1話  「クランの始まり。」




それは春、桜が白い雨のように吹雪いていた日の少し風の強い夜のことだった。



クラクラで遊び始めてから丁度半年が過ぎようとした頃、千春はある日、突然新しいクランのリーダーになった。


しかし、彼女は前もってリーダーを希望していた訳ではなかったし、自分がリーダーになることも、まったく想定していなった。




彼女はその日、前から在籍していたクランを数名の仲間と共に脱退し、新しいクランを作ったばかりであった。


「クランを出ます」と通告してから、脱退するまでの時間は1時間程度の、あっという間のことだったので、そう宣告した千春自身でさえ、めまぐるしい状況についていく事で精一杯だった。


これらはすべて夢の中の出来事で、もしかして明日起きたら、またいつものメンバーでクラン戦やるのではないだろうかという錯覚に襲われた。しかしその一方で、それももう叶わぬ事というのも分かっていたため、余計に心苦しかった。自分の身勝手でメンバーを巻き込んでしまっているような気がしていた。



クランは別れを惜しみつつも、いくらか熱狂を帯びているような感覚だった。
メンバーは個々に興奮してはしゃいだり、お互いを励ましたり、新しいクランの正式な名前をどうするかを考えたり、これから先どうするか、どうやって人を集めようか、など 思い思いにワイワイ話し合ったりしていた。とても9人しかそこにいないとは思えないくらいの盛り上がりであった。



その盛り上がり、興奮さめやらぬ様子は、前クランを分かつ寂しさや悲しみを紛らわすための強がりのようにも見えた。




千春はそのクランの様子を、ただただぼーっと眺めていた。その時、彼女は自分がしてしまったことの大きさに改めて気付いており、改めて落胆していた。みんなを私事に巻き込んでしまったかのような気さえしていた。が震え、うまく 文字を打つことができなかった。胃はちぎれるほどに痛く感じた。けれども涙は一粒もこぼれなかった。

疲れてはいたが、目は冴えていた。とても眠れそうな感じではなかった。





その一方で、その時、彼女は自分自身が新しいクランのリーダーになることなど自覚しておらず、そればかりか微塵も考えてすらいなかった。


確かに千春は前のクランでサブリーダーをしていたが、独立メンバーの中には、それまでのクランで実質リーダーの責務をこなしていたSHIROCHAN(白ちゃん)がいた。


白ちゃんは、真面目で几帳面なおっさんだった。リアルでも常に朝早くから夜遅くまで仕事をし、クランでもサブリーダーでありながら、せかせかと指示を出し、常に働いてばかりいた。そのため、いずれ過労死するのではないか?と皆に心配されるほどであった。


千春は旧クランでは役職こそサブリーダーであったとはいえ、それは名ばかりで、過労死してしまいそうな白ちゃんの僅かばかりの手伝いのような事しかしていなかった。


千春は普段バイトや、学校でも、任されればやるけれども、必ずしもみんなを引っ張っていくタイプではなかった。どちらかといえばリーダーをやってくれる人に任せ、自らはサポートする方を好んでいた。



なので、クラクラのリーダーが具体的に何をするのかよく分かっていなかったし、実質白ちゃんがリーダーをするもの、自分がサポートに回るものだと思っていた。


「白ちゃん、これからも手伝うよ。よろしくお願いします。」


「いや、千春さんがこのクランのリーダーだよ。」



千春はポカンとした。


白ちゃんの言ってる事がどういう意味なのか彼女はすぐには理解できなかった。



白ちゃんはどうしてリーダーをやりたがらないのだろう?というのも少し不思議に思った。



しかし、とにかくついてきてくれた人たちがいる手前、とりあえず落ち込んでいる暇はなさそうであることだけはすぐに理解した


「ん、わかった。じゃあとりあえず、私がリーダーやってみるね。」



ついてきてくれたメンバー、別れたメンバーに対しての、贖罪のような気持ちだった。




こうして千春は、クラン「アメリカンショート(仮)」のリーダーになったのだった。