2007年05月24日

社会的に許容され得ない「貧困」のラインを民衆の目線に立って確立する必要性

先日、「規制改革会議・「最低賃金」引き上げに消極的・・・建前とホンネの狭間で。」と題した記事で京都総評による最低生活費の試算に言及したところ、「掲示板」の方でブログ「アフガン・イラク・北朝鮮と日本」の社会主義者さんからのご意見を頂きました。ご意見に対する私のレスを合わせ、以下紹介させていただきます。

◆人間が生きていけるか死ぬかの損益分岐点 投稿者:社会主義者◆

>規制改革会議・「最低賃金」引き上げに消極的・・・建前とホンネの狭間で。
>人間らしい生活を送ろうとすると「1ヶ月辺りおよそ17〜19万円」は必要

 正しくその通り!私の生活実感ともピタリ符合します。この「1ヶ月辺りおよそ17〜19万円」というのは、もちろん「手取りで」という意味です。これが「税込み」だと、そこから社会保険料や税金や昼食代や通勤定期代(バイトの私は自腹持ち)を差っぴくと、実際に手元に残るのは13〜15万円にしかなりませんから。

 この「1ヶ月辺りおよそ17〜19万円」(但しこれはあくまでも単身者1人当り換算の基準額です、これを所帯持ち基準に換算すると25〜30万円=年収300〜400万円クラスがこの単身者レベルに相当するのでは)はまた、毎月僅かでも貯金が出来るか出来ないかの分かれ目(家計の損益分岐点)でもあります。これ以下の収入だと、どうあがいても貯金は出来ませんから、今までの貯蓄を食いつぶすしか無い訳で、ボーナスも出ない会社なら、サラ金にも手を出さざるを得なくなるのです。サラ金の顧客層が年収300〜400万円クラスに集中している、という事実がそれを見事に裏付けています。

 「単身者1人当り17〜19万円」「妻帯者なら1世帯当り25〜30万円」が、「ごく普通の人間らしい暮らし、健康で文化的な生活を送るために必要なギリギリの線」です。今の日本では、生活保護の平均受給額がこの線に相当します。最低賃金(大都市部で時給700円ぐらい)では、フルタイムで働いても月収11万8千円ぐらいにしかなりませんから(それも税込みでこの金額ですよ!)、国保料や国民年金保険料など、ハナから払える訳がないのです。

 そういう意味でも、「月収17〜19万円」というのは、オーバーに言えば、「人間が生きていけるか死ぬかの損益分岐点」なのです。

※そう言えばこの前、NHK放送の「クローズアップ現代」で、デヴィッド・シプラーという人が米国内のワーキング・プアの実態を伝えていましたが、日本に負けず劣らず悲惨ですね。大手メーカーを解雇された人が、今は製材会社のアルバイトとして、円換算で丁度これくらいの月収17〜19万円で生活しているのですが、食事はいつもマカロニで、子どもが「いつもマカロニばかりじゃ嫌だ、僕はピザを食いたいんだ!」と駄々をこねている、そういう場面がありました。そのマカロニの量の少なさも然ることながら、マカロニと言いピザと言い、ジャンクフードしか食べれないというのが、何とも哀れでした。米国で問題になっている肥満にしても、ジャンクフードばかり食べているからああなるのであって、従ってあれはイコール貧困問題でもある訳で。


◆社会的に許容され得ない「貧困」の定義をこそ(Re:人間が生きていけるか死ぬかの損益分岐点) 投稿者:まこと◆

社会主義者さん、こんにちは。

ブログで紹介した資料が配布されたのは3月24日に名古屋で開催された青法協主催の集会なのですが、この集会で強調されていたのは「社会的に許容され得ない『貧困』ラインを民衆の目線に立って設定する必要性」でした。

学術的には様々な「貧困」の定義があるようなので、一概に定義するのは難しいのですが、飢餓ラインギリギリの状態を「貧困」と位置づけることがこの21世紀の日本社会に相応しいのか?そうでは無いはずですし、そんな基準が憲法25条の規定する「健康で文化的な最低限度の生活」に相応しい状態であるはずが無いと思います。

人間は食うのみに生きるにあらず−どんなに貧しい人だってたまには飲みに行きたいし、映画でも見て気晴らしをしたい。それは別に「ぜいたく、甘え」では無く、より質の高い仕事をするためにも必要なことなんだと思います。また、社会主義者さんが指摘されるように、「万一」の際の積み立ても必要ですよね。

京都総評の試算は、こうした側面を加味して算出されています。

庶民の日常生活の感覚に根ざした許容され得ない「貧困」ラインの定義が不分明だから、昨今の議論のように「最低賃金が生活保護水準より低いなら、生活保護を減らせば良い」「国民年金よりも生活保護の方が給付額が多いのはおかしい」なる議論が蔓延するのだと思いますし、生活保護の老齢加算・母子加算等の廃止に一般庶民からの反対の声がそれほど上がらない一因にもかような理由があるのだと思います。

これまでの日本の生活保護の給付水準は京都総評の試算にあるような要素をそれなりに取り入れつつ拡充してきた経緯があるので、現状の生活保護ラインよりも低い収入というのは本来「人間らしい生活が難しい収入ライン」ということなのだと思います。

社会が許容することが出来ない「貧困」とは何かという点について、民衆の側がしっかりと理論武装した上で声を上げていくべきなのだと私は感じています。

●関連リンク

「”だまってられへん”80歳の生存裁判 全国初・京都の患者が生活保護・老齢加算廃止に異議」(民医連新聞05.10.17)
http://min-iren.gr.jp/syuppan/shinbun/2005/1366/1366-01.html

私が参加した先述の集会では↑の記事で取り上げられている松島松太郎さんの講演もありました。


◆京都総評の最低生活費の試算 投稿者:まこと◆

ちなみに、京都総評はマーケット・バスケット方式を用いて

・1Kの賃貸アパートに住む20代男性・・・1ヶ月の最低生活費 197,779円(税込)
 (住居費 41,250円 食費 41,013円 被服・履物 7,090円 貯蓄・予備費 15,000円など)

・3DKの賃貸マンションに住む夫婦・未婚子2名の家庭・・・1ヶ月の最低生活費 402,256円(税込)
 (住居費 62,500円 食費 110,020円 被服・履物 27,935円 教育 31,605円 貯蓄・予備費 36,000円など)

・1Kの賃貸アパートに住む75歳の男性年金生活者・・・1ヶ月の最低生活費 185,061円(税込)
 (住居費 41,250円 食費 29,405円 被服・履物 5,3743円 貯蓄・予備費 15,000円など)

という試算を出しています。

そして、社会主義者さんが指摘されるように、この試算から弾き出される最低生活費は「生活保護の給付ライン」にかなり近い額なんですね。財界の一部から「最低賃金が生活保護よりも少ないなら、生活保護の方を引き下げれば良い」なる"議論"がありますが、これは「人間らしく生きるために必要な所得」という視座を全く欠いた「暴論」と言うべきでしょうね。


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コメント一欄

1. Posted by おるおる君   2007年05月24日 11:38
人件費が上がれば、価格が上がる。価格が上がれば、中国製品に負ける。負けないようにするには?日本を出て、中国に進出するか、人件費の安い外国人労働者を雇うかです。日本のプロレタリアート諸君!どうします?
2. Posted by 薩摩   2007年05月24日 20:52
日本のプロレタリアート諸君の一人、薩摩長州です。

中国製品に負ければいいじゃないっすか。かーんたんなことです。

それ以上に、「国際競争に負ける」という恫喝に屈してずるずると労働者の権利を放棄してゆくことのほうがはるかに重大な結果を生み出すでしょうし、すでに生み出しています。

デモでもストでもすればいいとおもいますよ〜。


3. Posted by 生活保護   2007年05月25日 00:09
生活保護の受給額はそんなに多くありません。
家賃5万円程度の物件に住み、13万5千円ほどの総受給額で私は生活しています(都下単身加算等なし)。
4. Posted by まこと   2007年05月25日 05:58
仮に競争に勝てば生活が良くなるのなら、おるおる君の言うことにも一理あるのかもしれないけど、所謂「景気回復」の中でもその「恩恵」が家計部門にはなかなか及んでいないという実態は政府機関の分析でも認めざるを得ない状況でしょう。

おるおる君の議論は「高度経済成長」の延長線上に過ぎないような気がします。
5. Posted by まこと   2007年05月25日 06:05
ただ、おるおる君の主張に「理」を見出すとすれば、経済グローバリゼーションのただ中にある21世紀においては、もはや一国内の枠内だけで経済問題や労働問題、社会保障制度のあり方などを議論していてもダメだということですね。

おるおる君は「人件費が上がれば企業は海外に逃げる」と言う。ここ数年の日本における派遣労働の規制緩和による労働者の賃金抑制・非正規雇用拡大政策などは、そうした経済グローバリゼーション状況に対応した規制「改革」なんですね。

そういう意味では、「万国のプロレタリア団結せよ」の精神が求められている時代なのだと思いますね、21世紀こそ。
6. Posted by まこと   2007年05月25日 07:05
「生活保護」さん、はじめまして。

私の記事は飽くまで「生活保護法制が要請している基準」ですね。実際の行政現場では、この基準が正しく運用されておらず、何のかんのと言って給付額を下げようとする。困ったものですね。
7. Posted by おるおる君   2007年05月25日 17:49
私の考えは、経済成長の延長とは全く逆です。人件費のアップが価格転嫁できないと言っているのです。できないからデフレですよね!生活保護費にしても増やしたくても増やせないのが現実では?増やせば、日本自体が、夕張市みたいになってIMFの管理下におかれて円は、暴落して日本経済は、潰れるかもね?日本のプロレタリアート諸君!どうしましょう?
8. Posted by 薩摩長州   2007年05月25日 20:11
ふたたび日本のプロレタリアートの一人薩摩長州です。

「日本経済は、潰れる」なら潰れればいいじゃないっすか。失業と貧困が国内を席巻し、飢えた国民が巨万の怒りの群衆となり国会を包囲すれば。日本革命の一丁あがりです。 こんにちのグローバリゼーションの進展のなかにあっては、革命の波及は燎原の炎のように全世界に広がってゆくことでしょう。

てなことにならないように、日本のブルジョアジー諸君はどうするつもりなのでしょう?
9. Posted by おるおる君   2007年05月26日 00:12
どうしましょう?賢明なる日本の国民は、自民党を支持するだけです!そうならないために…。今の政策でいいのです!けど賢明な日本人は国会よりも東京ドームや甲子園やディズニーランドに行くことでしょうね!!
10. Posted by まこと   2007年05月26日 08:59
>生活保護費にしても増やしたくても増やせないのが現実では?(おるおる君)

というか、「増やさないための政策」を意図的にやっているのでしょう。

社会保障分野から国家は徐々に撤退し、「自己責任」。ただ、何でもかんでも「『国民』の自己責任」にしてしまうと国家の求心力が衰えてしまうので、教育基本法やら憲法を改定して、「国民」の「愛国心」(という名の政権層のイデオロギー)を植えつけようとする。経済面における「自由化」と政権によるナショナリズム強化はリンケージしているのですね。

もしよかったら、このブログでも少し紹介している経済評論家の内橋克人さんの「悪夢のサイクル」(文藝春秋)を読んでみてください。
11. Posted by まこと   2007年05月26日 09:08
掲示板の方で、「社会主義者」さんがよい問い掛けをしていますね。

"「日本のプロレタリアート諸君!どうします?」という以前にまず、自分はそれで食っていけるのでしょうか?そして、それで自分は満足なのでしょうか?"

http://9125.teacup.com/zatsu_blog/bbs?M=ORM&CID=7&BD=8&CH=5

おるおる君は、今の社会状況の中で「勝ち組」にいるのでしょうか?

天下国家論の前に、自分の足元の日常生活から「政治」を捉える視座も必要なのではないでしょうか、特におるおる君のような人は。
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