「おはようゴブリンくん」
目を開けるとそこには大工さんが居た、そうかここは大工さんの小屋だったのか。
「ごめんなさい、とても疲れていて誰もいなかったから...」
そういうと大工さんはニッコリと笑いながら
「いいんだよ、それにしても君、今謝ったよね?ゴブリンなのに」
ゴブリンは絶対に自分が悪くとも謝らないってみんな思ってる、謝る前に逃げるから。
「え、いや、あの、ごめんなさい....」
多分僕はゴブリンの中でも弱いんだ、謝る事しか出来ないから。
「いやいいんだよ気にしないで、行くところが無いのならいつでもおいで」

大工さんは優しい笑顔でそう言ってくれる、誰かに優しくされるのは初めてかもしれない。自然と涙が込み上げてくる。また泣いている、弱い、僕はとても弱い、こんな自分が大嫌いだ。

僕は大工さんの家を出てポケットに手を入れて歩いた。
あっ、まただ、ポケットの中からエメラルドが出てきた、これは工期を早めるために大工さんが貰う報酬だ。
どれだけゴブリンが嫌でもゴブリンとしての本能が捨てられない、無意識に盗ってしまう、最低だ、最低の種族だ。

急いで大工さんの家に戻る。
ドアを開けると大工さんが優しい笑顔で待っていた。
「君なら戻ってくると思ってたよ。君はやっぱり他のゴブリン達とは違うね」
大工さんは僕がエメラルドを盗った事を知っててなにも言わず帰らせて、待っててくれた。
また涙が溢れてくる。
大工さんが近寄って抱きしめてくれる。
「もう僕ゴブリンやだよ、なんでゴブリンなんかに産まれたんだろう、人のお金を盗りたくなんかないんだ、もうゴブリン村にも帰りたくないよ」
僕は大工さんの腕の中で叫び続けた。
自分の思いを他人に言うのは初めてかもしれない。

「一緒に住むかい?」
「え?」
「君が良ければうちに住めばいい。でも、ゴブリンが村に住むのはかなり異例だからキングに許可を取りに行かないと」

キングとは最強のバーバリアンに送られる称号でこの国全体の王だ。僕等ゴブリンは普段会う事すら許されていない。

「どうする?」
大工さんは相変わらずの笑顔で話しかけてくる。
ゴブリン村には戻りたくない、でもキングに会うのは怖い。
「怖いよ...」
「そうか。なら、ゴブリン村に帰るといい。気を付けて、帰るんだぞ」
「やだよ、帰りたくない。キングに...合わせて」 
咄嗟に出た言葉だった。
大きくてゴツゴツした手で頭をガシガシと撫でられる。
「よしっ、そうと決まったなら行くか」
大工さんが立ち上がり手招きして、ついて来いと言う。

村の中心部に行くのは初めてだ、溢れかえらんばかりのゴールドが入っている金庫や、戦士が戦場に行く前に力をつけるためのエリクサーが入っているタンクがある。金庫やタンクから目を背け、震える手を必死で抑える。

金庫やタンクのある道を抜けると兵舎が見える。兵舎では戦争に行く前の戦士達が準備をしている。
戦士達からの冷たい視線を感じる。
「痛いっ」
急に頭に大きな石が飛んできた、ボウラーだ、ボウラーはいつも大きな石を持っていて、少し離れていても石を投げて攻撃する事ができる。
「ねえ、やっぱり嫌だよ。怖いよ」
「もう少し我慢するんだ、もう直ぐつくからね」
ボウラー達がニヤニヤしながらこっちを見てる、目を伏せて兵舎のある道を進んで行く。

ヤァー!

猛々しい声が聞こえてくる、バーバリアン達だ、バーバリアン達が訓練をしている。

「ほら、見えるだろ?」
大工さんが指を指す方向を見ると、他のバーバリアンとは違う一際大きなバーバリアンが居た。
「あれがキングだ、ほら行くよ」
大工さんに手を引っ張られキングの目の前まで来た。

目の前で見るキングは他のバーバリアン3人分くらいの体の大きさで、とても大きな剣を持ち、王冠を被り、凄まじい程の貫禄と威圧感に包まれていた。

足の震えが止まらない、今直ぐここから逃げ出したい衝動に駆られる。

「ゴブリンがこんなとこまで何の用だ」
ドスの効いた声でキングが話しかけてくる。
「ご、ごめんなさい」
自然と出てしまう。
「だから何をしに来たんだ」
キングがイライラしながらそう言う。僕は大工さんに目で訴える、助けて。
「ダメだよ、ほら自分の口で言うんだ」
言わなきゃ。せっかくここまで連れてきてくれたんだから、逃げちゃダメなんだ。

「あ、あの、こ、ここ、ここにす、す住んでも良いですか?」
キングの顔が歪む。
「なんだと、本気で言ってるのか?」
「ごめんなさい」
「いや、謝らなくていい。それにしてもゴブリンにしては珍しいな、謝るのか、大工よ付いてきてくれ」
ぶつぶつ言いながら大工さんと城の中に入っていく。

1人取り残され不安になる。
逃げたい。ここで逃げたらどれだけ楽だろうか。
はあ
大きなため息をつき空を仰ぐ。
この国にはほとんど雨は降らない、僕の心とは裏腹に雲ひとつない青空が広がる。
今は空さえも憎い、何故そんなに晴々として僕を見下ろしているのか、せめて僕の上だけでいいから雨を降らせて欲しかった。

太陽が沈んでいく、赤々とした日差しで僕を照らす。
もうどれくらい待っただろう、いやそれほど時間は経ってない筈なのに、何時間も待っているように感じる。

あっ、キングだ。
キングが見えた、こっちに来る。

「お前は今日からうちの城に住め。一人前の戦士にしてやる」

え、どういう事だろう、僕は大工さんと住むんじゃなかったのか?
何故城に住むような事になっているんだろう。
「ちょっとまっ」
質問をしようとする僕の声を掻き消す。
「黙れ。いやならゴブリン村に帰れ」
最悪だ。僕は大工さんと暮らしたかったんだ、あの優しい大工さんと。

「ここに住むなら明日からワシが修行を付けてやる。どうする30秒だけやる考えろ」
少しだけ考えて尋ねる。
「僕は戦士になれるの?ゴブリンじゃなくなれるの?」
「いや、お前はどうやってもゴブリンだ、ゴブリンとして生まれたゴブリンだ、だが盗む本能を抑える事を教えてやる。お前らゴブリンのその能力は戦場で役立つがその本能のせいで戦場に呼べないんだ、だがお前は今までのゴブリンとは違う。ここに来るまでの金庫にタンクがあったはずだ、でもその中からお前は何も盗ってないだろ?」
ポケットに手を入れる。
何も入ってなかった。
嬉しかった、自然と笑みがこぼれる。
「盗んでない事が嬉しくて笑うゴブリンはお前ぐらいだ。いい戦士になれる、明日からよろしくな」
さっきまでの威圧感や殺気は嘘のようなとても暖かい笑顔で頭を撫でてくる。

「はい、よろしくお願いします」

勢いよくひと言だけ僕はそう言ってキングの後ろに付いて行き城に入っていった。