スリーピングビューティーの見た夢
(四ツ原フリコ)
百合度★★★★★(5.5)

四ツ原フリコ先生の初百合コミックスです。四ツ原フリコ先生はご存知のように百合姫でデビューされて、以後ほぼ毎号百合姫に寄稿されている、百合姫生え抜きの作家さんですね。少女漫画的な作風、ストーリーが魅力の方です。今回の単行本も良いものになりましたね。
デビュー作からずっと見守ってきた人も多いだろうし、皆さんも感慨深いものがあるんではないでしょうか。
新人作家さんということもありますが、あざとい商業的ポイントなどは全然ありません。しかしストーリーが非常に練りこまれていて、しっかりとした良作ばかりです。繊細な少女のデリケートなやりとりを存分に楽しめる一冊でした。

カバー下には描き下ろしの4コマが。あとがきでは各話についての作者コメントや、担当さんとのやりとり漫画なども収録されています。
トーンもかなり貼り足されているし、原稿はかなり手直しされていますね。

この単行本には「白紙の続き」という描き下ろしストーリーが一編収録されているんですが、これは収録作品の中の「白紙」というお話を、相手側だった時任さんの視点から描いた作品なんですね。これも良いお話でした。単行本を買った人は是非読んで確かめてみてください。

・「白紙の続き」百合度★★★★★
本の趣味が似ていることから親しくなり、告白して付き合うことになったみほなと時任さん。どうやら最初に声をかけたのも告白したのも、みなほ方からだったようですね。それでOKをして付き合うことになったのにみなほが自分のことを忘れてしまって、さらに自分は警戒までされるようになってしまって、それはなおさら辛いことだったでしょうね。
「わたしの存在が白紙にされる」とショックを受ける時任さんの危機感が伝わってきます。
付き合っていた時は、同じ大学へ行ってルームシェアしたりする夢を語り合っていた2人。元々周りには隠していた関係だったものの、みなほまで記憶を失ってしまって、1人で抱え込むことになった孤独感も相当なものだったでしょう。

しかし「相手の事を思い出せなくなってもきっと思い出せる」と以前話した通り、真剣に自分のことを想ってくれている時任さんに、みなほも好きだと言う気持ちを再び持つことが出来ます。
最後のシーンは、白紙の紙に囲まれ、その中の一枚に自分とみなほが再会している未来の絵を見つけ、抱きしめているところを、好きだとメールを送ったみなほが本当に会いに来るシーンが重なっているのでしょうか。現実と夢が入り混じっているような、不思議なシーンですよね。

その後紙の中には、事故後のみなほと時任さんが仲睦まじげに映っている絵がたくさん溢れていて、2人がその後また新しい関係を気付きあげることが出来たことが窺えますね。
「例え白紙になったとしても、何度だって書き込んでいく」と決意するモノローグがきらめいています。

・「スリーピングビューティーの見た夢」
記念すべきデビュー作が表題作になりました。
寝ぼけて女の子にキスをされたことより、その後「ごめん間違えた」と言われた事の方にショックを受けてしまう女の子司のお話。
しかしあきらは元々司のことが好きで、窓から司のブルマ姿をガン見してニヤついてしまう程(?)あきらのことが好きだったのでした。

ごめんと言われたことがショックで泣き出してしまうあきらは、今度ははっきり起きた状態で「間違いなんかじゃなくて、司君のことが好きでキスした」と言ってあげて、司も、泣きながらそれを受け入れて晴れて両想いに。
実はいつも夢の中で司とキスをしていてそれと間違えていたというあきらや、2人のキスシーンを写メや動画に収めようとする友人達も良いですね。

・「白紙」
事故で記憶を失ってしまったヒロインみほな。以前から知り合いだったらしい少女の貴子は、みほなの好きなものを全部覚えていたり、毎日欲しそうな物を持ってきたり、普通以上に親切にしてくれることに不思議に思っていたみほなですが、ある日自分が貴子と唇同士でキスをしている写真を見つけて、自分たちの以前の関係を察してしまいます。
それを告げられた貴子が「ごめん、気持ち悪かったよね!あの、私……」と顔を覆いながら涙を流してしまうシーンが切ない。このシーンを見るたびキューンとしてしまいますね。
しかし記憶を失くしていても貴子の笑顔にドキンとしてしまうみほなは、記憶を失って自分が以前とは違うことに引け目を感じていたものの、貴子のことが好きな気持ちは変わらなかったんですね。
状況や記憶は少し変わっても、相変わらず2人が梳きあっていることには変わりなく、もう一度新しい2人の関係を作っていけそうな、ほのかに明るいエンドが良いです。

・「20、21」
ちょっかいをかけてくる男には嫌いな気持ちをストレートに表すものの、朝顔(♀)のことは「一番好きぃ〜」と言って抱きついてくれる藤(♀)。しかし「嫌よ嫌よも好きのうち」朝顔はそんな言葉の通り藤が本当は男のことを意識しまくりなのを知っているんですね。
笑顔でくったくなく朝顔に接してくれている藤ですが、それは自分のことを全然意識してないが故の無邪気な行為だということを知っていて、女であるためいくら仲良くしていても付き合いたいランクに入れず最下位の男にまで嫉妬をする朝顔ですが、最後キスをして気持ちを伝え、一歩前進したようですね。藤もきっと朝顔のことを意識してくれるようになったでしょう。

・「六畳半、周回遅れ」
それまで漠然と引きこもり生活をしていたいとちゃんに、当たり前のように世話をしてくれていた年下の鳩子。しかし彼女が友達とうまくやってるのを見て、自分がいつか取り残されるんじゃないかと不安に思ういとちゃんの気持ちが良く伝わってきますね。
しかしいとちゃんも、デートのお誘いをして少しだけ鳩子との関係も前進させることが出来たようですね。

暇な人はあまりいないと思いますが、それを除けば漫画家小説家などこういう状況に思い当たる人は結構多いような気がする(笑)。
あとがきコメントによるといとちゃんは、大学の時に競馬と株によりお金を練成したとのこと。ということは、いとちゃんがニート脱出する方法は、再び競馬と株で一儲けすること……ってそっちじゃないですね(笑)。

・「魔女の掌」
いくら本を読んでもいつも相手の方が一枚上手で、掌の上で転がされているヒロインですが、相手が自分のことを好いてくれる事だけは事実だと満足する展開が良いですね。

カバー下では描き下ろしの小話が。趣味が合うから仲が良くなり恋人になったという「白紙」の2人ですが、みなほが読んでるのは「悪魔の辞典」時任さんは「官能小説〜」趣味が合うってそっち方面だったんですね(笑)。


表紙は表題作であり投稿受賞作の2人です。表紙では眠っている司を、あきらが見つめている絵なんですね。本編では逆になっているところが面白い。

公式サイトに紹介によると……。
「目を覚ましても、王子様なんかいない」
女の子が女の子に抱く気持ち。
それは恋、妄執、それとももっと曖昧な…?
「百合」に包合される女子特有の気持を切り取った
一迅社コミック大賞受賞作家(百合姫部門)、デビューコミックス。

個人的には「インプリンティングのコーヒー」と「ゼロケルビンの菫」が収録されてないことがちょっと残念だったんですが、これはまた今度の単行本にでも収録されることでしょう。
「20、21」とか「白紙」とか、百合好きにグッとくるお話なんじゃないでしょうか。切ないですよねえ〜。

みほなのどてらなど、トーンもかなり貼り足されているし、逆に余計に貼ってあったところは削ったり、原稿はかなり手直しされていますね。ただ右手が2本あるコマが直ってなかったのはご愛嬌(笑)。これは間違い探しの楽しみとして受け取りましょうか(笑)。描き下ろし&修正もいっぱいあって、頑張った後は充分見て取れますよね。

新人作家さんということもありますが、あざとい商業的ポイントなどは全然ありません。しかしストーリーが非常に練りこまれていて、しっかりとした良作ばかりです。繊細な少女のデリケートなやりとりを存分に楽しめる一冊ですね。