元親はアズランの町を発ち、キリカ草原へ向かった。知恵の社に眠る文献を求めてのことだ。アズラン地方は深緑の木々が茂り厳かな空気があたりを包んでいる。町を出てほどなく元親へ向けられていたはずの殺気は消え静寂がだけが残った。

斬り合いを期待していた元親は少し肩を落としたが、本来の目的のために歩を早める。


「おい、おとなしくしやがれ!!!」

キリカ草原へ入る手前、男の声が響いた


「やめてください!わたし何も持ってません!!」

「このアマ!」

バシッ!!

鈍い音が静寂を切り裂く


声の主は野盗と思われるドワーフ男と...襲われてるエルフの女は元親のよく知る顔だった。元親の幼馴染の結月(ユヅキ)だ。


元親は結月に頭があがらない、そうそれは現実での繋がりからである。

ケンブリッジ・元親こと鈴木拓武(スズキタクム)は22歳のころ大病を患いそれから5年間病床に伏せていた。延命のためだけの入院。退屈な日々が永延と続く恐怖、いっその事殺せ!!と心のなかで何度叫んだことか。

そんな退屈な日々を刺激的なものへと変えてくれたのが「ドラゴンクエスター」である。幼馴染の結月が病室に持ってきてくれた初めてのゲーム。
拓武はすぐにドラゴンクエスターの虜になった。ゲームの中では誰よりも強くあれる、現実ではまともに動かないこの身体も元親に重ね心なしか軽くなった気がした。


そんなある時、あの忌まわしき発表が行われた。真日本西帝国、大日本東国による代理戦争にドラゴンクエスターが選ばれたのである。
優秀なプレイヤーであった拓武も、例外なく居住地区から新日本西帝国側としてシェルターに連行された。延命の為に入院していた拓武は、シェルターにて脳と身体をコクピットへ接続したところでその負担に耐えることができずその短い人生をおえた。

拓武としての人生は終わった、しかしその意志と魂は確かにケンブリッジ・元親に残ったのである。この事象については政府も開発側も全く認識できていない超常現象が起きたとしか説明のしようの無いことが起ったのである。

元親は打ち震えた、ゲームの中にはいれたら・・・いっそ元親自身になれたら。何度そう思ったことか。
ここは仮想世界、人のイメージも想いも強ければ形になる可能性を秘めている。

拓武の意思と想いはそのままにケンブリッジ・元親は1人のキャラクターとして動き出した。居合の達人、狂気の人。様々な設定も拓武の想像力から生まれた物だが、アストルティアには確かに存在するものとなったのだ。


「おい」

元親が野盗に声をかける

「なんだて.め..」

二言目を発する前には神春無為の切っ先が野盗の喉を切り裂いていた。

「拓武!!なにも殺すこと無いのに!!!」結月が叫んだ

「こいつはNPCだ殺してもなにもかわらない」元親が冷たく答える


「拓武かわったね...」悲しそうな顔で元親をみている結月に目を向けることもなく、元親は歩き出した。


戦争にも現実への生還にも興味はない。現実ではもう死んでいる身、外の世界には何の未練もない。ただただこの世界で強くあれればいい。


そのためにはこの世界を深く知るところからだ、と元親は知恵の社へと急ぐのであった。

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