2006年10月22日

ホスト5日目の午後 「ホスト寮」

23歳、新卒サラリーマンの時、ボクは週末家庭教師
をやっていた。
教えていたのは中3の女子、望美。

8つも離れた年下相手に、二次方程式だの現在完了形だの、「いとをかし」に始まる古語だの、そんな役立たずの知識
を詰め込んでいた。

とはいっても、根っから熱血漢でもないボクの授業の大半は
余談雑談卑猥談。

「先生彼女いるのー?」

「うーん、ま、今はいないけど、まあ、それなりに・・・」


なんて、近頃のガキはマセてんなと思いつつ、
部屋の壁に飾られた彼女宛のラブレターに目をやる。


封筒の、郵便番号を入れる七桁の四角に

「我生涯望美愛誓」


と、中国語のように書かれてある。


「アレ、彼氏がくれたんだぁ。センセも絶対彼女できるよ。
 頑張ってね!」

「え!?ああ・・・」

「だけどさ、あんまりガツガツしちゃあいけないよ。
 そーゆー時、彼女できんからサ。」




あっさり言うなよ。
オマエ15歳。
勉強だけしてりゃあいいんだよ。

なんて、8つも下のガキに自分が見透かされたような
気がして、ボクはスッカリ動揺してしまった。

そん時にはあった、ボクの小さなプライド。
年輪を重ねてきたという、ちっぽけなモンだったけど。

「若い子にも学ぶべきところはあるンだなぁ」

なーんて、偉そうにね。




***


「なあ、ウチおいでや。けんちゃん、オレが可愛がったるよ」

そう言った19歳のUさん。

「はあい!喜んで!」

そう言ったボクは下っ腹の突き出た27歳。
飼い犬のように従順に彼の後を追う。


彼の精神年齢が高いのか、ボクの精神年齢が低いのか。
その両者なのか。

どっちかは、わからないが、この先30代に突入していく
身として、そんな歳のコトばかり気にしていらんないだろう。


「タバコきらしたん?買ったるでー!」


そう言いながらUさんは、自販機に新札を投入する。


「ワァン!アン!」

舌を突き出し、Uさんに一礼するボク。



PM12:30。


西新宿上空の青い空。
その下では、ボクと同年代のリーマンたちが
携帯とアタッシュケース片手に闊歩する。


一度踏み外した、レールのライン。
ちょっと寄り道しただけのつもりが、ボクは
随分と横に反れてしまったらしい。


***


ホスト寮は、某大手Lマンションの一室にあった。
なんでもこのマンション、他の部屋も水商売か、
出稼ぎ手コキマッサージ屋の中国人とか、そういう
類で埋め尽くされているらしい。


部屋に入ると、野郎臭とニコチンの香りがムワッと
吹き出てきた。


靴を脱ぎ、一歩踏み出るとそこには布団。


2LDKの室内。
キッチンとリビングに所狭しと、ボロボロの布団が
敷き詰められてある。
ヤニで黄ばんだ壁の色よりも、布団の黄ばみのほうが
明らかに増している。

どこからともなく持ち運ばれた布団たち。
バブルにジュリアナ、ユーロビート。
そんな、懐かしき時代もこの布団たちは経てきたの
かと思うと、なんだかとても切ない。

ボクが小学生だった頃にも、この布団たちは
大人の世界を知っていたのか。


「とりあえず、オマエくっせえから、フロ入んなよ。」


汗とアルコール塗れの白ワイと、ステテコと化した
スラックスを脱ぎ捨てる。
バスルームの扉を開けると、そこにはおぞましき光景が。


壁、床、天井。
至る所に茶褐色の斑点。
貧民国の売春宿を髣髴とさせるその空間。


mod's hairの高級シャンプー&トリートメントが、
まるで、B級グルメを楽しむセレブたちのように
佇んでいる。


浴槽の蓋の上には、濡れ濡れのエロ本。
そんじょそこらのコンビニには売っていないような
レアな代物。


びしょ濡れのグラビアの中、オンナたちが妙に
艶かしい。
その昔、橋の下で見つけたエロ本もこうだった。
無意識のうちに、右手はエロ本、そして左手は、
愚息をつまんでいた。


ガラガラガラ


「なんやぁ!お取り込み中か。ゆっくりでええよ」

突如開いた扉からUさんが顔を出す。


改めてUさんの顔を見ると、ホントにイケメン。


「この家、唯一のズリネタやから、破らんようにな」


ガラガラガラ


扉が閉まる。


この家に住むのはイケメン10名。
元暴走族総長、学園祭のミスターダンディ、ヒモ、
ナンパ勝率50%の美男子・・・

全国各地より野望を抱き、集まった精鋭たち。
彼らは皆、この小汚い風呂の中、唯一のエロ本で
自己処理をしている。


「イケメンホストも結構苦労しているなあ・・・」


これまで持っていた「イケメンへの羨望と嫉妬」も消え失せ、
何だか、親しみが沸いてきた。


表紙を飾る、裸体の美女。
キミは、この家の女神。
気づかぬところで、重責を負っているよ・・・


***

フロからあがると、先輩たちがエースコックの
バケツ麺をすすっている。


「給料日だからなー」と、Uさんは480円のカルビ
弁当をウマそうに食べている。


「ホストの生活なんてこんなもんよー」

Lさんが、豚キムチラーメンの汁をススリながら言う。


「月収50マン以上いってる人なんて、常時ナンバー3くらい
 までのヒトやないかな。ナンバー1でも80マンくらいか  
 なあ。」


Jさんが言う。


(じゃあ、貴方たち!なんで、月収数マンとかなのにホスト
 続けてるのですか!?)

そう言いたくもなったが、その疑問はすぐに失せた。


汚い部屋に乱雑に放り出された、高級時計にアクセサリー。
極めつけは40インチのプラズマテレビ。
その上に、タオルが干されている。
こういう使い方もあるようだ。


「ま、ええこともあるンよ。女子高生なんて、ホストやってる
 言うだけで、ヤらしてくれるよー」



ふーん、そうなのか。
大学教授でも芸能人でも、数万円払ってようやく手を出し、
挙句の果てにパクられる時代なのに、ホストはタダで・・・。
いや、ホストだから、タダで・・・か。


***

PM2:00。


半数のホストたちは眠っている。
残りの半数はプロレスをおっぱじめた。

ボクは、ゲスト用と称された、一番小汚い布団で、
薄目をあけながら眠りもせずボーっとしていた。

枕元に、灰皿と化したバケツ麺の容器がある。
その中には、吸殻の残骸と共に、茶とグレーの入り混じった
タール液。
一口飲めば死ぬだろう。



「何でもないようなことが、幸せだったと思う〜♪」

入り口のドアが開くやいなや、THE虎舞竜のロードが響く。
現れた、ボンバヘッドなスーツ男。
アイポッドのヘッドホンから、信じられない大音量で
その音が鳴り響く。


「おい、また新人連れてきたんかぁ??」

ボクを見るや否や、不機嫌そうにジョージは自分の部屋
へと入っていった。

チラリと様子を窺うと、ジョージの体の上に
裸体の美少年が乗っかっている。


一瞬、
「フェ●チオ?」


なんて、バカな妄想が浮かんだが、
良く見れば美少年がマッサージしているに
過ぎなかった。
ボクの思考回路はどこまでもエログロと化している。




「最果ての地でドラゴンボールを見つけた悟空たちは・・・」


数秒後、ロードは収まり、今度は
ドラゴンボールの亀千人のナレーションが、
またしても、大音量で響き始めた。


後で聞いたが、ジョージはこの道5年のベテラン内勤
スタッフらしい。
仕事明けにドラゴンボールを見るのが
唯一の息抜きなのだとか。


そんな、ジョージの可愛らしさも知らず、すっかりビビッた
ボクは自己防衛の為に、ハンケツを出し、眠ったフリをした。



「おい!新人呼ぶ時は、オレに言ってからにしろって・・・!」

ジョージがどなる。

「はい、すいません・・・」

Uさんが謝る。

「あんま、ヒト増えるとなぁ・・・」


ジョージの視線を自分のケツに感じた。


その直後
「ブッハッハッハ!ジャングルぁ!!!!!!!!」
ジョージのしわがれ声が鳴り響く。


見たか、ケツ毛戦法!


ボクの鬱蒼と生えるケツ毛たちを目にすれば、
戦場の兵士たちにも笑顔があふれ、忘れかけられた休火山も
おもわず噴火し、憤った安岡力也も笑い転げるとか、
転げないとか・・・


「ブッハハハハ!!!!」


寝ていたホストたちも、飛び上がり、しばしケツ毛鑑賞
にいそしむ。オイオイ、ドラゴンボールはいいのか。



そんな中、背中を丸めて一番笑ってたホストA。
後で聞くと、彼は今日が体験入店だったらしい。

アキバ面の彼はこれまでの緊張感が、全部解き離れたか
のように、ヒクヒクといつまでも笑い転げていた。



「笑いすぎや!オレ、キミより4日先輩だぞ!
 このブサイク!」

なーんて、憤ることも無く、ボクはボリボリと
わざとらしくケツ毛を掻き毟っていた。


***

PM4:00。

夕暮れの西新宿。

財布を持たないUさんとファミリーマートへ行く。

マガジンとガリガリ君を、実はサラリーマンの
ボクは、Uさんに手渡す。


「すまんなあ。今度焼肉おごったるから」


タバコをおごってもらい、マガジンとアイスで返す。
オゴリ、オゴラレル関係。

飲み屋の後、財布を出す素振りも見せない女性たちより、
ずっと気持ちがいい。


「ホント言うと、オレ今月未収ばっかで、手取り3マン
 ちょいやあ・・・」


Uさんが笑顔で言う。
一度や二度の経験ではないのだろう。

彼が目指すのは城咲仁か。
平成の羽柴秀吉物語か。

だが、近いところに存在する夢。
体を許す女たち。
時たまもらえるブランド品。


非日常的な感覚が、この仕事を虜にしているのか、
なんなのか、少なくとも、Uさんの笑顔に惰性でホスト
をやってる感は無い。
自分を正当化している素振りも無い。
只、得体の知れない自信とポジティブさが有るのみ。

「次、けんちゃん来るの楽しみにしてるでー!」


駅まで見送ってくれたUさん。
その笑顔は、改札をくぐった後も、夕空の下で、
どこまでも、どこまでも、ハジけ続けていた。






続く・・・




※未収・・・代金未回収。要するにツケ。その分は担当ホストが
     立て換える。



zakozombie at 02:01│Comments(4)TrackBack(0)clip!ホスト | ホスト

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この記事へのコメント

1. Posted by ゆうや   2006年10月22日 14:15
5 名前はゆうやですが赤の他人ですよ。誤解させてすいません。ホストの仕事の虜になりましたか?安月給でもメリットとして高校生とヤレるんですね。髪型とかもホストって感じですか?他にはホストのメリットあったら知りたいです。 ホストやりたいなぁ…
2. Posted by 雑魚ゾンビ   2006年10月24日 08:22
ゆうやさん書き込みありがとう!
そして、はじめまして。
ちなみにこのブログはどうやって見つけました?

俺の場合、髪型は黒に近い茶だし、ぜんぜん普通で
サラリーマンみたいもんだよ

ぶっちゃけ、ホスト最近やめたんだよね。
でも、今後はホストを撮影するカメラの
仕事をするから、何かしらこのブログには
書くつもり。

ホストのメリットか。

・女にモテル(全員ではないけど)
・モノをもらえる。おごってもらえる。(先輩とかお客さんに)
・美人でも緊張しなくなる。
・常にハイテンション(?)になる。人によっては
 明るくなる。


こんなところかねえ
 
3. Posted by ゆうや   2006年10月24日 21:19
5 コメント遅れました…ライブドアブログで「ホスト」と検索していろいろ探してて興味を持ったのでよく見てます。なぜ辞めたのですか?テンション高くなりそうな仕事ですね 今高3なので卒業したらホストしたいですね ホストは甘い仕事じゃないですけど
4. Posted by 雑魚ゾンビ   2006年10月25日 10:17
なるほどね☆彡
次回の日記でも書こうと思うけど、
本職じゃないし、楽しくなくなったから。
あと、一番の理由はホストクラブのカメラマンの
仕事するから、ホストやってちゃカラダもたないしね〜 

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