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 いずみ台ローズタウンは、千葉県の県都である千葉市の若葉区、多部田町にある。千葉市は100万人近い人口を抱える県下最大の都市で、政令指定都市でもある中、若葉区は緑区と並び未だ区内に広い農村地帯を抱えるエリアである。若葉区内における交通機関は、近年オシャレな新型車両を導入した千葉都市モノレールであれ、あまりオシャレではない狭隘路をクネクネ進む路線バスであれ、そのほとんどは千葉駅へのアクセス性を重視して網羅されている。だがその千葉駅自体、周辺市街地の空洞化が進んでおり、元々商業施設が減少していたところに近年、大型商業施設であるパルコや三越百貨店などの閉店・撤退が相次ぎ、幕張メッセなどのある幕張新都心からはかなり遠い立地である若葉区の住宅団地は、JR都賀駅周辺を除き徐々にベッドタウンとしての需要を失いつつあり、地価の下落が続いている。

 千葉市は県の中央部に位置し、通常、成田や印西方面を指す地域の呼称の「北総」で語られることはないのだが、若葉区に関しては、八街と隣接しているエリアでもあるし、元々内陸地帯なので、千葉市においては海岸部の埋め立て地よりも早く大規模な住宅団地開発が進められてきたという歴史があるので、このブログで取り上げるにふさわしい住宅団地がいくつかある。ちなみに私事だが、僕は高校を卒業後まもなく、千葉に引っ越してきたのだが、最初に借りた物件は、この若葉区にある「大宮台団地」という住宅団地にあり、その団地は1963年から千葉市住宅供給公社によって分譲された市内初の大規模住宅団地であった。
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政令指定都市でありながら長閑な農村風景が残る若葉区。
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若葉区内の各団地を結ぶ千葉都市モノレール。バブル期の開通のため高額の建設費がかさみ、膨大な累積赤字に悩む。(千城台駅にて)

 今回紹介するいずみ台ローズタウンは、その僕が暮らした大宮台団地に隣接する、多部田町の丘陵の谷間を造成して作られた住宅団地だ。ここは1971年頃から京成電鉄(京成不動産)によって造成が行われ、1973年より、当初は建売住宅の分譲地として販売が開始された団地で、当初はその住宅各戸にバラの植栽が施されていたことから「ローズタウン」と名付けられたようだ(京成はバラ園の経営もしておりバラ好きである)。しかし、そんな華やかなニュータウンの姿も今は昔、ローズタウンは今となっては、おそらく千葉市内で最も寂れてしまった住宅地と化している。ちなみに団地名の「いずみ」とは、かつて千葉市に吸収合併された旧「泉町」の名残で、このエリアには今でも「泉高校」「泉自然公園」「いずみ霊園」など、「泉」の名を冠した施設が各所にある。
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分譲後間もない1975年のいずみ台ローズタウンの上空写真。屋根の色と家屋の大きさから、同規格の建売住宅が並ぶ光景が見て取れる。(国土地理院航空写真より引用)

 僕のブログは、一般的に「限界ニュータウン」として語られる、例えば多摩ニュータウンのような昭和の大規模住宅団地よりは、どちらかといえば無計画に造成が進められたミニ分譲地の紹介がメインである。しかし、一般的なメディアで認知されているニュータウンの問題は、むしろこのローズタウンのような郊外の住宅団地で発生している話だ。そこで今回は、僕の住む八街からもさして遠くないこのローズタウンの現状と取り組みを紹介することによって、郊外が抱える問題を別の視点からまた浮き彫りにしていきたい。
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国道126号線といずみ台ローズタウンを結ぶ道路。

 さてローズタウンは、千葉と東金を結ぶ国道126号線(東金街道)の大草交差点から南に入っていくのが一般的なアクセスであるが、この道が、一応バス通りではあるものの、走ってみると国道から団地まで意外と距離がある。周囲は農村住宅の他は雑木林が多く、商店は皆無で、国道から徒歩でアクセスするには少し辛いものがある。多部田町は市街化調整区域であり、地域住民に対する特例を除き、基本的には新規の住宅の建設は認められないのだが、ローズタウンに関しては開発許可を取得して造成された旧分譲地であるので現在でも再建築は可能である。しかし金融機関によっては、市街化調整区域の住宅に関しては一律に住宅ローンの融資を行わないところもあるため総じて調整区域の流動性は低く、それが多部田町の地価を押し下げる遠因の1つとなっている。

 隣接する大宮台団地も高齢化に悩み旧来の商店街の衰退が続く中、ローズタウン周辺はもはや新規の住宅開発や商業施設の進出の望みはまったくなく、ローズタウンの住民の中には、大宮台団地内のスーパーまで、森の中の道を30分以上掛けて徒歩で買い物へ向かう方もいる。大宮台にしろローズタウンにしろ、モノレールの千城台駅からはかなり離れた立地であり、JRの千葉駅からは更に遠く、自家用車がなければかなり不便を強いられる地域だが、車に乗ったら乗ったで千葉市中心部へ向かう主要道路の国道16号、国道126号は共に渋滞が激しく、有料道路である京葉道路や千葉東金道路もちょうどこの若葉区周辺に渋滞の名所が複数あり、交通網に関しては八方塞がりの状況が続いている。
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ローズタウンのメインストリート。

 国道からのアクセス道路を道なりに進めば自然とローズタウンのメインストリートにたどり着く。一見すると整然としており、どこにでもある郊外住宅地の趣だが、本来は商店街としての利用を想定されていたこのメインストリートも含め、現在この団地内には商店の類はコンビニを含め一切ないので、時折車が通り抜ける以外は歩く人もおらず寂しい雰囲気だ。ところで話はややそれるが、僕はローズタウンを訪問するのはこれが初めてではない。最終的に八街を選び移住した僕ら夫婦であるが、当初は候補地として若葉区や佐倉、成田、東金などかなり広範囲にわたって下見しており、このローズタウンも、妻と何度か貸家の下見に訪れたことがある。 いずみ台ローズタウン (3)
団地内のバス停。

 メインストリートには2か所、千葉駅と結ぶちばフラワーバスと、千城台駅と結ぶコミュニティバス「いずみバス」のバス停がある。本数は、フラワーバスが朝の時間帯を除き一時間に1本程度、いずみバスは1日5本であり、既に路線網からも見捨てられた山武の限界分譲地に比べればまだマシとは言え、世帯数は山武のミニ分譲地の比ではなく、これでは決して交通利便の良い状態とは言えない。

 先述のように、ここは京成電鉄の開発した団地であり、分譲当初から周辺に鉄道駅はなく、元々は京成電鉄のバスが今よりも多く運行されていたはずであるが、バスの輸送人員が年々減少の一途をたどる中、不採算路線となったこのローズタウン線は分社した子会社に路線ごとブン投げられ、減便が繰り返されている。

 同じく京成が開発した京成本線の公津の杜駅周辺(成田市)は、今でも華々しく「京成の町」としてドヤ顔でアピールしまくっているのに対し、こちらのローズタウンは、分譲住宅に植栽したバラの花もすでに枯れ果て、今では社史の中のでサラリと数行触れる以外は、まったく京成の面影がない。千葉市の住宅市場で一人負けの状態が続く中、黒歴史として闇に葬り去るつもりなのだろうか。分譲地は一旦分譲してしまえば確かに管理責任は所有者に移るが、ただ造成だけしてあとは売りっぱなしで知らん顔では、八街のB級ニュータウンのそれと全く同じではないか。

 実は僕は、あまり京成電鉄のことを大きな声でとやかく言えない微妙な立場なのだが、やはり京成の住宅開発は、同じく住宅開発に力を入れ多くの沿線住宅地のブランド化に成功した東急電鉄と比べると、やや詰めが甘い点は否定できない。「ローズタウン」の名を冠した京成の分譲地はこのいずみ台の他にも、京成佐倉駅北側の「宮前ローズタウン」や栃木県野木町の「野木ローズタウン」など関東各所にあるが、いずみ台ほどではないにしろどこも地味な印象であり、よくある「住みたい町ランキング」でもその名を聞いたことがない(まあ、個人的には下手に知名度の高い町よりはそのぐらいの方がちょうどいいとは思うが)。
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ローズタウン内を走るちばフラワーバス。京成電鉄から分社化され不採算路線を担当する子会社の1つ。
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シャッターを閉じた団地の商店。中央に見える張り紙は迷い猫の情報を求めるもので、店舗の経営とは関係ない。

 メインストリートはバスでも十分に離合できる程度の拡幅はあるが、一歩街路に入れば、幅員は途端に狭くなり、いかにも70年代の分譲地といった雰囲気を漂わせている。そして何より目に付くのは、各住宅の敷地に構築された巨大な擁壁だ。この団地は「いずみ台」を名乗りながら、実際は丘陵地の谷津田を中途半端に埋め立てたすり鉢状の地形で傾斜地が多いのだが、擁壁は明らかに必要以上の高さまで設けられ、街路とのひどい高低差が生じている。

 擁壁のほとんどは古い規格のもので、2メートル以上あればもれなく県のがけ条例に抵触するのはもはや言うまでもなく、うっかり古家を取り壊してしまった擁壁上の宅地は、一応売りには出されているものの、土地値以上の工事費用をかけて基礎を強化するか擁壁を再構築しなければ家屋の再建築もできず、立地的に農地に戻すのも非現実的で、高低差があるので駐車場にもならず、まさにただ課税されるだけの紛れもないジョーカーと化している。
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多くの宅地に擁壁が構築されている。
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あろうことか家屋を取り壊し、流動性を失ってしまった宅地(売出中)。

 そのためだろうか、ここは分譲開始からすでに40年が経過しているにもかかわらず、おそらく分譲当初の建売住宅であろうと思われる古い家屋が所々目に付く。市街化調整区域&がけ条例という負のコンボで建て直しの資金調達に高いハードルがあるためか、リフォームで住宅性能を維持し続けているのかもしれない。ちなみに今日まで残されている当初の建売住宅は、既に建物の資産価値はないため「古家付土地」として300万円程度で売りに出されているのをよく見るが、当初の建売住宅は簡易水洗(汲取)のうえ、70年代の建売住宅は造りも非常に簡素なため傷みが激しく、大掛かりなリフォームが必要なものがほとんどだ。

 しかし家屋はそれでもいいかもしれないが駐車場はそうはいかない。この分譲地は千葉駅まで京成電鉄のバス利用を想定して開発された古い発想の郊外住宅地のため、分譲当初の宅地にはほとんど駐車場がない。比較的高低差の少ない団地中心部の宅地は、簡単な外構工事で駐車場を確保しているところも多いが、巨大な擁壁上の宅地は擁壁を削ってビルドインガレージを設ける以外に手段がなく、それがまた気の遠くなるような工事費用を要するため、やたらと路上駐車が目に付く。

 路上駐車自体は北総の分譲地では珍しくもないのだが、この団地の街路はほとんどが公道のはずだ。おそらく地域住民同士の暗黙の了解であろう、いつ来てもこの団地はあちこちに路上駐車の車両が置かれ、特に空き家や空地の前は必ずといっていいほど車両が陣取っており、元々広くもない街路を自家用車で通行するのに難儀することがある。火災の際は消防車の通過に支障が出るので控えた方がいいのだが、この地形では致し方のない現象なのかもしれない。
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やたらと路上駐車が目立つ団地内の街路。

 しかし路上駐車よりもより気になるのは、やはり空き家の多さだ。一見すると清掃も行き届き、限界ニュータウンで時折見かけるゴミ屋敷もなくそれほど荒れた印象のないローズタウンだが、よく見れば、あちこちに古びた空き家が目に入る。また、あまり生活臭のない、空き家かどうか判然としない家屋も多い。

 今回、一年半ぶりにローズタウンを再訪して、以前あった空き家が2件、取り壊されて更地となっていた他、かなりひどく荒れていた空き家が一軒大幅にリフォームされて貸家として入居者を募集しているものもあったのだが、多くの空き家は再利用もされず、以前と変わらず荒れたまま放置されていた。空き家となっているものは、やはり分譲当初の建売と思われる古い家屋である。未管理の空き家は擁壁の劣化も進み、擁壁上の柵に警戒テープを貼られたり、劣化個所の下にカラーコーンが置かれた擁壁もあった。
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団地内の空き家。
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家屋の傷みは激しく、擁壁も劣化している。
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空き家の前面道路は路上駐車で利用されることが多い。
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こちらは2016年の訪問時に存在した空き家。現在は取り壊され更地となっている。
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「古家付土地」として現在も販売されている擁壁上の古い家屋(2016年撮影)。既に数年間広告が出され続けている。

 このように、今ではすっかり寂れてしまったいずみ台ローズタウンであるが、元々はこの団地も、他の数多ある郊外団地同様、都心で働く子育て世代の世帯向けに開発されたニュータウンであった。以前の訪問時に、妻が声を掛けた通りがかりの老婦人と少しお話しする機会があったのだが、その夫人は分譲当初からの住民の方で、当時は若い世帯が多く、児童の通学バスが2台編成で運行されるほどの賑わいであったそうだ。それが今では、団地内にある保育所では子供の姿をちらほら見かけるが(それでも世帯数を考えれば極端に少ない)、団地内に3つある公園で子供が遊ぶ姿を見かけることがまったくない。今回は日曜日の訪問であったにもかかわらず、ついに公園でも街路でも子供の姿を見かけることがなかった。
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人気のない団地の公園。

 だが団地の公園は非常にきれいに管理されている。比較的規模の大きい分譲地のためか、自治会の活動は今でも機能はしているようで、地区内には防犯意識を促す看板もあちこちで目に付き、町会の掲示板には、地区内の公民館で催される落語会のお知らせもあった。また、この団地の自治会活動は、若葉区の広報動画でも数度か取り上げられて、「住民主体の取り組み」のモデル事例として紹介されている。 

いずみ台ローズタウンの自治会活動を紹介した若葉区の広報動画。

 行政が推奨する自治会活動というものは、地域の環境を維持する重要な役割を担う反面、時には多忙な人や淡白な近所付き合いを好む人にとって重荷となることもあり、特に田舎のそれは住民同士の関係も濃厚で、移住者のみならず、地元在住者ですらそれを忌避する人は一定数居るのが実情だ。自治会活動への参加の強要や、不参加を理由に公的な権利の阻害(ゴミ出しの不許可など)が許容されるようなことはあってはならないと思うが、ただ個人的な意見としては、住環境を守るための取り組みそのものは決して否定されるべき活動ではないと思う。

 問題はそれをどのように舵取りしていくかが今後の課題だ。特に自治会費や共益費などの金銭の管理には細心の注意を払わないと、外見は美しい邸宅が並ぶ理想のニュータウンでも、内情はドロドロで、醜い派閥争いが渦巻く蟻地獄と化す恐れがある。金銭の収受を行う以上、その使途の内訳が不透明ではあってはならない。よく聞く問題だが、自治会費が単なる内輪の遊興費で浪費されるなど論外だ。

 そしてなにより、これからの地域社会は、都会であれ田舎であれ、新規の住民を排除する論理が横行するようではいけない。かつてのマイホーム志向が薄れていると言われている昨今、硬直した旧態依然の発想しか持ち合わせていない自治会は、地域の家屋が次々売家に出され、あるいは貸家に転用されていく時流に対応できず、やがて新規住民の流入を阻み、廃れていく原因となろう。犯罪者まがいの変人、あるいは現在進行形の犯罪者の流入を敬遠したいのは誰しも同じだが、それが度を越してはならない。超郊外の住宅地は、まず、今の時代においては、本来の目的としての「郊外型ベッドタウン」としての役割はすでに終えているという認識が必要だ。かつての住人とは180度印象の代わる新規の住民が移入してきたら、それこそがもはやその住宅地は、新たな層を対象にした別の役割を担っているということである。その現状認識を欠いたままでは、どんな活性化案も絵空事に終わることだろう。

 先に紹介したいずみ台ローズタウン自治会の活動「通学パトロール」「お元気確認制度」は、ともに子供や高齢者へ眼差しを向けた活動だ。これが自治会という枠を超え、地域全体の包容力へ昇華する流れとなれば、と思わずにはいられない。
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資産性を失いつつある郊外住宅地は、冷徹な現状認識が求められる。


いずみ台ローズタウンへのアクセス



千葉市若葉区多部田町
・千葉東金道路大宮インターより車で8分
・総武線千葉駅よりちばフラワーバス「千葉線(いずみ台ローズタウン経由)」/千葉都市モノレール千城台駅より千葉市コミュニティバス「いずみバス」 「いずみ台ローズタウン」バス停下車