東金レイクサイドヒル八坂台 (26)
 東金レイクサイドヒル八坂台は、東金線の東金駅から北西におよそ2㎞の位置にある住宅地。2㎞というと比較的近く感じるが、その道程のほとんどが丘陵の斜面に設けられた勾配の強い道路で、駅徒歩圏内と言うには少し厳しい立地条件だ。近隣には日吉台という、バブル期に居住が進んだ大規模な住宅団地があるが、いずれもアップダウンの激しい地形であることには変わらず、自転車通学の中高生が自転車を手押しして上り坂を歩行している姿をよく見かける。

 この住宅地は当ブログをお読みいただいた読者の方からコメント欄にて情報をご提供いただいたものである。東金には先述の日吉台のような、交通不便な山林を切り開いて造成した規模の大きい住宅団地がいくつかあり、僕は東金には頻繁に赴くにもかかわらずこの団地はまったくのノーマークであった。理由としては、例え更地が多くとも現在も分譲が行われ住宅建設の進んでいる団地は、東金に限らず各所にあり珍しいものでもないためだが、東金の住宅市場の現状を考えると、こうした現在進行形の住宅団地も対比として紹介すべきあり、当初はその対比例として、市内の油井地区にある「とーがねニュータウン丘の街」を紹介する予定であったところに、読者の方からの情報提供を頂き、こちらの方がよりその対比例としてふさわしいと考え変更したものである。

 ちなみに団地名にある「レイクサイドヒル」の「レイク」とは、この団地に近接するダム湖「ときがね湖」のこと。「ときがね」とは東金の古名であり、漢字では「鴇ヶ根」、あるいは「鴇嶺」と記載する。地元には今でも「鴇嶺小学校」という学校がある。
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団地の入口に立つ看板。

 県道からの団地の入口には、地元の建売業者が立てた「新築貸家(平屋)が月々7万円の家賃で!」と書かれた大きな看板がある。「映画のような暮らしをあなたに…」とのことであるが、僕は映画をほとんど見ないのでピンと来ない。『八つ墓村』と『橋のない川』なら知っているがあまり実生活で再現したくない。そんな無駄口はいいとして、看板の裏の敷地にはいきなり太陽光パネルが広がっていて、県道沿いには建物はない。この団地は造成そのものは2000年には既に完了していて、もはやお決まりのパターンとして長年の塩漬け期間を経たのち、今頃になって再利用が進み始めたものだ。分譲当初は「クレオの杜」と呼ばれていたのか、団地入口前にある九十九里鉄道バスのバス停名は「クレオの杜八坂台三丁目」となっている。
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旧分譲地名を冠したと思われる最寄りのバス停(九十九里鉄道バス)。

 団地の進入路をしばらく進むと、いまだ更地のままの広大な敷地の中に、ポツポツとほぼ新築に近い家屋が並ぶ区画が点在している。入口の看板にある通り、そのどれもが同じような平屋の小さな家屋で、建築途中の家屋も多数ある。しかし正直言って各住戸の敷地はそれほど広くなく、昔あった貸家用の小さな平屋住宅が現代風になっただけ、という印象だ。ちなみに40~50年前に、地主が賃貸用に敷地内に並べて建てたこの手の2DKくらいの小さな貸家を、新聞屋の業界用語で「マッチ箱」と言うが、この「マッチ箱」の多くは今日、建売住宅を転用した貸家やアパートが大量に市場に投入される中、北総では完全に過去の遺物となり需要を失ってしまい、断られるのが目に見えているためか店頭でも仲介業者から紹介されることもなく、空室を埋められないままでいるものが多い。東金にも、借り手が決まらずいつまでも広告を出し続けている古い貸家はたくさんある。
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いまだ広大な空き地が残る中、平屋の住宅建築が進む。
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建築途上の家屋も多数ある。
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似たような外観の家屋が所狭しと並ぶ団地の一角。
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南側道路で存分に日光が注ぐ家屋と、そうでもない家屋。

 もちろん、昭和の時代に建てられた古い木造家屋と今日の住宅では、その性能や断熱性は格段に違うとはいえ、これだけ同じような規格住宅が所狭しと並ぶ利便性の悪い郊外住宅地が、果たして築年数が経過した先、住宅市場で太刀打ちできるのだろうか。そもそもそれ以前の話として、今の東金は、こんな大規模な住宅団地を必要としている町なのか、非常に疑問で仕方ない。これはまるっきり昭和の時代の住宅団地形成の光景である。記録映画で見た千葉県住宅供給公社の古い住宅団地造成の映像は、確かこんな風景であった。

 ちなみに東金の人口は2017年現在で約6万人。東金を含めた周辺自治体はどこも人口の微減が続いており、そして売地は腐るほどある。空き家も増加傾向にあり、市当局も最近になってようやく市内の空き家の実態調査に着手した段階だ(空き家バンクは未開設)。団地の宅地は長年放置されていたため雑草が生い茂っている区画もあるが、再利用に向けて少しずつ整地は進められている。まさかこの団地の空地をすべて貸家や建売住宅で埋めるつもりなのだろうか。
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団地内にはいまだ広大な更地が残されているが。

 一旦造成してしまったからには、住宅地として利用するしか手はないのかもしれないが、下手に住宅を中途半端に建てて問題の解決を数十年先送りにするくらいなら、何もせずに原野に還した方がよさそうな気もする。そもそも地価がこれだけ下落した今日においても、尚もこれだけの更地が残っている時点で、既に回答は出ているのに等しい。

 だが多くが貸家と言うこともあって完成した家屋には若い居住者がおり、近くに湖もあり利便性を除けば住環境そのものは悪くもないためか、しばらく住宅の供用は止まりそうにない。訪問時も、湖畔の広場で子供がボール遊びしている姿を見かけた。古いミニ分譲地はロクな共有スペースも備えられていないことが多いので、「まちづくり」などという曖昧な概念よりも自らの居住性を優先する居住者を責めることはできない。誰だって快適な方が良いに決まっている。

 それにしても団地はあまりに広大すぎて、建売にせよ貸家にせよそのすべての区画が家屋で埋まることになれば、ただでさえ価格の下落が続く東金の住宅市場は、今よりさらに混迷に陥ることは火を見るより明らかだ。近年の北総は、商業エリアや駅周辺に残る未利用地や古家を解体・造成した小規模な分譲地に建売住宅を建設する手法が一般的で、こんな大掛かりな住宅団地の建設が進んでいる地域は、成田線の久住駅前(成田市)を除けば北総では東金ぐらいである。
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ときがね湖。ダム湖であるが湖畔に広いスペースが設けられ、快適だ。
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好評かどうかはさておき、住宅の供給は止まらない。

 そしてさらに追い打ちをかけると言うか何と言うか、この住宅地は、主に南側の街区から住宅建設が行われ再利用が進んでいる一方、団地反対側の北東の街区は、太陽光パネルの発電基地として転用されている。それも古い分譲地で見かけるような、空き地の数区画を再利用して構築された小規模なものではなく、おそらく団地の4分の1は占めるであろう広大な街区がすべて太陽パネルに占拠され、異様な光景を晒している。僕は別に太陽光発電そのものを否定するつもりはないのだが、住宅街に発電基地を設置することには強い疑問を覚える。こんなものは「工業施設」として扱うべきものではないのかと思わずにはいられない。

 百聞は一見に如かずと言うことでまずはその光景を画像でご覧いただきたいが、それはあまりにシュールな光景で、理想の住宅街とは程遠いものであった。近未来SFのような、と思わず陳腐な形容が頭に浮かんだが、なるほど、そういえば団地の入口に「映画のような暮らしを」とあったが、あれはSF映画のことだったのか。
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無人の街区にひたすら太陽光パネルだけが立ち並ぶ異様な光景が続く。 
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マンホールや歩道の存在が、ここは元々住宅地であったことを示している。
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元は歩行者用道路として整備されたであろう街路。
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ジャンルを問わなければ映画のような暮らしは可能だ。

 冗談はさておき、一体この住宅街は何を目指しているのか、まったく訳が分からない。開発業者は、一体どんな街をこの山の中に作ろうとしているのか。そして市当局は、せっかく遊歩道まで整備したダム湖周辺を、一体どんな環境にしたいのか。現状からはその計画性がかけらも感じられない。そういえば団地入口の看板の裏の敷地も既に太陽光パネルが設置されていたのを思い出す。

 東金は古くからの商都であり、僕が住むお隣の八街とはその歴史がまったく違う。市内全域の農地の果てにまで宅地が展開された八街は、その住宅市場は飽和状態に達し、近年はようやく行政も「近郊農業の町」として、落花生などの特産品のアピールに力を入れているが、元々商業主体の東金は、自治体の財政規模が小さいこともあって、市内の業者や地主を抑える力もないのかもしれない。ここに紹介した八坂台の他に、市内には日吉台、油井、季美の森(大網白里市とまたがる郊外住宅地)といった交通不便な大規模住宅地を抱えた東金は、今後の住宅市場が週刊誌上でも不安視されたこともある。

 東金は人口規模の割に商業施設が多く、駅周辺の空洞化は進んでいるものの、東口側はきれいに区画整理され道路の幅員も充分にある。市内に九十九里鉄道が存在するため今でも路線バスはそれなりの本数が確保され、鉄道が不便な分、高速バスの停留所は市内各所に配置され、東京駅や幕張、千葉駅などへの便数も申し分ない。ここで紹介したときがね湖の他にも八鶴湖という人造湖もあり、数百年の歴史を持つ貯水池の雄蛇ヶ池や、市街地を一望できる山王台公園、九十九里海岸も近く、そして小都市では珍しく個人経営のラーメン店の出店も多いラーメン激戦地でもある。

 平地に広大な稲作地帯が広がる一方で、八街や山武に近接した丘陵上のエリアは昔ながらの山村風景も残り、東金はマイナーながらなかなか味わい深い地方都市なのだ。ベッドタウンとしての超郊外住宅地がその歴史的使命を終えていく中、東金には、前時代の遺物のような住宅開発ではなく、他に求められている方向性があるはずだ。
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東金レイクサイドヒル八坂台へのアクセス



東金市八坂台
・千葉東金道路東金インターより車で8分
・総武線千葉駅/東金線東金駅より九十九里鉄道バス「九十九里ライナー・レイクサイドライナー」 「クレオの杜八坂台三丁目」バス停下車