百合アンソロジー ひらり、
公式
百合度★★★★★(5.0)

新書館から新しい百合アンソロジーが発売されました。
これは……すごい百合アンソロジーが登場しましたね。作品のクオリティが高いこともさることながら、作風が少女の繊細な心のやりとりを巧みに描いている作品ばかりです。ページ数も分厚い!300ページもあって読み応えもたっぷりです。

作風は少女漫画的ですね。なにしろコミック部門では少女向けばかり出している新書館、作家さんもほとんど少女向けでしか描いていない人ばかりということで、これは自然なことなんでしょう。
そして少女漫画的といえば……言わなくてもわかりますね(笑)、私の大好きなジャンルなんです!

雑誌「百合姫」も「S」と分離してから少女漫画要素が強くなってきたように感じるんですが、「ひらり、」はそれとはまた別の方面からの少女漫画要素がありますね。
全体的に少女漫画的な作風である事は共通しているんですが、似たり寄ったりの作品群になっていないのは、それぞれすでに独自のスタイルを持っているからでしょうね。
「つぼみ」も完成度の高い百合アンソロジーなんで比べるのもなんなんですが、この「ひらり、」の場合は少女漫画方面に作風が突出しているので、私好みの方向で完成度が高いんです。これは私が読んでみたかった百合作品だったんだなぁと、しみじみ感じました。
これは間違いなく、今年の雨傘アウォードの有力候補でしょう!(笑)

商業誌で女子向けで描いている……ということはつまり普段は百合ばかり描いている人ばかりではない(明らかに百合だと分かる作品を描いたことのある作家さんは、仙石寛子先生、茉崎ミユキ先生、未幡先生くらいでしょうか)ということなんですが、分かる人は分かる通り、このラインナップの他の作家さんは直接的な百合を描いたことはなくても、なんか百合っぽい、あるいは百合を描いたら良い作品が描けるんじゃないかという雰囲気を持った作家さんばかりなんですね。通な人選だと思います。そして実際読んでみたらやっぱり作品群は素晴らしくて……編集さんは良い仕事をしました。

作品紹介は公式サイトでしてくれているのでこちらを参考にしてください。公式でやってくれると、わざわざ私が書く必要がなくて手間が省けますね。自分でやってみると分かると思うけど、あれは結構しんどい作業だったのでした(苦笑)。

というわけで今回はあらすじを省いて短くした各話感想を……と言っても内容が濃いんでやっぱり少し長めになってしまいました(笑)。
・「一瞬のアステリズム」(雨隠ギド
少女同士三角関係のお話ですが……結末の付け方が新しいですね。それぞれに恋心は一方通行の三角関係(ちなみに片想いが一周してしまう三角関係は同性愛を含まないと成立しない形です…笑)なのに、それでも3人で一緒にいることを3人が望む……切なくもあるんだけど、若さ故か安心感も感じられます。幼い少女たちが拙い気持ちのまま、それでも気持ちを整理してお互いを相手を許して、自分達なりの幸せの形を模索していく姿が、ぎゅっと詰め込まれていますね。

この人は四ツ原フリコ先生がアシスタントに行っている先の作家さんで、百合姫の作家さんとも交流の深い人ですね。やっぱり百合を描くのも上手い!


・「影慕い」(前田とも
実際にはしていなくても、影同士がキスをしているように見えるよう、自分の位置を調節しているヒロインがいじらしいですね。よく見ると扉絵でも同様に、手を繋いでるよう影の位置を調節しています。
自分に親しく触ってくる相手ですが、相手には彼氏がいて……ぐはあ!切ない!
しかしラスト、終点まで行きたくなったという相手の微妙な心境の変化も上手いです!


前田とも先生は昔単行本を読んで、なぜか百合を描いてくれたら良いのになぁと思ってしまったことがあったんですが、実際に描いてくれたのを読んでみたら大当たりでしたね。作風と女子同士の関係描写が絶妙にマッチしています。

・「日向で咲いて」(仙石寛子
小説家という職業柄、様々な愛の言葉を考えるヒロインですが……意中のアシスタントの女性に言った、「好きよ」という単純な一言は、何より強力ですね。読んでいた私も、ページをめくって目に飛び込んできた「好きよ」というヒロインの台詞にドキッとしてしまいました。それはアシスタントの子にもクリティカルヒットになったようですね。

この方はこちらで「一途な恋では」という切ない百合4コマを描いていましたね。現在連載している「三日月の蜜」も百合要素ありありです。

背伸びして情熱

こちらで紹介しましたが、「背伸びして情熱」にも百合作品が収録されています。

・「わたしをすきにならないで」(御徒町鳩
幼い日の2人が、押入れの中でこっそりちゅーを交わしている姿が可愛すぎ!
その関係は高校生になってからも続いていてキスも気軽にする仲の良い2人。亜衣の方は他の男の子にも気がある素振りを絶えずみせているものの、そのせいでかえって亜衣の心を離しません。亜衣も都子のことを独占していたいという気持ちに変わりはなく、少し捻りの入った関係ですが、2人は離れられそうもないですね。

この人も雑誌「シルフ」や「WINGS」で見かけて、百合描いたら良さそうだなぁと思ってた作家さんだったんですが……ここまでスキンシップをちゃんとしている作品を描く人だとは予想外でしたが嬉しいです☆


・「檸檬の」(茉崎ミユキ
気丈に振舞っていても、卒業式にした、レモン味のキスが忘れられない柴田さん。そんな柴田さんに社会人になってからもついてきて、またキスをしてあげる坂本さんは、やはり胸に秘めている想いもあったのですが、レモンの味で思い出させようとしたりして、結構知能犯でもありますね(笑)。ともあれレモン味のキスをしまくるラブラブのエンドは爽快でした(笑)。

この方はこんな感じの百合同人誌を出しているらしいんですが……←めちゃくちゃ良い感じですよね。


・「ピンク・ラッシュ」(TONO)
女性スタッフに囲まれているのが大好きなサナを羨ましがる、同業アイドルのマールは、偉い人にお願いしてスタッフを交換してもらうのですが……。
みんな優しいのに、男性に囲まれているという事実だけで砂漠のように感じるサナの苦悩がリアルですね(笑)。
一方マールの方は周りの女性に対抗心を感じてしまい同じく居心地が悪く感じてしまいます。サナは自分を応援してくれる男のファンをキモがっているのに対し、マールはファンレターの返事まで書いてファンを大事にしたり、それぞれ優しさのベクトルが違うんですね。そして実はサナはマールにのファンクラブにも入っていたのですが、これは当然女の子好きだからなんですね。納得(笑)。
どちらも長所短所あるところを、コミカルにですが上手く表現していましたね。

この作品はなんか……すごい印象的なんですが、考えてみるとこういう正反対な2人の感情は、百合好きをやっていく上で、常に向き合わされ葛藤している内容なんですよね。
本当に考えてしまいますよ。サナちゃんのようにすっぱり割り切れる性格の子は羨ましくもありますが、マールみたいにナチュラルに男性ファンにも愛を与えられる長所も欲しいと思ってしまうのですが……それだと百合好きから遠ざかってしまうような気もするし、両方は手に入らない、二律背反なものなのでしょうかね。
百合好きがいつも考えていつつも、不思議と作品にされることはなかったこういうテーマを、いとも簡単に作品にしてしまえるTONO先生が……すごいですねえ。

この方はことりこさんに紹介してもらって昔ちょっと触れましたが、「カルバニア物語」という作品が、男装をしている公爵令嬢エキューと16歳で女王になったタニアとのやりとりが非常に良い感じだったんですよね。この人は良い百合を描くんじゃないかと思っていました。他にも同じことを思っていた人は多いのでは?



・「コイスルオトメ」(藤沢誠
心では思っているけど興味を引くためわざと可愛いと言わない夏目と、アプローチし続ける東城のかけひきが面白いですね。そして東城の方からも意外に言っていなかった「かわいい」という言葉を言う事で、また新たなる駆け引きが始まるのも面白いです。

・「星ちゃん」(橋本みつる)
自分が男っぽいと言う愛ちゃんを羨ましく思いながらも、どこか危なっかしい星ちゃんを守ってあげたいと思うえりえが優しいですね。
良い雰囲気の絵柄ですよね。古くから活動されているけど寡作な作家さんだそうです。この人の作風は、やっぱり何か既視感を感じますね。どこかで読んだことがあるような気はするんですが……どこだったっけかな。



・「原田さんと美咲ちゃん」(石堂くるみ)
この方の作品は私も初見で、まだ新人さんのはずなんですが、作品はとてもしっかりしていましたね。キャラクターも可愛いし、ストーリーのメリハリも利いています。
可愛いだけかと思ったら、好きな人のためなら意外に派手な行動も起こす美咲や、悪口を言われるのになれて心を閉ざしてしまう原田さん、どちらもキャラクターが立っていました。
よく見ると、ラストで不良コンビの女子2人までが美咲に惚れてしまってるのも面白いです(笑)。

・「SMILE MAKER」(スカーレットベリ子)
別れの際にお互い誓った目標が達成出来ず、再会しても気にして打ち解けることが出来なかった桜ですが、一方相手の八重は約束したことすら忘れていて……。しかし仲良くしていたことだけは忘れなかったから良いと、お互いふっきることが出来ます。そうですよね〜。細かいことより、仲良くしていた思い出が一番ですよね。思わず納得してしまいました。
Twitpicの方ではあまり分からなかったんですが、実際漫画を読んでみたら女の子絵がめちゃくちゃ可愛いですね!

・「この街に人魚はいない」(未幡
人魚の話をしてくれた吉崎さんは、豊田さんと秘密を共有したかったんですね。また転校して行ってしまって、まるで泡になった人魚のように消えてしまった吉崎さんですが、きっと2人が共有した時間は、記憶に残り続けるのでしょう。

この方は「百合少女」にも参加されていましたね。とても可愛い女の子を描いていました。ああいう感じの百合作品をもう一度見てみたかったんで、今回また百合アンソロジーでまた読めたのは嬉しいですね。

・表紙(遠田志帆)


百合アンソロジー ひらり、

表紙の方には「あなたにだけ、おしえてあげる」という文字も見えますが、この台詞は読者に向けて言っているものではなく、表紙でヒソヒソ話をしている少女同士の会話の一部のようですね。相手の子がちょっとくすぐったいような表情をしているのは、相手の女の子の顔が近すぎるからなのでしょうか。ふんわりとしているのに艶のある、インパクトの強いイラストですね。
遠田志帆先生はこちらで紹介しましたが、スモールエスのちょうど「女の子同士」の絵の特集の時の表紙を描かれていたので記憶に残っていますね。

SS (スモールエス) 2009年 09月号


・novel「手をつなごう」(月村奎+ねぎしきょうこ)
この作品は小説ということで、可愛い義妹に懐かれて葛藤する姉の内面がよりリアルに伝わってきて、作品世界にさらに入り込んでしまいますね。

・口絵(古張乃莉
膝枕させてあげてる女の子は、相手の子に花冠を作ってあげたんでしょうね。手鏡をみつつ、相手の子も満足げです。2人ともセーラー服を着ているんですが、着こなしは違っていて、1枚の絵から2人の関係性までなんとなく伝わってきます。

古張乃莉……って藍川さとる先生ですよ。

晴天なり。
(藍川さとる)
藍川さとる先生の「晴天なり。」はうちの百合リストで紹介してるので見覚えがある方もいると思いますが、熱烈なファンのたくさんいる作家さんです。
「晴天なり。」には男のように育った女の子が女子校に入って、口の悪い女の子に惚れてしまう展開のお話が収録されているんですが、もっと百合を描いてほしいと思っていた人は他にもたくさんいるんじゃないでしょうか?


雨隠ギド先生、御徒町鳩先生、藤沢誠先生、月村奎先生の作品などを読んでいて感じたんですが、他の女の子に気を取られて相手の事をぞんざいに扱っていたら好かれてしまったり、逆に相手の事を思いすぎる余り相手にとっては軽く見られたり重くて鬱陶しく感じられたりして恋心を持ってもらえず、恋というのは上手くいかないものだなぁということを改めて感じる作品が多かったです。
もちろん今までにもそういう作品はあったんですが、今まで当たり前のように受け入れていた部分に改めて気付かされてしまったのは、この作品集が少女漫画で活躍されている作家さんが多くて、少女のきめ細やかな心理を描くことに長けた人たちが集まったからでしょうね。少女同士の感情が詳しく描かれているせいで、この作品集は今までとは違う一味も二味も深い内容になりました。

次号予告のによると次号ひらり、VOL.2は8月30日発売予定。桑田乃梨子、高嶋ひろみ、湖西晶、ささだあすか、朝丘みなぎの各先生のお名前が。これまた気になる面子ですね。

いや〜ホントに素晴らしかった!今年は「ひらり」から目が離せそうもありません。