は、そういう手法の方が、祭りのことを伝えられると思います。


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■短編だから実験的なことができる。世界の短編ドキュメンタリーを味わう手がかりに。

―――最後に『デンジャラス・ドックス』という短編オムニバス企画について、詳しく聞かせてください。
辻本:元々、短編の『渦』を劇場公開することは考えていませんでした。映画祭で勝負する作品という位置づけでした。実際に映画祭で一度上映されてからどんどん広がり、世界の様々な映画祭の短編コンペティション部門に招待されました。私も『渦』と一緒にプログラミングされている短編作品を映画祭で観る機会が増えたのですが、それらは今まで自分でイメージしていた短編とは全く違うものでした。世界の短編ドキュメンタリーはこんなことになっているのかというインパクトが大きくて。『渦』だけでなく、2016年で話題になった短編を集め、デンジャラスというくくりの企画ものにしてはどうかと思いました。『男が帰ってきた』もベルリン国際映画祭短編部門で銀熊賞を受賞しているのに、日本で上映される機会がなかったですから。

クエンツ監督:3本とも手法が違います。短編映画は長編映画より、かなり実験的でもあります。

辻本:海外映画祭でも、この作品以外にもっと実験的な作品もたくさんありました。この機会にそういう短編作品を観る。なかなかないプログラムなので、やってみたいと思いました。


―――確かにどの作品もとても個性的で、エッジが効いています。短編なので、間延びせず、凝縮されている感じがしますね。面白かったです。
クエンツ監督:短編はその短さゆえに、余計なことができない。きちんとした構造がないと、作品が成り立ちません。

辻本:映画を観慣れていて、新しい刺激を求めている人には是非観ていただきたい。でも、そうではない方には難しく感じられるかもしれません。東京公開の時も、『シット・アンド・ウォッチ』は分かりにくかったみたいです。最後になれば分かるのですが、6つの話がバラバラに挿入されているので、筋を追おうとするとキツくなってしまう。

クエンツ監督:『シット・アンド・ウォッチ』はエッセイみたいな作品ですから。そう考えるとそんなに難しい作品ではないはずです。

辻本:『男が帰ってきた』も上映後に説明を加えると、理解していただけるのですが、ただ観ただけでは、放っておかれた感があるみたいですね。でも内容を理解するだけが映画ではありません。僕が凄いと思うのは、カメラと被写体の距離感。あの近さでギリシャから強制送還され、ヘロイン中毒になっている男を撮ることはまずないでしょう。難民の話ですし、家族の中に入っての撮影や、ヘロインを打つところも撮っています。ドキュメンタリーであの距離感で撮影できるのはなかなかないということを、あまり皆さんは分からない。だから取材して記事にしていただくと、皆さんが観に行くきっかけになるのではないかと思います。
(江口由美)


<作品情報>
『デンジャラス・ドックスvol.2/渦』(2015年 日本 27分)
監督:ガスパール・クエンツ 
2017年11月18日(土)〜シネ・ヌーヴォにて公開
公式サイト⇒http://jgmp.co.jp/docs/ 
〔舞台挨拶〕11/18(土)18:35の回上映後 
       ゲスト:ガスパール・クエンツ監督、辻本好二プロデューサー
〔ミニトーク〕11/19(日)18:35の回上映後 
       ゲスト:ガスパール・クエンツ監督、辻本好二プロデューサー、
           小田香監督(『鉱 ARAGANE』監督)
       11/22(水)18:35の回上映後 
       ゲスト:辻本好二プロデューサー、上野昂志さん(映画評論家)