2010年06月20日

人民元切り上げを選んだ中国3

「弾力性をさらに高める」という表現で、中国当局は人民元相場の切り上げを決断したようですな。
よそから人民元レートを見直せと圧力がかかるたびに中国は反発していたわけですが。

そもそも、人民元を切り上げないままで固定化してたら何が起こるのかといえば、為替レートが上昇しない分、国内に「ちぐはぐなインフレ」が起こるわけであります。
どういうことかといいますと、為替レートが安いままなら、輸出はしやすい。
その結果、輸出ビジネスは大いに儲かり、輸出に関わる製造業では活況で業容を拡大していきますから、求人が逼迫し、賃金水準が上昇する。
(最近中国国内でストが頻発して賃金がいきなり20%UPなどと急激に上がっているのもその延長上の話ではないかと思います)

しかし、それは輸出に関わる会社だけの話で、内需ビジネスの会社には直接恩恵が来ない。時間さえ経てば輸出で儲かった会社やその従業員が中国国内でカネを使うので、徐々に内需ビジネスにもカネは回ってくるわけですが、どうしてもそこにタイムラグが発生するわけです・。

そうすると、輸出に関わるビジネスの従事者は速やかに裕福になり、そういう会社が集中する地域では物価も上昇するが、内需ビジネスの従事者はなかなか収入が増えませんから、国民間、地域間の所得格差が拡大するのであります。


では一方、為替を切り上げたらどうか。
輸出ビジネスやってる会社は為替レート上昇が不利に働きますから、コレまで儲かっていたビジネスの伸びにブレーキがかかります。結果的に賃金上昇が抑制され、場合によっては下がる。
一方、為替切り上げにより、ガソリンが値下がりしたり、輸入した電気製品が値下がりする。給料は変わらなくても、輸入品値下がりにより実質的な人民元ベースの購買力が上昇する。
これまで伸びなかった内需ビジネスの会社は輸入をやっている会社を中心に景気がよくなり、従業員の賃金が上がるようになる。

ところで、中国国内のどんな人も人民元で給料をもらい、人民元で貯金をし、人民元で買い物をします。人民元の価値が上がるということは、中国の国民は(輸出ビジネスの会社に勤めている人も含めて)、自分の持っている人民元の購買力上昇によるメリットは受けることになる。

いいかえると、為替レート切り上げというのは、国民全体の実質的な所得水準を底上げするような効果がある。金持ちも貧乏人も誰でも即座に恩恵を受ける。

中国元の切り上げをしないまま、富の偏在が激しくなるよりは、元の切り上げを実施して、農村部も含めた国民全体の購買力の底上げをしたほうが社会全体ではおそらくメリットがある。
そう考えると、中国も各国からの圧力には反発するようなそぶりを見せていたが、自分らも人民元切り上げは今後とも必要であるというのはわかっているのかと思うのであります。


同じ論理で、日本円の円高もほんとは社会全体ではメリットがある話ではある。すべての日本円持っている/日本円で給料をもらっている人の購買力が実質的に上がるわけですから。
輸出ビジネスのことだけを考えるとよくないのだけど。

yuraku_love at 20:40│Comments(7)TrackBack(0)投資のお勉強 

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この記事へのコメント

1. Posted by 橘   2010年06月20日 21:42
確かに円高は日本にとってメリットはありますが、それは完全雇用状態であるのが前提ですよね。円高になると、失業者が多い現在、職がある人とそうでない人で受ける恩恵にかなりの差が開くわけで…。
為替を上げないとインフレが止まらないというくらい好景気な中国が正直うらやましいです。いい循環に入ってきていますね。
2. Posted by 元町愛   2010年06月21日 01:13
中国には、大量のドル建て債券(米国債など)がある。
発行元は、この債券の価値を下げて償還したいのだ。

日本の場合は、うまく行っている。
彼らドル・ユーザーの思惑通りだ。

過去1ドル=360円だった固定相場を廃止させ、ニクソン大統領による兌換停止、現在はせいぜい90円/ドル。

借金とはこうして返済するだよ、
と、胸を張っているアメリカが目に浮かぶ。
3. Posted by sbi公募増資   2010年06月21日 06:31
人民元切り上げと同時に、
中国は元をドル連動から通貨バスケット連動にするらしいです。

ということは中国は米国債をある程度売るでしょうね。
中国は困らないが、
アメリカに元を切り上げろと言われたから米国債を売って嫌がらせをする、
実に中国らしいやり方です。

ある意味日本にも見習ってもらいたいです。
4. Posted by kaz   2010年06月21日 13:28
iPadを作ってて自殺者続出で有名になった富士康の月給が1.5万円。
ストライキで有名になった南海ホンダ部品の月給が1.5万円でした。
・・・安すぎる!!

インドでも工場労働者の賃金は3-6万くらいですし、アフリカだろうが、多くの途上国では、そんなもんです。

元が2割上がっても、まだまだ、元はオーバーヴァリューでしょうが、
とりあえず、日本にとっては、朗報でしょう。

中国人が月給3-6万になっても、中国人の方が日本人よりコスト競争力あるので、元は倍以上になってほしい所です。
5. Posted by 40歳無職   2010年06月21日 14:12
横レスですが、
橘さんへ
完全雇用状態であるか否かではなく、外需系企業が通貨高状況下でも現状の雇用や賃金を減らさずに切り抜けられれば、また出来なかった場合でも、内需系企業がそっくりその受け皿となれれば、円高は国民全体にメリットがあると思います。

元町愛さんへ
米国はドル建ての債券をドルで返すだけですから、人民元が切り上がろうが無かろうが、返済する額は同じだと思います。
中国側から見れば、人民元建てで計算すると、差損が発生しますが。
6. Posted by 40歳無職   2010年06月21日 14:20
橘さんへ
(補足)
もっと言えば、現状が完全雇用状態だったとしても、外需系企業が通貨高のために、大きく雇用や賃金を減らす事態に陥れば、円高メリットも帳消しになってしまうかもしれません。

sbi公募増資さんへ
中国はただでさえ保有する米国債に、人民元切り上げで為替分の差損が発生しているのに、売却により米国債の価格下落を招いて、含み損を更に拡大させるでしょうか?
私は今後の購入ペースを落とす程度だと思うんですが・・・

長文&連投すいませんでした。
7. Posted by ししむすび   2010年06月21日 22:12
衣料品などの軽工業が、ベトナムやバングラディシュへ、ますます移り変わるのでしょうね。
サイクロンに弱い地形上の問題はあるのですが、バングラディシュは、国際収支が黒字で安定感があるので、ETFがあれば、少量買いたいところです。残念ながら見当たりませんが。

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