街角花だより (こうの 史代)

百合度★★★★☆

こうの史代先生の名作「街角花だより」が文庫版で登場!作品としても優れているんですが、百合的な視点で読んでも意外と楽しめる作品です。価格もお求めやすくなったことですし、未読の人はこの機会に是非!
街の貧乏な花屋に家賃を取り立てに来た不動産課の女性りんが、その後会社を首になってその花屋の従業員として働くようになる話です。
それ以後おっとりした店長のペースに引き込まれてしまうりん。
花を運ぶために行きに持っていった台車を帰り道に乗って、じゃんけんで交代で押していくシーンとか良いですね。

また、いがみあっていたりんの元同僚が花屋にやってきて花を買っていくのですが、その花が幸運を呼んで幸せになれたお礼にりんや店長に「ぶっちゅー」とキスをしまくるシーンも本編とは関係ないですが面白いです。元同僚が帰ってから店長のキスマークをぬぐってやるりんのシーンもなにげないですが良いですね。

メガネを外した店長が意外に綺麗でドキドキしてしまい、それ以来りんは店長を少しずつ意識するようになります。
店長がりんの水着写真を千円で買おうとするのは本気みたいだったらしいですね。
恋愛の話が出るたびにりんに意味深な熱い視線を送る店長も良い。

途中店長の弟がチラッと出てくるんですが、りんはこの弟に全然興味なかったはずなのに、店長に似ている寝顔を見てたらついほっぺにキスをしてしまうシーンが何気にすごい。その後本物の店長がやってきてドギマギするシーンも良いですね。本物相手に出来ないから顔の似ている別の人に眠っている間にこっそりキスするという、内に秘めた恋心の描写が素晴らしい。

雑誌の方ではボツになったらしい、最終回の別バージョン(「百合色の人生(第一案)」)も収録されてるんですが、好みのタイプを聞かれたりんが「瞳がキレ長でまつげが長くて……」と言いかけたところでメガネを外した店長を意識してしまい、2人の間に微妙な空気が生まれるのがうまい。
「好きな人いるから」というりんに「おりんの好きな人誰かしら」と聞く友人に店長が「かいもくけんとうつかないわね!」と言いつつ妙に自信たっぷり(に見える)な笑顔を見せるところもなにやら意味深です。
最後に「最終回だし」という理由でりんに花嫁のような花をつけさせる店長。ますます意味深です。

何も考えてないようにみえるおとぼけ店長、実はメガネの奥の鋭い瞳が表しているように巧みにりんの心理を操作して自分に惚れさせていた……と考えるのは深読みしすぎでしょうか(笑)。
普通に花屋の店長と従業員の交流の話のようにも見えますが、よくよくみると非常に百合度の高い作品に解釈することが可能な作品ですね。キスなど百合的にはっきりいちゃいちゃしてるシーンがなくパッとみただけでは分からないですが、ちょっと読み込めばこの2人が恋愛に近い感情をお互い持っていてもっと百合度が高いことに気が付くと思います。パッと見ただけで分かる百合作品が良いという人と、最終回の別バージョンは本編ではないと解釈する人は百合度を減らしてください。

2人しかいない職場で毎日のように顔を会わせている2人が、遠くの王子様ではなく身近な相手につい惹かれてしまう……というある種生々しい関係も好きです。
2人の容姿が美少女ではなく、そのへんにでもいそうな地味な店員というところが良いですね。萌え系の美少女同士だとファンタジーにしか感じられないことが多いですが、この2人はほんとうにその辺にいそうな感じがします。

街の花屋ということで花の知識がいっぱい出てくるのも良いですね。前半の日和版のほうはラストに花の知識の一コマを入れるショートという形式は効果が技術的にうまくいってないのではないかという気も時々しましたが、読み終わったあとはそんなことは気にならないくらい、百合抜きでも素敵な本だと思います。花屋に訪れる街の人達との交流の描写もよく、イチオシな作品です。

なんとなく「ARIA」や「Dear Emily…」のような雰囲気の、恋愛未満だけど暖かい交流のあるお話ですね。予想以上に百合度も高く、もちろんお話もハートフルで読んで良かった。