偽りの姫は騎士と踊る ダブル・エンゲージ
渡海 奈穂
百合度★★★★★(5.5)

公式の紹介によると……。
父王を家臣に殺され、ヴィスターン王国を追われたディアナ。彼女を支えたのは、幼い頃から忠誠を尽くした騎士・エフィーだった。彼女へ想いを募らせるディアナだが、秘めた気持ちを伝えられない理由があって…?
恋心を抑えたまま、故国を取り戻すため旅に出るディアナと、付き従うエフィー。しかしヴィスターンに向かう途中、ディアナは娼館に囚われてしまい――!?
素直になれない姫と誠実な女騎士がはぐくむ百合ファンタジー開演!
公式サイトのあらすじを見ても「百合ファンタジー」と書いてありますね。作者さんサイトの商業情報を見ても、該当作品に「百合」と書いてあります。百合姫VOL.20でも紹介されていました。
一迅社文庫アイリスのレーベルということで百合姫の編集部が関わっているのかどうかも気になります。百合以外の内容の1冊と合わせて2冊同時刊行という形式からして多分違うと個人的には思うんですが、ジャンル「百合」なことに異を唱える必要はない内容ですね。

百合的には奇跡的と言っても良いくらい素晴らしいファンタジー作品でした!
ディアナに一目会った時から、この美しい少女を誰よりも近くで、誰よりも確かに守り抜きたいと熱望するエフィ。そしてそれは本当にその通りになるのでした。
国を取り戻す為に2人だけで進む厳しい道中、時間と場所の都合から狭いバスタブに一緒に入ることになり、お互いの身体の美しさに嫉妬の感情も交じってしまいながらも見惚れてしまい、長い馬旅で傷んだディアナの身体を労わったり、髪を洗ってもらう間もエフィの指が触れるごとにまた震えそうになってしまったり、お風呂から上がって身体を拭いてもらいながら「変だわ、わたしくもエフィも、女の子同士なのに……見られるのが、見るのが恥かしいだななんて」と急激に襲ってくる羞恥にうろたえたりするシーンはドキドキしますね。

泥棒にあったり、そのせいでお金が尽きたり、厳しい道中がリアルに描かれているので、ディアナ姫を守る女騎士エフィの、何気ないけど影では必死の努力をしているであろう心遣いや、それに対して、あまりに無力で迷惑しかかけていないけど、何か役に立ちたいというディアナの焦燥感も上手く伝わってきますね。
姫はなんとか尽きたお金を稼ぐ為、1人で仕事を求めて街へ出るのですが、声をかけられて辿りついたのはなんと娼館。
そこの女主人・マダム・ベルガはにはお客を取れるよう、首筋や耳の穴にまで舌を入れられ、胸を鷲掴みにされ妖しいことを仕込まれそうになり、あげく競売にかけられてしまいそうになりディアナはピンチになりますが、そこへ助けに来たのはエフィ。
お姫様を恋人が助けに来るのは展開としては王道なんですが、絶対に助かりそうもない状況を作り上げているので読んでる方はほんとにハラハラしてしまうし、その後明らかになるエフィの選んだ手段やいきさつなども実に上手いですね。

そんなにしてまで尽くしてくれるエフィにも冷たく当たってしまうディアナですが、それはやはりエフィを想うが故。
実は○○だった○○のため、ディアナはエフィを楽な生活に戻してあげたいと思って、わざと冷たい言葉を投げかけ、エフィを自分から離れるようにしていたのでした。
ラストで畳み掛けるように明らかになっていく、どんでん返しの展開も実に見事でしたね。

冒頭、エフィに贈ってもらった指輪が自分の薬指に填められていき、喜びのあまり倒れて生涯を終えてしまうんじゃないかと感じるほどディアナが幸せを感じるシーンも最高なんですが、この話はこれで終りかと思いきや、さらにラストにオチがあって、その時は大きすぎて入らなかった指輪を再び、結婚が許される十六の歳になった時に再びエフィがディアナの指に填めていく時ははピッタリ填って、ディアナは瞳も心も奪われてしまいます。
そしてエフィがディアナの唇に口づけし、下唇を自分の唇で食み、「私の恋人になってください、ディアナ」と恋人の呼び方だからと様付けをとって告白。
その後照れたように笑って再びキスをし、ディアナも「わたくしも、ずっとエフィにこんな風に触れたかった……」と気が遠くなるような途方もない幸福感を感じ、何度もキスを交わす甘い展開は……ぐはあ!たまりませんね(笑)。
多分文庫買った時に、ラブシーンだけ先に読んじゃう人はいると思うんですが、やっぱり最後まで読んで辿りついた2人の幸せなシーンは、全然感動が違いますよ。

文庫本では珍しいことですが、カバー下にはなんとおまけの小咄が。
「ぼくのわたしの彼女自慢 アルヴィン・エフィ編」というタイトルのこの小作品は、エフィが自分の兄と、彼女(つまりエフィにとってはディアナですね)の惚気をするお話になっています(笑)。
私にはディアナ様以外の人間など目に入らない。容姿にしろ心根にしろツンデレぶりにも(中略)ディアナ様に『愛している』と言われるだけで、私はきっとどんな困難にも負ける事がない」などと、滔々と最愛のディアナのことを語っているエフィ。兄の前ということもあるんでしょうか、普段より素の顔が覗かせているような気がします。しかしディアナのことは好きで好きでたまらない様子は相変わらずですね(笑)。


■情報をくれたKさん、ありがとうございました〜。

■単一生殖が出来て男性が全く出てこないとか無理なファンタジー設定ではないですが、男性の存在はうまく避けられていて……というかエフィとディアナが意図的にかなりの努力をしてそれを避けているので、当然男性は恋愛には関わってきません。
娼館でディアナが売られそうになった相手も女性ですが、さも恐ろしい存在であるかのようにちゃんと描かれているので、女性だけで話が進んでも手に汗握るハラハラする描写になっています。この辺も絶妙ですね。百合好きが一番望んでいる形を作品としてうまく形にすることができた作品だと思います。

■城を追われる、または逃げ出してその後過酷な日々を過ごすという途中の展開は以前紹介した「蝋燭姫」「荊の城」と通ずるところはあるかもしれませんね。

ただ見ての通りきらびやかで可愛いイラストのテイストや、キャラクターの関係性などは全然違います。

■185ページ8行目など、誤字は数箇所見られたんですがこれは編集さんの問題もあるでしょう。構成、キャラクター設定はもちろん、文章もとてもしっかりしています。思わず誤字を見つけてしまうのも、しっかり読み込みたくなる文章だからこそでしょう。私も思わずじっくり読んでしまったためにレビューが遅れてしまいました(笑)。
個人的には、これ程完成度の高い百合ファンタジー小説は初めて読んだような気がしますね。レベルの高さにびっくりしてしまいました。

■最後までハラハラドキドキしつつ、女子同士最後はしっかりと結ばれる甘い展開が描かれていて、楽しく読めました。
途中まで読んで、ディアナがエフィのことを想うが故遠ざけようと、わざと冷たい台詞を言っているのが分かったせいもありますが、私は意外にディアナに共感してしまいましたね。エフィのために役に立とうとしつつ、結局努力が空回りになって、余計迷惑をかけてしまうエフィの心情は痛いほど伝わってきますね。世話を焼く人も大変だけど、されっぱなしの方も結構辛いのでした(笑)。だから逆に、相手のために何か役に立てたりすると、嬉しさは倍増になるんですよね。

■ひとつ注意してほしいのは同じ「ダブルエンゲージ」というサブタイトルの小説、「企む王子は殺し屋と踊る―ダブル・エンゲージ」が同時発売されていてこちらは百合メインではないので間違えないように(笑)。こっちはこっちでやってて、「偽りの姫〜」の方の2人には恋愛的に絡んでくることはないですね。それぞれ単品でも楽しめる作りになっています。
ただ、作品的には対になっているので、「企む王子〜」の方にも巻末やカバー下にはディアナとエフィのお話が描かれています。カバー下ではディアナの視点からエフィについて「優しいところが素敵だわ。何よりまず私を守ってくれて…」などと惚気るお話が(笑)。巻末には「偽りの姫〜」本編が終わった後の後日談で、旅に出た二人が、途中の宿で休んでいるお話が。少し疲れて熱を出してしまったディアナですが、エフィは相変わらず甲斐甲斐しくお世話をしているようですね(笑)。
百合目当ての人は「偽りの姫〜」だけをとりあえず先に買えば良いと思います。ただ、読み終えると多分エフィとディアナの姿をもっと見たくなってしまうので、こちらもチェックしたくなってしまいたくなると思いますが(笑)。

■あとがきでも仰られていますが、「百合ものに興味はありますか?」と担当さんに聞かれて、作者さんが「あります!」と一瞬の迷いもなく応えたために、今回の作品は作られることになったようで、この辺のエピソードも嬉しいですね。
作者さんは「現代物、女子高のお話が大好き」だと仰られていて最初はそういう設定で描く予定もあったようですが、こちらも是非次の機会に読んでみたい気がします。