スキージャンプ・混合団体
高梨沙羅を含む、4か国5人の女子選手がジャンプスーツの規定違反で失格となり、金メダルのスロベニアはともかくとして、銀がロシア(ROC)、銅がカナダという、スキージャンプファンなら「なんじゃそら!?」てな結果になってしまったワケです。一体全体、なんで、こんなことに、なってしまったのか。

そもそもの前提として、ジャンプ競技でスーツ規定違反は結構な頻度で起こるのですね。男子ノーマルヒルで金メダルの小林陵侑も今年のワールドカップで一度やられて失格の憂き目をみてますし。こんなに沢山いっぺんに、はさすがに珍しいですけど、まあジャンプ選手には誰でも起こり得る、つきものと言っていいとすら思う。

スーツ規定違反ってなに?って方のために解説しますと、そもそもスキージャンプという競技は『追い風よりも向かい風の方が有利』という、とんでもない(?)特性があるのですね。走ったり飛んだりする陸上競技だと誰がどう考えても追い風が有利。あまりに追い風強いと好記録が出ても『追い風参考記録』になっちゃうワケで。ところがスキージャンプだと、追い風は最悪のコンディションで、向かい風だと好記録が連発することになります。そこに『浮力』というヤツが関わるからなんですが、まあ難しい理屈はともかく、向かい風の方がより大きな浮力を得られるため、結果的には遠くへ飛べるワケです。で、そこにスーツ問題が出てくるワケなのだけど……

スーツを意図的にだぶだぶにしちゃうと、空気抵抗が増えて遠くへ飛べる、なんてことが実際に起こってしまうのです。空気抵抗が大きい方が飛べる、てのもまあヘンな気もしますけど、極端なハナシ、ムササビみたいな羽を両手と胴体の間につければ(ジャンプの際の操作はめちゃくちゃ難しいかもですが)計測不能な地点まで飛んで行っちゃう、かもしれない。でまあ、それは極端にしても、股の間だとか脇だとかいろんなところのスーツをだぶだぶにすることで、同じように風を沢山受けられて、結果、浮力を得られてしまう。それだと公平性を保つのが難しいということで、ワールドカップでもなんでもジャンプの大会には必ず厳格な『ジャンプスーツ規定』というヤツが存在するのですね。それこそ太ももは緩みが何センチまで、腕は、脇はとすごく細かく規定されているらしいです。

ならば沙羅ちゃんは規定違反になるのをわかっていてズルをしていたのかと言うと、これワタシ自信を持って、ノーと言えます。同じく失格になったドイツのアルトハウスは、その二日前の個人戦で銀メダルを獲得した時と同じスーツを着ていたそうです。つまりは同じスーツでもOKだったり失格だったりするワケで、これは検査をする人の厳密さ次第、てなことになってしまうのだと思うのですね。どんな競技でも、検査にはいわゆる『グレーゾーン』というやつが存在します。だいたい、これくらいなら検査官も認めてくれるであろうといったゾーンですね。生真面目に厳密に規定を守ったら失格になることはないけれど、競技的には不利になるワケですから、当然選手も監督も失格にならないギリギリを狙います。今回、混合団体では、ものすごく厳密な検査官に沙羅ちゃんがまずは犠牲者になって、同じくらいの違反度なので後の4人も失格にせざるを得ず……てなところがあの大量失格を生んだ真相じゃないかと想像します。いくら規定といえどこんなに大量にいっぺんにとなるとファンもどっちらけですから、ホントに何かやりようがあったんじゃないかと……これはもう選手の責任というよりは、大会規定を含めた運営サイドの大いなる失態ではないか、とすら思うのです。

繰り返しになりますが、沙羅ちゃんには全く罪はないです。犬に噛まれたみたいなもので、昨日の羽生くんのトラブルを超えるトラブルに運悪く見舞われてしまっただけ。結果的に日本チームのメダルがなくなったことで、沙羅ちゃんご自身がいたく心を痛めているようですが、これも断言しますけど、今の日本の混合チームに沙羅ちゃんがいなかった場合はメダルの可能性なんてないに等しいです。そのことは誰よりもチームメイトの伊藤有希や佐藤幸椰、小林陵侑が感じていたハズで……

どうぞ胸を張って帰ってきてください。