詩人ごんつ~群像新人文学賞に応募しました~

ネットの海に生のことばを 言葉の洪水に肉の輝きを あらゆる停滞にフレンチキックを twitterアカウント @keibatanteiG

チロリチロリと雨の鳴る

非現実的な秋の夜

虫の姿はどこにも見えず

寒い月だけが笑っている

少女は裸足で、一枚の

ボロの衣装をまとっていた

毎日着ているものなのか

あるいは、身ぐるみ剥がされて

ごみ捨て場から拾い求めた

どこの布ともわからない

惨めて薄い衣服なのか

とにかく少女は足を進め

夜の空気をたっぷり吸った

冷たいアスファルトの上を歩いた

爪と肉との間には

細かい砂利が潜り込み

皮膚の中には血がにじんで

少女は悲しい気持ちになった 


それでも彼女は止まらなかった

止まることだけはしないのだった

それは少女の矜恃なのか

はたまた親との約束なのか

あるいは大地との契約なのか

外見だけではわからなかった

わからなくても、少女は歩いた

歩くことだけが証明だった

確かに何かの証明だった

誰宛てでもない誓いだった


多くの障害や罵倒を超えて

少女が歩いたその先に

何があったか、誰が知る?

知る必要のないことが

この世の中にはあるのだろう

真理に洗われた眼差しは

駅のホームに溢れかえる

群衆たちを隈なく照らす

夜の光が街路樹の

木の葉の影にも染みとおる





色と言葉と回線と

おびえに満ちたネットの海で

ひとつの兆しがごそりと動いた

汚れと穢れのゴミ溜めに

わずかに光る影ひとつ

バイブレーションの振動を

不運なおのれの揺りかごに

満員電車のため息を

暗い世界の慰めに

そいつは生まれた、ひっそりと


寂れた街の看板にも

都会の濁った川床にも

光の差さない22時

ほとりほとりと足音が

住宅街に響かず消える

先のことなどわからない

ただ一息に歩くだけ

地獄と浮世の境目をゆく

水と空気の混合物

昔、川上哲治は

「ボールが止まって見える」と言った

直接見聞きしたわけではないが

どうやらそう語ったらしい

(語っていないという話もあるが

本当のところはわからない

何もかもが遠くへ行ったあとのこと)

それとはあまり関係ないが

どうやら世界は止まっている

想像力は死滅して

歯車だけがぐるぐる回る

機械油を差しに来る

熟練工の姿は見えず

極度に磨耗の進んだ機構が

何かを背負ってかろうじて

物理の原理を履行する

キシキシキシと音がする

皮膚の擦れる音がする


寺山修司はいなくなった

「60までは生きていたい」と

言っていたのに47で死んだ

誰もかれもがいなくなって

後には何が残るのだろう?


死んだ街をふらふら歩く

歩いていると、どこかしら

風の匂いがやってきて

ふいに体が洗われた

目には原色の看板が

乾いた笑顔で笑っている

すべてをぶちこわしてやりたくなって

ぐっと奥歯を噛み締めた

戦いだけが人生だ

少なくとも、誰かの人生だ

死ぬまで戦い、戦って死ぬ

存在しない鐘の音が

頭上高くで鳴っている


まなざしの汚れてしまった後では

どんな薬を飲めばいい?

誰かの心は都会のススと

深夜のゲロで彩られた


夜半の暗い公園に

2人の男女が座っていた

ポツリポツリとしずくが落ちて

時間は止まり、歩みは消え

風の音すら聞こえなかった

手に触れるほどの親密な

液体状の闇が降りた

 

 あなたのことが好きですか?

  どういうこと?わからない

 わからなくてもいいの、ううん

  そうだな、このまま黙っていよう


どこかで聞いた鳥の鳴き声

屋根裏に忘れた卒業アルバム

小さい頃に割った花瓶

いろいろなものが僕らの手から

知らない間にこぼれ落ちて

残ったものは1ビット足らずの

紫色の何かの破片と

豊かな情報のゴミ袋


川岸の風がまぶたを撫でる

風はそれで幸せなのか

ほんとに幸せなんだろうか?

聞いても聞いてもわからない

わかったふりして、明日の扉を

開けずに今日も日が終わる

あなたの頬に触れたいならば

私は稲を耕そう

コンクリートの垣根を越えて

テレビ画面を割りにゆく

桜の幹には虫がわいて

穢れにまみれた秋の夜


ぽーん、ぽーん

どこかで遠い汽船の音が

満員電車の車中に響く

響かないはずの音が聞こえて

僕はにわかに混乱した

直方体の隅の隅まで

無垢に無慈悲に反響する

音符にならない音の声


隣の客はよく腹を立てる

いらだたしげに髪を食う

わたしのやりたいことは何か

そんな質問を握りつぶして

明日はお空の雲の上


ああ、そうだ忘れていた

あなたの頬の話だったね

だけどもそれは、もはやどうでも

いいことになった、それだけさ

それより今夜は一杯飲もう

安くて軽くて艶やかな

月の明かりの斜め下

枯れ木のベンチに二人して

どこへともなく飛んで行こう


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