くちびるに透けたオレンジ
ロクロイチ
百合度★★★★★(5.5)

ロクロイチ先生は過去作品もすべて良かった人なんで、やはり過剰に期待してしまうところはあったんですが、実際に単行本を読んでみたら期待通り良かったです♪
Hシーンは最後の最後になるんですが、そこに至るまでのヒロインが相手の女の子のことを想ってあれこれ葛藤する様子がしっかり描かれているので、ラストのえっちシーンはめちゃくちゃ盛り上がりますね。

好きな人がほしいという気持ちって、理屈だけじゃなくてもっと味覚的、視覚的、嗅覚的、触覚的など、感覚的に相手が欲しくなることは多いし、それが自然だと思うんですよね。それがキスやセックスなど、肉体的な欲求に繋がっているわけですが、この作品はそういう感覚が見事に表現されていました。
えっちと純愛が結びついた百合漫画が読みたいという人には必携の一冊でしょう。
百合姫に載っていた作品紹介によりますと……
オンナノコの恋は、秘めやかに、ひそやかに……。
どちらかというと地味目のグループに、美人な転校生が加わって……。
転校生に恋心を抱きつつもなかなか親しくなれない主人公は、少しずつでも近づくために髪型を真似たり小物をおそろいにしたり……少女と少女の甘い恋の駆け引き……

美しくて可愛い女の子叶ちゃんが都会からやってきて、遠くから眺めるだけでうっとりしてしまっていたヒロインの千鶴。
手が届かない存在だと思っていた叶ちゃんですが、叶ちゃんが自分のグループに入ってきて、それまで親しかった自分の友達と話すようになって、さらに家にも来ていると聞いて千鶴は見ているだけでは満足できなくなったんでしょうね。内気な性格だったのに意を決し自分から「うちにおいでよ…」と誘ってしまいます。
叶ちゃんの夕日色のオレンジのリップで自分を染めて欲しいと思って、お腹でも減ったように、叶ちゃんがほしいという気持ちが抑えられない千鶴。
千鶴と同じものばかり集め、ついには同じ色の鬘まで買って自分でつけ、それらに囲まれ叶ちゃんに唇が自分の唇から全身を舐めていく様子を想像しながら一人Hをしてしまうシーンは気持ちが溢れていく千鶴の様子が象徴的に描かれていますね。

しかしその望みは叶ちゃんも同じで、千鶴の全身にキスをしてオレンジ色のリップで自分色に染めたかったことを打ち明ける叶ちゃん。それに対し千鶴も「そんな…風にして」と応え、身体を重ねることになります。
「大好き…」と言いながら涙を流してしまう千鶴のシーンは思わず感動してしまいますね。
叶ちゃんはその涙も唇で吸い、さらに自分色に染めていくのでした。

最初叶ちゃんが千鶴に気がありそうな素振りが見えないように描かれていて、叶ちゃんと仲良くなりたいのになれない千鶴の気持ちが強烈に伝わってきて読者も思わず感情移入してしまうんですが、よく見ると千鶴の方も意識する余り叶ちゃんから一歩離れて歩いたり自分から話しかけることが出来なかったりしていて、叶ちゃんの方から見れば避けられていると感じてもしょうがないんですよね。近づきたくて同じグループに入ってきた叶ちゃんですが、そこから先に進めず、お互いに意識しすぎて距離を縮められないのは同じなのでした。
叶ちゃんのことを常に後ろから目で追っている千鶴ですが、駅で別れた後、いつもなら反対側の出口から降りてくるはずの千鶴の姿がいないことにもすぐ気付いて、実は叶ちゃんも千鶴のことを前から見ていたことが分かります。この辺も上手いですね。

巻末には「百合姫Wildrose」に収録されていた2作も収録されています。

・「閉じててね、心」
両親を亡くして以来、従姉妹のアズサの家に引き取られ一緒に暮らすようになった希和子。「家に来てからあんまり眠れてないでしょ?一緒にねよっか」と言われ、「えっちしたい。……ね?しようよ」とその後肉体関係を持つようになった希和子ですが、アズサの優しさにつけこんでしまったことに対して引け目を感じていたのでした。
ある日アズサに男の子と一緒に水族館に行くことを提案されるのですが、アズサが自分の手を離れて男の子と遠いところへ行ってしまうことを想像してしまい、「行っちゃやだ。イルカ見たいなら私と2人で行こうよ」と泣き出してしまう希和子。
しかし本当は男の子は希和子目当てで、アズサもそれは今まで何度も断っていた話だったのでした。「希和子を守るのは私じゃなくてもいいことくらいわかってるの」と泣き出すアズサを見ながら、お互いに同じ気持ちを抱いていたことを知り、「大好きっアズちゃん!!妹じゃなくて彼女にして!!」と抱きつき、自分たちの関係が閉鎖的であることを自覚しながらも、お互い今までどおり何をするのも一緒でいることを約束するというお話でした。
女子同士の心理的な駆け引きがうまい作品ですよね〜。

・「これが恋なのかわからない」
親友だった理央から「好きなの」と告白された唯。親友の関係を永遠だと大事に思っていたからこそ「恋人」になることでそれが壊れてしまうのではと怖くなり、そのせいで了承したことから心にわだかまりを持つことになり……というお話。
キスをするとき、わだかまりによる抵抗感からピクっとしてしまったり、繋ぎなれた理央の手を知らない人の指のように感じてしまったり、微妙な心理を表しているのが上手いですね。
唯は恋愛感情と親友感情、どちらも大事だからこそ迷ったんですね。
しかしそんな唯の戸惑いの気持ちを察した理央に「明日から友だちに戻ろ?」と言われ理央が誰よりも大好きだと言うことを改めて気付いた唯。
「ずっと友だちでいてくれるなら、ずっと恋人でいてあげる」と自分から情熱的にキスをし、恋人兼親友というポジションで自分が満足出来ることに気づいたようです。
「理央は私だけのだよ…。私も理央だけのものに…して」と熱くセックスも交わし、2人の関係が永遠でありたいと願う気持ちが一番大事なんですね。

これも散々読み返してしまった作品ですね〜。男に犯されて壊れていく自分に感じる……とかそういうのはイマイチ乗れないんですが、自分の中の何かが壊れていくことに自分で感じてしまう……という創作作品にある種の良さがあるのは分かります。
しかしお互い与えあう平等な関係の女子同士では、壊れていくものがなくてあまりそういうシーンに萌える機会もないんですが、この作品の場合は壊れていくのが「恋人」関係と引き換えの「親友」の関係、ということで女子同士の間でも何かが壊れていくエロティシズムが描かれていて、そこも上手いな〜と思います。
レディコミやTLでも、相手にめちゃめちゃにされつつ壊れていく自分に感じてしまい、結局最後は彼氏が優しくしてくれてハッピーエンド、というパターンは多いですが、この作品でも結局恋人関係も親友関係も手に入れてちゃんとハッピーエンドになっているのも良いですね。

この方は多分一般ティーンズラブでは青目黒という名義で描いていた人だと思うんですが、うちのサイトでも以前取り上げたことがありましたよね。

その時の感じたことは、百合を描きたいのに一般TL誌ではどうしても描くことができなくて、切ない結末にしてしまった……というイメージが強烈にありました。
ちょうどこの1週間後くらいに「百合姫Wildrose」の創刊第一号が出て、こういう作家さんが堂々と百合作品を描ける環境が出来ると良いなぁと思っていたんですが「百合姫Wildrose」2号でそれも叶い、描き下ろしの百合オンリーの単行本まで出ることになって、感無量ですね。

青目黒名義でも評価が極めて高い人なんですが、作品を寄稿した出版社がややバラついてるのと、ロクロイチ名義で百合作品を発表しだしてから青目黒名義の一般TL作品を発表されなくなった関係で、作者さんにとって初めて出る単行本になりましたね。
携帯配信でも頑張って欲しいとも思うけど、やっぱり手元に残る紙媒体の単行本は待望でした!

青目黒名義の作品も非常に評価が高いんでそちら名義の単行本を心待ちにしているファンも多いと思いますが、せっかくの機会ですので是非この単行本にも手を出してみてはいかがでしょうか……内容は百合オンリーですけど(笑)。

でも私も、青目黒名義の単行本がもし出たらやっぱり買おうと思いますよ。
素晴らしいクオリティの作品を描いてくれる、ティーンズラブ作家の中でもトップクラスの人ですからね。
そんな作者さんが百合ジャンルの方を選んでくれてホントに良かったなぁと……(←結局それが本音か…笑)。