以前紹介した「ハニワ台ニュータウン」の記事でも少し述べたが、成田空港の南側に位置する芝山町は、分譲地の数が少ない。元々芝山町は人口は7500人しかおらず、まるっきり村レベルの小さな自治体で、中心市街地である役場周辺の地域も一集落程度の趣なのだが、やはり空港の近さもあって工業団地も各所にあって企業の進出数は多く、財政力指数は印西市と並ぶ県内7位(2014年度)である。これは県都である千葉市よりも上位に位置し、芝山は小規模自治体としては圧倒的な財政力を誇っている。

 だがそんな芝山にも、造成されたまま今日まで放置され続ける放棄住宅地がある。場所は「京カントリークラブ」なるゴルフ場のすぐ南。千葉の分譲地は、昭和のゴルフ場造成ラッシュやその後のゴルフブームと時を同じくして開発されたせいか、ゴルフ場に隣接しているものが多い。中には分譲地からもコースが丸見えで、「ナイスショット!」などという部下の白々しいおべっかの声が響き渡る中、あさっての方向に放たれた上司のヘタクソな打球が家屋の窓ガラスを直撃しそうな分譲地もあるが、この芝山町の放棄住宅地もそんなゴルフ場のすぐ近くにある。ただ、繁みがあって分譲地からはゴルフ場の様子をうかがうことはできない。
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放棄分譲地前の車道。画像右側の雑木林の向こう側はゴルフ場だ。

 成田空港からもかなり近く、三里塚の滑走路からの離発着航路のほぼ真下にあり、周囲には工業団地が点在する。はっきり言って住宅地を造るようなロケーションではなく、放棄されて当然と言った立地だ。調査中は上空に飛行機の姿を見ることはなかったが、周辺は常に多方向からゴーゴーと飛行音が響き渡り、人気のない山林に囲まれていながら静寂とは程遠い。もっとも、空港周辺には、三里塚のような、やはり騒音の激しい住宅地はあることにはあり、そのような住宅地の住民には騒音の補償金も支払われているので、気にしない人は気にしないのだろう。

 分譲地の入口には空き店舗があり、テナント募集の看板がある。建物はそれほど古くなく、周囲には確かに工業団地もあるものの、昼休み中に徒歩で訪れるには少し厳しい立地であり、経営は続かなかったようだ。背後の分譲地は完全に打ち捨てられており誰も住んでいない。果たして次のテナントは決まるのだろうか。
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分譲地入口にある空き店舗。
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放棄住宅地で飲食店を経営したい方は要問合せ。

 分譲地への進入口はいくつかあるが、いずれも荒れ果てており、街路の進入口や車道に面した区画にはバリケードがいくつも設けられ、「不法投棄者を見逃すな!」と書かれた、全体主義国家のスローガンのような荒っぽい警告文と、「監視カメラ作動中」などと真偽の疑わしい看板が立てられている。この手の放棄住宅地は人目もなく、不法投棄のメッカとなるので行政も手を焼いているのが現状だ。困ったことにこれらの土地はすべて地主は遠い町に住んでおり管理もろくにされないので、ゴミ1つ撤去が進まず、環境は悪化する一方である。
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どの進入路も荒れ果て、車両が進入できる状態ではない。
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不法投棄禁止を促す警告看板。この放棄分譲地の目印でもある。

 街路に一歩入ると、まず目につくのはやはり投棄されたゴミの山だ。ゴミは既に苔むし藪に飲み込まれ、投棄されてから長い年月が経過していることをうかがわせる。中には、数世代前の古いテレビなどもあり、家電リサイクル法や細かいゴミ分別、粗大ゴミの有料化がかえって不法投棄を増加させたという指摘も真実味を帯びてくる。
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入口付近に投棄された数々のゴミ。

 街路は舗装済みであり、擁壁も残されて、緩やかなひな壇の分譲地であったようだ。とはいっても北東向きの傾斜地なので日当たりはいまいちで、足を踏み入れる者もないので先日の雪がいまだ多く残されている。ほとんどの区画は管理されておらず、売地や草刈り業者の看板もまったくないが、所々、竹が伐採されている区画がある。ただ、先日紹介した成田市臼作の放棄分譲地と違い、この分譲地には電柱がない。共有設備まで備え、本格的に居住を想定した分譲地ではなく、ここも北総によくある投機目的に特化して最低限の工事で造成された分譲地であろう。残念ながら、笹や竹の繁殖がひどい区画が多く、分譲地内のほとんどは立ち入ることが難しかった。
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街路は舗装されている。
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竹が伐採されている区画もある。
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繁みの中に擁壁が見える。
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街路の形跡はあるものの、ほとんど整備されていない一画。

 見たところ、畑用地として利用されている個所もない、ただの放棄住宅地なのだが、先にも述べたように数か所、きれいに整地されている区画がある。よく見れば街路も、数十年人が入り込んでいないようには見えず、時折人の手が入っているようだ。そして、その更地の一角に、驚くべきことに成田国際空港株式会社(NAA)の所有地であることを示す看板が立てられていた。看板には担当者と思しき方の名刺も貼られており「所有地につき立ち入り禁止」との一文があるが、率直に言って、立ち入る者なんて僕以外に居ないと言うか、こんな荒れ果てた分譲地の奥にまでわざわざ看板を立てる必要性があまり感じられない。立ち入る必然性がもしあるとすればこちらが聞きたいぐらいである。
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人の住まない分譲地にしては不自然に管理された一画。
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成田国際空港(NAA)の所有地であることを示す立て看板。

 周知のように成田国際空港株式会社は、今なお反対派の土地の収用を完了させておらず、空港周辺にはいまだ過激派が嫌がらせで建てた鉄塔や小屋の残骸が残る個所もあるが、近年はそうした土地の他に、空港周辺の未利用地も、将来の空港用地として買収を進めている。それにしてもこんな放棄分譲地まで1区画ずつ買収を進めるとはご苦労なことである。現状を見る限り、どう見ても管理放棄された区画が大半で、買収が順調に進んでいるとはとても考えられない。ここは空港敷地に隣接しているわけでもないので強制収用する根拠も薄く、現時点では、担当者が汗水流して一区画ずつ地主と交渉を進めるしかない。それは考えるだけでも悪夢のような業務だ。そう言い切れる根拠として、この分譲地は、一見普通に造成されているように見えて、実は分譲当初から、まともな住宅地としての機能を果たしようもないデタラメな分筆が行われているのである。

山田の放棄住宅地1984
図1:1984年に撮影されたこの放棄住宅地の上空写真。
山田の放棄住宅地の地番図
図2:放棄住宅地の地番図。

 図1は、1984年に撮影された、この分譲地周辺の国土地理院航空写真。図2は、芝山町役場で取得した分譲地全体の地番図の写しである。図1を見る限りでは、建物こそないもののごくありきたりの造成地に見えるのだが、図2の地番図を見ればお分かりの通り、分譲地は極めて細かく分筆され、南西側の区画など、こんな細長く細切れした土地に果たしてまともな家屋など建てられるのか疑問に思わざるを得ない。そしてふざけたことに、舗装されて街路だと思い込んでいた部分まで、実は細切れにされ分筆されている。70年代とは一体どういう時代だったのか、と天を仰ぐしかない。芝山町役場の職員の方までもが、この地番図を発行する際「これじゃ地番がグチャグチャで見えないですけど大丈夫ですか?」などと心配してしまうほど、デタラメ極まりない分譲が行われているのである。

 ここはとりあえず造成工事こそ行ったものの、分譲の際、粗雑な販売手法が採られたことが容易に想像できる。買い手もおそらく、ほとんど何も考えず、ただ勧められるままに購入したのであろう。それが今となっては、ただ登記がされているだけの、再利用の見込みもないクズ土地として原野に還っているわけであるが、気の毒なのは、こんな土地の買収業務を任されてしまった空港会社の担当者である。担当者は今なお、こんな小間切れの不在地主一人一人にコンタクトを取り、交渉を進めているのであろうか。分譲からおよそ半世紀が経過した今、所有者の所在が分からなくなっている区画も多いであろうに、はっきり言って現行の法制度では、ここの分譲地すべての買収など不可能だと言い切ってもいい気がする。

 空港建設の反対運動が盛んだった当時、反対派は一坪ほどの小さな土地を複数名の名義の共有地とすることで、土地の収用を妨害する手法を使ったことがある。やがて時は経ち、反対派が世論の支持を失っていく中で、ようやく妨害用の鉄塔や小屋の撤去も進められつつある今の時代、まさかの放棄分譲地という新手の敵を相手に、空港会社は今も闘っている。
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追記
本文中で、私道まで分筆されていることをしてきしましたが、古い分譲地では、私道を共有するのではなく、分割して各区画の所有者が権利を保有するケースもあったようです。ただしこの土地がそれに該当するかは、登記情報を確認したわけではないので不明です。



空港会社の敵と化した放棄住宅地へのアクセス 


山武郡芝山町山田
・新空港自動車道新空港インターより車で20分
・成田空港第2ターミナル13番バス乗り場/芝山鉄道芝山千代田駅より千葉交通「空港シャトルバス・横芝屋形海岸行き」 「芝山中学校入口」バス停下車 徒歩16分
・芝山鉄道芝山千代田駅より芝山町ふれあいバス 「山田」バス停より徒歩18分