三日月の蜜
 (仙石 寛子)
百合度★★★★☆(4.0)

百合専門誌だけで百合チェックしている人には、「ひらり、」に寄稿されている作家さん、というイメージがあるでしょうか。
仙石寛子先生は、「ひらり、」以前から4コマの百合漫画を寄稿されることが多くて、こちらの作品もかなり良いんですよね。
そんな仙石寛子先生の、現時点での代表作と言っても良いでしょう、百合4コマ「三日月の蜜」を収録した、珠玉の百合4コマ作品集が発売されました。

収録は、表題作が半分弱。他の百合度の高い収録作品「一途な恋では」と合わせて純百合は5割くらい。百合っぽいものが2割くらい。百合じゃないものが3割くらい。という構成でした。ともあれ、どの作品も素晴らしいですね。

帯の表には「女同士ってどうやるのか知ってる?」という文句が一言だけ。まさかこれを抜き出すとは(笑)。
ひどいっちゃひどいあおりなんですが、とはいえこの作品は実際エロティックな部分も多いんですよね。表紙もめっちゃエロくありません?少女(佐倉)に苺を食べさせようとしている手は…なんとなく分かると思うんですがこれは女性の手なんですね。桃子さんの手です。
私には、実際届いた現物で見たらすごいエロく感じたんですが。というかこれをエロく見ずしてどう解釈しろという感じです(笑)。

カバー下では桃子さんがさらに暴走。「お医者さんごっこをしましょう?」と誘ったり佐倉さんのパンツ(!)をめくろうとしたり、5話で佐倉を押し倒した時、最後までHしたかどうかの質問に答えて、キスだけで恥らう佐倉さんの反応が好きなあまり、しばらくはこの状態を楽しもうと桃子さんが考える、作者さん曰く描く度に桃子さんが変態っぽくなっていく(笑)エピソードが描き下ろしで描かれていました。

男性向けのエロさともティーンズラブ的なエロさとも違って、男性向けとも女性向けとも言い切れないんですが、この作者さん独特のエロティックさというのはあると思うし、これもこの作者さんの作風の魅力の、大きな要素だと思います。この作者さんの作品がしっとりしてるとか切ないとか、逆にユーモラスな良さがあることは今さら説明するまでもないですが、こういう点も見逃せませんね。

・「三日月の蜜」百合度★★★★★(5.5)
「好きな人の好きな人をとってやれ」と、杉(♂)が好き(だと思っていた)佐倉さんは、杉が好きな女性、桃子さんにあてつけで告白。しかし佐倉さんはそれを即座に受け入れ「私も佐倉さんならいけるかも!」と了承。その日から桃子と同性同士で付き合うことになったものの、デートをしながらも良心の呵責から常に後ろめたい気持ちを抱えることになって「ごめんなさい」の言葉を言おうかどうしようか迷ったり、涙を流してしまったり、手を握られても震えが伝わってしまうのではと、佐倉さんは「怖い」気持ちを抱えながら付き合っていく日々が始まります。
こういう関係から始まるから、出会ってから次第に惹かれあい、そしてさらに深い仲へと…という普通の恋愛話とは随分違う色合いを持つ作品になりましたね。

同窓会から戻ってきたという桃子が、元カレと別れた昔の話にまだ傷ついているのではないかと心配する佐倉さんですが、桃子はそんな佐倉さんのことが可愛いと抱きつき、「キスしていい?」と聞き、本当にキスしてしまったようです。直接的に描くんじゃなくて、「桃子さ」とセリフが途中で途切れることで唇が重なったことを示す表現が上手いですね。

第5話ではデートの帰りに、佐倉さんが桃子の部屋に招かれ、いきなり押し倒されてしまう展開があって、これは雑誌掲載時に読んでいた時は雑誌を1月分飛ばして読んでしまったかと思ってしまったんですが、そうではないんですね。4話と5話の間は元々唐突な展開になっていたのでした(笑)。

押し倒したは良いがその際いきなり生理痛になり、自分が寝込んでしまう桃子。看病することになる佐倉ですが、自分は重くないのでどう看病したら良いか分かりません。同じ女性同士でも、女性の体を何もかも分かり合っているわけではないのが面白いですね。

「女同士ってどうやるんだろうってインターネットでいっぱい調べちゃった。佐倉さんはどうやるのか知ってる?」と聞いて、佐倉も恥かしがっていますが、「…私もよくは…知らないですけど…」と恥らいながら答える佐倉にを見てベッドに潜り込んでしまう桃子。生理痛が痛いためだとごまかしてますが、佐倉の可愛い様子に悶えてしまったのかもしれません(笑)。

杉のことが好きだと言う佐倉ですが、杉は佐倉が本当は桃子のことが好きなんだろうと気付いていたんですね。実際佐倉は告白した杉のことよりも桃子のことの方が気になってしょうがないのでした。

桃子のことが好きなのではと頭の中がぐるぐるしてしまった佐倉。「来て、欲しいです」と打ち明け、その後桃子と直接会って話し合い、自分が男の気を惹くために桃子と付き合っていたことを告白するのですが、相変わらず桃子は自分のことが好きだと言ってくれます。そして佐倉も桃子のことが好きと言いたくなって……。「言って」と促す桃子。
その後佐倉は桃子に「好き」と言うことが出来たんですね。他の誰に言うよりも、桃子に言うのは恥かしかったらしく、照れまくりな佐倉が可愛いです♪そして女子同士ラブラブエンドへ。
最後「私も…」の後は当然「好き」というセリフだったに違いないのですがそれを直接書かず「今度はちゃんと聞こえた」と表現するところがまた上手いですね。

良い百合ではあるものの、最後結ばれない百合もこれまで多かった作者さんなので、途中男絡みで不安定になる展開が続いていた時は本当にハラハラしていたものですが最後は…見事に百合エンドでしたね〜。言う事ない結末でした♪

この作品はあとがきによると「よくまあまんがホームで描かせてもらえたものだなぁ…と思います」と仙石寛子先生も仰っていますが、やっぱり仙石寛子先生が百合モノを描きたかったことが分かって嬉しいですね。
他の題材でも良い作品を描ける人なんですが、その中でも女子同士…それも恋愛モノが一番映えると思いますし、これからも仙石寛子先生は、素晴らしい百合作品を描いていく方なんだろうなぁと思いました。

・「一途な恋では」百合度★★★★★
春には隣の国へ嫁ぐことになっているお姫様が、メイドと愛し合っていたという話。
「好きよ」と言われキスを受け入れるメイドさんが、相手が姫という立場だから従っているだけなのではないかと姫が心配したり、一方メイドさんはそんな姫の疑っている気持ちがネックとなり、信じてもらえない自分の気持ちに意味がない、早く終わってしまえばいいと思ってしまったりすれ違いながらも、最後本当に終わることになった瞬間お互いの気持ちが通じ合う展開は皮肉ですが、もう躊躇なく「好きよ、好き、大好き」と抱きついて、夢に見てしまう呪いをかけて愛を表現出来るようになった姫が、幸せそうに感じました。

・「女子メガネ」百合度★★★☆☆
女生徒が2人きりで、初めて眼鏡をかけさせたりしてやりとりをしているお話。
眼鏡をかけて初めて相手の顔がはっきり見えて、「まあ、こんなにカワイカッタナンテ!!」と後からフォローするのは棒読みですが、顔で友達を選んでないというのは本音なんですよね。気軽に楽しめる女子同士のお話でした♪

・「ちょっと早いけど干支」百合度★★★★☆
バニーガールと、牛少女…というか牛そのものがいちゃいちゃしているお話。あとがきで仙石寛子先生も「私の中ではバニーさんと牛さんの、ほんのり百合なんです」と仰っていますが、もちろん私にもそう見えました(笑)。
牛さんのお乳で作ったアイスをバニーさんが美味しく思うシーンとか、一緒に温泉に入って、牛さんが自分のお乳で牛乳風呂にしてあげると言ってバニーさんが喜んだりするシーンとか萌える。(いやほんとに…笑)

仙石寛子先生は、悲恋モノをよく描く人、という印象が以前はあったのですが、あとがきで「いつも辛気くさい終わらせ方をしてしまうので『前向き!ポジティブ!』と念じながらネームをやりました」と語られている通り、表題作を含めて、明るい終り方をする作品が増えましたね。単行本全体を見ても、今回はそういう辛気くさい終り方をする作品群、という印象は全くありませんでした。
しかし切なかったりしっとりしてたりする独特の作風は健在で、そういう作風がハッピーエンドの物語に特別な色を添えて、良い作用をもたらしていました。

収録作品の中には百合もの以外にも姉弟モノ、兄妹モノ、さらには青虫(!)なども収録されており、カバー下ではまんがホームでBLもいけるかどうか編集者さんに聞いていたり、作者さんは興味があるもの、まだやったことのないものをどんどんやりたいという意気込みが感じられますね。
まだ作者さんが1冊分まるごとひとつの作品で占められている単行本を出していないところにも、それが表れていると思います。

今は興味が出たテーマにどんどんチャレンジしたいという時期なんでしょうね。中には青虫モノとか、これはどう考えてもすぐ飽きるだろうというものも含まれているんですが(笑)、しかしその分作品全体に若さによる勢い、冴えまくりなセンスを感じました。恋愛についても、こんなに掘り下げて描けるのは、やっぱり若さ故のパワーかなぁと思いますし。
しかしこういうのもいいんじゃないですかね。一通りやりたいことに挑戦し終えたら、また本当に自分の一番やりたいものを考えてみれば良いんじゃないでしょうか。
そしてそれは…やっぱりこの作者さんが一番描きたいのは女性同士の恋愛だろうと思うんですが、また仙石寛子先生の百合作品が読めたら最高ですね。


仙石寛子先生の以前出した単行本、「背伸びして情熱」の紹介はこちら

悲恋ですがこちらにも良い百合作品が収録されています。