というわけで、何もすることがないんで、大昔の、わたしの学生時代にいた、女ボスのいじめっ子の話を書きます。いろいろ書いても、もう会わないだろうし、時効だろうから。その人は仮名でキーさん。
時期は今よりウン十年前の、高校2年の時のことです。
キーはですね、わたしと違って、やたらと恋愛体質で、しょっちゅうAくんが好き、Bくんカッコイイ、と男子を追いかけてばかりの人でした。あと、クラスで6、7人のグループ作ってて、そこのボスでした。
わたしは、友人はいるけど、トイレまで一緒に行くとか、そういうべったりくっついてどこでも一緒、みたいなグループ付き合いはしてなくて、地味ながら1対1の付き合いをし、違うクラスの女子とも仲良くしてました。
ある時、キーのグループから一人の女子が、仲間はずれにされたんです。その子は仮名でユッキちゃん。ユッキちゃんとわたしは、元から仲良しだったんで、昼食時にグループからはじき出されたユッキちゃんは、わたしと一緒にお弁当を食べるようになりました。
でも、変なんですよね。ボスのキーがグループのメンバーに命令出して、ユッキちゃんをのけ者にしておきながら、ユッキちゃんがわたしと二人でお弁当を食べていると、
「ユッキちゃん、どうしたの? 一緒にお弁当食べようよ」
などと言ってくるのが当人のキーなのです。なんか、ユッキちゃんから事情を聞いてそうなわたしに対して、「わたしはユッキちゃんを仲間はずれにしてないよ」とアピールみたいなのをしてくるんですわ。
後で書きますが、わたしもその後、まったく同じような目に遭ったので、そのことがわかりました。
それで、ユッキちゃんがこんな災難に遭った理由はというと、キーが同じクラスにいたAくんを好きになり、協力してくれるように自分のグループのメンバーにも頼んでいたんですよね。毎回同じパターンなんだけど、キーは気になる男性が現れると、必ずお目当ての男子当人ではなく、包囲網を敷いて周りから地固めしていくタイプ。
ところがAくんはユッキちゃんに片思いをしていて、キーが地固めやってる間に、ユッキちゃんに「付き合って」と告白してしまったんですよ。要するに恋敵になってしまったので、グループから追い出したのです。
本当は、人の外見にあれこれ言うのは良くないけど、ユッキちゃんは美少女で、元からモテてたし、当時はもう同じ部活の男子と付き合っていました。(比べてキーの外見はちょっと残念ということで)。彼氏のいるユッキちゃんは、Aくんの告白は断ったけれども、キーとしては、Aくんは自分ではなくユッキちゃんを好きだった、というので嫉妬したんでしょうね。
わたしも後に同じ目に遭う、と書きましたが、キーはいつも、自分で意地悪しておきながら、それを上手に誤魔化すんですよね。だから、ユッキちゃんをグループから追い出しておきながら、平気で、クラスメートの前では
「ユッキちゃん、この頃どうしたの? お弁当を一緒に食べよ?」なんて言うし、ユッキちゃんがいない時に、彼女と親しいわたしの所に来て、
「ユッキちゃん、最近わたしたちのグループから抜けちゃって、わたし、何か怒らせちゃったんだろうか」などと健気な自分をアピール。
そんなわけで、女子の間ではキーは誰にでも優しくて親切ないい子、という評判でしたが、結構いろんな人に、底意地の悪さと世渡りのうまさ、自分で嫌われるようなことをしておきながら、人にはそれを悟らせない小賢しさなど、バレてもいました。
ユッキちゃんはその後、お父さんの転勤で引っ越してしまい、転校していきました。当時の通信手段は手紙ぐらいしかないので(長距離電話は当時、すごく高かった)、わたしとユッキちゃんは文通してましたが、なんとキーもユッキちゃんに手紙を書いては送ってました。ユッキちゃんもわたしもキーの本性はわかってましたが、案の定、
「ユッキちゃんはわたしにお返事くれないけど、でもわたしは時々ゆっきちゃんにお手紙を書いてるんだ」
と、ユッキちゃんをのけ者にした事実などさらりと忘れて、「お返事はもらえなくても、わたしは手紙を書いているの」とクラスじゅうにまた「健気なアタシ」をアピール。
どうせなら近況報告より、謝罪の手紙でも送ったら良かったのにね。
さて、そんなわけでわたしはキーとは、ケンカもしない代わり、さして仲良くもせず、キーのグループにも入りませんでした。そのキーが急にわたしに接近してきました。それはやっぱり男絡みのことでした。わたしは高校時代、一度も彼氏なんて出来なかったんてすが(その後も出来なかったけど)、中学時代からの知り合いで、普通に仲良くしているテツヤ君(仮名)というクラスメートがいて、テツヤ君の親友B君に、キーは恋をしたそうです。それでわたしを利用したくてキーはいつもの、包囲網を作って射止める作戦に出たわけですね。わたしからテツヤ君を通じて、キーをB君に推薦して欲しかったようです。
でも、過去にユッキちゃんのことがありますからね、テツヤ君とわたしが仲良くしているのは、わたしがB君を好きだからその地固めの一環ではないか、と勘ぐってきて、キーが「アタシも協力するから、好きな人を教えて」なんて言ってきて、本当にウンザリしたんです。キーが包囲網作戦をするのは自由ですが、わたしはそんな面倒なことしないってば。
で、わたしは本当は、まあ好きな人がいたわけなんですが、男好きのキーは、過去に何度も、友人に協力する振りをして自分から男子に近づき、すぐに言い寄って、友人を裏切る前科が数え切れない女ですから、誰が好きかなんて教えたらどうなることやら。
わたしが頑として口を割らなかったものだから、キーが怒りまして、話しかけても無視されました。わたしにとってはキーは友人ではなかったので、「あー、コイツ、好きな人を教えないからって怒ったか」と思って、それきりわたしも、話しかけませんでした。無視されるのに、すり寄る理由なんてないから。
ところが3日ぐらいすると、朝、教室に入ってきていきなり笑顔で
「柚ぽん、おはよう!!!」
ハァ? と思いました。先にケンカ売っといて、いきなりなんじゃい、と今度はわたしが無視。それでもめげずに、
「柚ぽーん」と親しげに懐いてきて、うざいから徹底無視していたところ、キーはやってくれました。
クラスの女子を集めて、
「柚ぽんがね、わたしが挨拶しても、無視するんだ。でもアタシ、これからも柚ぽんには『おはよう』って声をかけようと思ってるの」
って、それ、相手を悪者にして、自分がいい子ぶるための、いつものパターンじゃないの。
それで? 「おはよう」と返さないわたしが意地悪ってことなんですね、ハイハイ。
でもクラスメートの女の子たちだって、だんだんと見えてくるものがあるから、誰一人、「柚ぽん、どうしてキーちゃんを無視するの? キーちゃんが可哀相じゃない」なんて言ってこないわけで、とうとうキーのほうからわたしに話しかけてきました。
「柚ぽん、最近どうしたの? わたしが何かした?」
っておい、怒って無視しやがったのはお前だろが。当人に向かってこのしらばっくれよう、さすがキーであります。とぼけるキーにわたしは「いや、最初に怒って、口をきかなくなったのはキーでしょ」と、言い、向こうは「違う」とかなり粘ったけれど、わたしが4日前にこう言ったらプイと後ろを向いて無視した、と詳細に当時のキーの行動を語ったところ、ようやく
「実は、好きな人を教えてくれないから、ちょっと怒ってた」と認めましたよ。でも話がそれで終わり、納得するかと思いきや、
「じゃあどうして追いかけてきてくれなかったの?」とさらに強い口調でわたしを糾弾。
いや、追いかける価値のある大切な友人以外は、追いかけません。
それきり、例え表面上でも、わたしはキーとは卒業するまで相手にはしないまま、何か連絡事項がある時は敬語で用件のみ伝える、というようにしましたが、キーのメッキも相当剥がれてたようで、ユッキちゃんの時とは違い、わたしは誰からも仲間はずれにはされませんでした。
ちなみにキーのB君への思いは片思いで終わり、一年先輩のC先輩と付き合い始めて、それはC先輩が卒業するまで続いてたみたいです。その時も、まずは先輩女子数人と友達になり、やっぱり包囲網作戦でC先輩ゲッツ、したようです。
それで、今だから言うけど、わたしが好きだったのは、テツヤ君の友人でキーが好きになったB君です。わたしが絶対に好きな人を教えられなかったのは、そういうわけでした。B君とは付き合えなかったけど、テツヤ君はわたしの気持ちを知ってたので、よくわたしも仲間に入れてくれたから、Bくんとは友人というか、登校時にバッタリ会うと、一緒に学校に行く程度には仲良かったです。