命は後ろ手に縛られ、フローリングの上に転がされた。「ふーん。背も伸びたし、金髪も綺麗だな。」

命が小学5年で、こいつらは中学生だった。二つ、三つ…上と言うことか?身なりから見て働いているようには見えないし、大学生…という訳でもなさそうだった。

1人がしゃがんで顔を近づけて来る。

「立場逆転だな。」

…え?

「あの頃は俺達が学校に行くはずだったのにな?」

命の制服の襟を引っ張る。

「幽霊だったお前がエリート高校に行き、俺とこいつはお前のせいで鑑別所だ。」

…違う。僕のせいじゃない。

パーンッと耳の奥で音がした。殴られたのだ。体が何かにぶつかり床に転がった。

「おーい。そのへんにしておけよ。そいつには他に使い道があるんだ。」

そう言ってあの男が入ってきた。

「……!」

転がったまま命が身構える。

あの笑っていない目が命を上から見ていた。


似たような建物の並ぶ中、犬は迷うことなくある一つの入口を選んで階段を上がって行く。

「…は、はぁ。はあ。やば……。」

颯も必死であとを追った。それでも追いつかず、犬は途中で止まり、振り返る。颯が見えるとまた走り出す。

9階建ての5階まで上がると、階段を外れてある部屋の前で止まる。

「は、は、は、はぁ。はぁ。そ、そこか?」

ドアに向かって座る犬は息も乱れずに低く唸る。颯は早く息を整えようと下に尻をついて座ると、胸に手を当てて何度も呼吸を繰り返す。

「ぐるぅぅぅぅ。」

黄金の毛が逆だった。中で何かあったのか?颯がまだ整わない息のまま立ち上がる。

「うぅぅぅぅ。」

犬が低く長く唸る。監禁したとすれば鍵はかかっているだろう。公営住宅だ。管理する者も誰だかわからない。合鍵は無理だと判断する。

「…先生。R号棟の5階です。部屋番号はわかりませんが、東側の階段から二つ目の部屋です。」

繋がったままのiPhoneに小声で言う。

…わかった。おって警察もつく手はずだ。

その返事を聞いてそのまま胸ポケットに仕舞った。犬が壁に手を付き立ち上がる。颯の頭より高い場所に細長い風を抜くためだけの窓がある。

「うるぅぅぅ。」

「は?入れるか?」

その窓を見上げて犬が唸る。颯がキョロキョロと周りを見渡すと消火器が目に止まる。

ガシャーンっ。

中から何かが倒れる音がする。

「ぐぅぅぅぅぅっ。」

犬がまた唸る。

「待ってろ。」

消火器を取りに行くとそれを振り上げた。


男がニヤニヤと笑う。二人の男が命を立ち上がらせて、両側から掴みかかった。

「……ゆうれい……久しぶりだな。」

男が座った命の膝を割って、足を中に入れて近付いて来た。

「また?あん時みたいに出来るよな?」

「……。や、あ…、あ。」

喉が潰れたように引っ付いて声が出ない。

…助けてっ。

「あの頃は汚ぇガキだったが、すっかり綺麗になって…お楽しみだなぁ。」

…ハヤテっ。ハヤテっっ!!僕を見つけてっ。

男が命の金色の髪を掴んで顔を上げられる。

「美人だなぁ?おい?刑務所じゃ俺も干上がってたからなぁ。今日はしっかり相手をしてもらおうか。」

「あ、あぅぅ。て……ぅ。」

「なんだ?中身はあんまり変わってねぇのか?まだ喋れねぇのか?」

こんな男に汚されてしまったら、本当に二度と颯に会えないだろう。ずっと好きでいると決めた心さえ折れてしまう。

…それしかないのに、僕にはもう、それしかないのにっ。

…それすら奪われてしまったら

命の目がしっかりと男を見た。

「?なんだ?ヤル気が出たか?…ほんとに綺麗になったなぁ。」

ニヤニヤ笑う男を睨みつけた。

…負けない。あの頃の僕じゃない。颯を好きな僕なんだ。

命が一瞬、口を大きく開けた。舌を出す。そのまま顎に力を入れた。