かわいいあなた
乙ひより
百合度★★★★★

「百合姫」VOL.5から参加した新人作家さんですが、百合姫でも非常に人気のある作者さんの初単行本です。
以前お見かけした作品がどれだったか、そればかり気になって雑誌掲載時は異様にそっけない感想ばかりになってしまいましたが、私も乙ひより先生の少女漫画的だけどそれでいて百合度の高い作品は大好きです♪

表紙は泣いてるまりあをあかねが慰めてあげてるシーンでしょうか。あるいはまりあのかわいい泣き顔にあかねがうっとりしてるシーンなのかもしれませんが(笑)。
カバーめくったところに「かわいいあなた」のまりあとあかね、「星空サイクリング」の桃子と真琴、「冬色想い」の静香と綾先輩のキャラ設定が掲載されています。
その他収録作の間にもちょくちょく描き下ろしカットが収録。もちろんあとがきも。

・「ココロ弁当」
「冬色思い」の続編の描き下ろしです。続編を作ると聞いて、静香のお弁当をねらっていた「いっちゃん」が絡んでくる話なんじゃないかと思っていましたが、予想通りいっちゃん(泉)が主人公の話でした。
いつもお弁当をもらっていた泉が、失恋して傷心の静香のために始めてお弁当を作ってあげる話でした。女の子らしい話ですね。味はなくとも心のこもったお弁当に感激する静香が良いですね。
ここまで静香のために一生懸命になりながらも、自分の恋心には気づいていない泉も面白かったです。

・「かわいいあなた」(百合姫VOL.5収録)
見かけは王子で中身は内気な少女と、見かけはお姫様だけど中身はしっかりものの少女の話。
王子役に決まってしまったまりあを助けようと、「お姫様役って私にぴったりだと思うの」ちあつかましく立候補して、まりあを助けようとする男前なあかねさんが良いですね。
自分の理想像しか見えてなくて本当のマリアの姿をみようとせず「そんな衣装まりあには似合わないわよ!」と無意識にまりあを傷つけてしまう取り巻きに対しても「あなたのような無神経な人は死んだ方がいいと思うわ」ときっぱりまりあをかばってあげます。
自分のドレスを破いてまりあの嫌がっている舞台を中止させようとしたり、同情したまりあと一緒にドレスを修繕したり、落ち込んでいるまりあに「好きよ」と言ってキスをしたり、あの手この手を使って結局まりあを落としてしまうあかねさんがいかしてますね。「泣いてるまりあはかわいかったわかわいくてかわいくて食べちゃいたいくらい」と誰にも言われないような事を言われ、自分がかわいくなったような気分で居心地の良さをかんじるラストシーンも良いですね。

・「星空サイクリング」(百合姫VOL.6収録)
夢見る銀河を駆け抜けてランデブー……いや、分かんない人はいいです(笑)。
身体の弱いことから相手の少女の自転車の後ろに乗せてもらうことになって楽しいひとときを過ごす田舎の女子学生の話。相手の少女の体が丈夫になってきて都会に戻ってしまいそうになり、また身体の調子が悪くなって一緒にいられるよう星にお祈りをしてしまうマコは切ないですね。この気持ちにはすごく共感します。
「携帯を買って、同じ学校に行けばバッチリよ!」という桃に「同じ大学なんて無理やって〜」と弱音を吐くマコですが、即座に「勉強するのよ!」と命令する桃。こういうハッキリした態度をとるキャラクターは乙ひより先生の作品ならでは。

・「冬色想い」(百合姫VOL.7収録)
愛想笑いなどせず、自分の気持をストレートに表す祭先輩の意外にかわいい側面を知って惚れてしまうものの、そのかわいい表情はあや先輩の話をする時だけということに複雑な想いを抱く後輩静香のお話。
あや先輩に告白したものの「後輩」としてしかみてもらえなかった祭先輩。そして祭に告白した静香もまた「そんなの無理に決まってんだろ……」と返されてしまって2人とも失恋してしまいますが、一緒に帰ろうと誘う祭先輩のラストシーンが良いですね。

・「Maple Love」(百合姫VOL.8収録)
キャンパスで男女の告白の場に居合わせてしまった主人公のかえ。携帯の音で邪魔をしてしまったのに男が去った後告白されていた少女宮路に「助かった」とお礼を言われ、「私は女の子が好きだから。気持ちわるい?」と聞かれ「気持ちわるくはない」と即答したところ「試してみる?」といきなりキスをされてしまいます。からかわれたと思ってその場は宮路の頬を叩くかえですが、その後も「私かえちゃんが好きになっちゃったみたい。付き合ってください」と言われ、以降くっついてこられるようになります。
ごはん目当てに合コンに行くというかえに、指名のあった宮路も嫌がらずに付いてくるのは男嫌いな宮路にしては珍しいと思ったら、実は合コンでかえが男にとられてしまうのが心配で、風邪にも拘らず無理矢理ついてきたのでした。
意外に一途な宮路になんでもしてあげたい気分になったかえは「かえちゃんが欲しい」と言われ、今度は自分の方から宮路の唇にキスをしてあげます。
自分の気持に整理がついて晴れて宮路と付き合うことにしたかえですが、恋愛経験がないせいか匙加減が分からずいきなりキャンパスの中で恋人繋ぎで手を繋いだり、宮路の顔をじっくり見つめて「かわいいなあと思って……」と宮路を赤くさせたり、さらには「女同士のSEXってどうやってすんの?」とストレートな質問をキャンパスでぶつけて大暴走してしまいます。
かえちゃんにはこの本を贈呈したい(笑)。
描き下ろしで両想い記念に撮った写真のカットが載っています。2人とも幸せそうで良いですね。

・「ラブレター」(百合姫Selection収録)
「好きな人いる?」と仲の良い友達美和に聞かれ「いるよ〜。美和」と答えるものの本気にされずその場は冗談のように流されてしまうものの、実は真剣に美和のことが好きで、ラブレターを書いたり美和の好きな男の髪型を真似したりする程思い詰めている主人公の話。
男にラブレターを渡す事を引き受けて「ゆうちゃん大好き!」と抱きつかれて嬉しい気持ちと悲しい気持が入り混じる夕の心情を考えると切ないですね。
預かっていたラブレターもビリビリに破いてしまいたい衝動に駆られますが、実際に破いたのは自分が昔書いた美和へのラブレターでした。
「美和へ。好きです。私と付き合ってください。夕香」
中一の時に描いたというラブレターの一途な文面が切ないですね。
夕ちゃんと美和が幼い頃仲良く腕を組んでいる時のカットが描き下ろしで収録されています。

乙ひより先生の絵柄を「百合姫」VOL.5で最初に見た時、ど〜っかでみたことあるような絵だよなあと思いつつもどこでみたのかハッキリ思い出せなくて、そっちの方に気をとられてなかなか素晴らしい作品をじっくり楽しむゆとりが持てなかったのは失敗でした。
乙ひより先生ご本人にも問い合わせてしまってすいません(汗)。大変失礼な質問にも関わらず丁寧に返事をくださって乙ひより先生、その節は本当にありがとうございました。これは別に秘密にしているわけではないということなのでお聞きした話をここでもお知らせしておきますと、以前は白泉社の少女漫画のほうでお仕事されていたそうです。「花とゆめ」やその増刊関連は私もわりとチェックしていたので、そのへんでお見かけしたかもしれませんね。白泉社は「もうすこしがんばりましょう」や「カラクリオデット」、「サディスティック19」など、あまり大々的にプロモーションはされていない作品の中にもすごい作品が時々混じってることがあるので、乙ひより先生のような素晴らしい作家さんがいたとしても不思議ではないですよね。

乙ひより先生の作品は少女漫画的でストーリー、構成、絵柄もしっかりとしていて、特に繊細だけど芯が一本通ったキャラクターの描写が秀逸だと思います。これからの活躍も是非応援したい作家さんですよね。