蝋燭姫 (1)
(鈴木健也)
百合度★★★★★(4.5)

中世末期のヨーロッパ。清らかで貧しい修道院に送られてきたのは、世にも美しき色白のお姫さま・スクワ姫と、色黒の侍女・フルゥ。ふたりは慣れない修道女の生活に苦しむ。笑う事を許されぬスクワ姫、吹けば消えるようなこの“蝋燭姫”を、侍女のフルゥは何とかお姫さまらしい暮らしに戻してあげたいと考える。しかし、その時、おそろしい出来事が……。
百合姫ブログでも取り上げられていた作品ですね。

フルゥは姫のことを猛烈に慕っていますね。「私は姫さまが大好きだ。好きで好きでたまらないんだ」と言い切り、姫の失ったものを全部取り戻すと意気込んでいて、その言葉に嘘偽りは全く感じられません。
気丈に振舞ってはいるもののふらついている姫が修道院での肉のない食生活で体が弱っていることにもいち早く気付き、雉を捕まえて姫に食べさせてあげようと必死です。
洗濯日ということで女たちが皆裸で洗濯をしている日には部屋に留まらせ、自分が食事も運んでくると申し出るものの、姫は自分も仕事をすると言い出し、裸の女たちと一緒に自分も洗濯をしますが、後でフルゥは姫の汚れた足を手で洗ってあげます。
自分のことは自分でやると言って、しばらくは着替えも1人でやっていた姫が、着替えを手伝って欲しいとわざわざフルゥを指名してあげるのは、優しさの表れなのでしょう。それを聞いたフルゥも顔を赤らめて大喜びし、自分もおっぱい丸出しなのにそのまま姫の元に駆けつけていこうとしてしまって微笑ましいです。

姫を救おうとする一派を名乗る男に出会い、喜んで応じようとするフルゥに姫は「国を割る心はない」と断ってしまいますが、実は一派は野盗で、その後修道院に攻め込んできて窮地に立たされてしまいます。
必死で敵と立ち向かい、なんとか姫をヤージェンカという女性に任せて逃がしたものの、自分は捕まってしまったフルゥ。過去の回想シーンで城を追われ、自分の命を差し出してでも姫を守ろうと「私は、姫さまのお側を決して離れません。生涯あなただけをお守りいたします!」と誓う姿が健気ですが、2人の運命やいかに、というところで1巻は終わっていました。

舞台が修道院なので最初の方は女性しか出てこない展開ですが、途中修道院が襲われてから男性は登場するようになります。しかし全員敵ですね。最後姫を救いに来たと言って現れた一派も最初良い人のように見えましたが結局フルゥを縛ったままにして、姫を追うように指示を出してやはり敵キャラのようです。百合的にはやや安心……しかし2人の生命的なピンチは続き、ハラハラする展開が続きますね。

修道院で出会うヤージェンカという女性はフルゥとよく衝突するのですが、それはこの生活に2人を慣れさせるための親切心からの行動のようで、「何もあんたの事、憎くてこうしてるんじゃないんだぜ」と捕まえて抱きしめたり、姫のために雉を捕まえようとするフルゥに「肉欲は淫欲、まったく淫らな女だねぇ」とからかったり、朝裸で抱きついてきたり、酔うと女性を脱がせる癖があったり、最後別れが迫ったフルゥにいきなりキスをしてしまい、フルゥも目が点になってしまうのですが、ひょっとしたら修道女にもかかわらず肉欲込みでフルゥのことが好きなのかもしれない彼女は、ある意味フルゥ×スクワ姫より百合的には気になる存在ですね。

猛烈に自分のことを慕っているフルゥに対して一方姫の方はタイトルでも分かるとおり、笑うことはなく、何か表情を押し殺しているようにも見えますがまだ謎は明かされていません。時には自分のために修道院の生活を乱しているフルゥを諌めたりもするのですが、これもフルゥのための行動でしょうし、自分が疎まれていると感じて泣いてしまうフルゥに優しく手を差し伸べたりして、姫の方も少なからずフルゥのことを大事に想っていることはうかがわせます。
笑顔がないのは生活の辛さ以上に、境遇が関係していそうですね。タイトルにもなるくらいですからこの作品にとって重要なテーマでしょうし、これから徐々に明らかにされていくんでしょう。

番外編の4コマでは、姫についての下品な話をしている修道女にフルゥが剣を抜きにかかったり、姫がうんちをするするわけがないとフルゥが本気で思っていたり、自分も「出してはなりませんよ」と言われて延々我慢する夢を見てしまったり、番外編でも夢の中でも、フルゥが姫のことを一途に想っている様子が描かれていました。

表紙を見ても分かるとおり萌え絵ではない独特な雰囲気のある絵柄なので、好みが分かれるところはあると思いますが、背景や衣装など画面は極めて緻密に描かれており、ストーリーもしっかりしていてクオリティの高い作品です。
不遇な境遇に陥ってしまった姫様スクワを、誰に命じられたわけでもないのに「大好き」だからという理由で側を離れず、命をかけて生涯守り抜こうとする侍女フルゥの姿は胸を打ちました。

掲載誌(フェローズ)がマイナー&単行本も初の新人作家さんということで知名度は低いと思いますが、ありきたりでない百合作品を求める人に特におすすめです。中世末期のヨーロッパの独特の世界観がたまらないですね。