一人の美しい女性ウェディが、ドワチャッカ大陸、ゴブル砂漠西にある商人たちのテントを後にする。

舞い上がる砂塵でぼやけた太陽のみを道しるべに、一歩一歩、砂に足を取られながら、頼りなく、しかし確実に歩みを進める。

彼女もまた、ドラゴンクエスターに意図せず巻き込まれた者の一人。

名前は小町と付けた。日本が東西に分かれる以前、彼女が夢中になって遊んでいたドラゴンクエストの中で使用していたものと同じ名だ。

「私なんかが連れてこられたんだもの。きっとみんないるはず。」

小町は探していた。かつてドラゴンクエストをしていたとき、ともに様々な難関を乗り越え、ともに笑った仲間たちを。

「少なくとも彼は、絶対にいる。」

小町は思い出していた。一人の男との最初の出会いを。

ドラゴンクエストのプレイを始めてしばらくの時間が過ぎたころ。自分から人に話しかけることはせず、もくもくとソロでのプレイを行っていた彼女がどうしても超えることのできなかった壁。

天魔クァバルナ。

その根城である海底の牢獄の前で倒れていたとき、ザオを唱えてくれたのが彼だった。

「彼はいつだって強く、そして優しかった。」

昔に思いを馳せることで改めてつきつけられる、ドラゴンクエスターという狂った世界の恐怖。そして、そこに一人きりで放り出された孤独。

「私が困ったとき、彼はいつだって助けてくれた。」

小町の目が涙で滲む。

「怖い。助けて。」

しかしそのような彼女の感傷を、この世界は考慮してなどくれない。



-ぐううう。ぐううう。ぐううう。-



彼女の足音を聞きつけたのだろうか。砂塵を防ぐため彼女の口元に巻かれた布。その布を通り越して鼻を刺す腐臭に気付いたとき、小町の周囲は十数匹のグールたちに取り囲まれていた。



-ずぼっ!!-



その光景に小町が頭を整理するより先に、足元から伸びた一匹のグールの手が、その腐った体躯とは裏腹に持った凄まじいまでの力で彼女の足首を掴む。

周囲のグールたちは、そのタイミングを待ちはかっていたかのように、彼女の身体をむさぼり食おうと飛びかかってくる。


一閃。


小町の周囲を囲んでいたグールたちは全て、上半身と下半身を切り離された形で崩れ落ちた。小町の足首には、先程までの力を失った、ただの腐った手首がぶらさがっている。

彼女の右手には一瞬にして強い光を放った片手剣が、熱を帯びたままの状態で握られていた。

小町は言う。

「なめないで。」と。

小町は思う。

「まずは、彼に会うの。」