沖渡 (2)
 山武市の沖渡(おきわたし)は、旧山武町の中心部であった日向駅周辺よりも、八街駅の方が近い立地にある、八街と山武の境に位置する地区である。八街側にも同名の地区が存在するが、これはまだ交通の発達していなかった昭和20年代、当時の日向村(現山武市)中心部へのアクセスがあまりに悪く児童の通学にも支障が出ていた大木、木原、沖渡の3地区が八街町に分離、編入された名残だ(大木、木原は昭和29年、沖渡は昭和31年編入)。八街市の市街地からはさほど遠くないことから、70年代の宅地造成の乱開発の時代に小規模な分譲地がいくつも誕生し、八街が猛烈な人口増加に見舞われたバブル末期には、市境を超えてこの沖渡や、横田、埴谷、実門(さねかど)地区などにも住宅が建てられることになる。
沖渡 (1)
美しい田園風景の残る沖渡。だが、公共交通によるアクセスに難がある。

 だが、沖渡は本来ならば旧山武町のはずれに位置する辺境である。分譲地を除けば人口密度は非常に低く、ほとんどが田畑や山林で覆われたエリアのため、やがてこのエリアのバス路線は次々と姿を消し、ついに山武市のコミュニティバスも廃止され、現在、沖渡の北部も含めた山武市北西部は、未だ多くの分譲地に居住者がいるにもかかわらず、市民限定の登録制乗合タクシーを除けば、公共交通によるまともなアクセス手段がまったくない交通空白地帯となっている。
沖渡 不法投棄団地 (1)
一見すると、山武ではどこでも見られる典型的なミニ分譲地の一つだ。
沖渡 不法投棄団地 (2)
空地は多いが特に荒れた印象もない、いたって閑静な住宅街である。

 その沖渡にある今回紹介する分譲地。70~80区画程度の小規模な分譲地で空地の多い、山武ではどこでも見かけるようなありふれた分譲地の一つなのだが、この分譲地の奥に奇妙な一画がある。同じ様式の建物が数棟並んでいることからおそらく建売住宅であると思われるのだが、建築が途中で放棄され、既に長年が経過しているのか建物には蔦が絡み、敷地内には樹木が剪定もされることなく伸びるがままになっている。
沖渡 不法投棄団地 (4)
住宅街の一角に突然現れる異様な建物群。
沖渡 不法投棄団地 (3)
蔦が絡み木々は伸び、放置からの長い年月を伺わせる。

 それがどういうわけか珍しいブロック造りの住宅で、建売住宅というものは、コストカットのためにそのほとんどが木造であると思われるのだが、こちらの住宅はなぜかブロックで、一部に出窓の枠が組み込まれているのを除き、外壁が完成した時点で工事が中断されている。僕も建築には素人で、コンクリートについての詳しい知識もないのだが、風雨に直接さらされる屋根やベランダ部などは明らかに変色、変質していて、かなり劣化が進んでいるものと思われる。放棄されたブロック家屋は合計で5棟であった。

 閑静な住宅街にどす黒く薄汚れたブロックの塊が立ち並ぶその光景は異様で、窓枠の奥は日もささず薄暗く不気味でさえある。近隣住民はどう感じているのだろう。この建物を撮影中、犬の散歩をしている女性の方が通りかかったが、一体なぜこんなものを撮影しているのかと怪訝な表情であった(当然だが)。木造家屋の骨組みであればやがて腐敗し崩落するものだと思うが、よりによってブロック造りであるがゆえに無駄に頑丈で、取り壊すにも多額の費用が必要で、崩壊までに長い年月が必要であり、しかも崩壊したらしたで極めて危険である。全くもって手に負えない廃屋だ。
沖渡 不法投棄団地 (5)
さすがに管理は行き届いていない。

 裏手に回ると、さすがに一街区まるごと未成の廃墟で占められてしまっているせいか、この分譲地自体は、東端に自動車工場(?)がある点を除けば閑静で手入れも良く行き届いているにもかかわらず、この街区だけは荒れるに任せた状態であった。しかも、ビルドインガレージの中はゴミの山で、どのガレージも車道までゴミで溢れ返ったひどい有様であった。車の通りも極めて少ないエリアのためか、心無い者のゴミ投棄場として認知されてしまっている。
沖渡 不法投棄団地 (6)
閑静な住宅街であるにもかかわらず荒廃を極めている。
沖渡 不法投棄団地 (7)
ビルドインガレージの中はゴミの投棄がすさまじい。

 考えてみれば、なんと無責任な話だろうか。ゴミの不法投棄が言語道断かつ違法であるのは言うまでもないが、ではこんな異形のブロックの塊を放置し、その管理に何の責任も持たぬ者はどうなのか。この巨大な、始末に負えないブロックの塊はゴミではないのだろうか。あとからこの団地に越してきた住民であれば、この環境を承知済みで受忍しなくてはならない面もあるだろうが、このブロック家屋が建築される前から住んでいた住民はどうなるのか。

 放棄に至るまでの事情には同情すべき面もあるのかもしれないが、それにしてもこの現状を見るにつけ、こんなものは環境を汚染し、新規の住民の流入を阻み、住宅地の資産価値や流通性を押し下げるだけの代物であり、空き家特措法がようやく施行されたとはいえ、特例が認められない限りこんなものが「個人の財産」「個人の所有地」として法的に保護される現状に、僕はどうしても納得がいかない。住環境は個人の所有物でなく、地域社会全体の共有財産ではないのかと、僕は思うのだ。



建築途上で放棄された建売住宅の分譲地へのアクセス


山武市沖渡
・圏央道山武成東インターより車で20分
・八街駅より八街市ふれあいバス「東コース」 「後野分」バス停下車 徒歩16分
・八街駅よりちばフラワーバス「八街線」 「沖渡入口」バス停より徒歩23分