早見沙織さんのデビュー・アルバムについて、とり急ぎメモ。

 レーベルが「ワーナー・ホーム・ビデオ」。これは「赤髪の白雪姫」のアニメが同じ会社で、その声優と主題歌を担当している関係で、同じところからアルバムも出ている流れですね。

 声優のCDとアニメ会社の関係がどうなってるのか、よく知らないのですが、雨宮天さんはミュージックレイン(ソニー系)で、今井麻美さんは5bpとそれぞれ所属のレーベルがあって、でも、同じミュージックレインの声優ユニットで天さんもメンバーであるTrySail「High Free Spirits」や今井麻美「夜明けのスターマイン」はそれぞれ、アニプレックスのアニメの曲なので、CDもアニプレックスから出ております。で、TrySailのシングルやアルバムもアニプレックスから出てますが、今井さんのアルバムはシングル曲を収録した上で5bpから出ていると。いろんなケースがあるみたいですね。大人の世界ややこしいです。

 気になっているのは「ワーナー・ボーム・ビデオ」なるレーベルから主題歌ならともかく、声優のアルバムが出るということは希なんではないかと。調べたら井口裕香さんのアルバムも出てました。やはりワーナーのアニメに出演し、主題歌も歌っているという関係ですが、他にはよくわかりません。レアなんじゃないかなあ。

 ワーナー自体は大きな会社ですが、そこから出ている数少ない声優のアルバムの1つが早見さんのデビューアルバムだという、なかなか興味深いなと思っています。まあ一言で言えば、気になるのは某ランティスよりも良い仕事をしてくれるんだろうか、という点ですが。井口裕香さんの場合、CDが出てから半月くらいでハイレゾ版が出ているようです。さあ、早見さん、どうなるんだろう。

 そういうことに留意しつつ、中身について気になるのは、アルバム楽曲がシングルと同じ雰囲気でまとめられるかという点です。シングル曲は正統派な、つまりは声優がよく歌うような前向きだったり、辛くても1人じゃないですよ見守っていますからみたいな路線ですよね。

 ただ、早見さんはニコ生でも流れましたが、デビュー・コンベンションライブをやっていて(CD付属のBDに収められてます)、そちらではジャジーな、歌詞の内容的には大人の恋の歌もあって、それがドンピシャリで似合ってました。それはシングル曲とはまた違う路線なんです。

 アルバムで、それらはどうバランスを取られるのか。個人的には後者のジャジーな大人路線でまとめてもらってシングル曲が浮いてしまうくらいでも良かったんですが。果たして、アニメの曲を今後も歌っていく上で、そうはいかないんじゃないかという。

 で、聞いてみたら、これが前半はシングル曲の正統派の空気でまとめられていて、後半に、切り込むような感じで実験的な(^^;)音楽性の曲が入って来るという。

 花澤香菜がニューヨーク・レコーディングをした時には、ニューヨークで録音・制作された曲と、日本で制作された曲とでは聞けばすぐわかる明確な印象の違いがありましたが、早見さんのこのアルバムも同様に、プロデューサーが複数いるみたいなアルバムの構成になっています。

 それでクレジットを見ましたら、なんとプロデューサーが5人も関わっております。大半は前口渉氏で、シングル2曲とカップリング2曲、新曲2曲と計6曲の編曲・プロデュースを担当。倉内達矢氏がカップリング1曲と新曲1曲、のこり3曲の新曲を大久保薫氏、川崎里実氏、渡辺翔氏が担当。また、早見さん本人が作詞をシングル2曲、カップリング2曲、新曲3曲と、11曲中7曲で担当されています。

 この内、前口氏でさえ、アルバム用の新曲では他の曲より1歩踏み込んだ感じでありまして。1曲目の「NOTE」はふんわりしたシンセから生ギターのカッティングに繋がれる、シンプルでありながら印象的な曲で、歌詞のテーマは「始まりの朝」という感じの、静かに始まるけれども強い決意を感じさせる曲。もう1つの新曲はラストの「To years letter」、未来への手紙という意味でしょうか、こちらはエレキギターのカッティングが印象的なバラードと、曲展開的にはどちらも穏やかに進行する曲なのに、ビートを飾る楽器が異なると言う地味に技を感じさせる内容になっています。

 この前口氏の地味な技が恐らくは重要で、アレンジは異なるけれども、曲の持っているイメージを大きく変えない、彼のプロデュースする早見沙織はこんな子だよというイメージが統一されてぶれない、という意図を持っていると思われます。

 ただ、既に述べたように、そういう正統派なイメージで早見さんをまとめられてしまうのは、個人的には不満なんですね、いやいや、彼女はもっと幅の広い歌を歌えるはずだと思ってしまう。

 で、そういう空気に対して最初に切り込んでくるのが倉内氏担当の4曲目「水槽」で、軽快なピコピコしたエレクトリックなフレースで飾られた疾走感のある曲。早見さんのイメージとは異なる空気ですが、1曲ポンと放り込まれると効果は絶大、こういう曲だってちゃんと歌えますという感じです。

 ……いえ、実際はキャラソンでもっとはっちゃけた曲も歌っているので、そういう曲でもよかったと、個人的には思っておりますが。

 更に5曲目の「レンダン」、大久保氏担当。ここではエキゾチックなサウンドに乗せて大人の恋が歌われます。音作りも全然違う。前口氏がサウンドにメリハリをつけずによく言えば端正に、悪く言えば平坦に仕上げている、それは変な癖をつけない、という意味では大変にありがたい音作りです。が、早見さんの声が全部同じに聞こえると言う結果にもなっている。「レンダン」では、あえてドンシャリなJPOP風のサウンドに仕上げているため、彼女の声も別物に聞こえます。全曲これだったらまた別の意味で戸惑いますけど、JPOPなら珍しくないサウンドが1曲あってメリハリがつくという、面白い結果になっている。

 続く6曲目、早見さんが作詞のみならず作曲に川崎里実氏と共同でクレジットされている、川崎氏がP担当した「あるゆらぐひ」。ある揺らぎって意味だと思いますけど、何かダブルミーニングがあるのかもしれない。内省的な曲で、シングル曲のような前向きさとは異なるシリアスな空気を持っています。ピアノ伴奏のみのバラードであり、彼女の声がシングル曲よりも深み、奥行きのある質感でレコーディングされており、歌唱力が存分に発揮されているアルバムの白眉と言っても良いのではないか。

 7曲目は倉内氏が担当するシングルのカップリング曲「LET'S TRY AGAIN」。重層的なアレンジのされたダイナミックなバラードで、実質バラードが2曲続いているのに、音楽性が正反対なので違和感がない、いい繋ぎだと思う。

 そして、「あるゆらぐひ」が白眉なら、クライマックスはここ、8曲目「ESCORT」、ライブでも強烈な印象を残したジャズ・ボーカル曲です。渡辺翔氏のP担当。クレジット見ると、伴奏はジャズバンドの生演奏! これ聴いたらめちゃくちゃうまいという感想しかなくて聞き惚れます。本来、かなり喉が強い濃い声で歌われる場合が多いのがこういうスイングした楽曲ですけども、彼女はそれを飄々と歌いこなして、パワー不足とは感じさせないところに並ならぬ器量を感じます。

 9曲目「Installation」はアニメ曲の「その声が地図になる」のカップリングというより対等な形のシングル曲のようですね、昔はこういうのを両A面と言いましたが。「その声が地図になる」と同じ矢吹香那氏作曲のダイナミックな曲で、「ESCORT」の後を継いで後半の山場を盛り上げる曲という立ち位置だと思います。

 後は10曲目、11曲目とバラードでしっとりと終っていく感じでしょうか。前者「ブルーアワーに祈りを」がブルージーで、後者「To years letter」がフォーキーと、バラードと言っても音楽性が異なると言う。作曲は前者が川崎里実、後者が矢吹香那ですが、編曲及びプロデュースはどちらも前口氏という、氏の職人芸が構成に生きているように思います。

 以上。ワーナーはきっちり仕事してくれたと思います。まあ、ワーナー以外のアニメ仕事はどうなるんだろ、みたいなところはあるんですが。とりあえずの感想はこんなところですし、むしろ、付属のライブBDが欲しくてこのCD買ったようなもんなので、ハイレゾが出たらまた買う所存ではあります(^^;)。ではでは。