颯の仕事は定時で上がれる事などまず無いに等しい。仕事の合間に命に入れたLINEは相変わらず既読がつかない。嫌な予感がして心臓がギュッとなる。

4時頃帰り支度をしている優羽に声をかけた。

「森さん…。」

「…。」

優羽は相変わらず険しい顔で振り向いた。

「なに?」

「命…迎えに行かせてもらえないか?」

「…だめ。」

今日は原田真亜の家で勉強の予定の曜日だと言う事を颯は知っている。帰りは八時頃だろう。よく駅で待ち合わせをして二人で帰った曜日だった。

「頼むよ。原田先生の家から真っ直ぐ送り届けるから…。」

「嫌だ。今日は真亜に頼んであるから大丈夫だよ。僕か、遠矢が迎えに行くことになってるから…」

そう言うと優羽が背中を向けて

「高城さんがいなくても大丈夫。僕達が守る。これ以上、命は誰にも傷付けさせない。」

と言うとバックを背中に背負って

「お疲れ様でした。」

とお辞儀をして出て行った。


遠矢に命の学校から電話が入った。命について妙な問い合わせの電話があったらしい。

直ぐに神田洋輝に連絡を取った。

あれから5年。あの時、命には神田洋輝が弁護士として付き、当時、命のいた養護施設の園長星野を傷害罪で告訴した。MAXの実刑15年を希望したが、星野の弁護士との話し合いで、命のこれからに金がかかると判断し、示談金(慰謝料等を含め)1800万を請求、後の裁判で実刑8年が言い渡された。示談金はどう工面したのか一括で支払われた。

ヘタをするともう仮釈放または、出所している可能性もある。

洋輝が直ぐに颯を呼んだ。

「…森さんに聞きました。さっき調べましたが、星野は現在、認知の父親と父親の郷里の香川県に住んでいるそうです。確認しました。当時クビになった施設の職員3名の内2名は現住所、仕事など確認が取れてます。1人だけは執行猶予中に既に行方不明になっています。すいません。まだ、時間が足らずに調べ切れていません。それから当時、未成年であった実質暴行に加わっていて、書類送検、保護観察処分になった中学生3名についても現在、確認中です。他に命に危害を加える恐れのある人間は思いつきませんでした。」

と予定していた答えが全て返ってきた。

「…おまえ…仕事は出来るのになぁ。」

と、本当に呆れたように洋輝に言われる。洋輝には

「今回は…ほんとにすいません。」

と項垂れて謝る。

「あのデカぱい女じゃねぇのか?」

「…わかりません。でも、命と2度ほど会ってますので、当たってみます。」

「今、いくつ抱えてる?」

と、現在、颯の着手している案件の数を聞いてくる。

「3件です。」

「それ、他に割り振っていいから命の事、重点してやれ。」

「あ、でも、これは個人的なことですから…。」

「何言ってんだよ?ここでほんとに命に何かあったら、お前どうする?」

「え?」

「これで命に何かあったら、お前、一生後悔するぞ。」

確かに洋輝の言う通りだ。変に遠慮して命に何かあったら今度こそLINEのブロックくらいでは済まないかもしれない。

「…ありがとうございます。そうさせてもらいます。」

颯はそう言うと頭を下げた。