yogurting ヨーグルティング

2006年09月04日

下書き2

  死都


 人は虚構と現実を区別して生きているらしい。たとえその認識が誤っていようとも。


 深夜の校舎は異様な冷気に満ちていた。
 真夏だというのに肌に触れる空気がじわじわと体温を奪っていくような感覚。体中の血管が収縮しているようだった。
 もうどれだけこうして歩いているだろう。
 どこまでも深く冷たい闇の広がる廊下を歩きながら鶴田恵美は思った。数分のような気もするし数時間という気もする。もしかしたらこの場所にはすでに時間という概念は存在しないのかもしれない。
 教室五つ分しかないはずの廊下の突き当たりは消滅し、代わりに無限の闇に向かって続いている。振り返れば反対側でも同じことが起こっていた。一見すれば確かにいつもの学園の廊下なのだが、さっきからクラスの表札に何も書かれていないところを見るとやはり別の空間に飛ばされたらしい。いや、閉じ込められたというべきか。
 恵美は永遠に続く廊下に閉じ込められてしまった。
 ふと廊下の窓から夜空を見上げる。半月から少しだけ膨らんだ月が雲ひとつない空に浮かんでいた。満月は人を狂わせるというが、こういう中途半端な形の月のほうが見ていて精神が不安定になると恵美は思った。
 そのとき恵美が前にいる教室のすぐ隣の教室の中からガラスが割れる音がした。続いてドゥルルルルというけたたましいエンジン音が鳴り始める。その直後、教室の扉が砕け散り何者かが廊下に躍り出た。
「!」
 恵美は瞬時に後方に飛び退くと身を強張らせる。
 現れたのは少女だった。
 ウェーブのかかった長いブロンドの髪。袖口の広がった白いフリルブラウスの胸元に細い黒リボンがジグザグに通され、黒のスカートはやはり白いフリルで飾られている。頭には白いレースのヘッドドレス。そのゴスロリ調の服に身を包んだ小柄な少女はまるで西洋人形のような可憐さを湛えていた。
 だが、少女の手にはおよそ彼女には似つかわしくないものが握られその雄叫びが夜の静寂をぶち壊しにしている。
 少女が手にしているのは月の光を反射しギラギラした輝きを放っているチェーンソーだ。
 チェーンソーはモーターやエンジンによってチェーンを回転させることで物を切断することができ、主に木の伐採に使用される。もしくはホラー映画に出てくる殺人鬼が使う拷問道具だが、彼女の使用目的は明らかに後者である。
 少女がチェーンソーを停止させ言った。
「本はどこ?」
 それは一切の感情が含まれない機械的な問いだった。
 恵美には彼女の目的がわかっていた。やはり“あの本”を狙っているのだ。
「持ってないわ」
 それは本当だった。本はある場所に隠してある。とても安全な場所とはいえないがとっさにそこしか思いつかなかったのだ。
 本を持っていないからといって彼女が何もせずに帰るとは思えない。おそらく彼女は自分を始末しようとするだろう。だが、恵美とて大人しく殺される気はない。
 恵美はすべての邪悪な化け物を滅ぼす使命を負っているのだ。
「土は土に、灰は灰に、塵は塵に・・・・・・」
 唱えながら恵美は拳を握った。それに反応するように恵美の拳は黄金の光に包まれる。
 少女はそれを無言で見つめた。
「父と子と聖霊の名において命ず!悪魔よ、去れ!」
 恵美が少女に向かって拳を突き出すと同時にまばゆい閃光が少女の胸を貫いた。少女の胸部には光の矢が突き刺さり数メートル吹き飛ばされるとそのまま仰向けに倒れこんだ。
 エクソシズムを行なう修道士の中でも最上位のものしか使うことのできない魔殺しの“金の矢”だ。彼女が何者であれ、これに心臓を貫かれて無事な化け物などいるはずがない。
 助かった。
 そう思った次の瞬間、恵美は自分の目を疑った。そして驚愕した。
 少女は立ち上がっていた。胸に金の矢を刺したまま何事もないように。彼女は自分の胸に刺さったものを不思議そうに見つめると今度は真っ直ぐ恵美の顔を見て言った。
「もしかして、私を殺したいの?」
 その視線には何か熱いものがこもっているようだった。憎悪とも殺意とも違う何か。
「そうなのね?」
 そして、少女の顔に初めて感情らしきものが浮かんだ。口が笑いの形に歪んでいる。 それを見たとき、恵美は悟った。
 こいつは今まで自分が見てきた化け物以上の化け物だ。
 勝てるわけがない。
 自分は今、死ぬだろう。
「うれしい・・・・・・。私も、殺してあげる」
 スターターブリップを引き、少女はチェーンソーを再度起動させた。
「化け物め!」
 恵美も再び金の矢を撃とうと腕を振り上げる。だが、そのとたんに腕の感覚がなくなった。腕を切り落とされたのだ。
 少女は5メートルほどの間合いを一瞬でゼロにしていた。
 恵美の腕は床に落ちる前に青白い光に包まれて跡形もなく消え失せる。そして腕の切断面からは血の代わりにやはり青い光が溢れ出ていた。
「あ・・・・・・」
 間近で少女と目があった。相変わらず殺意など欠片も感じられない。それはまるで恋人でも見つめるように優しく、ガラス球みたいに透き通った蒼い瞳。
 チェーンソーが恵美の右肩から腰にかけて斜めに切り裂く。
 腕のときもそうだが痛みはなかった。即死してもおかしくないはずなのに意識もはっきりしている。恵美が床に崩れ落ちると、傷口から溢れ出ていた青い光が全身に広がりゆっくりと恵美の身体は崩壊を始めた。
 自分の身体が崩れゆくのを感じながら恵美はなぜか解き放たれたような気分になった。それから恵美は穏やかにそして永遠に意識を失った。


 日常と非日常を隔てる壁はいったいどこにあるのだろう。
 例えば、地球が宇宙人の侵略を受けるとか或いは突如として吸血鬼のような怪物が出現すれば一発なのだろうが、そんな超常現象じみたことが起こらなくても平和な街に凶悪な殺人鬼が一人紛れ込めばそれで十分かもしれない。
 だが、そのとき高橋海里の前にはもっと明確な壁が存在していた。それはまさしく壁だった。
「これは・・・・・・なんなんだろうねえ」
 誰に言うでもなく呟く。もとより回りに彼以外の人影は見当たらない。
 何もない空間に手形が浮かんでいた。
 まるでそこにガラスの板でも張ってあるかのように半透明の白い手形が宙空に静止している。
 恐る恐る手を伸ばし触れてみる。すると水面に触れたときのように向こう側の景色が波打つ。
 やわらかい。それは人の手のひらの感触だった。確かに手をかざした人間がそこにいる。大きさは自分よりいくらか小さいから女なのかもしれない。
 透明人間。そんな言葉が脳裏をよぎった。

 さて、どうしたものか。

 人に知らせたほうがいいのだろうか。だが、何と言う気だ。透明人間を見つけましたか?馬鹿馬鹿しい。そんな話は誰も信用しないだろう。適当なことを言ってとにかく連れてきて触らせればいいのだが、それは面倒この上ない。
 となれば、おそらくは見なかったことにするのが正解だ。好き好んでこんなわけのわからないことに首を突っ込むことはない。
 さっさと用事を済ませて帰ろう。


 その日、海里はどうしても欲しい本があって書店を巡っていた。
 いつも聴いているラジオ番組のパーソナリティが書いた本で前日の放送で発売の告知がされていたのだ。だが、海里が済む西終町の主要な書店にはどこにも置いていなかった。
「ああ、あれか。部数少ないらしいからなあ。この辺じゃ手に入らないかもなあ」
 最後に行った店で友人の滝川礼司に会った。彼は十数冊さまざまなジャンルの本を両腕で抱えレジへと運ぶところのようだ。書籍と映像の収集家で背中に背負ったデイパックには他に何冊詰まっているかしれない。本は意外と重いものだ。特に運動はしていないようだが、なかなか強靭な体力の持ち主であるらしい。
「俺はネットで予約してるから今日明日中には来ると思うが、来たら貸そうか?」
 そうか。その手があったなあ。
 本を買うことがそれほど多くない海里には、予約するという発想自体がなかった。
「ネットで買うと家まで発送してくれるんだろ?何でわざわざ本屋来てんだ?」
 海里が知る限り滝川が外に出て本を買わないことはない。それも何軒もはしごしてその数は数十冊に及ぶこともある。
「まあ、新刊はだいたい予約済みなんだけどよ」
 ドサッと本をレジの前に積み上げる。店員は慣れた手つきでバーコードを次々と読み取っていった。
「偶然の出会いってのもあるのさ」
「13500円になります」
 財布から一万円札を二枚出してレジに置く。ずいぶんとたくさん偶然の出会いがあるものだ。


「それで、まだ探すのか?」
「ああ、でももうだいたい回っちゃったからなあ」
 本はすべてデイパックに収納された。すでに満タンのように見えたが異次元空間にでも繋がっているのだろうか。
 そのとき海里はふと思い出した。
「そういえば、確か隣町にでっかい本屋あったよなあ」
 西終町のすぐ隣に位置する東終町にはもう何年も行っていないが二階建ての大型書店があって一度だけ入ったことがある。やたらと品揃えがよかった。
「・・・・・・そうだったか?」
 妙な間があった。それにこいつが本屋のことを知らないということがあるのだろうか。
「行ったことないのか?」
「あるにはあるが・・・・・・。ていうか、東終には行く気になんねんだよ。どういうわけか」
 なんだそりゃ。
「じゃあ、本は今度持っていくわ」
「ああ。お前はもう帰んの?」
「いや」
 言いながら、滝川は手帳を取り出し広げて見せた。それは同人誌の購入リストだった。びっしりと本のタイトルとサークル名が並んでいる。
「これからが本番だ」
 滝川が立ち去ったあと、海里なんだか腹立たしい気持ちになった。
 本は滝川に借りればいい。これから帰ってネットで注文を入れてもいい。何日かしたら近くの本屋にも入荷されるかもしれない。
だが、
 ここまで来たらどうあっても今日手に入れたい。滝川の影響か本とはそれほどまでして手に入れる価値のあるもののように思えた。なぜなら今日買えば今日読めるからだ。
 なるほどそういうことか。
 海里は友人がなぜあれほどまでに本を買うのか少しだけ理解し、東終町へと向かった。


 登下校で使う道にちょうどY字の形にわかれた場所がある。普段は左の道を行く。右の道は緩やかな上り坂になっていてと通ったことはないが東終町に出られるはずだ。
 それにしても、いつもはまったく気にならないが君の悪い道だ。まだ日も高いのに木々で覆われ薄暗い。それにうっすらと霧がかかっているような気がする。おかげで非常に視界が悪い。
 ちゃんと抜けられるんだろうなあ。
 そんな心配をよそに、すぐに商店街らしきものが見えてきた。電柱には東終の表示がされている。
 本屋の場所はなんとなくだが覚えている。駅の近くだったからすぐにわかるだろう。
 そのとき、海里は前方に異様なものを見つけた。
 はじめは煙かと思った。だが近くで何か萌えている様子はない。近づいてみるとだんだんとそれが人間の手のひらの形をしているのがわかった。白い手形が空中に浮いていたのだ。


 まあアレだ。生きてりゃたまには不思議なこともある。余計なことには首を突っ込まないのが正解だ。
 そう思いナがら手形の横を素通りしようとする。その瞬間、
 海里は文字通りそっちの世界に首を突っ込んでしまった。
 周囲の空間が波打つ。確かにそこには壁があったのだ。二つの世界を隔てる壁が。
 平和そのものの西終街。一方そのすぐ隣町、東終町は地獄と化していた。
 透明人間が姿を現す。いや、それは透明人間などではなかった。外からは見えないだけだったのだ。
 槍が、女の首筋から入り身体を串刺しにして股の間から地面に突き刺さっていた。
 女は右の手の平を見えない壁にぴたりと張り付けたまま事切れている。
「・・・・・・は?」
 すぐには反応できなかった。だってそうだろう。あまりにも現実感というものがなさすぎる。ただ本屋に行こうとしただけでなぜこんな凄惨な光景に出くわさねばならないのか。なんだ、これは。
 だが、いくら現実感がなかろうといくら非日常的だろうと目の前に存在するものを否定することなど出来はしない。
「ひぃ」
 どうにか感情だけが機能を取り戻し、同時に勢いよく身を引く。そのとき、手が見えない壁に触れた。
「おい!なんだよ、冗談だろ?」
 何もないはずの空間をドンドンと叩く。そこには壁があった。見えない壁が完全に道をふさいでいる。もはや来た道を戻ることはできなかった。
「いったい・・・・・・」
 周囲を見渡す。さっきまでは普通の町並みに見えていた。それなのに今は廃墟ばかりが並ぶゴーストタウンと化している。
 ふと女の死体を見る。目が合った。
「うわっ!」
 生きてる?
 そんなわけがない。槍が貫通してるんだぞ。生きていられるものか。
 だが、彼女の眼球はキョロキョロと小刻みに動いていた。表情はないが、死に切れずに苦しんでいるようにも見える。
 嫌な予感がした。背後に確かな気配。しかも複数。背中を冷や汗が伝った。
 意を決して振り返る。
 いつの間にか集まってきていたそいつら。数はざっと二十。男がほとんどだが女も数人いる。だが、そんなことはどうでもいい。明らかに彼らは人間ではない。では何だ。
 ゾンビ。
 そうとしか思えなかった。一様に生気がなく目の焦点が定まらない。身体が激しく欠損している者もいる。
「僕は・・・・・・」
 近づいてくる。捕まったらどうなるのだろう。後ろで串刺しになっている彼女はなぜこんな目にあったのか。
「本を買いに行きたいだけなんだ」
 滝川の声がした。
 本はなあ、作家が命を削って書くもんだ。だから俺たちは命をかけて読まなきゃならねえんだよ!
 と。
「うおおおお!」
 正面の男に体当たりし、男がよろめいた隙にスピンを組み合わせながら一気に全員を抜き去った。
 一度も振り返らず。
 目指すは本屋。
 あるのか?という疑問が一瞬よぎったが脳内でひねり潰した。


 はたしてそれは記憶どおりの場所に存在していた。倒壊した建物の中で唯一、ほぼ完全な形で建っている。
 “角屋書店”と書かれた看板が斜めに傾き今にも落ちてきそうだった。
 動かなくなって半分砕けた自動ドアを蹴り割って中に進入する。アクション映画の主人公のようだ。と自分で思った。だいぶ感覚がおかしくなってきている。
 本が散乱している。
 紙が変色し、ページが破れ、埃を被った本が。
「僕は馬鹿だ」
 握った拳がわなわなと震えた。
 たとえ本屋があろうとも、たとえ本が無事だろうとも。
「この状況で、今日発売した新刊が入ってきてるわけないだろうが!」
 何をやっているのだろう。きっと混乱した脳が状況に対応するために時間稼ぎに本を買うという行為に逃避させたに違いない。もう大丈夫かい?マイ・ブレイン。自分が置かれた立場を論理的に分析してみくれ。
「ああっ!わけわかんねよ、チクショウ!」
「うるっさいなあ」
 女の声。どこから?
 それは本の山の中から聞こえてきた。
「だ、誰だ!」
 ガラガラと本が崩れその中から赤毛の少女の顔が覗いた。身体のほうはまだ本に埋まっている。
「あんたこそ誰よ?」
 あくびをひとつ。どうやら今まで本に埋もれて眠っていたらしい。
「まだ生きてる人間がいたのねえ」
「・・・・・・他に人間っていないのか?」
 それを聞いて少女は目を細める。
「あんたどっから来たの?」
「西終だけど」
「へえ。ホントに外から迷い込む人っているのね。初めて見たわ」
 外からっていうのは東終の外ということか。そういえばあの見えない壁はいったい何のだろう。
「なあ、ここはどうなってるんだ?」
 少女は本を払いのけながら立ち上がると手を組んで伸びをした。そして言った。
「ここ?東終はね。もう六年も前に滅んだのよ」
「な、なんだって!」


 ランプに明かりが燈る。外は夜の闇に包まれつつあった。
 少女。名前は、
「早百合。鈴木早百合よ」
「僕は高橋海里」
 まずお互いに簡単な自己紹介をした。
「歳は?」
「十七」
「あ、タメだね。高校生?」
「うん」
「ふうん。いいな。私も行きたかった」
 それから早百合はこの町で起こったことを語った。
 六年前、東終町を取り囲むように見えない壁が出現した。
「最初の何日かはまだ平和だったわ」
 それから何者かに人が殺され始めた。犯人は未だにわからないらしい。そのすぐ後にさらにとんでもないことが起こったからだ。
 死人が蘇り人を襲うようになった。
「結局、一年くらいで街のほとんどの人間が死んだ。たぶん今生き残ってるのは私だけだと思う」
「それ本当の話なの?」
 一応は黙って聞いていた海里だが、正直まったく信じられない。
「別に信じなくてもいいけどねえ。もうゾンビは見たんでしょ?あんたが信じようが信じまいが、ここの現状はこうだから」
 確かに見てしまったものはもとには戻せない。つまり信じるしかないわけだが、
「頭がついていかない」
「でしょうね」
 人智を超えすぎている。それにすぐ歩いて来られるようなところでこんなことが起きているなんて。
「全然知らなかった。たぶん、外の誰も気がついてないんだ」
 それもありえない話だが、そうとしか思えなかった。こんなことは聞いたこともない。
「外のことはわからないけど、話を聞いた限りたぶんそういう仕組みになってるんでしょうね。東終は存在はしていても出入りできないし、それがおかしいとは誰も思わない」
 仕組み。
「ゾンビが外に広がらないように誰かがこの東終を隔離した、ってことだと思う。あの見えない壁はね、結界なのよ」

2006年08月26日

下書き

   GOTHIC LOLITA CHAINSAW


 深夜の校舎は異様な冷気に満ちていた。
 真夏だというのに肌に触れる空気がじわじわと体温を奪っていくような感覚。体中の血管が収縮しているようだった。
 もうどれだけこうして歩いているだろう。
 どこまでも深く冷たい闇の広がる廊下を歩きながら鶴田恵美は思った。数分のような気もするし数時間という気もする。もしかしたらこの場所にはすでに時間という概念は存在しないのかもしれない。
 教室五つ分しかないはずの廊下の突き当たりは消滅し、代わりに無限の闇に向かって続いている。振り返れば反対側でも同じことが起こっていた。一見すれば確かにいつもの学園の廊下なのだが、さっきからクラスの表札に何も書かれていないところを見るとやはり別の空間に飛ばされたらしい。いや、閉じ込められたというべきか。
 恵美は永遠に続く廊下に閉じ込められてしまった。
 ふと廊下の窓から夜空を見上げる。半月から少しだけ膨らんだ月が雲ひとつない空に浮かんでいた。満月は人を狂わせるというが、こういう中途半端な形の月のほうが見ていて精神が不安定になると恵美は思った。
 そのとき恵美が前にいる教室のすぐ隣の教室の中からガラスが割れる音がした。続いてドゥルルルルというけたたましいエンジン音が鳴り始める。その直後、教室の扉が砕け散り何者かが廊下に躍り出た。
「!」
 恵美は瞬時に後方に飛び退くと身を強張らせる。
 現れたのは少女だった。
 ウェーブのかかった長いブロンドの髪。袖口の広がった白いフリルブラウスの胸元に細い黒リボンがジグザグに通され、黒のスカートはやはり白いフリルで飾られている。頭には白いレースのヘッドドレス。そのゴスロリ調の服に身を包んだ小柄な少女はまるで西洋人形のような可憐さを湛えていた。
 だが、少女の手にはおよそ彼女には似つかわしくないものが握られその雄叫びが夜の静寂をぶち壊しにしている。
 少女が手にしているのは月の光を反射しギラギラした輝きを放っているチェーンソーだ。
 チェーンソーはモーターやエンジンによってチェーンを回転させることで物を切断することができ、主に木の伐採に使用される。もしくはホラー映画に出てくる殺人鬼が使う拷問道具だが、彼女の使用目的は明らかに後者である。
 少女がチェーンソーを停止させ言った。
「本はどこ?」
 それは一切の感情が含まれない機械的な問いだった。
 恵美には彼女の目的がわかっていた。やはり“あの本”を狙っているのだ。
「持ってないわ」
 それは本当だった。本はある場所に隠してある。とても安全な場所とはいえないがとっさにそこしか思いつかなかったのだ。
 本を持っていないからといって彼女が何もせずに帰るとは思えない。おそらく彼女は自分を始末しようとするだろう。だが、恵美とて大人しく殺される気はない。
 恵美はすべての邪悪な化け物を滅ぼす使命を負っているのだ。
「土は土に、灰は灰に、塵は塵に・・・・・・」
 唱えながら恵美は拳を握った。それに反応するように恵美の拳は黄金の光に包まれる。
 少女はそれを無言で見つめた。
「父と子と聖霊の名において命ず!悪魔よ、去れ!」
 恵美が少女に向かって拳を突き出すと同時にまばゆい閃光が少女の胸を貫いた。少女の胸部には光の矢が突き刺さり数メートル吹き飛ばされるとそのまま仰向けに倒れこんだ。
 エクソシズムを行なう修道士の中でも最上位のものしか使うことのできない魔殺しの“金の矢”だ。彼女が何者であれ、これに心臓を貫かれて無事な化け物などいるはずがない。
 助かった。
 そう思った次の瞬間、恵美は自分の目を疑った。そして驚愕した。
 少女は立ち上がっていた。胸に金の矢を刺したまま何事もないように。彼女は自分の胸に刺さったものを不思議そうに見つめると今度は真っ直ぐ恵美の顔を見て言った。
「もしかして、私を殺したいの?」
 その視線には何か熱いものがこもっているようだった。憎悪とも殺意とも違う何か。
「そうなのね?」
 そして、少女の顔に初めて感情らしきものが浮かんだ。口が笑いの形に歪んでいる。 それを見たとき、恵美は悟った。
 こいつは今まで自分が見てきた化け物以上の化け物だ。
 勝てるわけがない。
 自分は今、死ぬだろう。
「うれしい・・・・・・。私も、殺してあげる」
 スターターブリップを引き、少女はチェーンソーを再度起動させた。
「化け物め!」
 恵美も再び金の矢を撃とうと腕を振り上げる。だが、そのとたんに腕の感覚がなくなった。腕を切り落とされたのだ。
 少女は5メートルほどの間合いを一瞬でゼロにしていた。
 恵美の腕は床に落ちる前に青白い光に包まれて跡形もなく消え失せる。そして腕の切断面からは血の代わりにやはり青い光が溢れ出ていた。
「あ・・・・・・」
 間近で少女と目があった。相変わらず殺意など欠片も感じられない。それはまるで恋人でも見つめるように優しく、ガラス球みたいに透き通った蒼い瞳。
 チェーンソーが恵美の右肩から腰にかけて斜めに切り裂く。
 腕のときもそうだが痛みはなかった。即死してもおかしくないはずなのに意識もはっきりしている。恵美が床に崩れ落ちると、傷口から溢れ出ていた青い光が全身に広がりゆっくりと恵美の身体は崩壊を始めた。
 自分の身体が崩れゆくのを感じながら恵美はなぜか解き放たれたような気分になった。それから恵美は穏やかにそして永遠に意識を失った。


 今日もテレビからは悲惨な出来事を知らせるニュースが流れてくる。
 いたいけな少女は大人の身勝手な欲望のために命を落とし、善良な民衆は正義の名のもとに虐殺される。
 哀しいことだ。
 だが、それら走査線上の事実にはひとつとして現実感がない。遠い国で何万人の人が死のうが画面に映し出される映像は映画やドラマとなんらかわりはない。
 所詮は虚構。他人事。
 この目に直接映ったもの、この手で直接触れたものだけが真実なのだ。

 僕は実の姉に殺されかけたことがある。

 あれは僕が六歳のとき。妹の空歌が生まれてすぐのことだ。
「あんた今日から女の子ね」
 姉さんは何かというと僕に自分の服を着せたがった。昔のアルバムには双子の姉妹のようにそっくりな少女が並んで写っている写真がたくさんある。一人は姉さん。もう一人は僕だ。金輪際、誰にも見せたくない。
 少し我儘なところはあったが姉さんは基本的には優しかった。よく遊んでもらったし、可愛がってもらった。
 だから姉さんがなぜあんなことをしたのか今でもわからない。
 あの夏の日。昼寝をしていた僕が目を覚ましたとき隣で寝ていた空歌に姉さんが覆いかぶさり包丁を振り上げているのを見た。
 そのときは姉さんが何をしようとしていたのか理解していたわけではない。だが一瞬でこれはヤバイと感じて姉さんに飛びついた。とにかく無我夢中で止めようとした僕を姉さんは突き飛ばし、僕の胸に包丁を突き立てた。
 痛い。
 そう思った次の瞬間、部屋に入ってきた母さんの悲鳴があがった。

 病院に担ぎ込まれた僕はそのまま手術室に直行したらしい。幸い傷はそれほど深くなく、胸を数針縫うだけで済んだ。それでも傷跡は残っている。
 トラウマの語源はギリシャ語で身体的な傷を指す言葉だ。文字通り僕の胸には決して消えることのない傷が刻まれた。
 僕が退院してしばらくして、姉さんは交通事故に遭って死んだ。
 そのことを知らされたとき、僕にはまったく実感がわかなかった。僕にとって確かな現実はこの胸の痛みだけだ。
 包丁を振り下ろす姉さんの目には本物の殺意がこめられていた。本気で僕を殺そうとしていたのだ。その目を見たとき、僕は理解した。人は人を殺せるのだということを。
 人間は天敵のいない動物と言われる。だが、人間こそが人間の天敵なのだ。人は人によってのみ殺される。
 おそらく、それが自然の摂理というものなのだろう。自然は天敵のいない生物の存在を許さない。だから人間は人間どうしで殺しあわねばならない。人にはそのための機能がちゃんと備わっている。
 きっと、そういうものなのだ。
 それならなぜ僕は人を殺さないのだろう?
 殺人を行なうのは一部の人間だ。多くは誰一人殺すことなく、殺人事件に遭遇することもなく一生を終える。それは社会が殺人という行為を認めていないからに他ならない。社会で生きる限り殺人は悪である。そういうルールなのだ。
 どんなに人が殺人の機能を持っていたとしてもそれを実行することは許されない。
 だから僕は人を殺したりしない。絶対に。


 扉を叩く音が聞こえる。
「お兄ちゃん。まだ寝てるの?」
 続いて聞きなれた妹の声。
 寝てるよ。まだしばらく寝ている予定だ。
 時計の針は九時をまわったところだ。今日は八月三十一日、夏休みの最終日。時間を気にせず寝ていられるのも今日までということだ。今日は心ゆくまで惰眠を貪りたい。
「礼司くんが来てるよ」
 礼司?
 滝川礼司か。あの野郎、こんな朝っぱらからいったい何の用だ。普段は完全に昼夜逆転生活で自分はナイトウォーカーだとか言ってるくせに。
「入るよ、お兄ちゃん。もう、またテレビつけっぱなし!」
 部屋に入るなり空歌は床に転がっていたリモコンを拾いテレビを消した。どこか別の県で起きた殺人事件のニュース映像がぷつりと途切れる。
「ねえ、起きてよ!」
 空歌はベッドの上でタオルケットに包まっている僕を激しく揺すった。
「礼司くん待ってるんだからね!」
 そんなこと言ったって、僕も起きたいのは山々だがどうにも身体と脳が拒否して言うことを聞いてくれないのだからしょうがない。
「早く起きないと・・・・・・」
 何だ?膝蹴りでもするか?
「ほっぺにチュウするよ?」
「・・・・・・起きた」
 むっくりとゾンビのように起き上がり伸びをする。
 低血圧でも一度起き上がってしまえばそれなりに動けるものだ。その起き上がるのが大変なのだが。
「よろしい」
 満足そうに微笑む空歌。起きなかったら本気でする気だったのだろうか。妹のチュウ攻撃というのはいろんな意味で強烈だ。思わぬところにダメージを受けそうな気がする。
「朝ごはんは?」
「トースト。チーズ乗せて」
「了解」
 踵を返して元気よく部屋をあとにする。本当に朝から元気だ。
 空歌はあの事件のことを知らない。教える必要もないと思う。たまに空歌から姉さんのことを聞いてくることもある。そんなとき僕は優しかったとだけ言い、母さんは僕に似ていたと教えた。アルバムを見られることだは必死で阻止している。僕の女装写真もあるのだから。自分でも姉さんと見分けがつかないのが情けない。
「おい、高橋ィ!このクソ暑いのにいつまで待たせんだゴラァ!」
 外で怒鳴り声をあげてる奴がいる。滝川だ。
 そういえばあいつ来てるんだったな。すっかり忘れてた。
 炎天下。空は癇に障るほど青く、白い入道雲が節操なく膨れ上がっている。小一時間寝転がっていればいい感じに干からびそうだ。
「早く降りて来ねえとお前の妹との爛れた生活、近所中に言いふらすぞ!」
 いかん。早く黙らせないと、いらぬ隣人トラブルに発展しかねん。
「今行くからおとなしく待ってろ!」
 何をわめきだすかわからない友人に一声かけてから、寝巻きから着替えて空歌が朝食の支度をしている一階のリビングへ向かった。


 チーズトーストをかじりながら玄関を開けると、木陰で滝川がペットボトルからスポーツドリンクを口に流し込んでいた。
「遅えよ!」
 跳ね放題の癖毛。服装は上から下まで全身真っ黒。半袖だからまだマシだが実に暑苦しい。おまけにサングラスなんかしているものだから怪しいことこの上ない。
「何か用か?」
「宿題、終わったか?」
 だと思った。もちろん僕は、
「終わってるわけがないだろう」
 わかりきったことを聞くんじゃない。もうずいぶん長い付き合いだが一度でも終わってたことがあったかという話だ。
「選択肢が三つある。一つ、今から二人で死ぬ思いをして片付ける。二つ、終わってる奴を探し出して強奪する。三つ、学校に火を放つ」
 そう言って滝川は段階的に指を三本立ててみせた。
 一も嫌だが、三は駄目だろう。となれば、
「まあ二だろうけど、誰がいる?」
「ああ・・・・・・一瀬、かな」

2006年02月12日

バレンタイン

2c28454c.jpg要はイケメン呪われろと。

2006年01月26日

乙女化

7c1050c9.jpgサンプル

2006年01月16日

擬人化

f2793ef8.jpg俺萌え(´w`)

2006年01月10日

Guest room

 俺はよぅ俺はよぅ、もう小説なんか書けねえよぅ。
 欝になる。幸せな話を書けば書くほど鬱になる。文章のテンションが上がればそれに反比例するように俺のテンションはどん底まで落ち込んでいく。
 ダメだダメだ。このまま書き続けたら俺は自分の小説に殺される。ダメだとても生きてられない。思えば俺が小説を書くということは不良少年が喧嘩に明け暮れるのとなんら変わらないのかもしれない。湧き上がる破壊衝動を拳にこめるか文字にこめるかだけの違いだ。いや、命の危険でいったらむしろこちらの方が高いくらいだ。いくら強いといっての素人に殴られて死ぬことは滅多にない。しかし、こちらがダメージを受けるのは常に無防備な精神だ。精神を損傷した人間は容易に死に至る。
 嗚呼、わかった。
 俺はもうすぐ死ぬ。
 他の何でもなく自らの贓物に溺れて死ぬ。
 なんと愉快なことか。

「なに物騒なこと言ってるんですか」
「麗?!なぜここに?」
 いつものように自分の部屋に引き篭もりパソコンに向かって頭を抱えていたZAPに突然女の声が話しかけてきた。顔を上げると今日自分でキャラデザしたばかりの麗がニコニコと覗き込んでいる。
「なぜじゃないでしょうが。いくら作者だからって小説を私物化するにもほどかあるわよ。ていうかこんなの小説ですらないじゃない」
「雅まで」
「ホントよく素面で幻覚見れるよねえ」
 そうか。また具現化させてしまったんだなあ。最近また情緒不安定だったから・・・
「いい加減、変な薬使ってるんじゃないかって疑われるよ?」
「馬鹿言え。こっちはそんなものに頼らなくたって自力でマトリックスの彼方まで行けるってっだよ」
「なおヤヴァイわ!」
 相変わらずテンポのいい素晴らしいツッコミだ。そんな俺と雅のやり取りを麗はとても暖かく素適な笑顔で見守っている。
 やっぱりいいなあ妄想の女の子は。自分のキャラだとなおいい。現実の女なんてよぅ、現実の女なんてよぅ。
「ところで今日はなんで落ち込んでたんですか?」
「最近小説書いてると死にたくなってくるんだ」
「末期だなあ・・・」
 そう言いながら雅はふと机の上の紙を手に取る。
「ちょ!なにコレ?!」
「ああそれは別のイラスト用のラフがで・・・」
 紙にはどうみても小学生にしか見えない少女の裸がいくつも描き殴られている。さらに股間に秘密のバトンがついているものまである。
「もう死んだ方がいいと思うよ」
 笑顔で言う雅。実に素適な笑顔だ。
「そうだね」
 これまた輝かんまでの笑顔で麗が同意する。
「うわーん!俺なんてよぅ!!」
 救われねえ。書いても書いても俺は救われねえ!

2006年01月09日

Fox syndrome

 狐じゃ!狐が憑きおったぞ!

 古来より狐というのは人に憑くといわれる。憑かれた人はまるで狐のような行動をとるようになるという。行動、まあそれも悪くはない。悪くはないがここでもう少し捻りを効かせてもらいたいと思う。行動だけでいいのだろうか、と。せっかくの狐というマテリアルをもっと有効活用すべきではあるまいか。
「狐憑きよ」
「ありえない!」
 雅の絶叫が響く。顔を覗くともう涙目になっていた。
「でも実際そうなんだから。ほら」
 麗はニッコリと素適な笑顔を浮かべ雅に手鏡を差し出した。そこに映る自分の姿を見て雅はさらに顔を引きつらせる。
「うぅ・・・」
 いつもとなんら変わらぬ自分の顔。だが、なんと頭部には大きな狐の耳がピンと生えているのだ。これぞまさに狐ッ娘。現代用語でいうところのジャパニーズ萌え!さらに後ろではこれまた立派なふかふかの尻尾が揺れているのだった。素晴らしい!
「雅ちゃん可愛いー!」
「やめれッ!」
 狐耳をいじる麗の両手を払いのける。
「ちょっとくらい触らせてくれてもいいじゃないケチー」
「うるさい!」
 指をくわえて拗ねる麗を雅は怒鳴りつけた。人事だと思って実にいい気なものである。
「でもどこで貰ってきたんだろうね」
「知らないよ。ねえ、これ直るんだよね?」
 不安げに聞く雅に、うーんとしばらく考えて麗はこう答えた。
「別に直らなくてもいいんじゃない。可愛いから」
「うわーん!」
 とうとう雅は泣き出してしまった。さすがの麗も慌てて慰めにかかる。
「でもほら、麗調べでは今年の狐耳は流行るよ。大ブレイク間違いなしだよ」
「流行るか!てかそんなフォローあるか!」

「狐は犬に弱い」
 あれこれと対策を考えていると麗がふとそんなことを言い出した。
「は?なにそれホントなの?」
「麗のトリビアの種に間違いない!」
「種かよ!ちゃんと調べてからにしてよ!」
 すっかりツッコミに徹している雅である。そんなツッコミを気にもとめず麗はどんどん話を進める。
「狐ッ娘には犬ッ娘で対抗するのだ!」
「犬ッ娘って・・・そんなのどこにいるのよ?」
「ふっふっふ、お姉ちゃんの霊能力をあまく見ちゃだめよ」
 ほうそんなものが使えるとは初耳だ。そもそもテレビとかに出てくる霊能力者っていろいろ出来すぎだと思う。得手不得手くらいあるだろうに。
「ヘン、シン!」
 麗は高らかに叫びポーズをとる。間違ってるよお姉ちゃん。それ絶対、霊能力とかじゃないから。
 そして次の瞬間、麗にも耳と尻尾が生えていた。狐耳と犬耳の見分け方については専門の人に聞いてください。
「わおーん!」
 遠吠えがあがる。
「・・・お姉ちゃん?」
「ぐるるる・・・ワンワンワン!」
「ひー!」
 突然、麗が雅に飛び掛った。異常なほど尻尾を振って。
「は、発情すなー!」
 本能には逆らえないということだね。でも異種配合はどうかと思う。ってそんな問題じゃないか。

 ちなみに二人とも一晩経ったら元に戻りました。

Easy swim

「海ー!やっぱり混んでるねー」
「私にはすいてるように見える・・・」
 麗曰く、お盆過ぎの海に増えるのは海月だけではない。ちなみに危険はあんまりないとも言っていた。あんまり、というのが少し、いやかなり気になるところだが雅は深く考えないようにした。いちいち気にしていたらどこにも行けなくなってしまう。
「それにしても・・・」
 麗の視線が雅の上を舐めるように這う。
海といえば水着!無論!論じるまでも無いと書いて無論!
学校での水泳の授業は何度と無く覗きに行ったが、いやスクール水着には非の打ち所もありませんよ。むしろ究極ですよ、究極!
ですがね。今日の雅ちゃんはなんとビキニなのですよ!上と下とがグッバイシーユーアゲイン!布面積が、というか露出度が違います。
「嗚呼、雅ちゃん。ちょっとお姉ちゃん一人で処理してこなきゃいけないカモ・・・はぁはぁ」
「なにをだ!」
 麗はなぜか前かがみになって息を荒げる。
 なんだが最近自分に対する姉の言動や視線が洒落にならない領域に踏み込んでるような気がしてならない雅であった。哀れなことにそれはきっと気のせいではない。南無。

「雅ちゃんも泳ごうよー!」
 水面から顔を出した麗が手を振っている。雅はそれをパラソルの下で元気だなあと思いつつ見ていた。
 そういえば・・・
 ふと、雅の頭に一つの疑問が浮かんだ。
いったい麗はいつの間にあんなに上手く泳げるようになったのだろう。確かいつも学校のプールでは溺れかかっているという話だったような。それが今日はあんなに上手く、上手く?ていうかなんか不自然じゃないか?泳法が独特というか、なぜあれで沈まない?
そのとき不意に大きな波が麗を飲み込んだ。
「お姉ちゃん!」
 即座に駆け出し、雅は海に飛び込んだ。
 いくら泳げるようになったといっても泳ぎなれていない人間は海ではちょっとしたことでも命取りになりかねない。
 麗が沈んだ地点に着く。すると突然、麗は水上に勢いよく飛び出してきた。
「あー、びっくりした」
「お姉ちゃん?ちょっと、大丈夫?」
 すがり寄る雅の顔を見て麗はニッコリと笑う。どうやら平気そうだ。
「気をつけてよ。お姉ちゃん泳ぎ得意じゃないんだから」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
 麗は少し困ったような表情で雅を見ると、
「だって海だとみんな助けてくれるもん」
 そう言って笑うのだった。
「・・・・・」
 みんなって、またアレですか。
 普通逆じゃないのかあ。引きずり込まれるって話なら聞いた事があるけど。
 きっと麗を見てると向こうも気が気じゃなくて思わず手を貸してくれるのかもしれない。その気持ちはなんとなくわかるような気がする雅だった。

Dream wars

 20XX年、世界は死と暗黒と混沌に包まれた。空は漆黒の雲に覆われ太陽の光もとどかず大地は生命力を失った。人口は10分の1まで減少し、生き残った人々も地球外からの敵の脅威から逃げ惑う生活を強いられていた。
 人類を救うには暗黒皇帝に捕らわれた雅姫を奪還し王家に伝わる伝説の魔神を復活させるしかない。
 そして今、帝国の支配を終わらせ人類の未来を取り戻すため一人の若者が立ち上がった。竜の血を飲み不死身の肉体を得た勇者。妖精の泉の祝福を受けた偉大なる魔術師。その名もマジカルマスター麗!シャキーン!
 え?設定がめちゃくちゃだって?
 いいのいいの、だって夢なんだもん。

 いきなり夢オチばらすという暴挙に出たところでこれまたいきなり最終決戦です。
「ふははは、よくここまでたどり着いたマジカルマスターよ。だがここがお前の墓場だ」
 皇帝はこれ以上ないほどお約束な台詞を吐きます。そうそう、これこれ。一度でいいからこの台詞を生で聞いてみたかった。夢だけど。
「今行きます雅姫!」
「嗚呼、麗さま・・・」
 SFちっくなお姫様ルックに身を包んだ雅ちゃん。なんて可愛いらしい、ていうかちょっとえっちっぽい!しかも性格も現実と違って乱暴じゃないの。夢最高!アイアムビューティフルドリーマー!
「私にはダークロードを倒すために散った友、ウイリアム皇子から託された魔法の剣がある。勝負だ皇帝!」
 なんかよく覚えてないけど志半ばで倒れた仲間がいるらしいです。ありがとうウイリアム。君の事は忘れない。なにせ最初から覚えてないので忘れようがない!
 あ、それとどうでもいいので戦闘シーンとか省略します。
 死闘の末、マジカルマスター麗は皇帝を倒し帝国は滅び去りました。
「麗さま、きっと来てくれると信じていました」
 雅姫も無事に救出、もちろんお姫様だっこです。
「さあ帰りましょう。そして豊かな国を作りましょう。二人で」
 プロポーズも決まりました。当然姫は頬を赤らめこう答えますよね。
「よろこんで」
 そして二人は熱い口付けを・・・雅ちゃんとキス・・・キス・・・

「ぎゃあ!やめれー!」
「・・・あれ?」
 目の前には雅姫。でもなぜか学校の制服を着ています。
「なにしようとしてるのよ!」
「チュウ」
「寝ぼけたこと言うなー!」
 夢だったんだ。そりゃそうだ。
「馬鹿なことやってないで早く着替えてご飯食べちゃってよ。私まで遅刻しちゃう」
「はーい」
 いそいそと布団から這い出るマジカルマスター、じゃない普通の麗。
 惜しかったなあ。是非続きが見たいものだ。

2006年01月08日

Case X

 こんばんは、麗です。
 今日は私が体験した中で一番怖い話を思い切って話そうと思います。正直思い出したくもありません。ていうか聞かないほうがいいと思います。それでも話さずにはいれないんです。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・
 ご存知の通り私には人には見えないものが見えます。でもそれが怖いと思ったことはほとんどありません。それはそうです。だってそんなに悲惨な死に方をする人ばっかりなわけはありませんから。ちょっと見えてる人口が多いようなものです。
 多い。嗚呼、これがいけないんです。多い、多い、いっぱい、たくさん、黒くて、光って、蠢いて、ぞろぞろぞろぞろぞろいやぁあああ!!!!
 ごめんんさい、取り乱しました。

 それはある暑い夏の日でした。
 突如、キッチンから妹の雅ちゃんのきゃあという超可愛い悲鳴があがります。それはできれば録音してMP3にエンコードして永久保存したいくらい。まあそれはどうでもいいんですが、リビングでテレビを見ていた私はそれを聞いて飛んでいきました。見ると雅ちゃんが箒を振り上げてるところでした。
「ついにでやがったかぁ!」
 いつになく気が動転している様子です。
「どうしたの?」
 私が聞くと雅ちゃんは視線で壁の隅を指し示しました。なるほどそこには例の人類の宿敵。太古の時代より生き続けるという史上最強の黒い生物が。
「今までウチいなかったのにねえ」
「この夏引っ越してきやがったのかしら?はじめましてこんにちは。そしてさようなら」
 目がとても怖いことになっています。そういえば雅ちゃんは虫系全般も苦手でした。しかし、それでも雅ちゃんは恐れをなして逃げ回るような女の子ではありません。
 じりじりと間合いを詰める雅ちゃん。ヘタな攻撃をするととたんに冷蔵庫や戸棚の陰に隠れられてしまいます。そうなっては手の出しようがありません。
 そして敵が壁から離れて打ちやすい場所に出てきた一瞬の隙をついて雅ちゃんの箒が振り下ろされました。
 それはバンと豪快な音と共に無残にも潰されてしまいました。可哀想に。
 ですが雅ちゃんの表情はまだ緩んでいませんでした。
「奴らは単騎では攻めてこない。常に群れで行動する」
 なんだか口調もおかしなことになっています。
「アレをやるぞ麗伍長!」
「りょ、了解です隊長どの!」
 私は思わずノってしましました。それが恐怖の始まりだったのです。

 数時間後。
 雅ちゃんがコンビニから買ってきた缶から白い煙がたちこめます。
「これで一安心ね」
 勝利を確信して上機嫌です。
 普通、話はここで終わります。でも私の場合は事情が違うのです。まさかあんなことになるなんて・・・
 死んだ人がみんな霊になるんなら地球は今頃霊でいっぱいだって言う人がいますよね。でもそれは違うんです。死んでしばらく立った人はどこかに行ってしまうんですよ。どこかは知りませんけど、そうなってるみたいなんです。つまり死んだばかりの人はまだちかくにいる可能性が高いということですよね。
 その日の夜のことです。
 私はなんとなく喉が渇いてキッチンに向かいました。冷蔵庫を開けて牛乳瓶を取り出します。ガサゴゾっとなにやら物音がした気がしました。でもさほど気にしませんでした。
 牛乳瓶の栓を開けて腰に手を当て(基本です)私は一気に飲み干しました。視界に天井が入ります。すると天井が薄緑色に発光しているんです。すぐにはそれが何なのかわかりませんでした。その正体に気づくのと私の意識がフェードアウトしたのはほぼ同時だったのだと思います。
 天井に貼りついていたのは不気味な光を放つ半透明になった何十匹ものアレだったのです!

翌朝、私は雅ちゃんに発見されましたが、私が見たものについては話せませんでした。聞けばそれだけでトラウマになっていまうでしょう。これは私に心の中に封印しようと決めたのです。だからこれを読んだ人、本当にごめんなさい。

2006年01月07日

Black box

 箱がある。
 どういう箱かというと形は、四角い。全ての長さが等しい。ということは全ての面の広さも等しい。つまり立方体である。色は、黒い。模様も何もない。真っ黒だ。中身は、誰も知らない。なぜなら誰も開けたことがないから。なぜ開けないかというと手が届かないから。それは体育館の屋根の上にあって普通はそんなところには誰も登らない。というか、そんなところに箱があることなど普通は誰も気にしない。もしこれが見えないところにあるのならその存在すら知られることもなく箱はただそこにあり続けるのだろう。だが、なまじ見えるものだから一度気にしだすと気になってしかたがないわけで・・・
「で?」
 長々と語った麗に対して雅の返答はわずか一音だった。
「何が入ってるか知りたくない?」
「別に」
 変わったことがあると首を突っ込まずにはいられない姉、出来るだけ関わりあいになりたくない妹、実に対照的な姉妹である。
「ちょっと行ってくる」
「はぁ?」
 麗は窓に足をかけ飛び出そうとしている。
 確かにここからなら体育館の屋根には簡単に飛び移れる。だが、可能だからといって実際行動に移すかは別の話だ。
「ちょっと!やめなさいよ!」
 雅が制服を掴んで引き戻そうとするがおとなしく従う麗ではない。
振り返ると窓からダイブを試みる女子生徒に驚愕する他の生徒の姿が、まったくない。誰もが一度だけちらりと二人を見てそれが誰なのか確認するとそのまま素通りしてしまう。ああ、お姉ちゃん。あなたの奇行はここではもう日常茶飯事なんだね。
とうとう雅の手をすり抜けて麗はまるで忍者のように屋根に着地した。シュタッという擬音が浮かびそうなほど見事にポーズを決めて。そして地べたを歩くのと変わらないようにてくてくと屋根の上を箱に向かって歩いていく。見てるほうが心臓に悪い。
雅は心配そうに身を乗り出す。
「危ないよー」
「だーいじょーぶ!」
 箱の元にたどり着いた麗はそれを持ち上げてとりあえず振ってみる。思ったより軽い。が、何か入っている。
 となれば後は躊躇いもなく開けるのみ!

 パンドラの箱というのがある。
 この世のあらゆる災いが詰まっていて開けると災いが世界に溢れ出すんだけど最後に一つだけ希望が残ってるんだって。
 あれ、それじゃ希望だけ箱から出てきてないじゃん。

 箱の中に入っていたのは一枚の紙切れだった。
 なにやらボールペンで文字が書かれている。
「もしこれを最初に読むのが清掃員でも建築業者でもなく俺の後輩であるなら俺に匹敵する馬鹿野郎が現れたことを心からうれしく思う」
 それを見て二人の間に長い沈黙が訪れた。
「馬鹿野郎」
「しくしく・・・」
 名も知らぬ先輩よ。あなたがどれほどのものだったかは知らないがウチの麗はきっと負けていないだろうよ。
 ある平和なお昼休みの出来事でした。

AKUMA

 昔、悪魔を見たことがある。

「ちょっとお姉ちゃん!いつまで寝てる気?!」
 朝、とはもう言えない時間帯である。
 夏休みに入って二週間。雅(みやび)は姉の麗(うらら)を叩き起こすのが習慣になっていた。それは何も夏休みに限ったことではないのだが、休みに放っておくと麗は昼を余裕で通り越して夕方までベッドにへばりついていることが少なくない。
 今もまだ布団に包まって団子になっている。
「まだ眠たいの〜」
「また遅くまで起きてたんでしょ」
 麗が朝に弱いのは夜更かしのせいだ。しかし、雅が本当に我慢ならないのはその夜更かしの理由である。
「昨日お隣のお婆さんとガーデニングの話で盛り上がっちゃって〜」
「お隣のお婆さん、去年亡くなったでしょ!」
「そうだよ」
 麗は当たり前のように答える。それどころか「それがどうかしたの?」とでも言いたげに首を傾げ頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。
 そう、麗はいわゆる見える人なのだ。
「そうだよ、じゃないでしょ!おかしいでしょ!ありえないでしょ!」
「もう、なに怒ってるの〜?」
 プウっと頬を膨らませる麗である。こういった態度も雅をいらだだせる要員の一つなのだった。生まれたときからそれらを見ることができる麗にとってそれらがいるということは当たり前のことである。一方、見えない雅には姉の言動は奇妙以外のなにものでもない。姉が嘘を言っているとは思っていないが、それでもそれらの存在を信じられるわけではなかった。
「まさか外でそういうこと言ってないでしょうね?」
「言わないよ〜、だってやっぱり苦手な人もいるもんね」
「私だってとっても苦手なんだけど」
「雅ちゃんには麗がついてるから大丈夫」
 そういうと麗は団子から頭だけを覗かせにっこりを微笑むのだった。

 雅が用意したブランチを食べ終えると突然麗が額を押し付けてきた。
「な、なに?」
「雅ちゃん、熱ある」
 熱?そういえば朝から熱っぽいような気はする。心なしか体もだるい。風邪が流行っているらしいしどこからかもらってきたのだろうか。
「雅ちゃんのベッドに直行〜」
「あっ、こんなの大したことないよ」
「ダメ〜。本日雅ちゃんはお休みで〜す」
 半ば抱えられるように雅は自分のベッドに連行されてしまった。普段はホワホワしているのにこういうときは麗は妙に強引だ。
 無理やりひん剥かれてパジャマにお着替えまでしてもらったし。
「後でお粥さん作ってきてあげるね〜」
「大げさなんだから・・・」
 雅ももうすっかり観念していた。こういうとき麗に逆らってもしょうがないことを十分わかっている。最近少し疲れも溜まっていたしちょうどいい機会かもしれないという気持ちもあった。
 麗は布団を雅の肩まで引き上げると「大人しく寝てなさいね」と言い残して部屋を出て行った。きっとこれからキッチンに大災害を巻き起こしながらお粥を作るのだろう。そして明日雅はそれを片付ける羽目になるのだ。
「いいや。寝ちゃお」
 目を閉じると風邪のせいか、やはり疲れていたからなのかすんなりと眠りに落ちることができた。

 夢を見た。怖い夢だった。
 子どものころに重い病気にかかったことがある。ちょっと危なかったらしい。そのときのことはほとんど覚えていないのだが一つだけ。
 寝ている自分のすぐ近くに、とても恐ろしいものがいた。
 なんとなくだが、悪魔なんだと思った。
 それは雅の手を掴みまさに悪魔の形相で言った。
「妹ヲ連レテ行ッタラ許サナイ」
 目が覚めた。今のは夢だ。うなされていたのか寝汗をかいている。ふと自分の手を掴む感触に気づく。麗が雅の手を掴んだまま寝息を立てていた。
「ふあ・・・、雅ちゃん起きたの?」
「おはようお姉ちゃん、涎出てるよ」
「ふえ!」
 麗は慌てて服の袖でゴシゴシと口を拭いた。
「ねえお姉ちゃん・・・」
「ん〜?」
 呼ばれて麗は雅の顔を覗き込む。それはいつもどおりの穏やかな姉の顔だった。「死神って見たことある?」なんてことを聞きかけて止めた。それは聞かなくてもいいことだ。
「なんでもな〜い」
 きっとこの悪魔はずっとこうして私を守ってくれているのだ。

AtoZ

Aアルファベット順のタイトルの小説を書いていくらしいです。
とりあえず次から初めてみます。

2005年12月10日

クリスマス

4b24a499.jpgZAPキャラハーレム

2005年12月04日

真理愛

3670d08a.jpgキャラ絵その2

2005年11月29日

ガーネット・ルージュ

88f0305c.jpg小説用イラスト

2005年11月28日

タブ子

84e9c58f.jpgが、がんばりまつ・・・

2005年11月24日

偽装彼女

 この国の人間は外来の文化に対して抵抗が薄いという性質をもつ。
 もちろんこれまで衝突がなかったとは言えないが、来るもの拒まずの精神で他国の文化を取り入れつつも自分達の趣向に合うように改良を重ね見事に自国のものとして昇華していった。
 それこそがこの国の文化のありかたとも言える。
 彼の移民の大国が人種のサラダボールなら、この国は文化のサラダボールである。
 そんな外来の文化の中で特に広く浸透し、独自の進化を遂げたものがある。
 『恋愛』である。
 以外に思うかもしれないがこの国における恋愛の歴史は浅い。明治以降に外来から伝わった文化であり、それまで自由恋愛など一般的なものでは決してなかったのだ。
 しかし、今や誰もが恋愛するものだと多くの方が認識していることだろう。
 あえて言わせていただきたい。
 断じて否である!と。
 恋せずしてなんの人生や、などという戯言は聞き飽きた。
 これほど多彩な文化を持ちながらなぜその一つに縛られねばならぬのか。恋愛など他にやることのない暇人のやることである。
 愛などいらぬ。恋などいらぬ。
 求めるべきものは他にいくらでもあるのだから。

「発表があります」
 部室に入るなり高志は高らかに宣言し、続けて入ってきた希の肩に手をまわした。
 部員達は静まり返り二人を注目する。誰の顔にも少なからず驚嘆の色がうかがえる。そして高志は十分な間をとったのち、こう続けた。
「俺達、付き合うことになりました」
 ことの始まりは昨日のことである。

 高志がパソコン部の扉を開けると一人ペンタブレットを走らせる希の姿があった。
 文化系の部活にはよくある話で、ここもその類に漏れずパソコン部とは名ばかりのいわゆるオタクの巣窟である。
 高志が入ってきたことに気づいた希は作業を止めイスを回転させた。
「ん、何よ不景気そうな顔して。みんなと遊びに行ったんじゃなかったの?」
 高志は適当にイスを引っ張り出し腰掛ける。
「合コンだと」
「はン、それでか。もう12月だもんねえ。男どもは最後の無駄な足掻きに精を出してるわけだ」
希は心底バカにしたようにケラケラと笑う。
「そういうことお前が言うか?お前だって一人身だろう」
「お前もな」
 こと恋愛に無縁ということに関しては二人は同志と言えた。いや、無関心といったほうが正確だろうか。
 物書き志望の高志にとって自分の書く小説こそが世界の真実すべてであり、希は漫画に恋愛を好んで描くことはあっても自分含め現実の恋愛には興味を示さなかった。
 俗にオタクと言われる人種の中にあっても、ここまで徹底したあり方を貫くのは特殊な存在である。
「ていうかさ、毎回毎回ナンパだ合コンだのに俺を誘うなよな」
「あんたオタにしては無駄にカッコイイからね」
 自分で意識したことはないが高志は外見的に見ればそこそこモテる部類に見えるらしい。まったくもっても活用されてないわけだが。
「オタ的にはハンディキャップ以外のなにものでもねえよ」
「うわ、他の連中に聞かせてやりたいわ」
 多くの男と半端なオタクは非難を、そして本物の漢は賞賛を送るだろう。
「男はまだましよ。私だって女友達からどれだけしつこく現実の男に目をむけろといわれたことか」
 腕組みをして、体全体でうんざりだという表情を作る。相当いろいろ言われてきたらしい。確かに女の方がこういう話題は日常的なのかもしれない。
「いっそ彼女がいれば断る口実になるかもな」
「女に使ってる時も金もないでしょうが。特にこの時期は」
 多くの作家にとって年末は修羅の季節である。
「要は時間とお金がかからない女がいればいいんだよなあ」
 まさに理想であると高志は語る。
「それこそ二次元しかないでしょ。私だって余計な気を回さなくていい形だけの彼氏がいれば・・・・」
 とたん、二人の間に沈黙が訪れる。
「今さ、凄くいいアイデアが浮かんだんだけど」
「それはたぶん俺も一瞬考えちまったが・・・・さすがにどうかと思う」
 二人は先ほどの倍の時間沈黙し、それぞれにあれこれ思考をめぐらせた結果、その話に乗ることにした。
 題して、『偽装恋人宣言』である。

 そんなわけで、手っ取り早くみんなに二人が付き合ってるということを知らせる必要があったためにこういう形をとったのだ。
 かなり不自然であったし勇気と覚悟もいったが作戦の趣旨からして人に知れ渡らなければ意味がないので仕方がない。
 問題のみんなの反応は、とても暖かかった。特に女子が。
「え〜、いつからそんなふうになってたのぉ?」
「ずるい希、ずっと隠してたのね」
「でもお似合いかもね。おめでとう」
 不審に思われるかとも思ったが、意外なほどすんなりと納得されてしまった。正直、複雑な気分である。
 男どもは比較的おとなしいが後で問い詰められることだろう。
 今更ながら大変なことをしてしまったのではないかという思いを何度も打ち消す。おそらく希も同じ気持ちではないだろうか。
 こうして希は公式に俺の彼女になった。あくまで公式にはである。

 帰り道。
 家の方角が同じということも幸いして、あれからできる限り二人は一緒に帰ることにいている。
 一度知り合いに見つかり手を繋いで見せたこともあったがどちらからともなくそこまでする必要はないだろうということになった。
 それにしても、どうにも気まずい。
「あのさ・・」
今までお互い黙り込んで歩いていたが、不意に希が口を開く。
「今日クリスマス、じゃない?どうしよっか?」
はて、なにがどうしようなのだろう。
「いやみんなにね、初めてのクリスマスはどうするかなあ、なんて聞かれてさ。やっぱりほら、一緒に過ごすものじゃない?」
 まあ普通はそうなのかもしれないが、自分達の場合は事情が異なる。そもそも本当の恋人どうしというわけではないのだ。
「それこそ一緒にいることにしてお互い原稿に専念できるってことじゃない、の?」
 なぜか語尾がつまった。元々そういうふうに活用するために結んだ関係である。部屋にこもって机に向かっていれば一人のところを目撃される心配もないだろう。それはそうなのだが、
「そう・・だよね」
 希は俯きぎみになんとも歯切れの悪い返事をするのだった。
「じゃあ、また来年」
 軽く手を挙げて希は自分の家の方に歩いていく。分かれ道の中央には大きな木が立っていてよく待ち合わせ場所にも使われていた。
 そうか、次に会うのは来年か。
 高志はわずかに後ろ髪を引かれる思いを感じながら家路についた。

 さて、自分の家に帰りついてから数時間、ずっと原稿に向かっている高志であったが、
「あ〜、進みゃあしねえ」
 ノートパソコンの画面は一行目に点滅するカーソルを映し出しているだけである。
 この時期にもなれば大概は体が勝手に修羅場モードに突入してくれる。ところが、どういうわけか今夜はエンジンがピクリとも動いてくれない。
 もっとも原因は明白であるが。
「覚悟、決めるか」
 余計な気をまわさなくていいなんて、言ってたのは誰だったかな。

 その日、希と別れた木の下にはたしてその少女がぽつんと立っていた。
「なにやってんの?」
「あんたこそ」
 沈黙。そういえば最近こういうの多いな。
「あのさ」
 先に沈黙を破ったのは高志のほうだった。
「今からお前の家行っていい?」
「は?!ちょ、いきなりなに言い出すのよ」
 希が赤面する。
 ふむ、思いがけず珍しいものが見れた。ってそうじゃなくて。
「勘違いするな。原稿手伝ってやるって言ってんだよ」
「べ、別に勘違いなんかしてないわよ」
 そう言って冷静を装う希であるが動揺を隠しきれてはいない。そんなに凄いこと言っているのだろうか。
 こっちも少々感覚が麻痺しているのかもしれない。
「今日、親もいないし・・・」
 あー。だんだん感覚が戻ってきた。そりゃ大変だ。
 だが、ここまで来たら引くことはできない。
「いや、お前に何もしない自信はわりとある」
「なによそれ」
 いつもの希の口調に戻る。それを聞いてちょっと安心したりして。
「ていうか早く行こうぜ。寒いんだよ」
 希を置いてけぼりにして歩き出す。
「あ、ちょっと待ちなさいよ」
 希は小走りで追いつくとちょこんと高志の服の袖を掴み、
「ありがと・・」
 恥ずかしそうにそれだけ呟いた。
 俺達は、他人から見れば偽者かもしれない。
 それでも俺達の関係はこれが本当なのだ。

【了】

2005年11月22日

垢舐め

ef38fbd0.jpg萌える物の怪絵巻其の壱

2005年11月20日

プロローグ

 五年前。

 佐上陽助は何の変哲もない普通の少年である。
 無個性というほどではないが何かに特別秀でているわけでもなく、また酷く歪んでもいない。素行も極めておとなしいものだ。
 歳のわりに達観しているところがあるが、それも大した問題ではない。
 佐上陽助は良くも悪くも普通の少年であった。

「あ〜、ヤベ。カーテンが黄色いわ」
 時刻は午前5時をまわったところである。すでに窓の外は明るくなっているらしい。
 陽助がパソコンに向かったのは昨夜の10時頃のことだ。どうにも集中すると時間の感覚がなくなる癖がある。
「いいや、寝よ」
 どうせ今日は休日だし、何の予定も入っちゃいない。今日は一日ゆっくり惰眠を貪れる。元々、昼間に活動するのは趣味じゃないのだ。
 だがベッドに潜り込んで一息ついたその瞬間、彼の安眠は2秒で打ち破られた。
「陽助〜、お水ちょうだぁい。あと、朝ごはん作って」
 騒々しく部屋に侵入してきたのは姉の美砂姫である。人の部屋に入るのにノックもインターフォンも聞こえなかったのはきっと気のせいだ。
「美沙姉、今何時だと思ってるんだよ」
「何よ〜、もう朝じゃない」
 そうは言ってもこの人だって絶対早起きしてきたわけじゃない。
「また朝帰りか。子どもはどうしてるんだよ?」
「子ども?旦那が面倒見てるよ?」
「帰りなさいよ」
 首を傾げるんじゃない。おかしいこと言ってるのは間違いなくあんたの方だ。
 植物には水と太陽が、少女には花束が、そして子どもには母の愛が必要である。
 美砂姫はまだ17だが、すでに結婚して生後5ヶ月の息子がいる。いや、子ども生んだのが先だったか。いずれにせよ本人に聞いただけなんでその辺曖昧だ。
「だってぇ、ウチ帰っても誰もご飯作ってくれないしぃ」
「あんたの仕事だろう」
「自分で作ったご飯ほどおいしくないものはないのよ?」
 料理を構成する要素のうち愛情と技術の二本柱が欠けてるからなあ。あとは食材そのもののおいしさに頼るしかない。が、美砂姉はそれすらも見事に殺してくれるだろう。
「いいからなんか作ってよ〜。お腹すいた〜」
 美砂姫は無理やり陽助をベッドから引きずり出そうとする。
「うわ!」
 勢い余ってベッドから転げ落ちる。
「痛〜、頭うったぞ」
 床に打ち付けた後頭部をさすりながら起き上がろうとした、その瞬間。
「!あ・・・」
 何か、凄いことを思いついた気がした。
「ちょっと、どうしたの?大丈夫?」
 打ち所が悪かったのかとさすがに心配そうに覗き込む美砂姫。
「え?・・・いや、大丈夫。なんでもない」
 陽助は数秒の沈黙の後、ゆっくり起き上がりそう答えた。
 始まりはそんな些細な出来事だったのである。

 その日、午前5時27分。世界は静かに変容を始めた。