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 成田空港の南側に位置する芝山町。空港建設の補償事業として成田空港駅より芝山鉄道の延伸が叶い、近年では、高速バス会社のウィラー・エクスプレスによる芝山千代田駅~大崎駅への高速路線バスも開通。かつて空港建設の反対運動で過激派が跋扈した時代は遠い過去の話となり空港特需も順調で、小規模自治体ながら千葉県内では財政状況も良いことで知られる。

 ただ町域の大半が滑走路の南側で離発着機の航路の真下にあたるため航空機の騒音が激しく、また空港開業前はどの鉄道駅からもきわめて遠くアクセスが非常に不便な地域であったからか、あるいは芝山町は古墳が多く宅地造成に制限が多かったからなのか、また過激派のイメージが強く土地の取引先として敬遠されたのか、理由は様々考えられるが、芝山は投機目的で造成されたミニ分譲地をあまり見かけない。

 その代わり、町域のはずれに、70年代初頭に千葉県企業局が造成・分譲した総区画数500ほどの中規模な住宅団地「ハニワ台ニュータウン」が存在し、同町内では最大規模の住宅団地だ。

(注;道路標識や地図によっては「はにわ台団地」「はにわ台住宅団地」と異なる表記を見かけることもあるが、ここでは自治会名の「ハニワ台ニュータウン」を採用した)

 団地は明治以降に開墾された広大な畑の中に切り開かれており、空が広く空気も爽やかな住環境だが春先の砂嵐は激しそうだ。ちなみに団地名の「ハニワ」の由来は、前述のように古墳が集中する芝山町から多数の埴輪が出土したことに由来するもの。
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画像中央奥がハニワ台ニュータウン。

 この団地はこれまで紹介してきた、民間業者による転売ありきの投機用分譲地とは異なり、純然たる住宅団地形成の目的をもって造成された団地であり、当時の千葉県は、肥大化する首都圏の住宅需要に応えるべく、他にも千葉県住宅供給公社や住宅都市整備公団(現UR)などによって盛んに住宅団地が造られていた。

 とはいえ当時の芝山町の公共交通網を考えると、この団地は県内の他の団地とは異なり都心部への通勤を想定して造成されたとは考えにくく、やはり一般のミニ分譲地同様、成田空港勤務者の居住を想定して分譲されたものであろう。なお、団地の大部分は芝山町域だが、団地南部の一部の区画は富里市に属している。

 だが同時期に開発が始まった成田ニュータウンが完成すると、やはりあまりに交通アクセスが悪く陸の孤島と呼ばざるを得ない立地のハニワ台ニュータウンは敬遠されるようになり地価は下がり、また自家用車が普及するにつれバス路線も次々と減便・廃止に追い込まれ、その陸の孤島ぶりに拍車がかかっている。今日、郊外における「買い物難民」問題が指摘されるのは、こういった農村部に大規模に切り開かれた住宅団地における話だ。
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富里市側からハニワ台ニュータウンに至る道路。周囲は広大な畑作地帯で、商業施設は皆無だ。

 ところがもともと公的事業として大規模に開発された団地のため住宅地としてのクオリティが一般のミニ分譲地と比較すれば高い水準を維持しており、それでいて地価が安く、町内の他地域での物件数が乏しく選択の余地もないことから新規に移入してくる住民も後を絶たず、限界ニュータウンとしての出口戦略は一向に進まない。今回は趣向を変えて、そんな「官製限界ニュータウン」の現状と取り組みを紹介していきたい。
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団地内のメインストリート。70年代の分譲地としては高規格の街路である。
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団地内の空き地に建てられた物件情報の看板。坪単価15000円前後と格安だ。
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住宅の建築は進んでいるが、団地内にはいまだ数十区画の空き地も存在する

 団地内の道路は基本的に離合に支障のない幅員が確保されており、歩道や街灯も配備され管理状況も申し分なく、一区画でも売地を増やそうと極限まで居住性を切り詰めていたり、管理不全で路盤がボロボロになっているような民間業者の分譲地と比較すればさすがにその違いを実感できる。だがご覧の通り、団地内は人気も車の通りもまったくない。この団地は幹線道路からも遠く通過車両も僅かで、団地内は時折上空を通過する航空機の騒音が聞こえる点を除けば恐ろしいほど静かだ。

 空き地はそれなりに見掛けるもののほとんどは適切に管理され、荒れた印象はない。地価が安いため築後間もないような住宅も目に付く。一方、空き家はあまり見かけず、ここの中古住宅を物件サイトで見かけることも少ない。ちなみにここも周辺の同規模の住宅団地同様、上下水道を集中井戸、集中浄化槽で供給しているが、建築時の納入金や保証金は比較的安めの部類に入ると思う(高額なところでは数十万円に及ぶ)。そして珍しいことに管理は行政なので管理費がない。
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団地内には築浅の住宅も目立つ。地価が安いため新規移入者もいるようだ。
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比較的規模の大きい住宅団地であるにもかかわらず、街路には人の気配がまったくない。
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団地に掲示された共有設備の管理規約。納入金は10万円で、まあまあ安い部類に入る。


 団地のはずれには千葉交通のバス折り返し場がある。かつてここからは数系統の京成成田駅行き路線が存在し、また八街駅と繋ぐ路線も存在したがいずれも十数年前に廃止となり、現在は京成成田駅へ向かうバスが1系統、それも平日3本、土休日は午後の便がなく午前中に2本のみ。驚くべきことにこの団地は芝山町のコミュニティバスの路線網にも含まれておらず、公共交通機関は町民限定の乗り合いタクシーを除けばこの京成成田行きのバス一択だ。
 
 町の悲願であったはずの芝山千代田駅へのバス路線もなく、成田空港から芝山町内を通過するいくつかの他路線のバス停も遠い。ハニワ台は芝山町内では最も規模の大きい住宅団地であるにもかかわらず、よほど利用者が少ないのか公共交通網は壊滅状態である。
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バスは一日わずか3本。しかも富里経由の成田駅行きで、芝山町内はほとんど通らない。

 さらにハニワ台の唯一のスーパーであった「はにわ台スーパー」は10年ほど前に閉店。団地内は長く商店不在の状態が続いてきた。町中心部の商店街までは3キロほどあり、足の悪い年寄りが歩くには辛い距離である。だがこれは裏を返せば大半の住民が路線バスや地域商店をまったく必要としていないということでもあり、築浅住宅の多さと考えても、同時期の他の住宅団地よりも高齢化の割合が低い可能性も考えられる。平日の日中に人の気配がまったくないのは、勤務中であるからなのかもしれない。
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シャッターを閉じた団地商店「はにわ台スーパー」の跡地

 ここが郊外住宅団地の「買い物難民」問題の深刻なジレンマなのだが、実際には圧倒的多数の団地住民が地元商店や公共交通機関を利用していないがゆえに維持が困難になるという問題がある。メディアはこれを高齢化問題と絡めてあたかも郊外団地の多数の住民が買い物に難儀しているかの如く報道するが、実情は「買い物難民」が団地における多数派ではないからこそ、なお一層「交通弱者」が買い物難民と化すという構図なのだ。逆に都市部の商圏から遠く離れた山間地の農村などでは、いくら公共交通が存在せずとも、地域の商店が一つ残らず消え去るケースはまれだ。
 
 しかしながらハニワ台では商店の撤退から長い年月が経過し、今日においても周辺に郊外型商業施設が進出してきていないという点で、既に事態は喫緊の改善を必要とする段階に入ったようで、買い物難民対策として新たな、そしてある意味で画期的な商店が団地内にオープンした。

 千葉県は道の駅が異様に充実している自治体の一つである。県内の道の駅はどこも農産物などの販売が盛んで、パンや弁当なども売られ品揃えも豊富であり、週末ともなれば駐車も困難なほど大勢の買い物客でにぎわうが、芝山町内の道の駅「風和里しばやま」は2014年、出張販売店である「風和里ふれあいマーケット」を団地内の管理事務所内に設置し、高齢者向けに道の駅の本店からの取り寄せサービスを開始した。
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団地の管理事務所に設置された道の駅の出張販売店「風和里ふれあいマーケット」

  参考リンク: 住宅団地に直売所支店 高齢者”買い物難民”防止 芝山町(千葉日報2014.4.27)

 画一的な小売店ではなく、地場の農作物を豊富に取り揃える道の駅の出張所が団地内にオープンするというのはなかなか羨ましい話である。上記リンクの記事にもあるように隣は公園で、団地の中心拠点としてふさわしい立地だ。営利企業では取り組みが難しい事業でも、このように第三セクターが受け皿となれば一定の継続性は期待できる。元々購買力の弱い層をターゲットにしているのだから民業の圧迫にもあたるまい。

 僕が思うに、実際にすべての都市機能を一部に集約して進めるコンパクトシティなど、その実現性に疑問符のつく夢のような都市計画よりも、こうした、一定の都市機能を備え持った各地の中規模の郊外団地に、小規模でも拠点性のある物販店や、駐車場付きの中長距離バス停(パーク&バスライド)などを設置し、緩やかに団地近隣のスプロールの解消を図っていく手段の方が現実的ではないのかと思う。

 芝山町に隣接する富里市や山武市には、物販店どころか自販機の設置も期待できないような崩壊寸前の限界ミニ分譲地が散在している。すべての住民を駅周辺の中心街に集約するなんて大それたことは考えずに、まずは居住性などを無視して乱開発されたミニ分譲地で、特に見捨てられたような状態の悪いものから、新たな建築申請を不許可にするなど制限を講じて、一つ一つ原野に戻していくのが良いのではないだろうか。


ハニワ台ニュータウンへのアクセス
 
・圏央道松尾横芝インターより車で10分
・京成成田駅より千葉交通バス「久能両国線」ハニワ台車庫行 「管理事務所」バス停下車