八街市滝台 オフロードコースと化した分譲地

八街市

滝台 オフロード (24)

 八街市の滝台は、市の最南部、東金市と隣接した地域である。地名の由来は「山田台」同様、東金の滝地区に隣接した台地上の地域ということで、開拓時代に「滝台」と名付けられたが、旧開拓地である一方、奈良時代の作成と思われる「山辺郡印」の銅印が地区内の遺跡(滝台遺跡)から出土するなど、古来から居住の形跡が見られる地域でもある。またこの地域は戦国時代の古戦場としても知られ、地区には今でも、兵が敵の攻勢から身を潜めた「凌台(しのぎだい)」、捕虜の首を切ったという「首切り谷」、大将の首を埋めたという「かま塚」、敗走兵の死体で埋め尽くされたという「死人谷(しびとざく)」などなど、あまりにストレートすぎるためか地図上で示されることはないが、物騒な小字が各所に残されている。とはいっても現在は、時折ラブホテルを見かけるものの、他の八街南部の地域同様広大な畑が広がる静かな農村だ。

 さて話は変わるが、2018年1月6日付の朝日新聞デジタルに、次のような記事が掲載されている(本誌は1月7日掲載)。短い記事なので全文を引用するが、要は私道の補修工事の合意形成に関する記事だ。

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 分譲住宅地内などで住民が共有する私道の補修工事をする際、全員の同意がとれず改修が進まない、などの問題が生じている。法務省は近く、具体例をあげて「1人でもOK」「過半数の同意が必要」などとルールを示したガイドラインをまとめる。

 民法は、補修などの程度によって同意する人数を区別。全面的に形状を変える「変更」は全員、現状を維持する「保存」は単独、などと規定している。しかし、こうした解釈に関する判例は少ないため、これまで事実上、すべて全員の同意が必要とされてきた。

 一方、相続登記されずに所有者不明の土地が放置されることが問題になるなか、「共有私道」も所有者がわからないケースが増加。同意が取れず、補修工事が進まない事例も起きているという。

(朝日新聞デジタル 2018年1月6日配信記事より引用)

リンク:https://www.asahi.com/articles/DA3S13302777.html(有料記事)

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 「事例も起きているという」などとずいぶん悠長なことを言っているが、実際は進まないどころか、既にボロボロとなってほぼ手遅れに近い有様となった私道を抱える分譲地は、これまで僕もこのブログで紹介したことがある。特に未利用宅地の多い北総の分譲地は、私道の共有持分者に、所有者意識の低い不在地主が多く含まれていることから、尚更合意形成が困難となっている分譲地も少なくないと思われる。

 今回紹介する分譲地は、ここまで語ってしまった以上結論から書いてしまうが(まずタイトルの時点でネタバレしているし)、今のところ、僕がこれまで見てきた分譲地の中でもっとも街路の管理状態が悪い分譲地だ。滝台のはずれ、圏央道沿いの丘陵上の緩やかな斜面に造成されたこの分譲地は、以前紹介した沖地区の「最果ての分譲地」同様、市内ではかなり早い時期から家屋が建築され住宅地として利用されてきたミニ分譲地であるが、やはりその利用開始時期の早さが仇となったか、共有部の劣化が激しい状態のまま、今日でも利用が続けられている。先述のように、私道の問題点が報道でも指摘されたことであるし、今回は街路に視点を絞って、この滝台の古い分譲地を紹介していきたい。

滝台 オフロード (1)

 上の画像は、市道からこの分譲地へ至る進入路である。舗装がされておらず、一見すると畑に切り開かれた農道にしか見えないが、画像奥に家屋が見えるように、この先に問題の分譲地はある。都市部在住の方には、未舗装の分譲地というのはなかなか理解に苦しむものがあるかもしれないが、八街市内では未舗装の分譲地というものは他にもあり、公道でも未だ舗装工事が施されていないものもあって、それほど珍しいことではない。むしろこの程度であれば、車両の走行にそれほど難もなく、降雨時に車が汚れること以外にはさしたる問題もないと言える。近年頻発する豪雨時の冠水は、舗装が進みすぎて土壌の吸水力が低下していることもその一因なので、何でもかんでも舗装すればよいというものでもない。

 だがこの先、分譲地の入口に達すると、何故か部分的にアスファルトが敷かれた形跡がある。だがそのアスファルトは大きく剥がれ、一部は砂利道と化し、段差ができている。ここから街路に少し勾配が生じ、見るからに通行に難儀しそうだ。元々はこの分譲地も舗装がされていたのだろうか。

 八街は財政状況が悪いため、幹線道路でもなかなかその改修工事が進められず、そのことが周辺市町村住民からの悪評の要因の一つとなっているが、こうした管理不全の街路が市内に多く残されていることも、八街は道路が悪い、というイメージを醸成している。

滝台 オフロード (3)

部分的に敷設されたアスファルト。しかし、その先で大きく破損している。

滝台 オフロード (22)

所々が元の砂利道に戻っている。

 分譲地内は、多くは舗装されておらず轍の跡がはっきり残り、まるっきり農道の趣だ。この分譲地は、立地の悪さもあって空き地が多く、街路に限らず全体的に管理状態の良くない住宅地であり、未利用地は草刈りもされておらず荒れている。今でもここの宅地はいくつか販売はされてはいるのだが、価格もさることながらこの路盤状態も敬遠材料の1つなのだろうか、買い手が付いている気配はない。

 若者の車離れが指摘される昨今だが、八街のような田舎では、車を手放して生活できるほど公共交通網が充実していないため、今でも若い人は車にお金をかける人が少なくない。北総は内房と並んで今でも暴走族やDQNカーなどのチャンプロード(休刊)文化がしぶとく残る地域の1つだ。DQNは言い過ぎにしても、車を大事にする若者にとって、問答無用で愛車が泥まみれになるこのような分譲地は、たとえ地価が安くても居住地としてあまり選ぶ気にはなれない場所かもしれない。

滝台 オフロード (21)

分譲地内に入ると未舗装の街路に戻る。

滝台 オフロード (4)

轍がはっきり残り、一見すると農道と変わらない。

 空き地の一部のは、近年構築されたと思われる擁壁を備えたところもある。しかし擁壁というものは、もっと厚みのある堅牢そうな石材を使用することが一般的である気がするのだが、こんなホームセンターで売っているようなコンクリートブロックでも差し支えないのだろうか。

 何にせよ擁壁上の宅地の一番の問題点は、駐車スペースを拡幅する際に多額の外構工事費用を要するという点であり、これが市場において大きなマイナス要因となる。ここも擁壁を施したは良いものの、いまだ住宅建設は行われていない。宅地そのものも、おそらく面積は30坪に満たないものもあり、これでは狭すぎて、とても駐車スペースを十分に確保したファミリー向けの規格住宅を建築できるスペースはない。古い分譲地が再利用されることなく放置されてしまうのは、まちづくりの視点では由々しき問題であるが、買い手にしても自らの生活スタイルに適した住宅を建築する必要がある以上、ある意味では致し方ない面もあるのだ。

滝台 オフロード (5)

滝台 オフロード (9)

コンクリートブロックで構築された擁壁上の宅地。

滝台 オフロード (20)

結局利用されることなく、境界に設けられたブロックは一部崩れ落ちている。

滝台 オフロード (7)

この狭さでは、進入用の階段と駐車場を設ければ、もはや家屋を建築できるスペースは僅かにしか残らない。

 分譲地奥には、1軒の空き家がある。造りは古く、バブル期以前の建築様式だ。管理されている様子もなく、家屋には蔦が絡み、おそらく夏場は藪に覆われることになるだろう。それにしてもどうしてこんな僻地の小規模な分譲地が、市内の他の住宅地よりも早くから住宅建設が進んでいるのか不思議で仕方ないが、昔からの商都である東金に近接した地域であることがその理由であろうか。周辺の空地はやはり草刈りも行われておらず、おそらく旗竿地への進入路と思われる街路はそれ自体が雑草に覆われてしまっていた。だがどういう訳か、この辺りから再び舗装された街路となる。

滝台 オフロード (10)

分譲地内の空き家。現状、空き家となっているのはこの1棟のみ。

滝台 オフロード (11)

築年数は古く、管理はされていない。

滝台 オフロード (19)

旗竿地への進入路は踏み入れる者もなく、雑草に覆われている。

 未舗装部分はアスファルトのかけらすら残されておらず、一体この分譲地は、元から舗装されていたのかされていないのか、現況からはまったくうかがい知ることができないが、とりあえず街路は狭いうえに両脇の空地の雑草や樹木が視界を遮り、暗い印象がある。分譲地は緩い傾斜地なのだが、街路も少し勾配のある個所が多く、車両が離合できるスペースもほとんどない。

滝台 オフロード (12)

南側の街路は舗装されており、少し路盤は良くなる。

滝台 オフロード (13)

滝台 オフロード (14)

街路は狭く、暗い印象だ。

 西側の区画へ差し掛かると、再び路盤は傷み始める。アスファルトの破片が路盤に散らばり、見るも無残な状況だ。ところでここの分譲地内には一つのゴミ集積場が設けられているが、こんな狭隘路の分譲地に、ゴミ収集のパッカー車が進入してくるのか。郊外化に伴うゴミ収集作業の非効率性が、コンパクトシティ推進論の一つの論拠として語られることがよくあるが、なるほど確かにこんな分譲地まで回収作業に回る苦行を強いられてるとなれば、それも一定の説得力はある。

 そして西側から北側の街路にさしあたる曲がり角に、画像ではわかりにくいが、おそらく20㎝の段差はあるであろう陥没個所があり、泥水が溜まっていた。四輪車ならまだしも、仮にこんな陥没をスクーターなどで通り掛かろうものなら、よほど腕に覚えのあるライダーでもなければ窪みにハンドルを取られ、転倒するのは間違いない。いや、これでは四輪車でも尾骶骨に衝撃が走るレベルかもしれない。私事になるが、僕は若い頃、内戦が終結して数年後のカンボジアを旅行したことがあるのだが、乗合トラックを手配して通行したアンコールワットのあるシェムリアップから首都プノンペンまでの国道が、当時は想像を絶する荒れっぷりで、ここの街路のような陥没個所が膨大にあり(砲撃の跡らしい)、しばしば走行中に脳天を車の天井にぶつけたものだが、ここも運転を誤れば同じ目に遭う可能性はある。

滝台 オフロード (16)

滝台 オフロード (18)

再び舗装が剥がれ、荒れた街路となる。

滝台 オフロード (15)

このような荒れた狭隘路に設置されたゴミ集積場。パッカー車の通行は難儀するものと思われる。

滝台 オフロード (17)

曲がり角の内側に、深い陥没がある。

 アスファルトというものは案外脆いもので、一旦剥がれたり、ひび割れが起きれば、その割れ目から生命力の強い雑草が顔を出し、アスファルトは石片となり、やがて砂利道の様相を呈してくるようになる。問題はその劣化が中途半端な状態であると、通行に支障をきたすような段差や陥没を発生させてしまうことだ。だが冒頭で紹介した報道記事にあるように、私道というものは補修工事の合意形成がしばしば難航し、仮に合意が取れたとしても修復には多額の工事費用を要し、住民だけでその費用を負担するのは容易ではない。

 未利用地の多い北総の分譲地の私道は、沿道に家屋が一切ない街路は管理を放棄するケースが多く、そのことが一層未利用宅地の流動性を押し下げている。事程左様に私道というものはこうした管理の問題や、共有持分者同士の利害の対立、配管埋設工事の合意形成における障害など何かと問題が発生するケースが多く、確かに私道の分譲地は通過車両が少なく閑静であるというメリットもあるのだが、そのデメリットの深刻さを思えば、八街に限らず土地選びにおいて、排水機能と並び慎重に見極めるべき要素の一つであることに疑いはない。ちなみに滝台のこの分譲地は、既に側溝も泥で詰まっている個所がある。

滝台 オフロード (6)

土砂で詰まっているにもかかわらず、雨水、あるいは生活排水が流し込まれている側溝。

オフロードコースと化した分譲地へのアクセス

八街市滝台

  • 千葉東金道路東金インターより車で9分
  • 総武本線八街駅より八街市ふれあいバス「南コース」 「たきだい歯科」バス停下車 徒歩8分
  • 総武本線八街駅より九十九里鉄道バス「八街線(滝台経由)」 「中滝台」バス停下車 徒歩7分(1日1本のみ)

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