ナイフエッジガール
古街キッカ
百合度★★★★★(5.5)

古街キッカ先生の初百合コミックスです。
この方の描く百合漫画の世界では現実離れした突拍子もない展開などはあまりなく、等身大の女子の姿が描かれていることが多いですね。超常現象などファンタジー要素は全くなく、ひょっとしたら現実でもその辺でおこっている出来事なんじゃ……と思わせるようなお話が多くて、単行本が同時発売のヒマワリソウヤ先生とは対照的な作風なんじゃないかと思います。
作者さんによると「BLでは出来ないことと、BLと同じ感覚でやってるところ」があるとのことで、それはなんとなく分かりますね。絵柄や構成など漫画技術の上手さはBLで培ってきたものが生きているんだと思いますが、女子同士の関係は、BLのノリではちょっと描けないんじゃないかと思える作品が多かったです。

古街キッカ先生の描く百合作品は、大きなイベントに向けてグワーっと盛り上がっていくタイプではなく、どちらかといえば登場人物たちは淡々としてはいるんですが、途中希望進路や、元々住む世界が違っていることに悩んだりしつつも、意中の女の子にもっと近づこうという気持ちは自然にふつふつと湧き上がってくる様子が描かれていて最後はハッピーエンドに向けて話が進んでいく展開を追って読んでいるだけでなんだか楽しくなる、ちょっと不思議な魅力を持った作品になっていますね。
登場キャラも皆個性があって魅力的です。

今回単行本にあたっては雑誌掲載分3本+描き下ろしが収録されています。

描き下ろしでは「graffitti」のりせの立場から、カナと机上文通を始める際のドキドキする様子が描かれていますね。
それまで人と繋がることを諦めていたというりせですが、机の上のらくがきからカナとの運命の出会いが始まり、メールが繋がって、電話が繋がって、手を繋いで、キスをしてカナと繋がり、そこから世界が開けていく様子が上手く表現されています。
そしてお話の最後では机の上のらくがきから作者さんが単行本制作のために関わった人や、読者への感謝メッセージに繋がっていました。
作者さんもこの作品を通じて、いろいろな人と繋がることが出来たことがわかりますね。

以下各話紹介を。
・「トゥルトフロマージュ Tourteau Fromage」
平凡なOL生活を送っているヒロイン三和さんは、ある日知り合った長江さんの劇団を見て、彼女に惹かれていき……というお話。自分を変えたいから劇団に入りたいと訴える三和さん。劇団員として2人でやっていくお話か……と思いきやそうならないのが意外で面白かったですね。
OL生活はそのままで、一見何も代わっていないように見えるんだけど、自信を持つことによって成長した三和さんが良いですね。
単行本では主人公が「うぇえぇええ」と泣くシーンが「ふぇえぇええ」と変わっていました。泣いてる表情が「うぇ」より「ふぇ」の方が近かった?(笑)

・「graffitti」
古街キッカ先生の百合姫初登場作品。机の上で女子同士文通を始めてしまうのが良いですね。メアドを書いたり、実際に会ってキスをした後相手の反応がなくて、不安が募るヒロインの心情がリアルに伝わってくる良い作品。
少女2人がちょっと相手に近づけて嬉しくなったり、拒絶されそうで不安に思ったり、近づいたり離れたりする微妙な心の距離に一喜一憂しつつも、最後は結ばれていくハッピーエンドな様子がとても上手く描かれています。

・「ナイフエッジガール」
一足早く社会人になった幼馴染みと、まだ学生をやっている同級生のヒロインエミリのお話。これも共感するところのある話ですね。同い年なのにしっかりしていて、ちゃんとキスもしてあげる亜衣ちゃんが可愛い♪
亜衣を信じているからちょっとの約束をして安心したいというエミリや、エミリが信じてくれているからこそそれを裏切りたくないと簡単な約束をせず、決意を促す亜衣のやりとりが面白くて印象的ですね。


■この中で「graffitti」は学生百合、「トゥルトフロマージュ」は社会人百合、そして「ナイフエッジガール」は社会人×学生百合になっていて、バランスのとれた構成になっています。

「graffitti」、「トゥルトフロマージュ」の2作は女性同士のキスシーンがあり、「ナイフエッジガール」ではほっぺへのキスや、2人が学生時代胸を触ってドキドキしてるのを確かめた後、当時流行っていたという友達からパワーを貰う習慣(流行をこういう風に利用する使い方は結構萌える…笑)から抱きしめてあげた過去のエピソードなどが女子同士のスキンシップとしてあります。

「graffitti」、「トゥルトフロマージュ」は女同士、出会ってから惹かれていき恋人関係になるまでの過程が丁寧に描かれていますね。ページ数がある程度あるとはいえ読みきりでここまで描けるのはすごい。
また「ナイフエッジガール」の2人は幼馴染みという設定でそれまではっきりと相手に恋心までは伝えていなくて、キスをするのも相手が寝ているうちにしていて一応隠してはいるものの最初からお互いに一生一緒にいたいという気持ちはあって、受験や就職などのイベントの波に揉まれる中でその願いがちゃんと叶うかどうか、揺れ動く気持ちが描かれていて、こちらも素晴らしい内容になっていますね。

この方はちょっと前に「ぱふ」のインタビューを受けられていて、雑誌が雑誌ですしその頃はまだ百合姫に一本寄稿されたばかりだったので当然インタビューの内容は、それまでされていたBLの話がメインだったんですが、百合作品を描く事にも意欲的なことも仰られていて、本当だとしたら嬉しいなあと思っていたんですが、その後実際その通りになりましたね。百合作品を描く事に意欲的なことは、ページ数だけじゃなくて内容の完成度を見ても分かりますね。どの作品も実に素晴らしい。好きでなければこれは作れないでしょう。
この方を百合姫編集部が見つけて引っ張ってきたとしたらお手柄ですが、確かに百合作品を描く意欲が作品からも感じられるので、自分から持ち込んだ可能性も充分にありますね。

少女漫画的作風が個人的にも大好きなので、今後も是非、百合作品を継続的に描いて欲しい作家さんです。

ところで古街キッカ先生、「少女マテリアル」(うちのサイトのレビューはこちら)や、「ストライクウィッチーズ」少佐×ペリーヌ少佐×ミーナがお好きなんですか。意外な一面が(笑)。