yusakuweba(木下勇作)のblog

『天才、法然』がいよいよ最終コーナーに入りました。法然は70歳代に入り、宗教家として円熟期。 しかし式子内親王が旅立った後、大きな試練が法然を待ち受けていたーー。

忠興はまずはつに向かってーー。

<おまえにはえろう苦労をさせてしもうた・・・>

と詫びるように言った。

 <うちお父はんが選んでくれた嫁ぎ先に行ってほんとうによかった。温かい家庭と二人の息子に恵まれました。そんなことだすさかいに後悔するなんて言わないでください!!>

と爽やかな顔でそう応えるはつだった。

 <そうやなぁ・・・そんなことを言うてしもうたらあんなに明るくて元気で屈託のない孫たちに申し訳ないなぁ~>

と忠興はようやく納得したように頷くのだった。

そして忠興は新次郎に向かって語りだした。

 <新次郎さん!!あなたにさまにはあさのことで感謝しています。私らが種のままほったらかしていたあさに新次郎さんが水をやって花を咲かしてもらいました>

<いえ、いえ助けられたのは私のほうです・・・>

と新次郎。

ほっとし様子をしながら忠興はつづけた。

 <わしは父(忠政)のようにあさの力を見抜けなかった。あない学問がしたいとうあさの芽を摘んでしもうた。学問させていたらもっと凄い女になったかも・・・>などと語るのだった。

そのころ大隈邸に千代を連れて綾子に会いに訪れていたあさだった。

千代が綾子に初対面の挨拶するとー。

<あなたは成澤先生の女子大学校が出来ますとご入学されるでしょうね???>

 千代の<えっ!!>と驚く声と<そないになったらいいので・・・>ということばが一瞬重なった。

思い直したようにあさは<どないするかを決めるのは娘本人だすー>

 そしてあさは綾子から新しい<女子大学校>創設の賛同者の新しい名簿をもらったのだった。

今井家に帰ったあさは忠興の部屋にお茶を持って見舞った。

忠興の顔色はいつもよりよく半身を起こして書物か何かにに目を通していたようであった。

<明日、大阪に帰るんだってな・・・ところで女子大学校創設のほうはどないやー>

 <へえ、目標の寄付金額は10分の1に満たないほどだす・・・賛同者は東京の方が多いのだすけど・・・大阪につくりたいと思うてますのや>

それを聞いた忠興はー。

 <万が一東京につくることになったら目白にある静かで環境いい今井の別荘をおまえに・・・おまえの目指すもんに寄付したいと思う・・・おまえの学問したいという芽を摘んでしまった償いや。頼むさかいに受け取ってくれ!!これはお母はんと話し合って決めたことやー>

あさは思いがけない忠興のことばに感激するのだった。

 <おまえが嫁ぐ時、ちっともいい娘やなかったな言うた時、わしは分るのはこれからやと言うたが・・・ええ娘やったで!!今は自慢の娘になってしまいおって!!>

思わず感涙するあさだった。
 
 忠興のことばを胸にあさは女子大学校創設に向けてさらに意欲満々に取り組みだしたのだった。

             (つづく)

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木下 勇作 アートギャラリー 日本美術倶楽部 









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 拙著『ドキュメント インド発見』(風詠社)に掲載するためガンジス川で見た少年の祈りをイラストふうに描いたものである。



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 養之助はこれまでの家族みんなで看護したありさまやミカン山に連れて行き菊が喜んだ様子を語り掛けるのであった。

 そしてみんなに<おれここで一生暮らし、温かい家族をつくりたい。ここでミカンの山王寺屋をつくりたいんや!!おばあちゃん見ててや!!>

と言い放った。

 焼香にやって来たあさははつにこれまで病床に伏せていた父、忠興よりも母、梨江の容態が悪いようだと聞きつけたことをはつに告げた。

 以前、父、忠興を見舞おうとしていたが、菊の看病で取り止めたことがあったが、梨江のことを知りびっくりするのだった。

あさとはつはうめと養之助を伴って東京の今井家に見舞いに駆け付けた。

案の定、梨江の容体は思った以上に悪く、家族に見守れながら安らかに旅立ったのだった。

菊につづき梨江を失ったことにはつは悲しみにくれるのだった。

 はつは梨江にもらったお守り袋をそっと手にとってありし日の母が語ってくれた励ましのことばを思い浮かべるのだった。

<はつは必ず倖せになります・・・>

 <これからはあさのような生き方もええのやろと思いますのや。柔らかいこころを持って胸を張って生きなはれ!!>

と梨江のことばがあさのこころに過ぎるのであった。

新次郎も千代とともに焼香にやって来た。

 養之助から来年3月には結婚するのだと聞いた千代は<同じ年頃なのにびっくりぽんや!!>と目を丸くすのだった。

弔問にやって来た政財界人の中にはついでにあさに会いたいというので座を外したあさ。

<こないなときにも悲しみに浸れないのは可愛そうやなぁ~>

とはつ。

 そこではつは新次郎とともに梨江の葬儀にも出ることが出来なかった病に伏す忠興を見舞った。

 半身をやっと起こしながら忠興はベッドの横に置いていた梨江に<ありがとうー>と呟くように語り掛けた。

そして述懐するように語りだした。

<私の人生のなかで後悔することが二つあるのや・・・>

<お父さまのような立派なお仕事をされた方がそないな後悔なんて???>

とはつ。

 <確かに維新後の荒波を乗り切り、周りからは大勝ちしたなんて言われているが・・・それは山王寺屋のこととあさのことや!!>

 山王寺屋のこととはつを伴って惣兵衛が資金を貸してくれと訪ねて来たとき厳しいことばで断ったことだだったのだろう。

あさのことで後悔しているとは一体どんなことなのだろうか???

新次郎も怪訝な面持ちで思わず忠興を見つめるのだった。

          (つづく)

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