「話が違うじゃねえか」

もう何度目になるか分からない呟きがグレン城下町の喧騒に空しく掻き消される。


男の名はスミス・勇(いさむ)という。
この世界に住む多くの人々と同じく、ドラゴンクエスターのプレイヤーである。

他の多くのプレイヤーと異なる点、
勇は「開発側」の人間である。
いや、あったという方が正確であろう。
ドラゴンクエスターが代理戦争の道具となりうるか、、、
その実験として送り込まれたプレイヤー。
ベータ版といえば聞こえはいいが実際は人体実験に近い。
もちろんその危険性は伏せられての事だが、開発は家族のいない健康な若い男である勇にベータ版の白羽の矢を立てた。

戦争が始まる前に勇は引き上げられる予定であったが、予定の期間が過ぎても一向に勇が引き上げられる事はなかった。

そして、大量のプレイヤーの流入。
戦争が始まったのである。


「話が違う」

すでに口癖と化した言葉が再度勇の口から紡がれる。

勇がこちらにきてから既に10数年が経過している。
ただし、アストルティアと現実世界では時間の流れ方が異なり、こちらの20日間が現実世界の1日に相当する。
つまり、計算上は
「現実世界ではまだ数カ月しか経っていない」。
この事が永遠とも思われる時間の中で、勇の精神を正常に保っていた。

もう一つ、勇の精神の安定に寄与する情報がある。
それは開発でしか知り得ない情報。
一つは「ザオ」の廃止。
代理戦争の道具として使われるこの世界において「自由な蘇生」は戦争を徒に長期化させてしまうとの判断からだ。
しかし、表向きは「ザオ」の廃止を謳ってはいるが、システムの根幹を為す部分である。
完全な廃止は難しく、封印するに留まっている事を勇は知っていた。

そしてもう一つ・・・。

「テクスチャーマインドか・・・」


勇はこの力の正体を知っていた。
ドラゴンクエスターは複雑なプログラミングから出来ている。魔法や特技などはこれらで管理されているのだが、基本設計の根幹としてあるのは「何でも出来る」である。

つまり手から炎を出したり、剣から衝撃波を出したりするのは「それが出来る」との認識の強さから起こっている現象に過ぎない。
事前の解説であったり、NPCの説明であったり。
とにかく、魔法や特技はこういうものとの刷り込みがある。
その制約から空を自由に飛んだり、海を割ったりはできない。

が、実際は可能である。
プレイヤーは刷り込みによってコントロールされている。
その制約を強化するプログラミングさえ解除してしまえば、アストルティアを自由に操作できる。
そう「ログアウト」すらも・・・。


こちらの世界で10数年が経過し、さすがにその存在の片鱗に気付くものも現れた。
自然と流れる「テクスチャーマインド」の噂。


「言い得て妙じゃないか・・・」

意志の発現。
この世界は元々は思えば何でもできる世界。
なら何故、勇はこの世界に留まっているのか。

それは刷り込みの力を強くするプログラムに原因がある。
プログラムの解除方法は分かっていた。
だが、分かっているが故に、それは勇に絶望の淵を見せた。

プログラムはテクスチャーマインドの本質を「知らない」ものでないと解除できないのである。

だが希望もあった。
開発陣でないプレイヤーであるギャングスタ・小次郎である。
彼は本質を「知らない」ままテクスチャーマインドについて調べ、そのプログラムの解除場所である詩歌の遺跡にまで足を運んでいたのである。

が、しかし、ギャングスタは解除に至らず死を迎えた。

同様のプレイヤーが現れるまで待つか・・・
それとも戦争の終結を待つか・・・

後者は望みが薄いのは誰の目から見ても明らかであった。
当初「既存のプレイヤーだけ」といった政府間取り決めはこの10数年の間に増えた新規プレイヤーの数から、形だけであるといった事が容易に想像できる。
最初から強化された武器を所持する「作られた英雄」も確認できている。
戦争の泥沼化は火を見るより明らかであった。

そんな八方塞がりの状況でも一つの光明があった。
なんとギャングスタを蘇らせようとしている存在がいるのである。
ザオを習得するには「ザオができる」との確信がなければならない。
確信がなければ、ザオの封印を解いても徒労に終わる。

慎重に見極めなければならない。

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そして、今。
10数年ザオを探し求め旅をしている男が目の前にいる。

「兄さんかい? 戦士の分際で、死んで5分 どころか十余年も経ってるギャングスター小 次郎を蘇らせようとしているっていう天然記 念物ものの阿呆な生き物は?」


勇の問いかけた先には


ボボンゴがいた----