冷たい。
今日は珍しく雨が降っている。
なんでこんな日に。

今日は僕の初陣だ。
僕がキングの下で修行しだしてもう6年経つ、やっとみんなに認められて戦場に出られるようになった。

僕はキングの下で色々な勉強をした、お金を見ても動じない精神力を身に付けた。でも、1番磨いたのはゴブリンとしての能力、早さと盗みのスキルだ。
アーチャーの弓を盗むなんてお手の物、目に見えない速さで、武器や大砲の弾を盗む。
敵の攻撃を無効化するんだ。

「緊張してるのか?」
そう話しかけてくるのはウィザードだ。

彼は魔法使い、何も無い所から雷や火を起こす事ができ、戦争の際にはジャイアントの後ろから魔法で敵の村の建物を壊して行く。

「してるに決まってるだろ、なんせ初めての戦いだからね」
僕は敵の攻撃が当たらないくらいの速さで動けるから1番先頭を行く。その分みんなに期待されているのがわかる。

「お前の動きに掛かってるからな」

ここに来るまでに何度も言われた言葉、昔なら重圧に耐えられなかっただろう。でも今は違う、僕は強くなったんだ、みんなに認められ先陣を切る事を許された。自信に満ち溢れている。

行くぞ

キングがそう叫ぶ。
開戦の合図だ。
あちこちで戦士たちの雄叫びが聞こえる。

僕の役割は敵の武力の無力化、まずは先陣を切りウィザードの開発した魔法ジャンプで、とてつも無い跳躍力を得て壁を飛び越える。まずはアーチャータワーの無力化、次に大砲の弾を全て盗む、敵のキングが見える、その瞬間僕はキングの剣を盗んだ、敵のキングは鳩が豆鉄砲喰らったかのような顔をしていた。
全く気付いて無いんだ、そのまま突っ込む、後ろは振り返らない。
気づけば敵の村を防衛する施設は残って無かった。

初陣は勝利で飾る事が出来た。

今日は宴にするぞ

初めて勝利の宴に参加する。
いつの間にか雨は上がっていた。
ジャイアントが近寄ってくる。

「よおゴブリン、お前凄かったな、まるで見えなかったよ。それでさ、ずっと言いたかったんだけど、あの時殴って悪かったな。ついカッとなって」
僕はジャイアントの話を遮る。
「いいんだ、もう気にして無いよ。僕の方こそごめん」


「そこで何してるんだ、お前は今日のヒーローなんだこっちに来い」
キングが大きな声で呼ぶ、僕は腰を上げてキングの方に行った。

「今日のヒーローのお出ましだ」
「よくやったなあ」
「お前は間違いなく最高の戦士だ」

みんなに賞賛される、6年間辛かったけど辛かった事を忘れるほどの喜びを感じる。
「みんなありがとう、僕はここに立ててる事が嬉しい。みんなが良いなら次も先陣を切らせて欲しい」
僕がそう言うと、みんな口を揃えて
「もちろんだ。次も頼む」
そう言ってくれた。

初めての宴は倒れるほど騒いだ。

気付くともう朝だった。
くそっ、頭が痛い、昨日飲み過ぎたのか。

次の戦いは3日後らしいから、それまでに今回の戦いを振り返りシミュレーションをしなければ。

国を大きくする為にこれから戦争を繰り返すらしい、だから今よりも早く、そして強くならなければならない。
今回はたまたま敵が弱かっただけかもしれない。

とりあえず城に戻るか。

ここから城まで歩いて3分も掛からない、走れば僕なら15秒もあればいけるはずだ。

数えてみるか。

神経を足に集中する。盗む事を考えずに走る事だけに集中できる。
そして想像する、昨日までの自分を横に。

ヨーイ、ドン

昨日の自分よりも速く、風のように

「相変わらず速いのね、ゴブリンちゃんは」
そう言ってくるのはクイーンだ。

クイーンは最強のアーチャーに送られる称号でキングの奥さんだ。

「クイーンおはようございます」
「いいのよ、そんなにかしこまらなくて、そういえば次の戦いから私もでるから」

クイーンは普段戦いに出る事は無い、キングが戦いに出るのを許さないからだ。
次からは相当本気らしい。
クイーンの実力は実戦訓練で一度見ただけだが、それはもう凄かった。壁役の戦士の後ろから攻撃し、自分が攻撃を喰らえば姿を消して攻撃する。物陰に隠れるとかでは無い。文字通り姿を消すのだ、透明になると言った方がわかりやすいかもしれない。

キングとクイーンが居たら負ける事はあり得ない。

「クイーンの戦いが目の前で見れるなんて光栄です、楽しみにしてます。」
僕がそう言うとクイーンは悲しそうな顔をする。
「戦争なんてね、楽しみにするものじゃ無いのよ。」
クイーンが後ろに振り返る。
城でキングが待ってるわよ、それだけを言い残し去っていった。

城の扉を開けて中に入る、中に入るとすぐに大きな階段がある、キングは2回の王室にいるはずだからその階段を登り王室を目指す。

「キング、入りますよ」
中から、入れと聞こえてくる。
「ゴブリン、3日後からほとんど毎日が戦いになる。我が国の歴史に残る大戦争になるだろう、お前には毎回先陣を切ってほしい。頼めるか?」
そんな事考えるまでも無かった。
「光栄です、僕に任せてください」












戦争が始まった。
敵の国に付く。

行くぞ

その掛け声と共に敵の国へ流れ込む。

僕は以前と同じく敵の武力を無力化する。
楽しい、クイーンは戦争を楽しみにするものじゃないと言ったが楽しくてたまらない。

もう僕の居場所は戦場しか無いんだ。
僕は戦士だから。



こうして次々と色んな国を潰して行った。

潰した数は100を越えた。

僕は国で英雄として讃えられ、僕を馬鹿にする奴は居なくなった。
いつか僕に石を投げ嘲笑ってきたボウラーも今では僕に頭が上がらない。

最高の気分だ。

そういえば次の戦いの作戦を立てるからってキングに呼ばれてたな。

城へ向かう。

「遅かったな英雄さん」
キングの表情が強張っている。
周りには誰も居ない。
「作戦会議なんか珍しいと思って来たのですがここには誰も居ないようですけど、どういう事なのでしょう」
「お前にだけ話したかったんだ。次に攻め込む国は今までの国より発展していてな、インフェルノタワーって建物が建ってるらしいんだ」
インフェルノタワー...
初めて聞く名前だ。
「そのインフェルノタワーなんだが、いくら素早く動けても射程範囲内に入ると炎に追跡されるらしい、聞いた話だから真偽はわからないが、とにかくお前のスピードでも危ないらしいんだ」
僕のスピードについてこれるだって?ありえない、そんなもの存在するわけがない。
「そのインフェルノタワーとやらの炎が僕に付くまでに止めればいい事でしょう?簡単ですよ、任せてください」
「そうだな、そう言うと思ってたよ」

後ろの扉からノックの音が鳴る。
扉が開きバーバリアンが入ってくる。
「ゴブリンさんよ、客が来てるけどどうする?お前さんにどうしても会いたいそうだ」
僕に客?一体誰なんだろう。
「誰ですか?」
「君の父と母だよ」
今更何のために来たんだろう、僕は彼等に何と言われようとも村に帰る気は無い。
「なんの...ために来たんですか?」
「俺がそんな事知るわけないだろう、どうする会いたくないなら帰らせるぞ」
「少しだけ時間をください」

あの日の事を思い出す。
家族から逃げた日、ゴブリンから逃げた日、あれから1度も話してない。
会うだけだ、帰ろうと言われても帰らない、それならいい。

「あの、通してください」
「わかった、待っててくれ」

バーバリアンが2人を呼びに行く。
おーい、通ってもいいぞ、バーバリアンの声が聞こえてくる。
自分の心臓の鼓動が早くなるのがわかる、2人に会ったらなんて言おう、僕こんなに立派な戦士になったんだよ、いや違うそんな事が言いたいわけじゃない。果たして僕は何か言いたい事があるのだろうか。

そんな事を考えていると見慣れた2人の姿が見えた。
お母さんが走って飛びつき抱きしめてくる、目には涙を溜めている。
「久しぶりだねえ、こんなに大きくなって、ゴブリンが戦争に出ているって聞いてもしかしたらお前じゃないのか心配したのよ。でも、生きてて良かった」
お父さんもこっちへ来る。
「お前、この国の英雄なんだってな、父さんは嬉しいよ」
2人に抱きしめられる。
すると自然と涙が溢れてくる。2人に会いたいなんて思わなかったのに、もう2度会いたくないとまで思ったのに。

「私はね、あなたがこんなに立派なゴブリンになって嬉しいわ」
「お前はゴブリンの誇りだ」

立派なゴブリン...
ゴブリンの誇り...
ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン

僕は2人を突き飛ばした。

「僕はゴブリンなんかじゃない、戦士になったんだ、お前らみたいな盗みしか出来ない様な下等な種族とおなじにするな、帰れ、2度と僕の目の前に現れるな、バーバリアン来てくれ2人を外に出してくれ」

会うんじゃ無かった。
後悔の念に襲われる。僕は戦士なんだ。

「おい、顔色悪いぞ何かあったのか?」

キングが駆け寄ってくる。
「いや、大丈夫です」
「ならいいんだが」
不安そうな顔でこちらを見てくる。
「明日の事なら大丈夫です、もう今日は明日に備えて寝る事にします。失礼します」

自分の部屋に戻り、さっきの事を忘れるために眠りに付く。
明日の戦いの事だけ考えて。