厳選!オススメ書籍(ビジネス書、学術書、小説etc..)

ビジネス書や学術書、小説等の書評ブログです。読んで良かった本をさくっとまとめています。



大学院の授業でProject Adventure(PA)を体験する機会があり、完全にその魅力に惹き込まれました。
それ以来、PAについての書籍を色々読みましたが、その多くは手法の紹介が中心でした。
「もっとPAの歴史や背景にある学術的な理論についても学んでみたいなぁ」
そう思っていたところ、授業を担当された先生から紹介してもらったのが本書。
手法はもちろんのこと、PAの歴史や、心理学を中心とした学術理論についても、約500ページに渡り詳細に書かれています。
PAの持つ魅力や力を学校など会社組織など様々なところで実践していきたい自分にとっては学びの宝庫でした。
以下、自分なりにまとめます。

PAの歴史

本書の第1章は、アドベンチャーベースドカウンセリング(ABC)の少史についてまとめられています。
※ちなみに、ABCとは、PAという体験教育手法をカウンセリング分野に適応したものです。
PAの歴史は、治療を目的としたキャンプから始まります。
キャンベル・ラミフラーは1946年に孤児や貧しい子どものためのキャンプ運営をスタート。
ラミフラーのWilderness road modelは、Eckerd FoundationやTree Springsの長期的な治療を目的とした自然の中でのプログラムの先駆けとなります。
10人以下の若者と、2人の成人カウンセラーで行動生活を共にし、毎日振り返りを行うことで、1日の中で学んだことを洞察する力を高める内容でした。
Lowry(1974)は、野外を治療目的に使った事例として初の文書化を行ないました。

その後、1944年にドイツ人教育者クルト・ハーンによって、冒険教育の先駆けとなったアウトワードバウンドが設立。
クルト・ハーンは、Learning by doingモデルを信念とした体験教育のパイオニアと言われています。
しかし、ハーンの考え方は、アドルフ・ヒトラーを囲む情勢と衝突。
ハーンは監禁され、1933年にイギリスに追放されてしまいます。
第二次世界大戦中、ハーンは自身のプログラムを若いイギリスの水夫のトレーニング用に再編できないかと打診を受けます。
それ以来、アウトワードバウンド「航海用語で船が港から出発することを意味する」は体験教育の世界的なプログラムになっていきます。
ちなみに、「伝統的な学校カリキュラムを越えた、人間の全体的な成長を」というハーンの思想にはとても共感します。

自然を舞台にしたアウトワードバウンドは日常の中で手軽に頻繁に経験するのは難しいという問題がありました。
そこで生まれたのが「プロジェクト・アドベンチャー」です。
1971年にアウトワードバウンドの経験のある教師らによって、アウトワード・バウンドを学校で展開するために作られたカリキュラムがPAとして発展していきました。
ジェリー・ペイは父親がミネソタアウトワードバウンドを設立する手伝いをしていていました。
その後、マサチューセッツ州にあるハミルトン・ウェンハム高校の校長としてジェリーとその同僚、ゲイリー・ベイカーは、アウトワードバウンドのプログラムを公立高校で使うために、連邦教育局に提出する企画書を作成し、それを「プロジェクトアドベンチャー」と名づけます。
「私たちは、子どもたちが生き生きとし、機敏で知的であり、責任感があるという報告を受けた。プロジェクトに取り組んでいる子どもの見学にいけば、生き生きしていて、機敏で、責任を持って取り組んでいる姿を見ることができる。教師に聞くと、その子どもたちの成績表の評価は”非活動的、無気力、不注意、無責任”だったにも関わらず。しかし数日感、生き生きと機敏に生活した後にプロジェクトから去れば、彼らは昔の態度に戻ってしまった。このことは、私に”致命的な何かを見落としている”ということを伝えていた」

最初にPAに参加した455人に関する最終的な評価では、自己概念(self-concept)において統計的に大きな成果が見られました。
自己概念は、Tennessee self-Concept Scale
内的統制は、Rotter Scale of Internal External Control
で測定されました。
この結果を受け、1974年にアメリカ連邦教育局から様々な賞と資金が授与され、PAの普及・拡大に繋がっていきます。

続いて、Project-based Councelingの全体像についてまとめます。
本書の第2章〜13章をぎゅっと以下の図にまとめてみました。
ABC_whole_model
全体像の重要な要素をピックアップすると以下のようなところになります。
「基盤(ベッドロック):ベースとなる理論を押さえた上で、
「GRABBSSアセスメント」:で参加者のアセスメントを行い、
「活動の選択」:アセスメント結果やディシジョンツリーを参考に適切な活動を選択し、
「アドベンチャーウェーブ」:変化・成長を引き起こす体験の流れ(ブリーフィング、実体験、ディブリーフィング)を生み出し、学習を進めていく、というものになります。

基盤(ベッドロック)

まず、基盤(ベッドロック)となる様々なについて認識する必要があります。

理論

根底にはABCカウンセリングに関する重要な理論が存在します。
ひとつずつ見ていきます。

グループ理論
問題や症状を個人のものとしてではなく、グループの視点からより大きなシステムで起こっているものとする考え方。
「パーソナリティの発達の核は、”環境の中の、グループの中の個人”である」という信念に基づいています。
  • 人のパーソナリティは、他者との相互関係、主に小グループの中で、発展し、成長し、変容し、そして修正される。
  • 人がグループの中で得る役割、状況(立場)、体験は、その人の一部となり、他のグループに行くときにも持ち越されていく。
  • グループの仲間の影響は、個人の理解、態度、感情、行動に強く作用する。
  • 精神的、社会的な健全さは、分析や内省だけでなく、行動や体験を伴わなくてはならない。
  • グループに参加してグループの目標を達成することは、民主主義社会の中で問題を解決するための主要な方法のひとつであると同時に、人が人生の意味や目的を見つける方法のひとつでもある。
  • 小グループでの意味ある体験を互いにシェアすることは、理解の架け橋を作り、年齢、人種、民族的な背景、宗教、社会的地位期、身体的・精神的障害の状態、性差、政治的信念、性的嗜好など人の多様性を超えて共に活動することを学ぶための、最も効果的な方法である
  • 人が成長し変容していくことを助ける方法としては、弱さに焦点を当てるよりも、強みを知ることの方が有益である
  • 問題解決のプロセスやプログラムの進展の中で、グループはそのグループ自身の構造やコミュニケーションパターン、文化を作っていく
  • グループは、常に出来事が変化するライフサイクルを進んでいく
  • グループは社会の縮図であるため、メンバーはしばしば一般的な文化の信念や価値を表す
  • グループに貢献するメンバーとなり、参加による恩恵を楽しむことは、適応機能に関連している
  • 人と環境は、互いに影響し合う普遍的なシステムを作っている(相互関係を作る)。
  • 適合度とは、個人とその個人を育んだ環境との関わりを通してなされる、相互的なプロセスである。
  • 人は、目標に向かい、目的を持つ。人は能力を得ようと努力する。環境に対する個人の主観的な解釈が、成長の鍵である。
  • 肯定的な変化は、人生体験によってなされる
    (Greene and Ephross, 1991)

アクティビティベース

ABCのアプローチは、小グループで体験されるグループプロセスによって勧められる。
アクティビティベースを使うことは「今ここ」で起きていることを題材にし、その後解釈し、一般化し、参加者が今いる、あるいは将来関わる他の社会の仕組みに適応できるようにする。
活動は多様なモダリティを持つことが要求され、理論的にはハワード・ガードナーの多重知能がこれを支持している。
ABCモデルの主な強みは、活動、プロセシング、グループダイナミクスにおいて多重知能が扱われる点。
このモデルでは、参加者に伝統的な学びやカウンセリングのモデルを使って強みを認識させるのではなく、支援的な態度で他の知能と共にそれらの強みを築いていく。

A-B-Cトライアングル
A-B-Cトライアングルでは、Affect(感情)、Behavior(行動)、Cognition(認知)の領域を人の体験を保管する強力な貯蔵庫として使っている。
感情、行動、認知は、ときにバラバラに体験されるが、それらが統合されることでバランスを取ることができる。
アクティビティを通して、グループのメンバーが持ち込む感情、行動、認知の脚本を紐解き、書き直す。このことは、健康的な自己を発達させる隠れた力となる。

・感情(Affect)
体験に感情、フィーリングが伴うことで、段階的な統合が可能になる。
主要な感情「驚き、恐れ、興味、苦しみ、怒り、喜び、防衛的な反応(軽蔑・嫌悪・恥しさ)」(Demos, 1977)

ユングの原型と集合的無意識
ユングは、意識領域を3つに分けた。
・意識(consciousness)
・個人的無意識(Personal Unconscious)
・集合的無意識(Collective Unconscious)
集合的無意識は、個人的無意識のさらに奥深くにあり、個人の現実的な人生経験を超えた人類に共通する元型(心の型)によって構成されている。
集合的無意識によってグループカウンセリングやセラピーの潜在力は光り輝く。
グループワークでは、物事に納得して感情が融合されていく感覚、世界が動き始めるような感情を体験することができる。
世界というコミュニティがグループという小さな世界の中に見られる。
活動を通した体験は、課題が持ち込まれ、そこに焦点を当て、解決していくという極めて本質的なことである。

元型
ユングが初めて概念化した元型とは、集合的かつ歴史的な無意識、誰もが持つ精神的な本能の型のこと。
例えば、「母」という言葉からは「優しさ」や「愛情」等の共通する言葉がどの世界でも出て来る。これは「人間に生まれ持った共通する心のパターン」があるからである。
Bacon(1983)は、アウトワードバウンドの聖なる場所として大自然を恐れ敬っていた。その人の準備が整っていて、体験に対して開かれているなら、変容することのできる場所だ。
「人類がその元型パターンを世界に見出すとき、無意識のうちにその具体的な表れに気づく用意がなされている。鳥が冬に南を目指して飛ぶことを準備されているように、生徒も荒地を神聖な空間として見る用意がなされているのだ」(Bacon, 1983)

・行動(Behavior)
バンデューラは、「遂行経験」は、自己効力感を育てるのに最も効果的な方法であると考えている(Bandura, 1977)
実際に困難に立ち向かっているときの失敗体験は、動機付けられた粘り強さを強化する(Bandura, 1977)
バンデューラは、外界からの報酬と罰による行動決定より、観察と具体例、つまりモデリングと行動の模範から学ぶ、と考えている。
彼はまた、代理強化も強力な学びの道具になると考えている。
肯定的なフィードバックを受け取れる、価値ある他者の行動を観察することで、その行動をよいものとして自分に結びつける。
モデリングは行動についての非常に強力な道具。
参加者は正しい行いをすることで、お互いが進歩している姿を見ることができる。
ロールモデルの存在や肯定的な行動の現れによって、グループワークの中で無意識の発展的プロセスが起きてくる。
他のグループのメンバーも学んできた肯定的な行動を自然に真似するようになる。
ABCグループのグループでは、成功とは、「理にかなった試みをすること」と定義される。
・失敗はその試みを分析し、そこから学ぶことによって成功に変化する
・「達成」とは、その結果だけではなく、プロセスも同じくらい重要である
相互決定論:環境の中でどの部分を知覚し、行動するかは、認知によって決定づけられる(Ryckman, 1982)

・認知(Cognition)
ABCトライアングルの認知は、J.ピアジェに通じている
彼は認知の発達を「知覚された環境の組織化、適応化と考えている。”認知の組織化”は、私たちの環境(行動)との相互作用を通して作られるスキーマと関係しており、私たちは情動(感情)と認知行動のつながりを作っている」(Wadsworth, 1979)
スキーマは世界との相互作用を通して発達し、そして変化して深くなっていくとピアジェは述べている。
ABCグループはグループ体験や現実の世界での問題を解決するためにルールを決めたり、計画を立てたり、戦略を立てたりする。それによって問題解決のプロセスの潜望鏡の視点が生まれる。ABCモデルは、肯定的に問題を解決するために必要な枠組みを備えている。

フルバリューコントラクト(Full Value Contract)
グループ参加者と共に作り上げる行動規範のこと。
リック・メドリックが考えたものをポール・ラドクリフが「No-discount Contract」として紹介したのが大元。
2つの基本的な約束があった。
,互いに尊重する:自分のことも他の人のことも軽視しない・価値を軽んじないという約束
¬槁犬鮴瀋蠅垢詭鸞:目標に取り組むためにグループのサポートを行う
Discountは、無気力、敵対、けなす、人としての価値を下げるような行動を意味する
Contractは、同意することとお互いに尊重することを意味する
⇨Noとdisという2つの否定ではなく、肯定的な表現にするためFull Valueという言葉を提案し、今に至る

フルバリュー行動
ファシリテーターは、フルバリューを使うことによって、グループの規範を確立することができる。
ABCはフルバリュー行動を、成長を目指した、人格に関する学びの領域へとつなげる。
「フルバリューコントラクト」「フルバリューに基づいた行動」「フルバリューに関する学び」
の3つが相互に関連し合っている。
フルバリューコントラクトで規範を決め、そこに組み込まれたものが行動になり、行動を振り返ることで、学びを受け取っていく。

フルバリューの構成
フルバリューの構成を以下の表としてまとめました。
Fullvalue

フルバリューコントラクトの全ての解釈は、グループに次のことを問いかける。
^汰瓦蚤臉擇砲任る行動規範を理解する、あるいは作る
▲哀襦璽廛瓮鵐弌質完によるこれらの規範へのコミットメント
それらの規範を維持するために共有された責任を受け入れる

チャレンジバイチョイス(Challenge by Choice)
挑戦のレベルや方法は参加者自らが決めるとうこと。
成功とは全ての参加者が全てのことを達成することではない。
何かをやらないという選択は、何かをやるという選択と同じ可能性がある。
参加者が活動に関わることから逃げ出すという苦情を回避する方法として、2つの方法がある
〇臆端圓挑戦のレベルを選べる:挑戦から抜け出すことへの許可を意味していない
▲船礇譽鵐献ブチョイスという言葉を使う:参加者は挑戦のレベルを選択できるが、挑戦の場に留まらなければならない

GRABBSSアセスメント

理論の土台の上に、GRABBSSを使ったアセスメントが乗っかります。

GRABBSSの焦点
・Goal(目標):個人の成長やグループワークに焦点が当たっているか、目的を思いださせる
・Readiness(レディネス):これから行う活動のスキルがどのくらいあるか
・Affect(感情):グループや個人が体験した感情
・Behavior(行動・態度):グループやそのメンバーが取っている行動
・Body(身体):参加者の身体能力
・Setting(背景):活動が行われる場所、参加者の生い立ち(文化など)
・Stage of Development(発達段階):成長の過程において個人やグループが今現在いる場所

GRABBSSの用途
GRABBSSには3つの用途がある。
「個人」「グループ」「ファシリテーター(リーダー)」に対して使用できる。
セルフアセスメントをすることが自分自身について学ぶための実践的な方法になる。
GRABBSSを使ったリーダーシップアセスメントの自己質問が記載されていたので表にまとめました。
GRABBSS_Leadershp

GRABBSSアセスメントのタイミング
事前:インテイクアセスメント
プログラムが始まる前に参加者についてより多くのことを知るために行うアセスメントのこと。
偏見を持たないように注意すべきであり、何を知っていようとも、変容は起きると信じることが必要。

進行中:
アクティビティの進行中にもファシリテーターは、GRABBSSを使ってアセスメントを行う。
GRABBSSアセスメントはグループだけでなく、個人にも応用可能であるとして、双方が紹介されていました。
それらを1つの表にまとめまたのがこちらです。
OngoingAssessment

グループの成長段階の把握
タックマンのライフサイクル、シンプソンの「コントロール-エンパワーメント尺度」、そしてGRABBSSアセスメントを用いて、グループの成長段階を把握する。
タックマンのライフサイクル
グループのライフサイクルの中に4つの段階があると考えた。
(フォーミング、ストーミング、ノーミング、トランスフォーミング)
シンプソンの「コントロール-エンパワーメント尺度」
ファシリテーターによる指示的なコントロールから、徐々に自発的、自治的な行動へ動いていくことを通して、グループが進歩していく発展的な段階を示している
コントロール(1)〜エンパワーメント(10)

活動の選択

参加者をアセスメントしたら、適切な活動を選択していきます。

ディシジョンツリー(The Decision Tree)
適切なアクティビティを選択するために活用できるのが「ディシジョンツリー」です。
The Decision Treeは選択のための樹形図という意味で、6つのステップで構成されます。
こちらについては別記事でまとめています。

アドベンチャーウェーブ

ここからは、実際のアクティビティに入っていきます。
ファシリテーターは、連続する活動で生まれるアドベンチャーウェーブを作っていきます。
これは、アドベンチャーの全体的なプロセスの比喩で、以下3つの領域に分かれます。
.屮蝓璽侫ング:活動前の準備(ガイドライン、ルール、安全)と枠づけ(意味づけ)が起こる
⊆詑慮(doing):実際に活動を行う
ディブリーフィング:グループでやったことを話し合い、つながりが作られる
これは、経験学習サイクルのプロセスとも重なります。
・リフレクション「何が」(What?):体験の中で何があったかを説明
・抽象化「だから」(So What?):体験の解釈
・転移「それで?」(Now What?):体験を他の状況へと派生する、学びの応用

カウンセリング・オン・ザ・ラン
カウンセリング・オン・ザ・ランは、行動を通して成長するカウンセリング関係である。これを実践するカウンセラーや教師は、生徒が必要とすることを解釈し、プログラムをデザインすることの両方をできなくてはならない。高校生が自身の成長を目指す中で、言語的なスキルに限界があるため、解釈とデザインのテクニックが非常に重要になる(Schoel, 1973)

【オン・ザ・ランを構成する要素】
・聴くこと
・まとめること
・調整すること
・フォローアップすること
・静かにいること

ブリーフィング

アドベンチャーウェーブはブリーフィングで始まります。
ブリーフィングの2つの重要な要素は、「アドベンチャーの土台を作ること」、「アドベンチャーを枠づけすること」。
「土台づくり」と「枠づけ」が形づくられると、グループは実体験(doing)に向かって動き出します。

「土台づくり(グラウンディング)」
土台づくりでは、「何が起こるのか?」「期待されていることは何か?」という問いに答えます。
この説明と期待には、以下の要素が含まれます。
・準備:以下参照
・「今ここで」を大切にする姿勢:メンバー一人ひとりが貢献の価値を認められる形を共に作る
・新しい言葉を使う:グループ共通の新しい言葉を使うことで、全員が共通の場に立てる
・赦しと新たなスタート:生き抜くに必要な「よろい」の武装を剥ぎ取る
・安全と権限:肉体面・精神面の安全確保

【準備:ファシリテーターが考慮する必要のあること】
・グループの目標、構成、レディネスに合う活動を選択
・活動について何を言うか、どのように言うかを決める
・天気予報を確認し、室内スペースを確保。活動の代替案を用意 - 最新の救急法、CPRスキルを身につけておく
・必要なファーストエイドキットを準備し、医療機関へのアクセス方法を確認
・全ての参加者に関する医療情報が集められているか確認
・水、トイレ、雨などの場合の避難先が集められているか確認
・適切な服装をしてこなかった生徒への対応を考えておく(ヒール、スカート等)
・プレフライトチェック(事前のプログラムサイト確認)をしてみて、ガラスの破片やその他の危険なものを取り除いておく
・ブリーフィング、実体験(doing)、ディブリーフィングに十分な時間が確保されているか、プログラムの見通しを確認

アドベンチャーを枠づけ(フレーミング)する
「グループにとって意味深いつながりと価値を作っていく積極的で、相互的なプロセス」のこと。
アドベンチャーを日常生活につなげるための鍵を握るのが「比喩」です。
比喩にも様々な解説がありました。

【アドベンチャー活動における比喩の使い方】
ヽ萋阿旅柔:暗に意味しているもの、本来持っている意味(グループには明かされていない)
∧孫圓△襪い脇鰻燭里弔覆り:本来持つ意味をグループの意識に届けるために意図的に仕掛けられたもの

【比喩的な関連づけによる学習転移の3つの戦略(Pinkard, 1995)】
.ープンエンド:参加者が彼らの体験から引き出し、比喩的なつながりについて話し合う
ファシリからの指示はほぼなく、グループはグループ体験の一部分として比喩的なつながりを作っていく
例:ハイキングの帰りに自然と体験について語り合う
△△蕕じめ決まっているもの:ファシリがあらかじめ決めている活動の枠づけを示す(指示的な比喩)  「協力してやるためにはどんなスキルが必要だろう?」
「信頼を損ねるような行動をしたらどう感じるかな?」
カスタムマッピング:ファシリとグループによるコラボレート、共同のアプローチ(共に作る比喩)
全員が比喩の創造に参加するグループイニシアティブ
ファシリによる指示的な比喩から、グループにより作られる比喩に移行していく(あらゆるグループの目標とするところ)

フルバリューの構築
フルバリューへの突破口は、ニューヨーク市の「The Harbor for Boys and Girls」のカウンセラーであったバリー・オームズとバディー・オレンジの活動により生まれた
参加者に自分たちの約束を作らせるアイデアを紹介し、その活動をBeingと名付けた

内側と外側の考え方

・内側:生産的:よいもの、外側:破壊的:悪いもの
・阻害するものは外側に書かれ、よいものは常に内側に置いた
・Being:紙の上に寝転び、体をなぞり容れ物ができる。その中によいものが詰められ、外側には悪い(価値を損ねる)ものが取り囲む
・ビーイングがグループプロセスの確認(チェックイン)の道具として使われると相互作用が起こる
 「私たちはビーイングを大切にしているだろうか?」
・アドベンチャー活動全体の90%で一般化される価値は「尊敬・尊重」。シンディ・シンプソンはそれをフルバリューコントラクトの基礎にした。
 「尊敬・尊重」は「正直に」と「安全に」とに関連

ビーイングを行動に表していく
・ビーイング、ビレッジの目標:グループはメンバーで作り上げたフルバリューにコミットし、それに加えて個人の目標を設定する。これらのコミットメントは、グループメンバーのサインによって確認することができる
・目標設定とチャレンジバイチョイス:発展してきた肯定的な規範と価値の中には期待が込められていて、期待は目標設定のプロセスに流れ込んでいく。
・目標設定の周りにある不安を小さくする:目標を意識化することを強いるのは不安を生む可能性がある。
・誰の目標なのか?:目標設定のモデリングが始まる場は、ファシリテーターがグループのメンバーに対して持っている大いなる期待という荷を下ろすことから始まる。達成は、ただ彼ら自身のもの。
・グループの目標へのコミットメント
(目標設定のためのウォームアップの質問)
 ・このアドベンチャーをどんな機会にしたいですか
 ・あなた達にとってどんなことが困難になると思いますか
 ・簡単にできそうなことは何ですか
 ・一番楽しみにしていることは何ですか
 ・アドベンチャー活動を行ううえでリスクになることは何ですか
 ・他者と関わると、どのようなよいことがあるでしょう
 ・どのようなタイプの人が一番好きですか
・ライフボール(ムーンボール):ボールをついて地面に落とさないように空中でキープ

個人の目標へのコミトメント
・グループが成功すると、ここのメンバーもより達成に近づけるような感じがする
・個人の目標設定は、「転移」の一次領域
・グループが学んできた一般化された目標が、個人の具体的な行動に置き換えることができる
・パーソナルアクションプラン(PAP)
 非言語の目標設定:言葉で表現できなかったり、しようとしない人もいる。ファシリはそれを受け止め支援する

実体験(doing)

実体験(doing)に入っていくと、ファシリテーターは、土台の確立、枠づけ、安全への配慮、メンバーの課題の理解等々、様々なことを心に留めておく必要があります。

【土台づくりの特徴】
・「今ここで」を大切にする姿勢
・新しい言葉を使う
・赦しと新たなスタート
・説明と期待
・安全と権限

【再枠づけ(リフレーミング)】
リフレーミングはクライアントが同じ体験を異なる視点で見るのを助けます。
敗北を勝利に、損失を利益に変える力があります。

【介入】
介入はグループが立ち止まって、自分たち自身のことや、今何をしているのかということを見る必要があるとファシリが考えた時に行われます。

【介入するとき】
・介入は活動の選択が悪かったという意味ではなく、単に、グループの資源が尽きたときに必要なもの
・常に不必要な介入をすると、メンバーに対して自分たちは弱い、自分たちの行動を自ら管理できないというメッセージを送ってしまうので注意
・一方、介入するタイミングを待ちすぎると、あまりに多くのカオスを体験し、否定的な印象を受けるかもしれない

【介入の方法】
・一歩踏み込み、説明をする
・より適切な活動を代用する
・活動を修正する
・グループに再び焦点を当てる
・確認(チェックイン)
・グループコール:全員集めて、問題が解決するまで進めないと主張

ディブリーフィング(ふりかえり)

ディブリーフィングは、参加者の人生の物語とアドベンチャー体験が合わさって生み出されます。
ディブリーフィングは、言葉による行動であり、それ自体が体験的な変容のプロセスです。

【ディブリーフィングの組み立て】
・ウォームアップ
・何が?(What?):「What」で振り返ることで体験に戻ることができる
・だから?(So What?):「So What?」で学びを抽象化し、一般化する
・目標に立ち返る:「自分の目標について話したい人は?」「誰かが目標に取り組んでいるのを見た人は?
・それで?(Now What?):活動で学んだことを「別の状況への再適用」する(Rhoades, 1972)=転換点(Transfer Point)

【話し合いへのカッティングオフ】
グループが焦点を当てて軌道に乗っていられるようにするためのコントロールスキル
ファシリテーターがカッティングオフを使いたくなる状況(Jacobs, 1994)
・だらだらと話しているとき
・グループの目的に合わないコメントがあるとき
・不的確な発言があるとき
・焦点を別のところへ移す必要があるとき
・セッションが終わりかけているとき
・論争しているとき
・助けが必要なとき
・支配的なメンバーがグループをコントロールしているとき
・必要な緊張から脱線しようとする人がいるとき
 
【カッティングオフの順序】
“鷂生譴離瓮奪察璽犬鯀る
割り込む
9佑┐襪燭瓩了間の必要性を言う
い劼噺世粘蔽韻砲泙箸瓩襪茲Δ妨世
ゾ播世鯤僂┐
Ω紊任發Π貪挂瓩辰討るという約束をして中断する
А峽り返しの議論をしない」という土台のルールを作る
話し手に「ちょっと待ってね」と頼み、話題に戻る

【ディブリーフィング(ふりかえり)の活動】
グループの話し合いを引き出すには2つの方法がある
・直接の方法:絞った質問をする、グループマネジメント
・関節の方法:2人組、輪になって集まる、書く

以下は、ディブリーフィングの様々な手法です。
ここまで沢山の種類があるとは。色々試して、引き出しを多くしていきたいです。

【輪になる】
・説明文:文章、あるいは一言を言う
・強い願い、必要不可欠なもの、重荷:参加者は3つのどれかを選ぶ
・物語を作る:グループのひとり、あるいはファシリが最初に文を作り、メンバーが次々にその文に付け加えていく
・キーワード:「この体験を表す一語を考えてください」
・メモリーゲーム:誰かが体験・出来事を詳しく説明し、言い忘れたことを他のメンバーが付け加えていく
・確認のサークル:ゴーアラウンドで他メンバーに対する肯定的なフィードバック
・ホイップ:「・・・が嬉しかった」で終わる文章を順番に言う

【体験を採点する】
・親指メーター
・電極の「正極」「負極」と中間:両極を表す尺度を使う。中間は質的に条件を満たしていないことを示し、よく質問される
・ギア(ロー、セカンド、3速、4速、5速、バック、フットブレーキ、サイドブレーキ):「今日のあなたの機械の調子はどう?」
・1〜10のランキング:自分が選んだ数字の場所に立ったり、指で表して、体験や感情をランキングする
・ギャップ分析:「ギャップ」(望むこととの差)は、空虚感を生むが、同時に可能性でもある
・温度計:「暑い-暖かい-涼しい-寒い」を使ってランキング
・色カード:活動中どんな気持ちだったかを色で選び、その理由を説明

【役割】
・ハンマーと釘:誰の意見も聞こうとしなかった、自分では何も言わなかった
・助ける人と助けられる人:自分がどの立場であったか
・リーダーとフォロワー:どちらか(あるいは両方)を認識する
・犠牲者と加害者:加害者が見つけられなくても犠牲になっていると感じるメンバーがいることもある
・ディレクターと観客:指示する人か、受け身で行動しない見ている人か
・話し手と聞き手:話し手と聞き手のバランス
・思考派と行動派:カテゴリーに当てはめることによって、可能性や変化の方法と向き合うことができる
・働く人と見ている人:自分を働く人と見るか、見ていて話し合う素材を提供する人と見るか
・母親、父親、子ども:グループの中でどのような役割だったか
・共依存とイネイブラー:誰かのために何かをするということは、他者の力を取り上げることであり、それはエンパワーメントではない
・アイデアパーソン:「言えなかったアイデアがある人はいますか?」
・アジテーター(かくはん器):洗濯機の回転。グループを洗濯機に入れるのは困難で、痛みを伴うため、きれいにしようとしたがらない
・グループの車:グループが車だとしたら、メンバーは、ホイール、ウイングシェイド、ミラー、ガスタンク、スパークプラグ、シート、ラジオのどれに例えることができるだろう(家を比喩に使うこともできる)

【シンボル(象徴)】
・モール彫刻:簡単に手に入り、持ち帰る(記念品)ことができる。モールの数は、1人1〜2本を限度とする
・粘土:
・自然から持ってきたもの:枝、苔、岩、樹皮など。写し取ったり、説明したりできる
・ストーンヘンジ(石の彫刻):石を積み上げてバランスを保つ。石を積んでいる間、その石の意味(人生のステージ、目的、リスク、体験と役割)について思いを巡らせることも
・動物(自分を動物に例えると):活動の中で最も魅力的だった、あるいは最も困難だった場面を表す動物の動きを選択する
・個人の彫刻:枝、苔、缶など様々な素材を使い、表現(ストーンヘンジと同じような特性、組み合わせることもできる)
・ビデオ撮影:現実をありのままに映し出すシネマ・ヴェリテ
・写真:体験の一時停止
・コラージュ:多様さを提供する
・ライフライン:横線は人の人生
・ジェノグラム:その人の発達に影響を与えた鍵となる問題に触れた、家族の歴史の中の相互関係を表したもの
・ふせん紙:ふせん紙に大切な学びを書いて壁や紙に貼り出す
・ビーイング:模造紙にグループメンバーをなぞる。内側に肯定的な行動・態度、外側に否定的なものを書く
・グループの旗または絵:マーカーと紙を使って、グループ体験の評価を描いていく
・ゴミ箱:好きなこと、嫌いなことを紙に書いて、否定的なものを火の中かゴミ箱に入れる
・どう見えて、どう聞こえて、どう感じるか:3つの項目について取り組むことで、鍵となるコンセプトを言葉やフレーズで表現し、定義する機会が与えられる
・読みものと書くこと:実体験の中で、状況に合った読み聞かせをしておくと、ディブリーフィングの会話を刺激する
・記事(雑誌・新聞・インターネット)
・ジャーナル(日誌)を書くこととシェアすること
・ゲシュタルト-ジャーナルライティング:話したり書いたりすることを全て現在形で行う。追体験をよりリアルに実感
・ファスタルト-ジャーナルライティング:同じように現在形で考えるが、過去ではなく未来のことについて書く
・自分や他者に手紙を書く
・ヘッドライン(新聞の見出し):活動とその解説を新聞の見出しに
・バンパーステッカー:ヘッドラインと似ているが、より謎めいたメッセージに
・文を作る:書くことで表現する
・物語を作る:グループは物語を作り、伝えていく
・イメージを導く:目を閉じて体験の最もパワフルなイメージをたどっていくように話す
・風景:体験をふりかえる旅に出ましょう。あなたの心に浮かぶ窓から何が見えますか?
・スナップショット:ヒューマンカメラ(目を開けることがシャッター)
・ポストカード:ヽ┐鮑遒蝓↓見出しをつけ、B慮海鯆未靴胴圓べき場所を書く

【2人、3人、小グループ、ベースチーム、エキスパートチーム】
・結果報告:様々な気づきをグループ全体に報告
・ヒューマンカメラ(トラストウォーク版):

【感情】
・感情カード(フィーリングマーケットプレイスカード/i amagram)
・核となる感情:メロディの核となる感情を参照
・表情:どう感じているかを表情で表す
・同じようなことへの関連づけ:このことからあなたの人生で思い出す出来事がありますか?
・色カード:色カードを選びどうしてそれを選んだかを説明
・天気予報:夕方のニュースの雰囲気で
・感情釣り:魚を描き、切り抜いて、その魚の中にあなたの感情を書き入れ、海の中に置く。グループはそれぞれの感情が誰のものであるかを推測する
・ふりかえりのための時間:一旦立ち止まり、起きたことについて深く考える
・感謝:感謝の感情を述べる

フィードバックのマネジメント
【I(アイ)メッセージに関する4項目(マーク・マーレイ)】
・観察したことを具体的に。判断せずに明確に言う。
・行動体験に沿って、感情を明らかに。
・行動によって送り手に起こる(起こった)影響を明らかに。
・「これは私の認識で、あなたが変える必要はないのですが」という表現を使って寄り添う
 
【フィードバックの基本原理】
.侫ードバックを送る人の名前を使う
否定的なフィードバックと肯定的なフィードバックのバランスをできるだけ取る
「これは私の認識で、あなたは変えなければならないのではないのですが」と受け手に伝えておく
ご兒,靴森堝阿鬚任るだけ具体的にする。一方的な判断は最小限に留め、明確に言う
イ匹旅堝阿あなたにその感情を持たせたかを明確にする。FBは言いすぎても控え目すぎても、その感情を明確にできない。
Π戝競侫ードバックを送ったら、聞く側になる
Ч堝阿牢蕎陬譽戰襪鳳洞舛鰺燭┐討い襪里如△△覆燭離瓮奪察璽犬牢蕎陲醗戝廚靴新舛覇呂韻蕕譴襪箸いΔ海箸鰺解しておく
┣魴荳を押しつける前に、その状況に対する最善策を考える時間を受け手に与える
あなたは贈りものを送り、その価値や意味は受け手にすぐに理解されないかもしれないということを理解しておく
他者に対するあなたのフィードバックは、自分へのフィードバックになるかもしれない。正直さは正直さを生む。何を学ぶべきかを教えてくれる

【フィードバックに取り組む】
・フィードバックフォーム、フィードバックシートを活用する
※フィードバックシートは別記事でまとめてます
 
【フィードバックのプロセスをシンプルに保つ】
・よくできたこと
・学びの機会

スパイラルゴール(らせん状の目標・転換と転移)

アドベンチャーの最終的な目標はグループ体験とその達成を、グループの枠を超えた他の体験に落とし込むこと、いわるゆ転移を促すことです。
そのために、参加者がスパイラルアウトして新しい行動を試す準備ができているのか、そのタイミングを失わないように気をつける必要があります。
【スパイラルアウトする準備に適した活動】
・インタビュー:個人、もしくはグループ全体にインタビュー
・ロールプレイ:仕事や家族の問題をロールプレイ
・ブレーンストーミング:直面し得る困難をブレストしリスト化する
・地域での奉仕活動(コミュニティサービス):これにはアドベンチャープログラムとの共通点がある

約束することがグループの日常になれば、グループ活動が終わってからも続けていくことは簡単
「transderivational search」(Bacon, 1983): ABCを体験すると、メンバーは知らず知らずの内に実社会で対処するモデルを身につける
効果的な一般化には、コース体験が生徒の実生活体験と高度に同型(同じ構造を持つという意味)であることが根本的に必要である。この条件が満たされ、またこれまでの非生産的な方法に対する適当な解決策を活動に取り入れ改善することができたら、実生活でも望ましい変化が起きるだろう。同型(isomorphism)が存在すること、従来の古い手法が改善されること、成功体験が得られることが、一般化の決定的要件である(Bacon, S., 1983)

効果的な一般化には、コース体験が生徒の実生活体験と高度に同型(同じ構造を持つという意味)であることが根本的に必要
同型(isomorphism)が存在すること、従来の古い手法が改善されること、成功体験が得られることが、一般化の決定的要件

---ここまでがまとめ---
いやぁ、壮大な旅でした。
なかなか全体像を整理することができず、何度も読み直しましたが、図式化することでやっと頭の中に整理できたように思います。
この地図を常に頭に入れ、各パートの詳細な知識や技術を実際に試しながら体験学習のファシリテーションができるようになりたいです。
続きを読む



著者のRon Bergerがこれまでアメリカの学校で実践、調査してきた生徒の変容を引き起こす数々の授業の事例や教育哲学が集録された本書。
PBL(Project-based Learning)で有名なチャータースクール High Tech Highも著者の教育の考え方に多大な影響を受けたそうです。
また、著者は、公立小学校で教えた後に、ハーバード大学教育大学院の修士課程に進学し、多重知能理論で有名なハワード・ガードナーのもとで学び直しをしていたことも印象的でした。
そこでは、プロジェクト・ゼロに参加し、良い学校のうまくいっている教室を調査したそうで、本書の中でも良いプロジェクトの事例が多数紹介されています。
そのどれもが、生徒達がイキイキと興奮に満ち、夢中でプロジェクトに取り組み学んでいる様子がありありと描かれ、宝石のように輝いていました。
小学校でもここまでのことができるのかと、驚きが絶えませんでした。

子ども達の心に大きな変容を引き起こす著者の教育哲学の真ん中には「クラフトマン(職人)」の考え方があります。
クラフトマン:誠実さと知識を兼ね備えた、自分の仕事に誇りを持って一心に取り組む人の姿
生徒一人ひとりがクラフトマンとして、美しい作品を作り上げることは変容をもたらす力があると。
そして、生徒のそれを後押しする学校環境をつくる情熱が変化を引き起こす火花になると。
学校が子どもたちに価値観を教えるのではなく、学校教育のプロセスそのものが価値観を植え付けるのだと。
この考え方にはとても共感しました。
生徒が社会貢献に繋がる作品をクリエイティブに生み出し、学校や地域住人など多くに人々がそれらを鑑賞し、賞賛する。
そういう文化が作られれば、生徒は自ずと主体的に作品作りに取り組むようになり、自分たちの活動によって多くの人たちが喜んでくれるという経験をすることで、自己効力感や自己肯定感なども上がることは容易にイメージできます。

本書は、上記のような学校において良き変化を引き起こす「エクセレンスの倫理観」(良いものを作ろうとする)がどのようなものかを説明し、そうした文化を築いて維持する戦略について書かれています。
各章、印象に残った部分を抜粋して以下に記載します。

はじめに

教え方やカリキュラム、学校の環境、地域コミュニティ。どれも欠かせない要素であり、そのすべてが同時に変化することが重要です。あの日、私たちが共有した精神、つまり倫理観がすべてに変化をもたらしました。子どもたちに「手伝いたい」と思わせ、協働を促し、少しでも質の高い作品をつくろうと真剣にさせたのです。この倫理観は学校の文化によってもたらされたものでした。p.16

エクセレンスの鍵は、文化にあります。家庭や地域やコミュニティや学校に、質の高い作品を生み出すことを期待し、支援を惜しまない文化があると、子どもたちはその文化に適応しようとするのです。一度、大きな影響力を持つ倫理観が根付いた文化に触れれば、その倫理観が彼らの基準になります。p.20

第1章:エクセレンスの収集家

・エクセレンスのライブラリー
私は授業で新しいプロジェクトを試み始める時、まず全員でエクセレンスを味わうことにしています。卒業生の作品や、他の生徒がポートフォリオを発表している動画、他校の生徒たちの作品、プロの作品をモデルとして引っ張り出してきます。そして、みんなで鑑賞し、批評しあうのです。これらの作品の力の源は何だろう?創造された物語に説得力があり、ワクワクするのはどうしてだろう? どのような歴史や科学の研究プロジェクトが重要で刺激的だろう? この数学の斬新な解法はなぜ息を呑むほど素晴らしいのだろう?p.55-56

第2章:学校にエクセレンスの文化をつくる

なぜ文化が重要なのか
生徒の成績は、家庭の文化、地域コミュニティの文化、そして学校の文化に大いに影響されます。生徒一人ひとりの持つ潜在的な能力はさまざままですが、一般的に、生徒の学習態度や学習成果は、生徒が身を置いている文化に左右されるのです。生徒は自分がいる環境の文化に馴染もうとして、学習に対する態度や努力の量を調整するからです。p.61

・コミュニティの価値
明確に断言できるのは、文化の力はコミュニティに根ざしているということです。p.70

学校教育をどのように改善するかを考える時、往々にして「何を教えるのか」や「どのように教える内容を改良するのか」に焦点が当たりがちです。でも、学校教育は知識を伝達するシステムとしてではなく、総体的な経験として捉えられるべきです。p.75

ペニー・エッカート氏は、著書『学校が好きな子、嫌いな子』の中で、学校で人気があり成績も良い生徒は、社会に溶け込む方法を学校という場で学んでいくけれど、そうでない生徒にはそれはとても難しいと指摘しています。学校に馴染めない子どもは疎外感や憤りを感じ、往々にしてそれが一生続くこともあります。彼らに必要なのは、自分を仲間に入れてくれ、成功するように後押しや支援をしてくれる学校のコミュニティです。p.75-76

・コミュニティを内外から変える
定期的に地域のコミュニティにも働きかけて、サポートを求めています。毎日のように、年齢にかかわらず多くの町民が学校を訪れて、メンターやチューターとして子どもたちを支えてくれています。〜生徒たちは毎年、町の道路を清掃し、街の活動のための資金を集め、さまざまな重要なプロジェクトに取り組んでいます。例えば、町内のラドンガス検査、河川の汚染検査、井戸の水質検査、町の歴史記録のための調査、州当局に提出するための地元の動物の国勢調査などです。p.89

・ある教室のストーリー - 広い意味でのコミュニティの構築
エクセレンスという概念は、「人としてエクセレンスであること」、つまり「社会にとってかけがえのない人であること」だと広く捉えることができるのです。p.100

第3章:エクセレンスを追求する学び方

・自尊心は褒め言葉ではなく、「成し遂げる」ことで育まれる
生徒は自尊心をまず高めて、そのあとに作品の質を高めることはできません。良い作品をつくり上げるその過程で自尊心が培われるのです。p.103

・力強いプロジェクト
テーマ学習では、3つか4つの重要なプロジェクトを行い、そのほとんどはリサーチ力、書く力、図表やイラストなどを作成するスキル、そして時には数学や科学のスキルを必要とするものです。プロジェクトを進める過程では、伝統的な学校と同じような講義やスキル習得の授業が行われることもあります。しかし、伝統的な学校とは違って、これらのスキルは生徒が真剣に取り組んでいるプロジェクトですぐさま活用されるのです。p.105

プロジェクトにはルーブリックという評価ツールやチェックリストがあり、生徒それぞれに何が求められているかが明確にされています。このルーブリックは、プロジェクトに必要な要素、完成までのタイムライン、プロジェクトの質をどのように測るのかなどが正確に書かれています。多くの場合、これらのルーブリックは先生と生徒が一緒に作成します。p.112

・作品を通して読み書きの力を育む
プロジェクトとは、それ自体が基礎レベルのスキルと高次のスキル双方を教授するものです。〜
ほとんどすべてのプロジェクトで、偉大な作家の本を読んで理解し、文章を書き、リサーチをすることが必要です。〜「読み書きを教える時間」を設けるのではなく、プロジェクト全体を通して継続的に、読み書きの能力を高めるための指導が行われます。p.114-115

「実は、本当の研究というものをほとんど知らない」と言われることがよくあります。そんな先生にまず提案したいのは、「自分はすべてにおける専門家でなければならない」「あらゆる答えを知っている人間でなければならない」という思い込みを捨てることです。その代わり、自分は生徒と一緒に共同研究をしているリーダーであると考え、共に学べばいいのです。p.122

・モデル
どんなに言葉を尽くすよりも、一つの優れたモデル(模範)の方が多くのことを教えてくれます。p.129

トリビュート・ワークとは、卒業生や他の生徒の作品を参考にし、そのアイディアを拝借したり模倣したりして作った作品です。〜模倣は実に優れた学習方法の一つなのです。p.132-133

おそらく最も重要なモデルは人です。〜同様に、私も教師として、学ぶことにワクワクする姿をモデルとして生徒に示したいと考えています。p.134

・批評
批評セッションのルールは3つだけです。p.145
/得擇任△襪海(be kind)
具体的であること(be specific)
L鬚卜つこと(be helpful)

私は、2つの形式でクラス全体の批評を行っています。p.146
ギャラリー批評:すべての生徒の作品を掲示するか、作品のコピーを生徒たちに配布して、フィードバックの前にまず各自で目を通してもらう。この形式の利点は、生徒たちの間に「ひとまず草案を完成させよう」というポジティブなプレッシャーが生まれること、優れた作品にするためのアイディアやイメージが生まれるきかっけになること、クラス全体が求められている作品の質の基準を確認できること。
深い批評セッション:一人の生徒、あるいは一つのグループの作品を取り上げて、時間をかけて深く掘り下げていく。この形式の利点は、作品に関連する用語や概念をクラス全体で学べること、その分野で評価されている作品を取り上げて分析できること、昨日dんを改善していく過程をクラス全体にモデルとして見せられること。

・作品を発表する
「全員が私の作品を見るし、私の作品の質を気にします。前の学校では私の作品について知っていたのは先生だけでした。この学校では、作品がとても重要なものとされるので、もっと努力しなければならないと感じます」

・粘り強い生徒を育てるアセスメント
不思議なことに、テストで得点する技術は実生活とはほとんど関係がありません。卒業後の人生においては、どのような人でどのような仕事をするのかによって評価されることになります。テストの成績が評価対象となることはめったにありません。自分の子どもの成長を評価する時も、同僚の貢献度を評価する時も、テストの点数ではなく、人柄や業績になります。p.158-159

学校で行われる最も重要な評価は、生徒に対して行われるものではなく、生徒の内面で行われるものです。〜すべての学校は、評価のあり方をこの生徒の内面で行われるものまで変えていくことを最重要の目標とすべきです。どうすれば生徒の頭の中にまで入り込み、より良いものをつくりたいという気持ちを高めることができるでしょうか? p.160-161


第4章:エクセレンスを教える

・教え方の研究者
問題は、アメリカではほとんどの人が「教師は研究者である」という概念に気づいていないことです。指導方法を研究する公立小学校の先生が支援されることやそれが奨励されることはほとんどありません。また、そういった研究が指導方法の改善にもたらす効果を、ほとんどの学校管理職や政策担当者は認識していません。p.202

・ある教室のストーリー - 教えるためのインスピレーション
生徒がどれだけ私に感動を与えてくれるかは、私がどれだけ彼らに機会を与えられるかに直結しています。生徒たちに責任を与えれば与えるほど、また彼らが創造性や独創性を発揮できる選択肢を増やせば増やすほど、彼らの作品に驚かされ、感動させられることが増えます。p.221

素晴らしいプロジェクトの事例(一部抜粋)

【著者のプロジェクト】
・小学1年生とカタツムリの研究。2人1組で小さなテラリウムを共有し、それぞれが自分のカタツムリの世話をした。カタツムリが健康で幸せになるように、カタツムリが好む食べ物や環境について調査。140項目以上のあらゆる食べ物について、どのくらいの量をどれだけ早く食べたかをリストとしてまとめた。また、どのような生活環境が適しているかを調べるため、気温、明度、色など様々な実験環境を作り上げた。
・小学5年生の井戸調査プロジェクト。地域の家庭の井戸水の検査を大学と連携して実施。まず、小川や湖の水の汚染度調査から始め、町の委員会に報告書を発表。その後、各家庭を調査し、個別に検査結果とそれが何を意味するかを書いた手紙を作成。
・鉱山で水晶などの石を発掘し、その石について調査。それらを使ってジュエリー・ショップを展開。帳簿をつけ、商品をデザインし、値段をつけ、お店のルール等も自分たちで決める。

【他校のプロジェクト】
・カリフォルニア州メンドシーノの小学1年生は鳥について学習し、同年代の子ども向けの鳥に関する情報サイトを作成
・コロラド州デンバーにあるロッキー・マウンテン探検学校の1年生は、キャンプについて学習し、小さな子ども向けのキャンプ・ガイドを作成。作成中のガイドを持って全員で1泊2日のキャンプに出かけ、修正点を見つけ、ガイドを改良
・マサチューセッツ州レキシントンの4年生のクラスは、手工具と釘を使って自分たちの使う机を設計・製作。資金調達のために、非営利団体を立ち上げパンを販売。小麦を育て収穫し、手製の機械を使って挽いてできた小麦粉でパンを焼いた。
・デンバーの4年生は、『森の生活』に登場するソローのコヤの実物大模型を校庭に制作。寄付金を集め、クラス全員でボストンにあるウォールデン池を訪れ、そのほとりにある家に1週間滞在し、その後、レキシントンの戦いを町の広場で再現
・アイオワ州ダビュークの6年生は、地元の老人ホームで奉仕活動のプロジェクトを実施。インタビューを通して先輩の肖像画と詳細な伝記を制作してプレゼントした。
・ボストンのラファエル・ヘルナンデス校の中学生は、ロックスベリー地区の空き地調査に取り組んだ。土地の歴史を調べ、住民に空き地をどのように使ってほしいかをインタビューし、市役所職員、大学教授や学生と協力し、空き地の活用方法を検討。プロジェクトの最後には、その土地にふさわしい建物や庭園や遊び場などの設計図と縮尺模型を作成し、市長に提案書を提出。
・マサチューセッツ州ケンブリッジにある中学校の生徒たちは、町の建物について公共の記録を調べたり、地域住民へインタビューしたりして、地域コミュニティのガイドブックを作成。
・メイン州ポートランドのキング中学校の生徒たちは、学校近くの湾に生息する野生動物の野外ガイドを作成するため、本やコンピュータで調べるかたわら、ウェットスーツ、マスク、シュノーケル、足ひれを装着して湾内に入り、実際に水中で生物を観察したりスケッチしたりした。



奈良県の東吉野村にひっそりと佇む人文系私設図書館ルチャ・リブロ。
先日、不思議なご縁から訪問させていただく機会があり、そこで本書を購入させていただきました。
とても素敵な空間でした。
著者の青木さん夫妻が、なぜこの地で自宅兼図書館を開設しようと思ったのか、
ルチャ・リブロを通してどのような社会を実現したいと思っているのか、
とても興味深い世界観が広がっている一冊です。

タイトルにある「彼岸」というのは、「川の向こう側」という意味の他、
「現世の社会や常識から、少し離れた場所」という意味合いも込められているとのこと。
普段の暮らし、日常の中で無意識に羽織っている鎧を脱いで、素の自分に戻れる場所、そのようなイメージなのかもしれません。
僕らが住む社会は、誰かが作った常識や価値観が支配する社会。
そこで生きるために、無意識に(本当は嫌なのに)自分を無理やり合わせていることもあるんじゃないかと思います。
「その常識というものは本当に今の時代にフィットしているんだろうか」
「そして、それに合わせる自分は、本当に在りたい自分の姿なんだろうか」
そんな日常で覚えた違和感などの対話が繰り広げられるのが、著者らが運営するオムライスラヂオです。
オムラヂ、青木さんの声の良さもあってか、一度聴けば、結構癖になります。(ハマりました)
本書はそんなオムラヂでの12の対談とエッセイで構成されています。

全体的に面白いテーマと思想が飛び交い、どのページも楽しく読ませていただきました。
そんな中でも敢えて1つ、本書からいただいたインスピレーションを述べるとするならば「土着」という言葉を選びます。
著者は、現在の社会において理性的な意思で暮らす人々が不安に苛まされている現状に対し、社会でマイナスに語られがちな「不安定」を、「全体」の中にアジャストさせる、このプロセスを土着と呼んでいます。
僕自身が感じていた違和感もこれと近いものがありました。
それは、現代に生きる僕たちは、頭と心と身体がバラバラになってしまっていることが多いのではないかということ。
例えば、世間が言う常識に適合しようと考え行動した結果、心が望むものと整合しなくなってしまった、というような状態。そうなると、身体にも異変が生じたりしてしまいます。
衣食住、労働、教育、人間関係など、様々な要因で僕たちの頭と心と身体は自然な状態からどんどん離れ、バラバラになってしまっているのではないだろうか。
その結果、心から幸せを感じながらこの世界を楽しむことができなくなってしまっている人が増えているのではないか。
こんな違和感を最近ずっと持っていたので、本書の思想に触れた時とても嬉しく感じました。
ポスト近代は「土着の時代」。
優しく、幸せな新しい世界観が、ルチャ・リブロのような場所から生まれてくるのかもしれません。

【気になった箇所のメモ】
・北極星としての人文知:変化する時代で適切な判断をするためには、かなり遠距離に、動かない尺度を持つこと
・明治時代以降の近代化:近代化とはすべてを「共通のもの」にしていくこと。「自給」されてきたものが「購入」というプロセスを経て「商品化」され、皆が消費者になった。自給マインドがより重要になる。
・結局、自己という内宇宙に降りていく作業こそが、人として残されている仕事なのかも。降りた先で持って帰ってくるものは、時間や自然じゃないかな。自然は自分の内側にも外側にもあるコントロールできないもの。外側のコントロールできないものに触れることで、自分の内側への触れ方を学ぶことができる。
・人間界で上下関係ができていること自体が不自然。使われるんだったら人間にじゃなくて、もっと大きなものに使われたい。それは周囲の自然なのかもしれないし、一神教的な神なのかもしれない。
・「生命力を内包した身体」が空間と対話することで、私たちの「生命力」がわき起こる。気持ちのいい空間では生命力が上がり、パフォーマンスも向上するけれど、嫌な空間では生命力は吸い取られ、パフォーマンスも下がってしまう。
・単一のロジックで動いている世界の場合、その尺度が自分に合わないと、すごくしんどい。そんなとき、もう一つ違うロジックの世界を持っていると、よい意味でいろんなことを自分が心地よく感じるようにコントロールできる。
・入口と出口を常に開けておけば、さまざまな要素が入ってきて、選択肢が増えてきます。選択肢が増えることは自由につながるし、人は自由を感じると生命力も高まる。「ルチャ・リブロ」はそういう自由を感じられる場所にしたい。
・講演でいちばん大事なのは、声。あたたかくて浸透性のある声で話すということ。あたたかい声というのは内容にかかわらず身体に染み込んでくるんだって。めざすのは「オールドバイオリンのような声」。

【行ってみたい場所のメモ】
・富士正晴記念館:徳島出身の作家・富士正晴の書斎の再現
・レストランあしびき:次回、ルチャ・リブロを訪問する際はここのカツカレーを食べる!
・凱風館:内田先生の自宅兼合気道道場

サインもいただいちゃいました✌️
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サビカスのキャリア構成理論(Career Construction Theory)について書かれた重厚な一冊。
大学院仲間との勉強会に参加するために手に取りました。

内容は、以下のような構成となっています。
第1章(キャリア構成理論)では、キャリア構成理論に関する様々な理論等知見の解説
第2章(キャリア構成のケース研究方)では、当書で報告されている研究方法の解説 
第3〜6章では、各章で1人ずつ計4人のライフストーリーがキャリア構成理論の視点から読み解かれます
第7章(総合視点による事例検討)では、総括・まとめ 

第1の理論解説は、正直かなり難解でした。
キャリア構成理論に関連する理論や知見は
この部分は以下でざっくりまとめたいと思います。

第2章では研究方法について解説されています。
まず驚いたのは、キャリアのケース研究には本当に多大な時間がかけられているということ。
本研究では、対象者が「中学3年生」「高校3年生」「21歳」「25歳」「35歳」「38歳」「50歳」「54歳」「59歳」の時にそれぞれインタビューが実施されています。(もっと言うと両親にもインタビューされてます)
これだけ長い期間、対象者と向き合い続けてやっとその人のキャリアというものが見えてくる。
改めてこの研究のすごさを実感しました。
また、分析方法は、インタビューからライフポートレートを作成し分析するという定性的なアプローチだけでなく、適性検査・関心度調査・性格検査等の調査から定量的アプローチも行い、質量両面で多面的に分析がなされています。
定量調査として使用されたものはざっと見ただけでも以下のものがあります。
・DAT適正テスト(Differential Aptitude Tests)
・クーダー職業適正テスト(Kuder Preference Record Vocational Form CH)
・ネルソン・デニィ読解力テスト(Nelson-Denny Intelligence Test)
・オーティス・レノン精神能力テスト(Otis Quick-Score Intelligence Test)
・ロッター文章完成テスト(Rotter Incomplete Sentence Blank)
・ストロング職業興味検査改訂版(Strong Vocational Interest Blank-Revised)
・機械理解力テスト(Test of Mechanical Comprehension)
・主題統覚検査(Themantic Apperception Test)
・仕事価値観テスト(Work Values Inventory)
 
第3〜6章は、4人のライフポートレートが詳細に描かれています。
幼少期から老年になるまで様々なストーリーが展開され、シンプルに読み物としても面白いです。
もちろん、物語の面白さだけでなく、様々な理論を当てはめることで見えてくる分析も非常に興味深いです。
子どもの頃の経験や思考が、職業や人生の選択にどのような影響を与えているのかなど、様々な考察がなされていてとても読み応えがありました。

キャリア構成理論では、キャリは以下の3つのプロセスが織り混ざって構成されます。
.▲ター:幼少期〜
▲─璽献Д鵐函幼少期後半〜
オーサー:思春期後半〜成人期
全体像を表としてまとめてみました。
savickas.CCT

以下、3つのプロセスについてまとめます。

.▲ター:幼少期〜

幼少期から構成されるのは「アクター」です。
命題A:個人は、愛着スキーマと気質戦略を体系立てることで、家族内のアクターとしての自己心理を、家族と一緒に共構成する
ガイドである家族との交流によって個人はその人らしくなっていきます。
母親との交流からは、自己との関係やまわりの世界との関係に深い影響を受け、
父親との関係性は母親との関係以上に息子のキャリア形成と職業行動に大きな影響を与えます。
「家族からのメッセージが彼らの脳に永遠に記録さていく」という記載もあり、そうだろうなとは思っていたものの、”永遠に記録される”という表現に改めてはっとさせられました。
やっぱり両親との関係性はものすごく重要ですね。

【愛着スキーマ】
家族と今日構成した人間関係モデルから、愛着スキーマが生まれます。
愛着スキーマは、「安定-自律」「不安-アンビバレント」「拒絶-回避」「恐怖-無秩序」に分けられます。

【気質戦略】
また、愛着スキーマに従って、社会における役割を実行する気質戦略が形成されます。
気質戦略は、「安心するアルファ」「捉われるベータ」「恐るデルタ」「避けるガンマ」に分けられます。
愛着スキーマと気質戦略とのペアによって、アクターとしてのパターンが構成されます。
※認知スキーマ:愛着スキーマ
※パフォーマンス戦略:気質戦略

また、この頃「ロールモデル」を発見し、自己構成の一部として取り込んでいきます。
自己の発達課題を解決できて、自身の心理ニーズを満たすことができるロールモデル。
そのロールモデルを参考に自己体系立てを始め、尊敬して敬愛するロールモデルの人格特色が自分にも存在することに気づいていきます。


▲─璽献Д鵐函幼少期後半〜

幼少期後半からは、アクターがエージェントになっていきます。
アクターは、「自分の性格はどうか」「自分はどのように振る舞うべきか」という問いなのに対し、
エージェントは、「世界と自分の関係はどうか」「次に何をすればよいか」と問うようになります。
命題B:幼少期の後半、個人はさらに頻繁に動機づけられてエージェントとなり、自己調整プロセスを通じて目標達成に向けて、自分の知覚・感情・行動を適応させ、自己と一致する社会のポジションに向かうように人生の方向づけをする
エージェントとしての事故は、継続して自己調整スキーマを使い、モチベーションに焦点を当てて、適応戦略を形成します。
※認知スキーマ:自己調整スキーマ(動機づけ)
※パフォーマンス戦略:アダプタビリティ(適応性)

【自己調整スキーマ(動機づけ)】
エージェントは、持続的な自己調整戦略を用いて、昇進すること、あるいは昇進を阻害するものを予防する戦略に重点を置くような動機づけをします。
昇進は、勝つためにプレーするスキーマで、自分のやるべき行動に向かわせて失敗や心理的被害から遠ざける行動に向かわせます。
予防は、負けないためにプレーするスキーマで、失敗や心理的被害から遠ざける行動に向かわせます。
昇進と予防の両方をバランス良く持つことがポイントです。 

【アダプタビリティ(適応性)】
CCTの自己調整機能は以下の順番で自己調整し、適応するモデルです。
‥応レディネス:キャリア転機、仕事の課題に遭遇した際、変化しようとする意欲と変化へのレディネスのこと
適応資源:キャリア転機が起きると、適応レディネスが触発され、自己調整に使う資源が活性化する
適応資源(キャリアアダプタビリティ)にはメタ能力としての4つのCがある
・Concern(関心):職業の将来に関心を持つ
・Control(コントロール):自分の職業の将来を形作ることをコントロールする
・Curiosity(好奇心):自分自身と将来のシナリオの可能性を探究する好奇心
・Confidence(自信):自分の願望を追求する自信
E応反応行動:実際の適応反応そのものは、具体的な行動として表現される 
適応の4つの重要な行動は以下の4つがある。
・予測する:新しい転機を予測する、あるいは先を見通す
・探索する:新しい選択肢や機会を探索する
・決定する:好ましい選択肢を検討した上で決定する
・問題を解決する :直面する問題を検討し解決する

上記の動機づけスキーマと適応戦略の組み合わせで表記されるのが、図6の「動機づけスキーマと適応戦略パターン」です。
昇進焦点の高/低、予防焦点の高/低の組み合わせで4象限で表されます。

「子どもや青年は趣味的活動をすることで、興味を示し、スキルを学び、特定の職業を前もってリハーサルすることになり、その職業に必要なコンピテンシーを開発できる」(Super, 1940)
「学校での活動は仕事で成功するか失敗するかに関係する。学校での体験は、世の中に対する印象や、時に予測を超える要求をされたときにとる対処行動に永続的な影響を与える (愛着と興味)」

オーサー:思春期後半〜成人期

思春期後半〜成人期にかけて、自身のキャリアストーリーを著述することで、職業アイデンティティが確立します。
命題C:目標を追求するアクターは、職業アイデンティティを概念化して、時間の経過とともに、自分の行動に連続性と一貫性を持つキャリアストーリーを熟考して著述するオーサーとなる
ここでは、「リフレクシブスキーマ(内声を内省するスキーマ)」と「アイデンティ戦略」があります。
※認知スキーマ:リフレクティブスキーマ(リフレクション/リフレクシビティ)
※パフォーマンス戦略:アイデンティティ戦略 (共同性:高/低、主体性:高/低)

【リフレクシビティ】
リフレクションは、記憶・経験・認知に注意を向け、過去を現在に引き込み、自己認識を深めるのに対し、
リフレクシビティは、リフレクションしたことをもう一度リフレクション(省察)し、現在を未来に拡張することを指します。
リフレクシビティは、二次的認知プロセスであり、心のリフレクションの後の対話とも言われます。
リフレクシビティを促進することで、自己概念を作り出す内的対話が進みます。
これにより、以下のようなことが起こります。
(a)自己を社会文脈との関係において理解し
(b)自己を定義するストーリーに存在するパターンを認識し
(c)客観的社会状況を考慮して将来の計画を策定・計画して
(d)特定の社会状況に対する行動を調整することができる

また、リフレクシブスキーマは、「自律型」「共同性型」「メタ型」「不安型」に分けられます。
・自律型:親や他者による受け入れや承認を必要とせず、行動に直結する自己完結的な内定対話パターンを用いる
・共同性型:内的対話の後、親や重要な他者から承認されて初めて行動に至る
・メタ型:親の価値観を批判し、親から離れる傾向がある
・不安型:自分ではどうしようもない状況にただ受け身で対応し不安に襲われる

【アイデンティティ】
4つのリフレクシビティスキーマによって、それぞれの職業アイデンティティを形成し、キャリアの関心に対処するための異なる4つの戦略が生み出されます。
過去には、エリクソンやマーシャ等が様々な呼び方をしていましたが、ジョッセルソンは、個人がどんな人であるかよりも何をする人かを強調するため、以下のように名前を変更しました。
・道を拓く人(Pathmaker):選択肢の可能性を検討した後、自分で選んだ目標にコミットすることで、職業アイデンティティを獲得する
・守る人(Guardian):探求の期間を経ずに選択したキャリア目標にコミットする
・道を探す人(Searcher):コミットすることを避け、探求し続ける自由を求める
・漂う人(Drifter):アイデンティティを定義する職業的価値や役割を探求したり、そにコミットしたりすることはない

ここまでがメインポイントのまとめです。
約400ページにも渡る内容を掻い摘んで要約しましたので、抜けてるポイントだらけで、まとめ方としておかしな部分もあるかもしれませんが、自分なりに整理してみました。
キャリアカウンセリングをする際などは、これらの理論に当てはめながら聞くことで、全体感を持ちながらクライアントのことを理解できるようになるかもしれません。


本書は、人や組織の課題解決、すなわち人材開発・組織開発について体系的にまとめられた日本初の教科書です。
筆者・中原先生の、「人材開発・組織開発の知を民主化したい」という思いを実現すべく、膨大な知見がこの一冊にまとめられています。
約460ページある分厚い本ですが、専門知識のない方でも読みやすいよう、非常に分かりやすい表現で書かれています。

ちなみに、立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コースの「人材開発・組織開発論機Ν供廚もとになっています。
私自身、当大学院で学び、今年の3月に卒業したばかり。
今でも、学びに満ちた授業の様子が鮮明に記憶に残っています。
卒業生として本書を読まないという選択はあり得ないでしょう、ということで、しっかり精読しようと手に取りました。
そして、自分自身の理解促進のため、各章をパワポ1枚にまとめました。
第1章:「人材開発・組織開発コンサルティング」の概要
第2章:「課題解決」とは何か、「科学知」と「臨床知」 
第3章:「人材開発」
第4章:「組織開発」
第5章:ステップ1(出会う)・ステップ2(合意をつくる)
第5章:ステップ3(データを集める)
第5章:ステップ4(フィードバックする)
第5章:ステップ5(実践する)・ステップ6(評価する)・ステップ7(別れる)
第6章:「より良い課題解決者になるために」

いやぁ、学びの山。凄まじい名著でした。
実際、本書を片手に、先日、組織開発を実践してみました。
データを集め、フィードバックし、対話をしながら解くべき課題を特定するフェーズまでやったのですが、本書があったおかげで、割と安心して取り組むことができました。
概念の説明だけでなく、方法論も具体的に書かれていますし、実例などもありますので、現場で実践する際にはとても役立つと思います。
例えば、自分の場合、対話の場でオーナーから「目的」を説明してもらう際に「挨拶の例のページ(p318,319)」をコピーしてオーナーに手渡し、「こんな感じで挨拶をお願いします」と依頼しました。
オーナー自身もその内容をとても理解してくれ、おかげでスムーズな対話の場がスタートできたと思います。
今後も、人・組織の課題解決に取り組む際、何度も読み直しながら、実践の際の参考にさせていただこうと思います。

「よい理論ほど実践的なものはない」というクルト・レヴィンの言葉も引用されていましたが、本書は正にそれを体現しているなと感じます。
単に学術理論をまとめたものではなく、実践に活かせるよう現場のリアルもしっかりと反映された形で課題解決方法が示されているからです。
これが、本書の言う「科学知」と「臨床知」です。
理論だけで現場を無視してはダメ、また現場だけを見て理論を知らないのもダメ。
その双方の知見と経験を持ち、プラクティカルに現場の課題解決に貢献できてこそ価値があります。
本書は本当にそこを目指して、書かれた一冊です。
組織を良くしたいと思っている皆さんは是非お手にとってみてください。 

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