
つぼみ VOL1
百合度★★★★★
芳文社初の百合アンソロジー「つぼみ」のVOL.1も在庫がようやく復活しました。在庫がまともに復活したのは1ヶ月ぶりくらいでしょうか。手に入らない時に騒いでもしょうがないと思ってしばらく話題にするのを控えていたんですが、実はすさまじいことになっていたんですよね(笑)。
改めて紹介したいと思いますが、この百合アンソロジー、正直めちゃくちゃ良いです!品切れになるのも分かる気がしますね。確かにそれだけの価値はありました。
タイトルや作家陣から、ロリ系が多いんじゃないかという予想もしていまして、星逢ひろ先生の作中の少女達はランドセルしょってたり、吉田美紀子先生や吉富昭仁先生の作品も明らかに幼い少女同士が絡んでる話も実際あったんですが、全体的には中高生の少女が中心で、さらにきづきあきら先生や水谷フーカ先生の作品は社会人モノということで、登場人物の幅は広いですね。
私みたいにいろいろな百合作品をレビューしてる人間はつい、百合好きに受ける作品か、受けない作品かを見分けてしまう習性があるんですが、このアンソロジーはその辺絶妙です。
百合好きに受ける作品……というと「(単行本1冊の)巻末が百合エンド」「恋愛感情以外の動機でキスやセックスをしない」「男が絡まない(絡んでも必ず当て馬にする)」「百合キャラは処女である」「男が見ている前で女子キャラを裸にしない」「切ない系」「女性視点である」等々のテンプレートが見えてきて、逆にこの制約を守ってない作品は売れない……つまり売れるタイプの作品は傾向がどれも似通ってきてしまう……という問題を日々感じているんですが、この単行本は大筋でそれらを理解しつつもそれぞれちょっとずつ独自の色をつけていて作品の幅もあるんですよね。作品の幅を持たせつつそれらすべてが面白い……これはそう簡単なことではないですよ。
そしてなんと言っても新鮮!久々の百合アンソロジーですからね〜。
吉田美紀子先生や久遠あき先生など、百合作品を描いているのを初めて見たという作者さんや、星逢ひろ先生やはっとりみつる先生のように久しぶりに読んだという作者さん、そしてみるく先生や吉富先生などお馴染みの作家さんもいつもと違う出版社での新しいシリーズということで、とてもフレッシュな気持ちで百合作品を読むことが出来ました。
気が早いですが、この作品は今年の雨傘アウォードのNo.1になってしまうかも。(殿堂入りの人が混じってるじゃないかというツッコミをされると困りますが…笑)。
306ページもあるということで予想はしていたけど、本当に分厚い!今ぱっと見た自分の本棚の中で一番分厚そうなのを取り出してみても「あまいくちびる」が217ページ、「少女セクト」2巻が209ページ、最近出た「ストロベリーシェイクSweet(2)」は過去最高のページ数の百合姫コミックスだったと思うんですがそれでも238ページ、これらのどれより分厚いです。
306ページと聞いた時はあまりに多いんで、みるく先生の「瞳×奈々シリーズ」の再録などが何本か収録されるかとも思ったんですがそれもなく、みるく先生の作品も新作百合漫画でした。これはすごいですね。
以下各作品の感想〜。
・「ひみつのレシピ」森永みるく
(公式)
森永みるく先生の作品は巻頭です!今回は明るいギャグ作品ですね。
好きな人が女の子だったから、セクシュアリティを確認するためキスさせてくれと頼まれる先輩が、自分のファーストキスを後輩ちゃんに捧げてしまうお話。「ちゅーすてキモクて吐いたらすいません」などとボロクソに言われた挙句、実際やってみたら良かったらしく、さらに首筋を舌でつーっとなめられたり下着の中へまで手をつっこまれたりと、やりたい放題にされる部長が災難ですが、なぜか笑いも誘ってしまいます(笑)。しかし後輩ちゃんの好きな相手って実は先輩だったのでは?とか思ってしまいました。あとがきによるとこれは第1話ということで、次号以降で続きが読めそうですね。
・「コブリアワセ」宇河弘樹
(公式)
「朝霧の巫女」の人ですね。作者さんサイトによると前後編で、もう制作は後編に取り掛かっているようですね。それにしても貴重な情報、ありがとうございました(笑)。
今回は前編ということで百合的にはまだまだこれから、という展開ですが、戦後の古い時代の風景が緻密に描かれていますね。トーンなしで全部かけあみなのがすごい。数年前「朝霧の巫女」を読んだ時はこれほど超絶な作画ではなかったと思うんですが。すごい上達したのか、あるいは今回は今までと気合が違うのか。
後編でどうなるか、展開が気になります。
・「for Roses」久遠あき
中学時代親友映里に友達以上の想いを馳せていたものの、伝えることで映里の笑顔を失うことが怖くて気持ちを打ち明けられません。しかし映里が引っ越してしまうと聞いた日、衝動的に映里を抱きしめ、勢いで気持ちもバラしてしまったところ、相手は震えて泣き出してしまい、やっぱり伝えなければ良かったと辛い思い出を抱えたまま月日は過ぎて高校生になったヒロイン唯ですが……この先はネタバレになるので実際に読んで確かめてください。
しかし初めて作品を読む作者さんだったんですが、非常に素晴らしい作品でしたね。ネットで調べてもほとんど情報が出てこないので、まだ無名な部類の作者さんだと思うんですが、予想以上に良かったです。
お互いのことを大切に思うが故に手を出せないもどかしい気持ちが上手く描かれていました。
・「むねがいっぱい
」小川ひだり(公式)
サイトにも百合な絵があって、こんな感じだったら良いなあと思っていたんですが、まさにこの絵の2人の話でした(笑)。
こずえの胸を揉むことが大好きなエリナと、そんなエリナが自分の胸を揉んでくることを密かに、たまらなく嬉しいと思っている胸の大きい少女こずえの話。それまではスポーツブラからダイレクトに伝わってくる感触を楽しんでいた2人ですが、ある日先生に「垂れるからワイヤーつきのブラをなさい!」と言われてしまい、柔らかい感触が楽しめなくなってしまうのではないかと心配するエリナと、そんなエリナが自分から離れていってしまうのではないかと心配するこずえ。ワイヤーつきのブラをつける前に「思う存分揉みまくっていいよ……好きにしてほしいの……」と言ったり、他の女の人の胸を揉んでいるエリナの姿を見てたまらず「いっそ生でもんで……」と胸をはだけて生乳を差し出したり、むしろこずえのほうが激しい想いをぶつけてくるところが面白いですね。しかし誤解も解け、一緒に揉み心地の良いワイヤーブラを買いに行って、試着室で約束どおり、本当に生で胸を揉んでキスまで交わしてしまう2人が良いです。
小川ひだり先生は新人なのでまだ単行本は出ていませんが、こちら(「前略 かしこ」)やこちら(「海のもくずになりませんっ!」)でうちのサイトでも百合作品を紹介したこともある作家さんです。
タイトルは「胸が一杯になる」という慣用句にかけてあると思うんですが、上手いですね。切ない話も良いですが、こういう明るいお馬鹿な話もあるとバリエーションがあって良いです。
・「エビスさんとホテイさん」きづきあきら+サトウナンキ
(公式)
本社から配属されてきたエビちゃんは無愛想でなかなか打ち解けてくれる様子がないものの、どうしようもなく彼女のことが気になってしまうヒロインのホテイちゃん。いじめられているように見えるホテイちゃんですが実は逆にエビちゃんの靴を隠して仕事場に一緒に残らせようとしたり、さりげなく悪い噂を流しエビちゃんが周りから嫌われて自分だけに縋ってくるようにしたりするホテイちゃんも黒いですが、それも全部見越してしまっているらしく、全部軽くかわしながらも、自分に気のあるホテイちゃんが喜ぶのも分かっていて、お弁当をあげるエビちゃんがさすがです。
百合な作品のヒロインが2人とも搦め手派というのは珍しくて新鮮ですね(笑)。
きづきあきら先生は「メイド諸君!」や「増殖フェティシズム」、先日発売された「バーバ・ヤガー」などで百合好きにもお馴染みですね。「モン・スール」収録の「たのしいなつやすみ」もかなり好きな百合作品でしたよ〜。
・「ランナーズハイ」きぎたつみ(公式)
同じ陸上部に所属していて仲の良かったユキとトーコ、しかしトーコが足を捻挫して、かっとなってユキを突き飛ばしてユキのほうが大怪我をしてしまい、それ以来疎遠に……という話。
トーコが感情的になってしまったのは、自分のことだけで頭がいっぱいになっていたというより、ユキと一緒に大会に行きたかったという事情もあったようですね。怪我をして特待を逃しても、トーコへの想いを捨てられないユキと、自責の念にかられ自分も陸上をやめてしまったトーコ。しかし最後「手紙書くね。大好きだよ」「うん」と抱き合って、お互いを想う気持ちが強かったんですね。
・「LOVE FOOL」はっとりみつる
(公式)
水辺で戯れる少女2人の風景漫画。はしゃいでるうちにひとりが服を脱ぎだしてしまい、相手にも促すものの、大胆な下着を着けているのを知り、隠そうとしたのか抱きついた勢いでそのまま押し倒してしまい、もつれ合いそのまま唇を近づけていく2人が楽しそうでした。
はっとりみつる先生はまだ単行本化されてない(多分)「コンチェルト」や代表作の「ケンコー全裸系水泳部ウミショー」、「おとぎのまちのれな」などでもちょいちょい百合シーンが挿入されていたりして、意外に百合属性あるんじゃないかと目をつけていた人でしたので、今回新作百合漫画を読めて嬉しいですね♪
公式サイトの新作情報や日記にもお知らせが載っていますね。
・「鳩居的懐古録 第一日目/鳩子と真魚さん」釣巻和
(公式)
可愛い鳩子が決してひとりにならないよう、たくさんのシチューを作りつつ手紙も遣して「ふたりでいられる魔法」も送る真魚。離れていても2人は心が繋がっているんですね。
・「ついでのはなし。」大朋めがね
(公式)
女の子が好きになったという女生徒の相談に乗ってあげるため、自分の女学生時代の話を保健医の先生が話してくれるというお話。
そんなに複雑な話ではなく、志村貴子調の淡々とした作風なんですが、女の子描写も可愛く何気にセックスして相性がお互いに良いことを確認し、最後付き合ってもう8年になるというラブラブハッピーエンドな展開がすごく良かったですね。

SCHOOL GIRL
露骨な裸こそ映ってませんが、「つぼみ」に収録されている作品も上のジャケットのようにほのかにエロティックな雰囲気で、かなり良いです。
・「キャメル」宮内由香
(公式)
彼氏持ちの親友のことを、自分が吸ってるたばこと同じ程度に好きだと口では言うヒロインが、実は毎日キスもして中毒になるほど相手のことを好きだったという話。「キャメル」は確か一般に流通してるたばこの中では値段が微妙に高いんですよね。体にも良くないし喫煙者が猛烈に倦厭されるこのご時世でわざわざそれを選ぶというのは、やはりそれだけ好きだという証でしょう(と言いつつ私も禁煙推奨派ですが…笑)。
宮内由香先生はこちらで紹介しましたが「このこあたしの」という百合漫画を描いていましたね。
・「シャーベット」吉田美紀子
(公式)
ジュースのまわし飲み、人が使った箸で食べることや、果ては温泉やプールまで出来ない潔癖症の少女まどかですが、気になっていた少女くーちゃんとは、一緒のアイスを食べて思わず舌が触れ合ってしまっても、ふしぎと全然平気だった、という話。これは……なんか萌えてしまった(笑)。
・「なんでもっと」吉田美紀子
ひと様の家のとまとを食べようとした少女が、そこに住む少女に見つかって対価を身体で払うことになる話。えらく幼く見える2人ですが、Hはちゃんとしてるみたいですね。
・「SEASON」吉田美紀子
好きだと思っていた男に身体を求められたものの、自分が相手のことを好きでないことに気付いてしまった少女が、以後足も地に着かず周りが得体のしれない海中生物のように見えるようになってしまったけど、新しく気になった少女だけは普通の人間の姿に見えた……という恋の予感を感じさせるお話かな?
吉田美紀子さんは単行本もたくさん出されていてベテラン作家さんなんですね。作者さんサイトによると同人誌で描いていた作品らしいですね。「好き過ぎてただ描き散らしていたアレが…」とのこと。
単行本の表紙なんか見るとほのぼの4コマっぽいのを描いているみたいですが、今回収録された作品は少女……というか小学生くらいに見える幼女同士がセックスまでしてしまう展開で、作風も商業誌とはかなり違うように感じます。結構過激。でも良い(笑)。
・「こころスケッチ」星逢ひろ
(公式)
夕暮れ時、1人で絵を描いている姿に胸がざわざわしてしまったヒロインさくらはさっそく同じ美術部に入り、意中の少女館夜羽に近づいたり、絵を教えて欲しいと申し出たり「館さんの絵はすごいよ!私ひと目惚れしたもん!」と言ったり自分の家に招待したりと積極的ですね。容姿や絵を見て憧れたりする姿から、大人しそうなイメージが最初あったのでギャップが面白いです。
心のままに描いて入賞してしまったさくらと、心のままに描いた絵を隠して入選を逃してしまった夜羽ですが、どちらの絵もお互いの姿を描いて頭がお互いのことでいっぱいな2人は最後キスまでしてラブラブハッピーエンドです。最後、キスをしたのもさくらの方からだったようで、リードしていたのは最初から最後までさくらの方だったというのが面白いですね。
星逢ひろ先生は「百合天国」1巻と2巻で良い百合作品を描いていましたね。百合天国収録の「火星輝く」では1巻の巻頭を務めていて看板作家だったと思うんですが、2巻収録の「一番の人」も含めて、めちゃくちゃ良かったんですよね〜。忘れてませんよ、ええ。
世間的にはBL作家として有名らしいですが、最近松文館のティーンズラブでよくお見かけしますね。女の子作品は結構たくさん描いている人だと思いますよ。
・「いちご日和」泉結基
2ページ目で話のオチが分かる……というか他に解釈のしようがない展開だったんで思わずツッコミを入れたくなりましたが(笑)、その後化け猫少女が帰ってきた家で自分以外の猫を見つけて嫉妬してしまい、それでも結局最後ラブラブになるという展開は意外性があって、面白かったです。
・「この靴しりませんか」水谷フーカ
(公式)
靴をかたっぽ持ってかれてしまったヒロインが、持って行った相手の女性が気になってしょうがない、ガール・ミーツ・ガールな話。見えない相手のことをあれこれ想像し、徐々に気になっていってしまう展開が面白いですね。
・「しまいずむ」吉富昭仁
(公式)
2組の姉妹の4角関係の話。それぞれの姉が相手の妹に目をつけて一緒にお風呂に入ろうと誘ったり、「いじりたくなる」と欲望を語ったりするものの、相手の姉に阻止されたり、妹同士の方が仲良く結局お風呂は妹同士の方が仲良くて結局お風呂は妹同士、姉同士になってしまったり、妹たちのお風呂を覗こうとしたりして面白いですね。
カバー下のイラストはクレジットが見当たらないですが作風からして吉富先生に間違いないでしょうね。こちらも仲睦まじく映ってる少女達のイラストがたくさんあって豪華です♪

予告によると次号VOL.2は5月!作家陣には玄鉄絢先生、天乃タカ先生、裏次郎先生、関谷あさみ先生、そして多分今回は病欠だった(と思うんですが)ナヲコ先生の名前もあります。
帯には「ALL読みきり」とあって、これはまぁTL誌とかでもよくある話ではあるんですが、実際には森永みるく先生や宇河弘樹先生、きづきあきら先生の作品など続きそうな作品はいくつかありました。
さて全部読んでみて、一番私がよかったなぁと思う作品を、殿堂入りの1名を除いて公平(ってなんじゃそら)に評価しますと、大朋めがね先生、次いで吉田美紀子先生の作品が良かったですね。この辺は理屈じゃないです。感覚的に気に入ってしまいました。理屈で面白かったのはきづきあきら+サトウナンキ先生の作品。
ただ他の作家さんの作品も全部良かったですね。名前を聞いたことのない作家さんや新人作家さんなど、百合好きにとってネームバリューのない作家さんも何人かいたんですが、外れはありませんでした。で、この大ボリュームという。これはなかなかすごい。
発売されても相変わらず芳文社の公式サイトにはこちらの簡素なページくらいで、他に告知らしい告知のひとつもないのが苦笑してしまいますが、まあ告知はうちみたいなサイトが担当すればいいだけの話ですからね。本を出してくれるくれるだけでありがたいです。
この企画を立ち上げた人には勇気を称えたい(笑)。
「つぼみ」」というタイトル自体は百合を全面的にアピールしたものではないですが、表紙に「百合アンソロジー。少女 + 少女 = 恋……? 」、背表紙にも「女の子×女の子」とはっきり書かれていて、書店で見かけても百合な本であることはすぐ分かるようになっています。単行本ということで、雑誌と違ってビニールをかけられていることも多いでしょうし、百合好きに気付いてもらうためには、これは良いんじゃないでしょうか。「美粋」の時は本屋で買う人に気遣って、ぱっと見ても女性同士の雑誌であることが分からないような表紙になっていましたが(それでも当時買う時は死ぬほど恥かしかったですが…苦笑)、それだと逆に百合な本であることが分からず百合好きにも気付いてもらえず売り上げに繋がらない、というマイナスポイントもありますからね。本屋で買うのは恥かしいかもしれませんがこれはしょうがないと思うので、勇気を出してレジに持っていくなり、通販を利用するなりして各自頑張って入手してください(笑)。
芳文社が百合専門誌を出してくれないかという事はこちらとかこちらとかこちらとかでも(この辺では呼びかけもしてたっけ。私も意見出した人間なんで責任持って成功させなきゃいけないかも…笑)前々から言ってたことなんですが、それが今現実のものになりました。これはすごいことですよ!うちのサイトでも是非応援していきたいと思います。ライバルが出現した一迅社もこれでうかうかしていられなくなってきただろうし、出遅れた双葉社も何か考えるかもしれないし、今年はますます百合ジャンルが活気を帯びてきそうですね。
それにしても、定期的に刊行される百合作品集って「百合姫」関連以外だとほんとに久しぶりですね。ちょうど十年前に休刊した、「美粋」以来くらいじゃないでしょうか。単発作品集を含めても「百合天国」とか「カーミラ」とか以来ということで結構久しぶりです。
「百合天国」辺りの時は「マリア様がみてる」のブームに乗った部分も多かったと思うんですが、ここ数年は「マリア様がみてる」以外の百合作品も徐々に注目を集め始め、需要も確実に増えてきていると思うし、特に芳文社で発表される百合作品は多かったですしね。まさに満を持しての登場、ということになるでしょう。
ただこの作品集は「まんがタイムきらら」で描いていた作家さんが全くいないので、どちらかというと「きらら」というより「コミックリュウ」のノリに近いと感じてしまったのは私だけか(笑)。
最近、百合な作品、それも短編じゃなくて長編な作品を増やす方法をいろいろ考えてるんですが、やっぱり一般誌で長編百合をやるのは難しいですね。登場人物女子だけで、最初からいちゃいちゃラブラブな作品ならいいんですが、ハラハラするような展開だと最後まで完結する前に読者が様子見をして途中で打ち切りになってしまって、ちゃんとした完結を迎える前に中途半端に終わってしまう可能性もあるし、最初からラブラブすぎても途中でだれるし。
その点、百合専門誌だったらスリリングな展開でもついてこれるだろうし、やっぱり専門誌がたくさん出ることが一番なことは言うまでもないですね。
百合専門誌が出ればいい……口に出すのは簡単で誰でも出来るけど、実現させることはなかなかできなくて、新しい百合専門誌が出るのには実に時間がかかりました。
このアンソロジーも是非成功して、途中で休刊することなく刊行を続けて行って欲しいものです。
森永みるく先生の作品は巻頭です!今回は明るいギャグ作品ですね。
好きな人が女の子だったから、セクシュアリティを確認するためキスさせてくれと頼まれる先輩が、自分のファーストキスを後輩ちゃんに捧げてしまうお話。「ちゅーすてキモクて吐いたらすいません」などとボロクソに言われた挙句、実際やってみたら良かったらしく、さらに首筋を舌でつーっとなめられたり下着の中へまで手をつっこまれたりと、やりたい放題にされる部長が災難ですが、なぜか笑いも誘ってしまいます(笑)。しかし後輩ちゃんの好きな相手って実は先輩だったのでは?とか思ってしまいました。あとがきによるとこれは第1話ということで、次号以降で続きが読めそうですね。
・「コブリアワセ」宇河弘樹
「朝霧の巫女」の人ですね。作者さんサイトによると前後編で、もう制作は後編に取り掛かっているようですね。それにしても貴重な情報、ありがとうございました(笑)。
今回は前編ということで百合的にはまだまだこれから、という展開ですが、戦後の古い時代の風景が緻密に描かれていますね。トーンなしで全部かけあみなのがすごい。数年前「朝霧の巫女」を読んだ時はこれほど超絶な作画ではなかったと思うんですが。すごい上達したのか、あるいは今回は今までと気合が違うのか。
後編でどうなるか、展開が気になります。
・「for Roses」久遠あき
中学時代親友映里に友達以上の想いを馳せていたものの、伝えることで映里の笑顔を失うことが怖くて気持ちを打ち明けられません。しかし映里が引っ越してしまうと聞いた日、衝動的に映里を抱きしめ、勢いで気持ちもバラしてしまったところ、相手は震えて泣き出してしまい、やっぱり伝えなければ良かったと辛い思い出を抱えたまま月日は過ぎて高校生になったヒロイン唯ですが……この先はネタバレになるので実際に読んで確かめてください。
しかし初めて作品を読む作者さんだったんですが、非常に素晴らしい作品でしたね。ネットで調べてもほとんど情報が出てこないので、まだ無名な部類の作者さんだと思うんですが、予想以上に良かったです。
お互いのことを大切に思うが故に手を出せないもどかしい気持ちが上手く描かれていました。
・「むねがいっぱい


サイトにも百合な絵があって、こんな感じだったら良いなあと思っていたんですが、まさにこの絵の2人の話でした(笑)。
こずえの胸を揉むことが大好きなエリナと、そんなエリナが自分の胸を揉んでくることを密かに、たまらなく嬉しいと思っている胸の大きい少女こずえの話。それまではスポーツブラからダイレクトに伝わってくる感触を楽しんでいた2人ですが、ある日先生に「垂れるからワイヤーつきのブラをなさい!」と言われてしまい、柔らかい感触が楽しめなくなってしまうのではないかと心配するエリナと、そんなエリナが自分から離れていってしまうのではないかと心配するこずえ。ワイヤーつきのブラをつける前に「思う存分揉みまくっていいよ……好きにしてほしいの……」と言ったり、他の女の人の胸を揉んでいるエリナの姿を見てたまらず「いっそ生でもんで……」と胸をはだけて生乳を差し出したり、むしろこずえのほうが激しい想いをぶつけてくるところが面白いですね。しかし誤解も解け、一緒に揉み心地の良いワイヤーブラを買いに行って、試着室で約束どおり、本当に生で胸を揉んでキスまで交わしてしまう2人が良いです。
小川ひだり先生は新人なのでまだ単行本は出ていませんが、こちら(「前略 かしこ」)やこちら(「海のもくずになりませんっ!」)でうちのサイトでも百合作品を紹介したこともある作家さんです。
タイトルは「胸が一杯になる」という慣用句にかけてあると思うんですが、上手いですね。切ない話も良いですが、こういう明るいお馬鹿な話もあるとバリエーションがあって良いです。
・「エビスさんとホテイさん」きづきあきら+サトウナンキ
本社から配属されてきたエビちゃんは無愛想でなかなか打ち解けてくれる様子がないものの、どうしようもなく彼女のことが気になってしまうヒロインのホテイちゃん。いじめられているように見えるホテイちゃんですが実は逆にエビちゃんの靴を隠して仕事場に一緒に残らせようとしたり、さりげなく悪い噂を流しエビちゃんが周りから嫌われて自分だけに縋ってくるようにしたりするホテイちゃんも黒いですが、それも全部見越してしまっているらしく、全部軽くかわしながらも、自分に気のあるホテイちゃんが喜ぶのも分かっていて、お弁当をあげるエビちゃんがさすがです。
百合な作品のヒロインが2人とも搦め手派というのは珍しくて新鮮ですね(笑)。
きづきあきら先生は「メイド諸君!」や「増殖フェティシズム」、先日発売された「バーバ・ヤガー」などで百合好きにもお馴染みですね。「モン・スール」収録の「たのしいなつやすみ」もかなり好きな百合作品でしたよ〜。
・「ランナーズハイ」きぎたつみ(公式)
同じ陸上部に所属していて仲の良かったユキとトーコ、しかしトーコが足を捻挫して、かっとなってユキを突き飛ばしてユキのほうが大怪我をしてしまい、それ以来疎遠に……という話。
トーコが感情的になってしまったのは、自分のことだけで頭がいっぱいになっていたというより、ユキと一緒に大会に行きたかったという事情もあったようですね。怪我をして特待を逃しても、トーコへの想いを捨てられないユキと、自責の念にかられ自分も陸上をやめてしまったトーコ。しかし最後「手紙書くね。大好きだよ」「うん」と抱き合って、お互いを想う気持ちが強かったんですね。
・「LOVE FOOL」はっとりみつる
水辺で戯れる少女2人の風景漫画。はしゃいでるうちにひとりが服を脱ぎだしてしまい、相手にも促すものの、大胆な下着を着けているのを知り、隠そうとしたのか抱きついた勢いでそのまま押し倒してしまい、もつれ合いそのまま唇を近づけていく2人が楽しそうでした。
はっとりみつる先生はまだ単行本化されてない(多分)「コンチェルト」や代表作の「ケンコー全裸系水泳部ウミショー」、「おとぎのまちのれな」などでもちょいちょい百合シーンが挿入されていたりして、意外に百合属性あるんじゃないかと目をつけていた人でしたので、今回新作百合漫画を読めて嬉しいですね♪
公式サイトの新作情報や日記にもお知らせが載っていますね。
・「鳩居的懐古録 第一日目/鳩子と真魚さん」釣巻和
可愛い鳩子が決してひとりにならないよう、たくさんのシチューを作りつつ手紙も遣して「ふたりでいられる魔法」も送る真魚。離れていても2人は心が繋がっているんですね。
・「ついでのはなし。」大朋めがね

女の子が好きになったという女生徒の相談に乗ってあげるため、自分の女学生時代の話を保健医の先生が話してくれるというお話。
そんなに複雑な話ではなく、志村貴子調の淡々とした作風なんですが、女の子描写も可愛く何気にセックスして相性がお互いに良いことを確認し、最後付き合ってもう8年になるというラブラブハッピーエンドな展開がすごく良かったですね。

SCHOOL GIRL
露骨な裸こそ映ってませんが、「つぼみ」に収録されている作品も上のジャケットのようにほのかにエロティックな雰囲気で、かなり良いです。
・「キャメル」宮内由香
彼氏持ちの親友のことを、自分が吸ってるたばこと同じ程度に好きだと口では言うヒロインが、実は毎日キスもして中毒になるほど相手のことを好きだったという話。「キャメル」は確か一般に流通してるたばこの中では値段が微妙に高いんですよね。体にも良くないし喫煙者が猛烈に倦厭されるこのご時世でわざわざそれを選ぶというのは、やはりそれだけ好きだという証でしょう(と言いつつ私も禁煙推奨派ですが…笑)。
宮内由香先生はこちらで紹介しましたが「このこあたしの」という百合漫画を描いていましたね。
・「シャーベット」吉田美紀子
ジュースのまわし飲み、人が使った箸で食べることや、果ては温泉やプールまで出来ない潔癖症の少女まどかですが、気になっていた少女くーちゃんとは、一緒のアイスを食べて思わず舌が触れ合ってしまっても、ふしぎと全然平気だった、という話。これは……なんか萌えてしまった(笑)。
・「なんでもっと」吉田美紀子
ひと様の家のとまとを食べようとした少女が、そこに住む少女に見つかって対価を身体で払うことになる話。えらく幼く見える2人ですが、Hはちゃんとしてるみたいですね。
・「SEASON」吉田美紀子
好きだと思っていた男に身体を求められたものの、自分が相手のことを好きでないことに気付いてしまった少女が、以後足も地に着かず周りが得体のしれない海中生物のように見えるようになってしまったけど、新しく気になった少女だけは普通の人間の姿に見えた……という恋の予感を感じさせるお話かな?
吉田美紀子さんは単行本もたくさん出されていてベテラン作家さんなんですね。作者さんサイトによると同人誌で描いていた作品らしいですね。「好き過ぎてただ描き散らしていたアレが…」とのこと。
単行本の表紙なんか見るとほのぼの4コマっぽいのを描いているみたいですが、今回収録された作品は少女……というか小学生くらいに見える幼女同士がセックスまでしてしまう展開で、作風も商業誌とはかなり違うように感じます。結構過激。でも良い(笑)。
・「こころスケッチ」星逢ひろ
夕暮れ時、1人で絵を描いている姿に胸がざわざわしてしまったヒロインさくらはさっそく同じ美術部に入り、意中の少女館夜羽に近づいたり、絵を教えて欲しいと申し出たり「館さんの絵はすごいよ!私ひと目惚れしたもん!」と言ったり自分の家に招待したりと積極的ですね。容姿や絵を見て憧れたりする姿から、大人しそうなイメージが最初あったのでギャップが面白いです。
心のままに描いて入賞してしまったさくらと、心のままに描いた絵を隠して入選を逃してしまった夜羽ですが、どちらの絵もお互いの姿を描いて頭がお互いのことでいっぱいな2人は最後キスまでしてラブラブハッピーエンドです。最後、キスをしたのもさくらの方からだったようで、リードしていたのは最初から最後までさくらの方だったというのが面白いですね。
星逢ひろ先生は「百合天国」1巻と2巻で良い百合作品を描いていましたね。百合天国収録の「火星輝く」では1巻の巻頭を務めていて看板作家だったと思うんですが、2巻収録の「一番の人」も含めて、めちゃくちゃ良かったんですよね〜。忘れてませんよ、ええ。
世間的にはBL作家として有名らしいですが、最近松文館のティーンズラブでよくお見かけしますね。女の子作品は結構たくさん描いている人だと思いますよ。
・「いちご日和」泉結基
2ページ目で話のオチが分かる……というか他に解釈のしようがない展開だったんで思わずツッコミを入れたくなりましたが(笑)、その後化け猫少女が帰ってきた家で自分以外の猫を見つけて嫉妬してしまい、それでも結局最後ラブラブになるという展開は意外性があって、面白かったです。
・「この靴しりませんか」水谷フーカ
靴をかたっぽ持ってかれてしまったヒロインが、持って行った相手の女性が気になってしょうがない、ガール・ミーツ・ガールな話。見えない相手のことをあれこれ想像し、徐々に気になっていってしまう展開が面白いですね。
・「しまいずむ」吉富昭仁
2組の姉妹の4角関係の話。それぞれの姉が相手の妹に目をつけて一緒にお風呂に入ろうと誘ったり、「いじりたくなる」と欲望を語ったりするものの、相手の姉に阻止されたり、妹同士の方が仲良く結局お風呂は妹同士の方が仲良くて結局お風呂は妹同士、姉同士になってしまったり、妹たちのお風呂を覗こうとしたりして面白いですね。
カバー下のイラストはクレジットが見当たらないですが作風からして吉富先生に間違いないでしょうね。こちらも仲睦まじく映ってる少女達のイラストがたくさんあって豪華です♪

予告によると次号VOL.2は5月!作家陣には玄鉄絢先生、天乃タカ先生、裏次郎先生、関谷あさみ先生、そして多分今回は病欠だった(と思うんですが)ナヲコ先生の名前もあります。
帯には「ALL読みきり」とあって、これはまぁTL誌とかでもよくある話ではあるんですが、実際には森永みるく先生や宇河弘樹先生、きづきあきら先生の作品など続きそうな作品はいくつかありました。
さて全部読んでみて、一番私がよかったなぁと思う作品を、殿堂入りの1名を除いて公平(ってなんじゃそら)に評価しますと、大朋めがね先生、次いで吉田美紀子先生の作品が良かったですね。この辺は理屈じゃないです。感覚的に気に入ってしまいました。理屈で面白かったのはきづきあきら+サトウナンキ先生の作品。
ただ他の作家さんの作品も全部良かったですね。名前を聞いたことのない作家さんや新人作家さんなど、百合好きにとってネームバリューのない作家さんも何人かいたんですが、外れはありませんでした。で、この大ボリュームという。これはなかなかすごい。
発売されても相変わらず芳文社の公式サイトにはこちらの簡素なページくらいで、他に告知らしい告知のひとつもないのが苦笑してしまいますが、まあ告知はうちみたいなサイトが担当すればいいだけの話ですからね。本を出してくれるくれるだけでありがたいです。
この企画を立ち上げた人には勇気を称えたい(笑)。
「つぼみ」」というタイトル自体は百合を全面的にアピールしたものではないですが、表紙に「百合アンソロジー。
芳文社が百合専門誌を出してくれないかという事はこちらとかこちらとかこちらとかでも(この辺では呼びかけもしてたっけ。私も意見出した人間なんで責任持って成功させなきゃいけないかも…笑)前々から言ってたことなんですが、それが今現実のものになりました。これはすごいことですよ!うちのサイトでも是非応援していきたいと思います。ライバルが出現した一迅社もこれでうかうかしていられなくなってきただろうし、出遅れた双葉社も何か考えるかもしれないし、今年はますます百合ジャンルが活気を帯びてきそうですね。
それにしても、定期的に刊行される百合作品集って「百合姫」関連以外だとほんとに久しぶりですね。ちょうど十年前に休刊した、「美粋」以来くらいじゃないでしょうか。単発作品集を含めても「百合天国」とか「カーミラ」とか以来ということで結構久しぶりです。
「百合天国」辺りの時は「マリア様がみてる」のブームに乗った部分も多かったと思うんですが、ここ数年は「マリア様がみてる」以外の百合作品も徐々に注目を集め始め、需要も確実に増えてきていると思うし、特に芳文社で発表される百合作品は多かったですしね。まさに満を持しての登場、ということになるでしょう。
ただこの作品集は「まんがタイムきらら」で描いていた作家さんが全くいないので、どちらかというと「きらら」というより「コミックリュウ」のノリに近いと感じてしまったのは私だけか(笑)。
最近、百合な作品、それも短編じゃなくて長編な作品を増やす方法をいろいろ考えてるんですが、やっぱり一般誌で長編百合をやるのは難しいですね。登場人物女子だけで、最初からいちゃいちゃラブラブな作品ならいいんですが、ハラハラするような展開だと最後まで完結する前に読者が様子見をして途中で打ち切りになってしまって、ちゃんとした完結を迎える前に中途半端に終わってしまう可能性もあるし、最初からラブラブすぎても途中でだれるし。
その点、百合専門誌だったらスリリングな展開でもついてこれるだろうし、やっぱり専門誌がたくさん出ることが一番なことは言うまでもないですね。
百合専門誌が出ればいい……口に出すのは簡単で誰でも出来るけど、実現させることはなかなかできなくて、新しい百合専門誌が出るのには実に時間がかかりました。
このアンソロジーも是非成功して、途中で休刊することなく刊行を続けて行って欲しいものです。
一迅社の次に百合専門誌を出すのはどこになるのか期待はしていましたが、芳文社ですか。
もともと芳文社といえば「最後の制服」をはじめ、きらら系を中心に百合に対しては理解のある出版社だったので、遅すぎたという感じも無きにしも非ずですが、これからは百合姫と切磋琢磨しながら、より百合全体の活性化に貢献してほしいですね。
なにはともあれ、作者にとっても読者にとっても、選択の幅が広がるとというのはいいことですから、まかり間違っても、潰しあいなどという事にはならずに共存共栄でお願いしたいですね。