街角の調剤薬局で「ジェネリックを希望の方は相談を」という張り紙を見かけるようになった。厚生労働省が医療費を抑制するため、新薬より価格が安い後発医薬品(ジェネリック医薬品)の普及策を強化しているためだ。ジェネリック医薬品は最近、がんや心臓病などの治療現場でも広がっているという。(牛田久美)

 高血圧の薬を20年以上飲んでいる社会保険労務士、金沢洋逸さん(76)=秋田県湯沢市=は昨年、価格が安いジェネリック医薬品のことを知り、主治医に相談してみた。さっそく血圧降下剤がジェネリック医薬品となり、薬代が年間で3千~4千円の節約になったという。

 本当はすべての薬をジェネリック医薬品に切り替えてほしかったが、かなわなかった。「まだ後発品がない薬もあるそうです。薬代を抑えるために、なるべく早く普及させてほしい。その方が国の将来のためにも良いと思います」と、市場の拡大を心待ちにしている。

 こうした慢性疾患は長期に薬を服用するため、ジェネリック医薬品にするメリットが大きい。最近は、心臓外科やがんなどの治療でもジェネリック医薬品が多く用いられている。

 東京都大田区にある東邦大学医療センター大森病院心臓血管外科の小山信彌(のぶや)教授は「ジェネリック医薬品で効果が高いのは、高額医薬品である抗生物質、造影剤、抗がん剤の“御三家”です」と説明する。小山教授は平成18年まで6年間、病院長としてジェネリック医薬品導入に取り組んだ。

 院内に薬事委員会を設置し、採用にふさわしいジェネリック医薬品をリストアップした。さらに、卸などの流通に在庫量は十分かなどを精査し、病院全体で導入に踏み切ったという。

 「高血圧の薬であるアムロジンは昨年秋、新薬の特許が切れてから30種ものジェネリック医薬品が出ている。価格も非常に幅があり、選ぶのが大変。薬剤部門が信頼できる会社の信頼できる薬を選択しています」。作成した一覧は、近隣の薬剤師会にも配布し、患者さんがスムーズに薬局で受け取れるよう配慮した。

 ジェネリック医薬品の導入は、患者の自己負担額軽減に大きく寄与する。高血圧、高脂血症、糖尿病など慢性疾患の薬代は症状が重なると、自己負担額が月に1万円を超えることもある。しかし、ジェネリック医薬品ならおおむね半額になる。

 医師らには経営面から説得をした。ジェネリック医薬品の導入以前、病院支出約200億円のうち薬剤購入費は約30億円を占めた。だが、ジェネリック医薬品導入で24億~25億円に抑えることができた。病院収益が2%ほど改善し、人員の増加、最新機器の購入などに充てることができた。ジェネリック医薬品の導入が進む医療機関では同様の経営改善効果があることは、中央社会保険医療協議会(中医協、厚労相の諮問機関)の資料でも示されている。

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 ■特定の薬 市場独占に歯止め必要

 順調に導入が進むジェネリック医薬品。ただ、東邦大学医療センター大森病院の小山信彌教授は「一つ懸念がある」と指摘する。全国展開する大手調剤薬局が特定のジェネリック医薬品だけを扱うケースだ。店頭には同一の薬が並ぶことになる。「営利目的で選んだ薬が全国で販売されるのでは、ジェネリック医薬品を普及する本来の目的が失われる可能性がある。そろそろこの問題に制度面から手をつける時期がきている」

 ドイツではチェーン薬局は認める一方で、フランチャイズ制にして経営を独立させ、ジェネリック医薬品1種だけが市場を大きく占めることに歯止めをかけたという。フランチャイズ制ならば、それぞれの薬局が薬の選択に裁量権を持つからだ。

 小山教授はジェネリック医薬品の普及に取り組んだ理由をこう話す。

 「医療費が高いと医師が責められるが、全国の多くの病院が赤字経営の中、『こんなに一生懸命にやっているのに』と矛盾を感じる。それならば、医師として医療費抑制のためにできることは取り組むべきだと感じた。それによって医療費の本体である診療行為そのものを正当に評価してほしい」

 医療費の総額(国民医療費)は34兆円で、薬剤費は7兆円といわれる。諸外国に比べて比率が高い。「グローバルに見ても薬剤費の高さは見直すべきだと思います」

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【用語解説】ジェネリック(後発)医薬品

 新薬の特許期間(20~25年間)が切れた後、別の製薬会社が作る医薬品。有効成分は同じだが、開発費がかからず、価格が2~7割と安い。欧米での普及率は5~7割と高いが、日本では2割弱と伸び悩む。

 厚生労働省は平成24年に3割を目指して普及策を強化。4月からの診療報酬改定ではジェネリック医薬品をより多く処方する調剤薬局には、医療保険から支払われる調剤報酬がより多く加算される。

 1300種を常備する薬局で知られるイムノエイト社長で薬剤師の谷口郁子さんは「ブランド品である先発品が良いか、より安いジェネリック医薬品が良いかは患者さんの価値観によって異なる。医師が必要な成分を処方箋(せん)で示し、薬剤師が薬の情報を提供して患者自身が選ぶ手伝いをする関係が理想」と話している。

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