高校生の時、人を殺しそうになった。

学校帰りに痴漢(というよりも強姦未遂)された。
当時住んでいたのは開発中の住宅地で、まだ家が少なくて空き地が多く、街灯も少ないので注意は呼びかけられていた。

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その日は学校が塾代わりに行っていた夏休み補講の帰りで、夜7時台でまだ真っ暗ではなかった。
駅からの帰り道でいきなり後ろから抱き着かれ、空き地に引き込まれそうになった。
覚えているのは間近で見た気持ち悪いニタニタした顔と、「ブヒブヒ」とでも形容したらいいような
いびきみたいな不気味な声だった。





大声を上げたところまでは覚えていたけれど、気づいたら何人もの人に囲まれていて、
私は若い男の人二人に両腕を抱えられていた。
無我夢中の反撃で投げた石が犯人に当たり、犯人は昏倒していた。


犯人は、空き地に止めた車に私を引き込んで事に及ぼうとしたようだった。
私の大声が少し離れた家に届いていたようだった。そこの家のご主人は会社の社長さんで、
その日は運よく従業員の人たちと家でバーベキューしていたので、
私の声を聞いてみんなで来てくれた。

その人たちが来た時、私は半狂乱で、うつぶせに倒れた犯人に馬乗りになって首を絞めていて、
遅ければ犯人を殺していたかもしれなかった。


犯人は脳に後遺症が残るケガだったらしい。
現行犯で捕まったけれど、私も傷害罪の疑いで調べられた。
何回も警察に行ったけれど、大体の警察官は同情的だった。
ただ、私を安心させようとしているのか、私のやったこと」を武勇伝的に言う人も居て
その方が私としてはしんどかった。やっぱり自分が人を殺しかけたのはショックだったし
あとから、犯人の顔の肉を引きちぎらんばかりにつかんだ感触や、犯人に投げつけた石の感触、
首を絞めた感触とかを思い出すようになった。
警察は「あなたが有罪になることはないと思うけれど」と言ってくれたけど
現場の状況を思い出し、取り調べを受けているうち、だんだん自分が犯人みたいな気分になって、
刑務所行きで学校も退学、一生犯罪者とかネガティブに考えるようなって修羅場だった。

警察のほか、病院とかカウンセリングとかにも行った。とにかくその夏休みは忙しくて
あんまり記憶がない。
駆けつけてくれた家の奥さんが、「自分にも娘がいるから他人事じゃない」
といろいろ親切にしてくれ、周りにもうまく言ってくれたみたいで、少なくとも私は
近所の目を気にすることはなかったし、夏休み中で遠方の私学だったのでクラスメートとか
にも隠すことができた。

しばらくたって、私が「起訴猶予」になったと聞いた。「犯罪は成立しているが
状況から処罰をすべきではないとされるケース」だ、と教えられた。
犯人に反撃してケガをさせたところまでは正当防衛が成り立つけれど
投げた石が当たって倒れこんだ犯人の頭に石をぶつけ、首を絞めたのは、
犯人がまた起き上がってくる恐怖に駆られたとはいえ、過剰防衛で罪になるらしい。

起訴猶予は不起訴の一種で、記録は残るが「前科」にはならないと言われた。
何も悪くないと証明されたようなものだから胸を張って生きなさいと言われた。
その後何事もないふりをして暮らしているが、やはり暴力犯罪ものの映画とかドラマは
見られない。夫には性犯罪に逢ってトラウマがあることは伝えているが、
私が相手を殺しかけたことは伝えていない。