2009年08月02日
第４7回全国進路指導研究大会 基調提起２
「人間の生存権」そのものが問われる日本経済の現実
昨年のサブプライム・ローン問題に端を発した米国発の金融危機は世界をまたたくまに同時不況に落とし
入 れました。国際労働機関（ＩＬＯ）が3月5日に発表した報告書によると、08年末の失業者は1億9270万人に上り、前年比1380万人増で、過去最大の 増加幅だったことがわかりました。また、09年の世界の失業者数が最悪の場合2億3000万人となり、初めて2億人の大台を突破する可能性があることも1 月28日の年次報告で発表されています。国連食糧農業機関（ＦＡＯ）が6月19日に発表した世界全体の飢餓人口予測によれば、今年、過去最高の10億 2000万人に達するとされ、「最近の飢餓人口増加は、食料生産の減少ではなく世界経済危機が原因だ」と分析されています。地域別の飢餓人口はアジア・太 平洋が6億4200万人、サハラ砂漠以南のアフリカが2億6500万人、南米・カリブ海が5300万人、中東・北アフリカが4200万人、先進国でも 1500万人が飢餓に見舞われると予測しています。
当 初、欧米よりも影響が少ないと見られていた日本経済はその異常な対米従属の「外需依存」体質が露呈し大打撃を受けることになりました。国際通貨基金 （ＩＭＦ）の報告書（09．3.19公表）は、09年の世界の経済成長率をマイナス1.0〜マイナス0.5%と予測しましたが、米国でマイナス2.6%、 ユーロ圏がマイナス3.2%で、日本はマイナス5.8%としていました。
それでは、日本の実体経済、そして一般国民の生活実態はどうなっているでしょうか。
「娘は26歳。大学卒業後、すぐに老人介護施設に正規の職員として勤めました。社会に役立つ仕事で、やりがいがあると希望に燃えて就職しましたが、現実はとても厳しいようです。
仕事は、お年寄りのおむつの取り換え、入浴介護、食事の世話などいろいろあり、勤務も不規則でまさに３Ｋ職場です。娘は仕事上の不平など漏らしたことはありません。涙を浮かべて話してくれたのは、同じ職場の仲間がどんどん辞めていく現状についてです。
原因の第一は仕事がきついからではありません。生活ができないからです。特に男性の場合は、このまま仕事を続けても、現在の給料では結婚して家族を養っていけそうにないからだと言います。娘はやめていく人に、『もう少し一緒にがんばろうとは言えない』と話します。
2兆円の定額給付金などの経済対策を盛った第2次補正予算が衆院本会議で強行可決されました。2兆円が福祉充実のための財源として使われていたら、全国の お年寄りや介護に携わる人たちがどれだけ助かっただろうかと思うと、国会中継に涙を浮かべた娘の顔が重なって見えました。」
小学校教員 串間政範（神奈川県茅ヶ崎市 58）朝日新聞 『声』 09年1月16日
7月24日に公表された09年度の経済財政白書においても、日本経済は「過去に例のない急速な景気の悪化へと転じた」と分析、企業が国内に抱える余剰人員 （企業内失業者）は過去最大の607万人となった可能性があると指摘しています。正社員より賃金が低く、失業リスクも高い非正規社員は約1700万人と、 雇用者全体（約5100万人）の3分の一を占め、所得格差の拡大の主因となっていることも明記されました。しかし、「景気回復こそが最大の格差対策」だと して、非正規雇用の拡大への責任には言及していません。
厚生労働省「国民生活基礎調査」（5月21日発表）によると、国内の１世帯あたりの平均所得は、07年は
前年より10万6000円減の556万2000円だった。これまでもっとも高かった94年（664万2000円）と比べ
ると108万の減収となり、所得の分布状況では、平均所得より低い世帯は6割にのぼり、200万円未満の世
帯は18.5%に達したといいます。同じく厚生労働省の福祉行政報告例（6月5日）によると、3月の生活保護
世帯数が過去最多の119万2745世帯となり、01年度から一貫して更新しつづけていることもわかりました。
東京商工リサーチによると、全国の09年上半期の企業倒産件数（負債1千万円以上）が前年同期比8.28%
増となり、上半期としては6年ぶりに8千件を超える最悪の結果となり、負債総額も同47.35%増の4兆6853億円で、５年ぶりに4兆円を超えた、と発表（7月8日）されました。
経済産業省所管の独立行政法人「経済産業研究所」の「08年度 派遣労働者の生活と求職行動に関するアンケート調査」では、平均月収は日雇い派遣で12万1000円、製造業派遣で19万1000円、パートなど期間の定めのない直接雇用で11万4000円、契約社員では18万4000円の低水準であることが発表されました。ボーナスを含めた総収入で見ると、日雇い派遣労働者の中で100万円未満が43％、100万〜200万円未満が27.9％で、7割以上が年収200万円未満でした。報告では、「不十分な報酬、不安定な雇用、低い幸福感という厳しい生活状況は、現在の就労、あるいは生活保護や失業給付の受給後の出口としての就労を魅力のないものにするだけでなく、人間の生存権やそれを支援する社会福祉にかかわる課題」だと鋭く指摘しています。
ワーク・ライフ・バランスが叫ばれている昨今ですが、目先の利益増やコスト減に終始している経営側とそれを後押しする政治が破壊しているのは、まさに「人 間の生存権」そのものです。低賃金で生活不安にあえぐ非正社員と長時間過密労働を強いられる正社員。働く人の3人に１人、女性の過半数が非正社員という日 本の現状においては、非正社員も含めた働き手全体の底上げを政策主導で早急にとりくむことが必要だといわれる所以です。
一 方で、厚生労働省のまとめ（6月8日）では、過労などの仕事上のストレスが原因でうつ病などの精神障害になり、08年度に労災が認められた人は269人で 過去最悪を更新したこともわかりました。加速する企業の人員削減を受け、残った側が慢性的な長時間過密労働が深刻化していることの一端が明白になりまし た。
労働政策研究・研修機構が発表（7月６日）した「副業者の就労に関する調査」によると、複数の仕事をしている人は30代・40代の既婚者に多く、本業だけ の人よりも収入が低い、という結果が出ました。調査によれば、本業を含めて2つ以上の仕事をしている人の年齢は、30代が38.3％、40代が32.8％ で、副業を持つ人のうち、既婚者は53.3％を占め、そのうち配偶者が仕事をしている人の割合は83.2％の高率でした。副業の理由は、「収入を増やした い」が31.3％、「一つの仕事だけでは生活が営めない」が15.1％でした。副業者の月収は、額面で10万円以上20万円未満が25. 4％、20万円以上30万円未満が21.2％。副業していない人では、20万円以上30万円未満が25.8％で最も多く、副業を持っている人のほうが総じ て収入が低くなっています。
ま た、給与の高い日本人社員を解雇して代わって急増している外国人研修・技能実習生（約20万人）への労働環境が急激に悪化し、残業200時間を越えること はもちろん、08年度に死亡した数は計34人で、前年度よりも13人が増え過去最多となったことが外国人研修生問題弁護士連絡会の調査（6月22日）でわ かりました。死因の最多は、脳・心臓疾患で多くは過労死だといいます。
警察庁は5月14日、08年中に自殺した3万2249人の年代別や原因・動機別などの統計を公表し、30代が統計を取り始めた78年以降最多の4850人前 年比2%増となり、10代は611人前年比12％増、20代は3438人前年比4％と若い世代の比率が増えたことがわかりました。動機・原因別では、「就 職失敗」253人前年比40.6%増、「失業」は648人前年比20.4%増、特に健康問題の「うつ病」が6490人前年比7％増でやはり30代が 1204人前年比21％増。また、7月27日の発表では、今年上半期（１〜6月）の自殺者数は1万7076人と最悪のペースで進行し、前年同期比で 4.7%増、通年で3万4000人を超えると予測されていました。
こうした状況に対して、経営側の経済同友会は、「経済危機下における雇用と生活の安心確保」の提言（4月21日）の中で、「派遣労働者数は146万人、全 就業者数の2％、非正規雇用の中でも8％であり、＜派遣労働＞だけに焦点を当てていては問題の本質を見誤る」と矮小化して問題をとらえようとしています。 企業の側は過去最高の内部留保（大企業だけで135兆円ともいわれる）を溜め込む一方で、人間を雇用の調整弁としてモノのように使い捨てていくという企業 のあり方そのものが問われているのです。たとえ1％でも2％でも劣悪な労働環境を放置することは、そこから社会全体の労働環境レベルが低下し、雇用が破壊 され、すべては「自己責任」の名による孤立した競争を一層強いられていくことに私たちは気づかなければなりません。そういう点では、「派遣村」に象徴され る貧困の可視化がすすむ経過の中で切り離された人びとが世代や立場を越えてつながり、つながる中で人間としての誇りや生きる希望を取り戻しつつある事実に 解決への可能性を見出したいと思います。
第４7回全国進路指導研究大会 基調提起１
1 子ども・青年の進路をめぐる今日の状況と私たちの課題
世界の中から日本の現状を読みとる （文責 中村岳夫）
「核兵器の拡散は阻止できず、検証することができないー我 々は、ますます多くの国と人びとが究極的な破壊手段を持つ世界に生きるよう運命づけられているという主張がある。そういった宿命論はまったくの敵である。 我々が核兵器の拡散が必然だと信じるとしたら、ある意味で我々は核兵器の使用が必然であることを自分自身に対し認めることになるからだ。
核保有国としてー核 兵器を使用したことのある唯一の核兵器保有国として、米国は行動する道義的責任がある。我々はこの試みに単独で成功することができないが、それを導き、始 めることができる。それゆえ、今日、私は核のない平和で安全な世界を米国が追求していくことを明確に宣言する。この目標はすぐに到達できるものではない。−おそらく私が生きているうちは無理だろう。辛抱強さと粘り強さが求められる。しかし今、我々は、世界は変えられないという人たちの声にも耳を貸してはならない。我々は強く主張しなければならない。Yes, we can!」 （０９年４月５日 米国オバマ大統領プラハ演説）
演説のその日、北朝鮮は弾道ミサイル発射実験を強行し、その50日後、2度目の核実験に踏み切るなど、いわゆる「瀬戸際外交」によって揺さぶりをかけてきました。
も ともとブッシュ政権時代に膨張した財政危機、昨年秋以降の未曾有の金融危機・大不況の中、国防費の抑制・より効率のいい予算配分が必要不可欠となっている 米政権の現実的要求が背景にあるものの、現実に進行する核拡散、核テロの危険を直視し自国が核軍縮に率先して取り組む姿勢を見せたことは、戦後一貫して核 廃絶を求めてきた日本国民・国際世論にとって大きな感動で迎えられました。もちろん、原爆の投下責任自体を認めたわけではなく、今後に楽観は許されないも のの、今こそ日本は「核の傘」を脱却し朝鮮半島を含む北東アジアを非核化し、核廃絶にむけての具体的な行動をおこす好機ととらえるべきでしょう。
7 月6日の米ロ首脳会談では「核のない世界」の第一歩として、核弾頭数に加え、弾道ミサイルなど核運搬手段数の削減目標まで文書化され、米ロが「核ゼロ」へ の決意を表明した事実は、北朝鮮やイランなどの核開発国への強いメッセージとなり、北東アジアの非核化に大きく影響するものです。直後におこなわれたＧ８ サミット（主要国首脳会議）で「核兵器のない世界に向けた状況をつくることを約束する」とする声明が発表されたことも大いに意義あることでした。
ところが、日本ではこうした情勢を前向きにとらえることなく、政権与党内はもちろん民主党内からも敵基地攻撃論や非核三原則の見直し論が急浮上していることは大いに落胆するものです。
※「確実なのは先にたたくということ。例えば、オーストラリアが導入を計画している巡航ミサイルのトマホークのようなものを持つのも、一つの選択肢とし て考える。（中略）北朝鮮が核・ミサイル開発を続ければ、敵基地攻撃が感情論ではなく、日本として必然的な結論にならざるをえないかもしれない。」 （浅尾慶一郎 「民主党次の内閣防衛相」）朝日新聞 09年5月27日
ま た、7月17日に公表された09年度版『防衛白書』では、北朝鮮や中国の軍事脅威を煽って軍事力を強化しようとする文脈で海外派兵を常態化・恒久化する 「一般法」を整備することの必要性を強調するなど、相変わらずの「日米軍事同盟」を絶対視する論理に終始しています。こうした日本政府のスタンスは、今後 の役割が増す次期ＩＡＥＡ（国際原子力機関）事務局長に日本人（天野氏）が始めて選出された時の報道にも象徴されていました。
※「理事会議長が当選を宣言しても、拍手はなかった。ある外交筋は、ロイター通信に『みんな憂鬱そうな表情だった』と語った。（中略）＜援助を取引材料 にした＞＜米国に働きかけてもらった＞外交関係者の間では口さがない憶測が飛び交っている。」 朝日新聞 09年7月4日
一方、日本は米軍グアム基地建設のために09年度分として3億3600万ドル（約346億円）を米国に無償提供することを決めました。今後14年までに毎 年巨額の資金を無償提供することになります。世界の主権国家で外国の基地建設費を負担している国は他に例がありません。それでなくとも「思いやり予算」で これまで５兆円ともいわれる破格な軍事費を投じてきているだけに、米国追随の日本の軍事・外交は、多極化する世界の国際情勢の中でますます時代遅れな主体 性のない存在になってきています。
米国はもちろん他の先進国にしてもかつての影響力は確実に低下してきていることはすでに国際的な常識です。これは決して、核軍縮の問題に限られたことでは なく、気候変動・環境、世界経済・貿易、人口問題など世界の多くの課題は、もはやＧ８（主要国首脳会議）だけでは対処できず、多数の新興国などを巻き込ま なければ国際関係が前進しなくなってきている事実が証明しています。
※Ｇ８⇒米・英・ロ・独・仏・伊・加・日＋ＥＵ
Ｇ８＋新興5カ国⇒Ｇ８＋中国・インド・ブラジル・メキシコ・南アメリカ
ＭＥＦ（主要経済国フォーラム）⇒Ｇ８＋新興5カ国＋韓国・オーストラリア・インドネシア＋ＥＵ
Ｇ２０⇒ＭＥＦ＋アルゼンチン・トルコ・サウジアラビア＋ＥＵ
こうした情勢を踏まえ、これまで躊躇していた米国が「武力による威嚇または行使の放棄」や「紛争の平和的手段の解決」を約すことを明記した東南アジア友好協力条約（ＴＡＣ）に調印した事実（7月22日）は象徴的なことでした。
※ＴＡＣは、すでに中国・ロシア・日本・ＥＵなども加入しており、加入国の合計人口は約40億人（世界人口の約60%）に達している。
米国が目指す外交スタイルとして、軍事力などの「ハードパワー」と、価値観や文化などの「ソフトパワー」を組み合わせた「スマート（賢い）パワー」を強調し、ブッシュ流の単独主義からの脱却を目指すものの、米軍再編やアフガン支援などで自衛隊も活用した「適切な任務」を日本に迫っている側面を忘れてはなりません。だからこそ、多極化する国際情勢の中で日本自身の主体性ある非軍事の外交力がこれまで以上に問われています。
2009年06月25日
夏の大会への期待
「お前はお荷物なのだよ」というメッセージを受け取り続けながら、生き生きと生きるというのは難しいのではないだろうか。
昨日6月17日、湯浅誠さんから届いたメール
【【「子育てを応援するってウソ？〜母子家庭の子どもの貧困率は66％、それに合わせて下げるってどういうこと？〜」
2002年以来、一貫して抑制されてきた社会保障費。数々の犠牲の中の一つに、生活保護の母子加算がありました。理由は「生活保護を受けていない母子はもっと貧しいから」。2009年4月に全廃されたことで浮いたお金は200億円。政府は代替措置として「ひとり親世帯就労促進費（給付実績：平成19年度6億円）」「子どもの学習支援のための給付の創設（平成21年度予算約42億円）」などがあるからいいのだと言いますが、必要なことは「低いほうに合わせる」という根本方針を改めることでは？ 私たちは問いかけます。】】
去年訪問したフィンランドでは逆の発想だった。きちんと税金を納めてもらえるようになってもらうために、今投資する。何度でも、やり直しのチャンスを公的に用意する。あなたを大切に思うから応援するよ！というメッセージが送られ続けているように感じた。
平塚さんたちと一緒に訪問したのは、若者支援を行っている様々な場だった。ユースセンターやユースハウス・ワークショップの現場・中学校にも行った。それらの場を政策として支援・運営している行政担当者にもあった。フィンランドでは若者が社会から排除されないように、軽犯罪や虐待・生活習慣(行動)上の問題を抱えた若者が社会から排除されないように早期支援を児童福祉事務所や警察などと連携をしながら行っている。“働く”を学ぶ機会がある。若者を社会の構成員として扱うきめ細やかさがあった。
社会保障制度を充実させることがみんなのお荷物になるのではなく、みんなにとってもよいことなのだという共通理解がそこにはあると私は思う。
教室でのあの子この子・・・あなたは大切な人だよ！と思っていても、十分なケアができないことが多い。その子の背負う家庭の問題など見えないことも多い。背景が見えないままに行動だけを注意すると、君はお荷物だよ！というメッセージとなって相手の心に深い傷をつける。
日本の小学校や中学校の教員は、今まで良くも悪くもソーシャルワーカーとしても仕事をしてきたのだと思う。でも、家庭訪問もしなくなったし、3年から6年でどんどん異動しなければならないシステムになったことで、地域のこともわからなくなっていて、子どもが背負う背景を理解しないまま、子どもに対応せざるを得ないことが増えてしまった。でも背景がわかったところで、行政側の姿勢が「お前たちはお荷物なのだ」という姿勢を強固にしつつある状態では、一教員にできることはほとんどないに等しい。
フィンランドのように、社会に対する信頼を若者たちが持てる社会にするにはどうしたらいいのか、考えるヒントを、夏の大会の3日目に期待したいと思う。
(文責・おぎちゃん)
