フィダンツァートのためいき
(田中琳)
百合度★★★★★(5.5)

うちのサイトでは今年の始め頃から話題にしていたので覚えていてくれた方もいるかもしれませんが、話題にしていた田中琳先生待望の初百合単行本がいよいよ発売されました!
7月17日発売の百合姫コミックスには皆さんも予約を入れられたことと思いますが、予約を受け付けていない期間が長かったんでこれだけ入れ忘れていませんか?だとしたらもったいない!これは真打ちなのですよ……(笑)。
なんとなくお察しの通り、個人的にもイチオシな作品です。この百合漫画は、まさに私の読みたかった内容なんですよね~。今年の雨傘アウォード超有力候補ですね。というか上半期(つっても1ヶ月過ぎてるけど)のNo.1はこの作品でもう決定しました!

私も発売されてから今日まで、何度も読み返してしまっていますが……いや~、素晴らしい!どのお話も良かったです!
例えば最初のお話の泳げない女の子と、文芸部で官能小説を描いている女の子では全然性格も違いますし、短い中でも女子キャラたちがそれぞれ個性的な事が分かりますね。
それぞれ性格の違う女子同士だからこそ、それぞれ愛し合っている様子が映えているんでしょう。
ほんとに同じ作者さんが全部描いているとは信じられないくらいですよね~。

短い中で個々の女の子たちの個性も出し、精神的な繋がりも描き、さらにHシーンもめちゃくちゃ流麗という……。
あとがきでも仰られていますが、百合に思い入れのある作者さんだからこそ、こういう作品群が描けるんでしょうね。

単行本には全7話中6話に毎回Hシーンが含まれていて、7月17日に発売される百合姫コミックスの中では、一番えっちシーンが多いですね。
しかし上品さも一番!と言って良いくらい全編に渡って品の良い雰囲気が漂っており、美しい百合世界が描かれています。
両方両立させることはなかなか難しいことだと思うんですが、描けてしまうところが田中琳先生のすごいところですね。今後百合ジャンルでも活躍する場が増えていく作家さんだと思います。

以下各話紹介。
Fiore1「人魚」
水泳部のお話。先輩に憧れて水泳部に来たヒロイン。全然泳げないのに懸命に努力する姿が可愛いですね♪そんな後輩に先輩も昔自分を指導してくれた先生のことを思い出し、熱心に指導をしてあげます。泳ぎたいという気持ちより先輩と一緒にいたいという気持ちから入部したことを正直に打ち明けるヒロインに、それはもうお互い様だからと身体を重ね合わせます。スクール水着の姿からHするシーンがエロティックですね。

Fiore2「革命」
生徒会のお話。物腰穏やかな生徒会長と、ピリピリしている副会長。学内で行われている同性同士の淫らな行為を取り締まるべきだと強く主張する副会長ですが、それは生徒会長をしっかりサポートしたいがためだったんですね。しかしその愛する生徒会長自らに自分も同じ行為をしてもらって、それが好きな人に触れたいと思う行為であることを受け入れます。
また一緒に巡回して、今日のようなご褒美がもらえることを期待する2人が良いですね。

Fiore3「束縛」
美術部のお話。部長のあかりに対して欲望を持ってしまったことから人間なんて穢れているというイメージを持ってしまい、人物画が描けなくなってしまった美術部のことねは自虐的な気持ちを抑えきれず、気遣うあかりに対して「さすがは部長様。それならヌードモデルでもやってもらおうかしら」と言ってしまいますが、あかねは戸惑い恥じらいながらも「やるわ……だからことねは描いて!!」と了承してしまいます。
「貴女が望むなら私はどんなことでも――」と受け入れるあかね。そして2人きりでデッサンを始める2人。
しかしやはりそんな風に自分の前で素肌までさらしてくれるあかねを見て、ことねはますます自分の心が穢れていると感じてデッサンを続けることが出来ず、思わずことねを押し倒して自分の気持ちを吐露してしまいます。
しかしそれに対しあかねは自分も同じ気持ちを持っていること知らせるため「ことねに汚いとこなんかない」と自分からアソコまで舐めて、お互い愛し合っていることを確認するのでした。

Fiore4「薔薇と野獣」
演劇部のお話。美しい部員スミレにラブラブで人目も憚らず贔屓していちゃつく、一見地味ななつめ。しかししっかりしているなつめのことをスミレもブサじゃないと思っていて、最後は演劇の衣装でお姫さまとビーストの着ぐるみを着たまま、愛し合っているけど合わせるのも今日で終りというシチュエーションから舞台のセリフとオーバーラップさせながら心の内を告白。お芝居が現実になって、野獣姿のままお姫様を脱がせていってHするなつめが幸せそうですね。

Fiore5「光華」
陸上部のお話。女子にモテモテな千早ですが、すでに決めた相手蜜とラブラブで、他の子には目もくれません。蜜も他の女の子に迫られたりしますが、千早が王子さまのように助けにきてくれ、ちょっとテれるけどますます好きになってしまう蜜なのでした。
部活で汗を流した後は体育用具室で2人きり、内側から鍵をかちゃりとかけ、「蜜、おいで」と言われドキンとしながらセックスをしてしまうシチュエーションが良いですね~♪

Fiore6
文芸部のお話。官能的な小説を描き、女生徒たちからも常に慕われ、華のあるハイネを見て、汚らわしいと近寄らないようにしている清楚な雰囲気をしている小夜子でしたが実はハイネのことが気になってしょうがなく、彼女が描いた女性同士愛し合う官能的なシーンを繰り返し読んでいたのでした。
またひとり読んでいたところを見つかってそれを指摘され、「この本のくたびれ具合!丁度ベッドシーンのところじゃない。なぁに?このシーンが好きなの?」と言葉で辱める残酷なハイネに小夜子は「いやぁぁぁッ!と泣き伏せてしまうのですが、「……ねぇ!――脚に…キスして?」という言葉に逆らえず、本当にキスをしてしまい、「もう……私のものよ!」と言うハイネとキスを交わし、小説の言葉通り小夜子はハイネから逃げられないと思うのでした。
ゾクゾクするお話ですね。単行本の表紙になっているのはこの作品の2人ですが、単行本の中でも特にインパクトのあるお話でした。
重要なシーンで写植抜けがあるのがちょっと残念でしたが、こういう鋭くエロティックなお話は百合作品は今までのティーンズラブ系百合姫コミックスにはなかったかもしれません。素晴らしい。

Fiore7「静寂」
天文部のお話。舞台は「ライ麦畑でつかまえて」をちょっと想起させるようなところもありますね。
望む愛情を両親からももらなかった藍は引け目を感じて、憧れているみらい先生にも胸のうちを打ち明けることが出来ずにいたのですが、ふいに見たみらいの弱さを知ることによって、守ってあげなければいけないという気持ちから、相手を守ろうとする強さも身につけて自分の心も打ち明けることが出来たようですね。
少女が精神的に成長していく中で自分の恋心を打ち明ける勇気を持つ様子が、短いお話の中でも表れていました。

公式の紹介によると……。
私立姫百合女子学院―そこは良家の子女が通う女の子のサンクチュアリ。生徒会・文芸部・水泳部・美術部・演劇部・陸上部・天文学部を舞台に14人の少女が出会い、笑い、泣き……恋する。永遠に続くかと思われる甘やかな恋物語。
というわけで生徒会1つ+部活6つで計7つの舞台で、それぞれ対になる14人の少女が登場して、女子同士の恋のお話が展開されます。

ちなみに「フィダンツァート fidanzato」とはイタリア語で「婚約者、恋人」という意味があるらしいですね。日本語だと「婚約者」と「恋人」とはかなり違う意味合いを持っていますが、イタリア語だとこの2つの意味を一緒にしてしまった言葉があるようで、誤解のタネになったりすることもあるようです。
同性結婚が認められている国の少なくて、恋人関係になったからといってそれが戸籍上繋がらせることも生涯を共にする伴侶になる関係になることも難しい女子同士の曖昧で不安な関係を表しているのかもしれませんね。

舞台が女子高ということでもちろん男キャラは出てきません。出てくるのは女の子ばかり。でも、それぞれの女の子は実に個性的で、描きわけも上手いし、作者さんのキャラクターの引き出しが多いことが分かりますね。


田中琳先生は「百合姫Wildrose VOL.5」に参加していたのでお馴染みの人も多いだろうし、うちのサイトでも「百合少女2」にも参加されていたので知っている人も多いかと思います。
なんとなくお気づきかもしれませんが(笑)私はこの作家さんの作風が大好きなんですよね~。
上品な作風、可愛い女の子、しっかりとしたストーリー、しかもエロティックなシーンも描ける……どこをとっても最高です♪むしろ好きにならない方が不思議です(笑)。

田中琳先生は執筆中ご病気にかかって入院+手術までしなければいけなくなったという経緯もあったんですが、単行本はそんなことは微塵も感じさせない程高いクオリティが安定したまま保たれています。すごいとしか言いようがないですね。

漫画を描くのが上手い人はついHなしの一般に行ってしまうことが多いですが、田中琳先生は絵もストーリーも上手いのにHありの漫画を描いてくれて、しかもそれがエロティックでクオリティが高いままと言うのは、読者にとってはありがたいとしか言いようがないですね。森永みるく先生も最初成人向けの方で描かれていましたが、お人柄の良い作家さんはえっちありの漫画も抵抗なく描いてくれるような気がします。
みるく先生の場合は残念ながら成人向けで発表した作品の受けがいまいち良くなくて、その後一般に移ったら急に評価が上がった経緯があるんで、その後成人向けで描くことがなくなったのはやむを得ないですが、田中琳先生の場合はティーンズラブでも女の子たちの間で大人気の作家さんですし、どちらでも描けるというのはすごいことですよね。

田中琳先生は今まではTL商業誌で寄稿されていましたが、同人誌ではエヴァ本ブリーチ本、古くはセラムン本、ウラヌス&ネプチューン本などの百合本も出されていたんですよね。いつか商業誌で百合作品を描いてくれないかなぁと思っていたんですが、前回の「百合姫Wildrose」に参加してくれて、さらに描き下ろし単行本まで……感無量ですね。