北総の分譲地の更地によく看板を掲げている草刈り業者の一つに「ニチエイ建設(日栄不動産)」という会社がある。多くの草刈り業者の売地の物件広告が、ただ地積と価格を羅列しただけの、所在地の特定も難しい横着な広告であるのに対し、日栄不動産のそれはなかなか丁寧であり画像も豊富で、時には動画を公開している物件もあり、所在地も明示しているものが多いので、実は僕自身も限界分譲地の調査に利用することがある。

 すなわち、その物件画像の周囲の状況が、明らかに未利用地や未管理地の目立つ環境であれば、所在地を確認して訪問するわけであるが、そんな日栄不動産の広告に、もうずいぶん前から、八街市上砂(かみいさご)の売地広告が出されている(以下のリンク先が物件広告)。

八街市上砂 108㎡ 120万円
http://fudosan.cbiz.ne.jp/detailPage/sale/70005/252/?&allsup=70005&fr=g

 広告の画像をご覧いただければすぐに分かるように、一応擁壁が設けられた造成地ではあるのだが、街路は激しく傷み、周囲の区画は樹木が茂っている。広告には「周囲は山林が多いので、田舎暮らしにちょうどいい環境です」とあるが、田舎過ぎて買い手が一向に決まらないうちに周囲が山林と化した、というのが正確な表現であろう。

 上砂は八街の市街地から遠く離れた完全な農村地帯で商業施設も皆無であり、分譲地もほとんどないエリアで、その立地でこの価格は正直言って安くないので、僕もこれまでさして興味を持たなかったのだが、よくよく考えると、八街は極限までスプロール化の進んだ自治体でありながら、意外にも放棄分譲地というものを見かけない。北総の投げ売り物件多発エリアの中で、八街は最も首都圏から近いエリアであるためか(それでも都心まで60㎞)、どんなに駅から遠く離れた陸の孤島のような分譲地でも、建築許可が下りない分譲地を除き、家屋がまったくないところはまずない。しかしこの上砂の売地の現況は、画像を見る限り明らかに放棄住宅地の様相だ。一体どのような状況か、ブログネタの1つとして見に行ってみることにした。
上砂上空写真
2010年に撮影された上砂近辺の上空写真。赤丸で囲った位置が当該の分譲地だが、周囲の山林と同化し、そこが造成地であることはまったくわからない。(国土地理院の航空写真より一部加工の上引用)。

 僕の車は基本的に通勤用であるためこのご時世にもなってカーナビが付いていないので、最初は道路地図を参考にして上砂に向かったのだが、ご存知の方も多いと思うが、八街という町は、幹線道路から一本入り込むと、それこそ小型車がようやく一台通行できる程度の幅員しかない迷路のような狭隘路ばかりで、目指す分譲地がどこにあるのかさっぱりわからない。仕方ないので、通信データ量の浪費に目を瞑ってグーグルマップを開く。目指す分譲地は、今は休耕地となった谷津田跡の合間を蛇のように縫う細い農道の先にあった。金田一耕助が頭を掻きながら歩いてきそうな、紛れもない農村の小路だ。
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上砂の放棄分譲地へ至る農道。
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車両一台がようやく通行できる細い農道の先に分譲地はある。
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分譲地の入口。画像奥の整地された区画は、草刈り業者の手が入っている。

 八街市の、特に南部にある農村の分譲地は、ここに限らず、アクセス道路が極めて狭くてわかりにくいものが多いのだが、その中でもこの分譲地はトップレベルの分かりにくさだ。売れない分譲地は、やはり売れないだけの理由があるのだ。今でこそグーグルマップという便利なツールを駆使すればその訪問は容易いが、そんなものがまだなかった70年代、80年代において、このふざけた立地が見学者に二度と忘れられないトラウマレベルのマイナスイメージを植え付けたことは想像に難くない。

 分譲地の入口付近には、飯場で見かけるような二階建てのプレハブの他に、隣接した敷地に1軒の家屋があったが、築年はバブル期よりもずっと前のものと見受けられ、この家屋が、この分譲地を取得して建設されたものかはわからない。ひな壇となった分譲地はさらにその奥にあり、広告にあった土地は確かに綺麗に草刈りされ管理されており、ニチエイ建設の看板が立てられた区画は他にも存在したが、それ以外の区画は大半が山林化していた。
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分譲地の入口付近にはプレハブがある。下段画像右手には家屋が一棟建つ。
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プレハブを過ぎると、問題のひな壇分譲地が顔を出す。

 街路は舗装された形跡はあるのだが、これまで多くの車両が通行していたとはとても思えない立地でありながら路盤の劣化が激しい。傾斜もきついし、1区画当たりの敷地面積も広くない。ほとんどの宅地は、がけ条例に抵触するほどの高低差はないと思うが、擁壁も既に劣化が進んでいるものが多く、側溝ももはや復旧不能なまでに土砂に埋もれている。
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分譲地内の街路。
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広告が出されていた売地は確かに管理されているが、他は山林と化した区画が大半だ。
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広告の物件以外にも、業者が管理する更地はいくつかある。
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擁壁の劣化も進んでいる。
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側溝はまったく使い物にならない。

 僕自身が別に日栄不動産の宣伝をする義理はないとは言え、限界ニュータウンの活用方法を模索する当ブログとしては、こうした格安土地を積極的に仲介する意思のある業者の業務を妨害するわけにもいかないのだが、もっと家屋が並ぶ分譲地ならともかく、こんな放棄分譲地の区画を、わざわざ業者に依頼して、部分的に草刈りする意味などあるのだろうか。

 多くの不在地主は、近隣住民からの苦情が絶えないが故に仕方なく草刈り業者を入れているだけであろうが、この分譲地には苦情を言う近隣住民もおらず、雑草の繁茂以前に、分譲地自体がほぼ山林と化しているではないか。草刈り業者は、きれいに伐採してあった方が売りやすいと言うし普通の分譲地ならそれも理のある話だが、ここに関しては宅地の雑草を刈ればどうにかなるレベルを超えている。

 それでも尚も草刈り業者を入れて管理しているのは、一刻も早く手放したいという地主の切実な思いもあるのだろうが、突き詰めて考えれば、やはりそもそも地主自身の所有者意識が低いことが理由だろう。自らが投機目的で手を出した物件の資産価値の下落という現実を直視することもなく、さりとて所有地の現況に関心を払うこともなく、機械的に何もかも人任せに管理を続けているからこそ、こんなちぐはぐな現象が起きているのだ。
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 分譲地内の街路はこれまで紹介してきた他の放棄分譲地と比較すれば、充分歩行可能な状態ではある。だがどの区画にも樹木が生い茂っていて、今の時期だから枯れ木の状態であるものの、これでは新緑の時期を過ぎたら、それこそまごうなき山林と化す。ひな壇とは言え果たして本当にここは「日当たり良好」なのか、夏場の模様を再リポートしてみる必要がありそうだ。

 分譲地の最上段の区画にもニチエイ建設の看板が立ち、「売地」としてきれいに整地されていた。隣の区画には敷地に上がる階段が設けられていたが笹薮に覆われており、肝心の売地には階段がない。仕方ないので擁壁をよじ登って分譲地を見下ろしてみると、なるほど傾斜がきついだけあって分譲地全体の模様を見渡すことは可能だが、眼下に広がるのは何の変哲もない雑木林。自然に包まれていると言うのは褒めすぎで、これはただ荒れているだけであり、立地も住環境もほとんどジョークに近い分譲地であるが、売主は真剣である。
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最上段の区画も売りに出されている。しかし、宅地へ進入するための階段がない。
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隣の区画には階段があるが、こちらは全く管理されていない。
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最上段から見下ろした分譲地。眼下に広がるのはただの管理不全の雑木林であり、大自然、という雰囲気ではない。

 もともとこの分譲地は谷津田に面しており、樹木もきちんと伐採されていればそれなりに開放的な眺望は確保されているはずなのだが、現況では、あまりに植生が激しく、分譲地のほとんどの位置からはその光景は望めない。もっとも、その谷津田にしても現在は休耕地の状態で、仮に見えても一層その衰退ぶりが際立つだけであるが、しかし今の時点であれば、樹木の幹はまだ細く、根気よく抜根をすれば林業経験はなくとも整地は可能であると思われる。ただし、地形の制約もあって重機の進入は難しいので、仮に利用する意思があるのなら、その辺りも価格交渉の材料として利用して、捨て値で買い叩くのも一つの手かもしれない。周辺の未管理地の樹木も、勝手に伐採しても、多分誰も何も言わないし、1区画だけでも購入すれば、街路も含め事実上ほぼ独占使用可能な状態であることが、現状では唯一のメリットといえる。


 ただ、120万円は高すぎる。
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分譲地は谷津田に面しており、本来ならば、それなりに開放感のある立地だ。
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ほとんどの区画の所有者は管理する意思もないが、樹齢はまだ若い樹木が多い。
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農道の奥深くに眠る放棄分譲地へのアクセス



八街市上砂
・千葉東金道路山田インターより車で5分
・総武本線八街駅より八街市ふれあいバス「南コース」 「丹尾台」バス停下車 徒歩10分