2006年12月
2006年12月26日
年末の苦吟
カレンダーがめくれて12月25日が過ぎました。昨日はクリスマス当日のほかに、年賀状受付の最終日でございました。どなたも元旦配達をめざす年賀状作成には頭を悩ますものですが、最近は住所録と図案さえ用意すれば、パソコンくんが一手にひきうけてくれるようになりました。
しかし…パソコン本体ばかりにかまけていると、意外な伏兵が現れることがございます。そのひとつがインク切れでございますけれども、
△色インクが少なくなりました
↓
△色インクが切れました
のインク消費状況を表示してくれるのはありがたいのですが、｢少なくなりました｣の表示をしておきながら、インクの混色がうまくいかなかったり、かすれたりするのは腹の立つことでございますね。
インクが少なくなっても、まだ残っているには違いない。それを、極細パイプを通して微量の一滴ずつを混色するのだから、ちゃんと印刷してくれなくては困る。インクが古くなって、混色反応が鈍くなったというなら、こんどはプリンタを通り越して、インクの品質にまで原因を求めることになり、埒があかない。
ヘッドブラッシングもクリーニングもやった、インクタンクの目盛りが｢大丈夫です｣と保証してくれても、グラデーション部分の印刷にかかると四角っぽい斑（ブチ）模様になってしまうのだった…。
こりゃー、ヘッドの交換時期かな、と思いつつそのまま印刷続行…間に合わないもん。
終わった後で仕上がりの悪いものだけを選別して、更にこんな一句を8ポイント文字にて上書きした次第でございます。
年の瀬の
プリンタ不調
なくもがな
俳句や短歌を嗜む人にボケが少ないと、まことしやかに伝えられておりますけれども、落語を聞いて笑える人は賢いのと同様に、俳句を詠む側はともかく、読む側でピンとくる者があれば上々でございます。
上の句にある｢なくもがな｣をひらがなで書いたのは、｢無く｣と｢泣く｣をかけあわせたつもりです。つまり、
無くてほしいものだ
泣きたいなぁ
の二つの意味が共存しているのでございます。
あたしの差し出す年賀状は、お若いさん宛が多いものですから、はたして何人の方に裏の心をくみ取ってもらえるか、それはそれは心配の種をまたひとつ抱え込んで送り出すようなものでございます。
還暦を迎えてから短歌や俳句をやっても遅うござんす。若いうちから歌道の心に触れておくと、後年になって、明晰な頭で大いに人生を楽しむ道を拓いてくれます。
若年高齢と呼ばれる年齢に達して、｢俺は人生を楽しんでいる｣つもりでいても、ハタから観ればトン･チン･カンの鐘の音が聞こえてきそうな御仁もいらっしゃいます。
歌道といえばお公家衆の間でもてはやされ、公卿のたしなみともされた道で、彼らの間にボケが少なかったのは、五･七･五･七･七の｢みそひと文字｣に自己の心情や無常観をのせることに巧みだったことが、結果として頭脳全体を揺さぶったのだと言えますまいか。
祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
ではみなさん、良い新年をお迎えなすってくださいまし。
zo_roku at 11:48｜この記事のURL│Comments(0)
2006年12月24日
葉隠れ
これも某サイトに掲載した記事に加筆･訂正を加えて引越ししたものでございます。
――――――――――――――――――
2006年1月9日。
成人の日。
遅い昼飯を終えたあたしは、甘い和歌山産ミカンを一つポケットに突っ込み、近くの雑木林沿いの歩道清掃にでかけました。歩道沿いは金網フェンスがずっと続いていて、これが西武鉄道と武蔵台の境界になっております。雑木林はゆるい斜面で、15�辰曚媛爾鮴症霖疉秬�が走っています。
毎年12月になると、ブナの枯葉がブワー、と飛び散り、付近の民家はおろか、道路の側溝に沿ってひどく積もる。それをひっきりなしに行き交う車の作る気流が、複雑に飛び散らすので、沿道の片側民家は大迷惑。落ち葉地帯から800�綻紊辰親修聾淬�目で、ここに四叉路があり、武蔵台第一番に設置された信号機があります。ここで待たされてイラついたドライバーたちが、きちがいのように下り坂をすっ飛ばして来るのであります。
狭か日本
そぎゃん急いで
どこさいく
という広告が路面電車の横腹に書かれているのは九州の話。この道路にも似たような広告を掲示して欲しいものだ。
落ち葉シーズン最初のうちはこまめに掃いても、毎日のことになるといつしかサジを投げます。それに、落ち葉地帯の住民が高齢化してきています。
あっちが痛い。
こっちが痛い。
さむーい。
動きたくなーい。
というのが落ち葉掃き敬遠の理由なんでしょうが、彼らの姿を観察するに、モッコリした小務衣(さむえ)みたいな衣服の上にちゃんちゃんこなどの厚着をして、足は草履といういでたちで無理に年寄り臭く見せてございます。格別良いとは思えない頭を毛糸のシャッポで保護し、炬燵で丸くなって、ぼや〜とTVに見入っているのが似つかわしいようなお方ばかりで、自宅の前が落ち葉だらけになろうとも、
掃いてもまた積もる。
と妙な達観をされて、落ち葉掃きは奥方に押しつけている様子でございます。こういうお方こそ動かなくちゃいけないのに、そのうちパタン、と逝くぞっ！
武蔵台は、高麗駅に近い一丁目から峠の六丁目（実際は七丁目まである）に向かって、住人の高齢化が進んでいます。理由は、東急ホームの戸建て住宅開発･販売が、駅前から峠に向かい、数次にわたって行なわれたからです。30年経過した今では、お葬式は高麗駅に近い一丁目に多く、最も遠い峠の六丁目に移るに従って少なくなります。
あたしは一丁目の住人なので、｢お迎え｣は近いと悟っています。お迎えが来るまでに社会貢献しておかなくちゃバチが中るというものです。
枯葉飛散の根を絶ち、街並みの環境保全と自分の運動を兼ねて、あたしはこの落ち葉を掃き取り、ここなら飛散しないだろうという場所に集めて腐葉土となし、ついでにカブトムシの繁殖に挑戦している…という立派なご奉仕をしています。
ステキなトレーニングウェアを着込んでウォーキングしたって、毎日犬の散歩につきあったって、それがナンボの運動になるのですかね？
肩が痛くなったときはどうするの？
背中が痛くなったらどうするの？
腰が痛くなったらどうすべぇ？
あたしの中学校クラスメートは、10�船泪薀愁鵑鯤振�55分程度で完走し、またけっこう高いお山を年間5箇所ほど征服していますけれども、昨年ついに猛烈な五十肩に襲われたといいます。この症状は、電車のつり革に手が伸びないほどの激痛です。また、会社の同期だった友人は、10�船泪薀愁鵑覆�50分で走り抜けますが、完走後の深酒が祟り、とうとう痛風を患う破目になりました。このお方もまた登山にめがありません。
さらに大学同期の友人は、10�舛�1時間超のノロさで、男の宿命病を患った経験があります。いや、これはジンク(Zn)不足で前立腺が腫れる現象だから関係ないか。
マラソンやきつい登山はいかにも健康そうに見えるけれども、爆発的なエネルギーを放出する面を考えれば、セメント(ガチンコ)商売の関取衆や空手家，プロレスラー同様に寿命を縮めるとしか思えない。おやりになっている人はただ、ただ、ハイな気分に浸って、それが健康の証だと勘違いされているのでございましょう。
あたしみたいに鉄亜鈴やバーベルを箒と熊手に持ち替え、軽い全身運動を長時間続けたほうがよござんす。これによって血圧が下がることは過去の清掃員時代に実証済みで、箒と熊手を振るっての相手が相手なら、けっこう汗をかきますので、終わった後のミカンとタバコも美味いというものです。タバコを目の仇にする人には、
肺癌になる人はなり、
ならない人はならない。
ときめつけておきましょう。タバコを嗜まない人だって肺癌になります。要するに血液中を浮遊する癌細胞がどこに定住するかの問題ですからね。医者の口を借りれば「転移」というものがあるでございましょう。肺癌対策なら、空気の清澄な場所に住めばいいのです。
さて、フェンス沿いの途中にごみ集積ボックスがあって、その横が地下水を貯めておく防火槽です。この防火槽の奥とフェンスの間は2�辰曚瀕イ譴討い董�風の影響をそれほど受けない構造になっているので、この隙間に枯葉を落とし込んで腐葉土にしようというわけ。
収集日でもないのにゴミ集積ボックスの上に枯葉を詰めた大形のポリ袋がポツンと乗っていることがたまにあります。ダメですよ、一袋分を掃除したくらいでは。こういうのをお茶にごしとか、つまみ食いというのです。
清掃当番が申し訳に集積ボックス周辺をチョロチョロ掃いたのかもしれませんが、そんなに時間を惜しむほど忙しい日常なのですか？
ちょっと掃いたくらいでは、すぐに新しい枯葉で覆われ、数時間後には掃いた痕跡もなくなってしまいます。
余計な暴露かもしれないが、枯葉の中に家庭ゴミを混入させる不埒者もおります。集積ボックスの上に枯葉を入れたポリ袋が一袋とか二袋が載っているときは、あたしはそれらを開いて腐葉土製造処にぶちまけるのですが、大抵は袋の中心にビニル製の植木鉢をはじめとする、不燃ゴミが忍ばせてあります。土まみれのゴミは枯葉と同じ？
枯葉一袋分のゴミ袋っていうのは、ほとんど燃えないゴミのカムフラージュに使われているのだと学習しました。真面目に掃けば少なくとも五〜六袋は出るはずだから、あたしゃー、一袋分の枯葉と見れば必ず中身を疑います。カブトムシが下痢しないようにね。
葉隠れに
こっそり捨てて
騙しても
いつかはバレる
不燃物ゴミ
あたしはポリ袋の中身を枯葉捨て場にぶちまけて、この袋を枯葉運搬用に使うことにしており、自宅からゴミ袋を持ち出すことはしません。一袋10円ですからね。
えっさ、ほいさ…。
…と10袋ぶんを片づけ、体もホカホカ温まってきたころ、彼方からなにやらフラフラ歩いてくる女の人を認めました。この人、電柱にたどり着くごとに電信柱と戯れるのですな…。
掃除に余念のないあたしの背後を踊るように通り抜け、20�辰睥イ譴燭任靴腓Δ�、ちょっと変わった所作ぶりだったので、それとなく目をやると、横断歩道手前の電信柱と戯れたとおもうと、停止線の段差(10��)に気づかず、車道側にスッテンコロリン転倒したんです。起きようと努力しながらもう一度転んでいました。
ひっきりなしに車が通る場所だし、一瞬、目が良く見えないのかと思って駆け寄ると、なんとまあ、成人式の祝い酒を食らってきた娘さんじゃないですか！
あたしは助けおこすと同時に、ハンケチと眼鏡を拾い上げ、
渡るんですか？
と念押ししたうえでむんずと腕をつかみ、向こう側に渡してやりました。どうやら同じ一丁目の娘さんのようです。渡りきったところで大好きとみえる電信柱につかまらせ、
お酒を呑んできたね。
と聞いてみれば呑気そうに"Yes"の素振り。まだ子供だぁー。
はい、ハンケチと眼鏡。
と拾い集めたものを渡そうとしたんですが、そんなものより帰巣本能が強くて、先を急ごうとフラフラしています。ハンケチをむりやりバッグの隙間に突っ込み、眼鏡がないといよいよ危ないだろうとの親心から、腕をつかんだまま眼鏡をかけさせたのですが、良くみれば頬骨とその下二箇所を擦りむいているじゃないですか。
あ〜、これは全治三週間かな？
と見立てながら眼鏡を渡せば、あたしの渡し方が悪かったのか、娘さんは上下逆に佩用して、平気な顔でフラリフラリ歩いて行きました。
眼鏡が逆さまだよぉ〜!!
という注意も耳に入らないようです。
世の中変わったもんですね。
あたしの子供時代には｢酔っ払い｣を多数みてきましたが、子供心にその動作に興味を持ち、酔っ払いの後をどこまでもついて歩き、飽きもせず遠巻きにして観察していたもんです。
今も昔も電信柱に抱きつくとか、足がよれたように歩く態様は相変わらずですが、大いに変わった点は女が昼間から大酒を食らい、よれた足取りで電信柱に抱きつく姿です。
現役のときなどは、西武線の座席に座ったまま長い髪を床に垂らして、ユラユラと左右に振れながら床掃除をしている感心な女の子を目撃しています。この方は仏子駅で下車しましたが、降りる足元がヨレヨレでした。
さて、あたしはやりかけの落ち葉掃きにもどり、10袋分の落ち葉を始末し終えました。枯葉捨て場を足で踏みつけてならしてみると、広範囲にわたって自分の膝までめり込むほどになっています。きょう（2006年1月）で今年三度目の清掃なのですが、それでもまだ落ちてきますから、枯葉の量は想像がつくと思います。なお住民感情の問題を考慮して、民家の前は絶対に掃除しません。
自分の家の前くらい、自分で片付けろってんだよ、グータラめ！
さて、くだんの娘さんの顔は一時的にお岩さんのように腫れるんじゃないかと思いますが、20歳の元気があれば治癒は早いでしょう。この娘さんのために、
めでたさも
中くらいかな
おらがはる
をポン、と思い出した一日でありました。
ちゃんちゃん…。
zo_roku at 11:46｜この記事のURL│Comments(0)
2006年12月22日
カリン
この記事は昨年某サイトに掲載した記事に加筆して、こちらに再掲載するものでございます。TJOB関係の方は既にお読みと思いますが、もういちど読んでみてください。某サイトの閲覧数はてんで伸びを見せないので、オモロイと思える記事に順次加筆訂正を加え、こちらに再掲載して行く予定でございます。――――――――――――――――
今回の件名は女の子の名前｢かれん｣の間違いではない。
あの黄色で良い芳香を放つ｢カリン｣の実で、農協では1個40〜50円で販売しています。これを一つ車の中に置くだけで、芳香剤の代用にもなります。ただ、黄色いモノをトイレに置くのはおよしなさい。
カリンの実にはシアン化合物が含まれているので、生食すると下痢します。ただの下痢ではなく、ひどい場合は命にかかわります。しかしこの成分は、喉の炎症を鎮めるのに劇的な効能も併せ持ちます。
カリンの有害成分は熱およびアルコールで分解することができるので、煮詰めたり、果実酒を造るプロセスで焼酎を用いることは理にかなっているわけです。あたしはこの理屈にしたがって、地元の農家が捨てるカリンの実を使って｢のど飴｣を作ってみました。
飴と言っても昔懐かしい水飴です。
やりようは、熱を加えて解毒するプロセスを採用することとし、細かくカットしたカリンの実を煮詰めた液汁を用います。水飴の正体は｢麦芽糖｣で、その甘さは砂糖の6割しかないことは経験的にご存知と思います。
麦芽から抽出するから麦芽糖なんですが、ここではでん粉を加水分解して麦芽糖に変えるマジックを用います。
使用するでん粉はじゃが芋のでん粉（片栗粉）でかまいません。奥方がやるように、料理で"とろみ"を作る要領で、まずでん粉を水で溶き、これにカリンを煮詰めた液汁（85℃以上の熱湯）を加えながら撹拌していると糊状に固化してきます。これを60℃まで冷まします。
60℃に下がったところで魔法瓶へ移し、ここへ分解酵素アミラーゼ（またはジアスターゼ）を加えます。そして、蓋をして温度を維持しつつ8時間経過させれば、でん粉が麦芽糖に完全分解されます。これを濾して鍋に移し、焦げつかせないように煮詰めて水分を飛ばせばカリン水飴が残ります。
材料で困るのが｢アミラーゼ｣の入手です。これは大根をすりおろした汁で代用できますけれども、なんとなく青臭く仕上がるし、添加量も把握できないので失敗することも覚悟しなくちゃいけません。
そこで、アミラーゼを求めて都会の薬局をたちまわったのですが、ほとんどが売れ筋の家庭生活用薬剤しか置いていなくて、骨折り損に終わりました。そのうちの一軒で脈があり、応対したベン･ケーシースタイルのお兄さんがおっしゃるには、
アムターゼでいいですか？
という、まことに不勉強な、あたしの知識を頼りにするような返事でした。ケッ…！。
でん粉から麦芽糖を作りたい
と明瞭に使用目的を説明したのに、いったいどこの薬学部を卒業したんですか？
薬剤師免許はお持ちでござんしょうね？
アミラーゼによる、でん粉の加水分解によって、麦芽糖を生成することくらいは気の利いた中学生でも知っているだろうに。
他日、自宅近くの処方薬局に相談してみたら、ここでは医師の処方を持参しないと売れないのだという。一般の薬局にあることはあるが、売れなければ置いていないでしょうね、と親切に教えてくれたのは、あたしの爺さんぶりが良かったせいもあるのかな？
情報提供のお礼にと、新宿のベン･ケーシーお兄さんがのたまったことを聞かせてあげたら、隣にいた男性薬剤師といっしょに大笑いしていただけたことは言うまでもありません。
この後日に中学校の恩師（化学専門です）に相談してみると、『劇薬でもないから、日本橋の薬問屋へ行けば身分証明書なしで買えるよ』とのことでした。最初にこちらへ質問すべきでした。
結局、自宅近くの薬局で何をしたいか相談して、アミラーゼの代わりに高峰譲吉の手になる｢タカジア錠｣をすり潰して使うことになりました。
｢タカジア錠｣は単なる消化薬ですが、成分は麦芽から抽出したジアスターゼです。お値段は250錠入りが900円で、一錠あたり3.6円という廉価でございます。このうち10錠をすり潰して20cc程度の水に溶き、コーヒーの漉紙（濾紙）で濾し取ったものを使えばよろしい。濾す前に漉紙をじゅうぶんに濡らしておくことです。
甘いっ！
とお叱りの言葉が出そうですが、結果は上々、確かに甘いものが得られましたから、工業的な生産はともかく、家庭ではこのやり方で間違いないはずです。
zo_roku at 20:44｜この記事のURL│Comments(0)
2006年12月16日
巌流島のウソ？
有名な巌流島(舟島)の決闘は実話で通っている。これを題材とした｢宮本武蔵｣の小説はふたつの流れがあり、一方は吉川英治版で、他方は峰隆一郎版。
作家･峰隆一郎を知らないという人は、読書に偏りがあるのだとしておこう。好き嫌いせずに何でも食べないと虚弱体質になるのと同じように、何でも読まないと精神的なカタブツができあがってしまいます。
定年を過ぎてもなお、企業人の著作物などをありがたがって読む必要はありませんな。企業という真空地帯の武勇伝などはどうでも良く、必要なのは、話ネタになる読書や、生活の足しになる読書だと思ってください。
世の中の宮本武蔵像は吉川版を基準にしているようで、峰版を読みあわせてみると、吉川版はどうも考証面が不足で、現代人には納得が行かない面がある。大衆娯楽小説だから何でもアリというのは許せない。考証力こそ、正しい知識を提供し、ストーリーに説得力を持たせることができるのではないですか？
著者は双方ともに既に鬼籍の人だし、どんなにコキおろしてもお叱りを受けることはないだろう、というつもりで以下を書く。
吉川版は文庫版で全八巻。昭和10年の起筆。峰版は同じ文庫版で、1993年に光文社文庫から全十巻を順次刊行。この合計18巻をフトンの中で二回読んだから、36冊を読んだ勘定になる。
両者のストーリー展開は大筋で似たようなものだが、吉川版では宮本武蔵を剣禅一如、つまり禅僧のように求道的で、ストイックな人物像として描いているが、峰版では武蔵の人間性を前面に出し、野生の躍動のようなダイナミックさで行動する人物像に仕立て上げている。当然、スリル，スピード，セックスの"3S"は揃っております。ついでにサスペンスも加えて"4S"ですかな？
吉川版｢宮本武蔵｣は執筆当時の世相もあり、日本が戦争につき進むなか、剣によって自己完成を目指していく主人公の生きざまを通して、多くの人に人生の指針を与え、太平洋戦争時代の忍従の精神の拠りどころにもなったのだろうし、著者の意図もそこにあったのだろう。そういう時代背景があったから、自由奔放な表現は抑えたのかもしれない。
しかし、｢刀｣そのものの考証から始めて、人の斬り方までの科学性に乏しく、やたら宗教観がプンプン臭う。時代背景も、関ケ原前後の世相を真面目に考証せずに理想化して書いている。つまり、全体にショー的ということだ。
だいたい、全国を股にかけて武者修行する武蔵を、お通さんが追う筋書きはどこかおかしい。関ケ原以後は世に浪人が溢れ、食い詰めた彼らは夜盗，山賊にまで堕ちていたから、女の身ひとつで当時の山越えなどできるはずはない。たとえ用心棒を雇っても、その用心棒がいつ豹変するかもしれないし、一人の用心棒で多数の山賊を相手にできるはずもない。
刀というものは、剣劇映画のように華々しく打ち合えば、どんな名刀でも折れてしまうものであり、一太刀で相手を絶命させられたとしても、せいぜい三人までしか斬れないものなのだ。しかも、刀柄や自分の手に血が付着したりすれば、それだけで刀は用をなさなくなる。刃こぼれした刀で斬れば、相手の衣服にひっかかり、斬るよりも先に斬られてしまう。
だから銘のある名刀をたずさえるよりも、刀身が厚く、ズシリと重い胴太貫を佩いていた方が多数の刀に対応するうえで安全なのだ。だが、胴太貫を軽くあつかえる人間などそうザラにいるものではない。
佐々木小次郎はいわゆる｢物干し竿｣を軽々とあつかえた人物だが、この刀の刃渡りが三尺二寸もある。それだけに"かさね"も厚く、重い。日本刀の標準刃渡りが二尺三寸五分の中では異彩を放つ長刀で、これを振り回すにはそれなりの力(膂力:りょりょく)が要る。これだけでも、胴太貫をあつかえた人物はそう多くはないことが分るだろうし、そんな人物が用心棒に身を落とすはずがない。
お通さんを登場させる意味は、武蔵にストイックな面を持たせるための作者の意図と思えばよい。お通さんが実在の人物だと思ってはいかんよ。
さて峰版｢宮本武蔵｣は、現代の表現の自由を背景に、武蔵の生きた時代を正確無比に考証し、刀の物理的特性から人の斬り方まで、そして一本の刀で切れる人数や、刀刃の手入れ方法、研ぎ方に至るまで丁寧に記述しているのが特徴である。そこには剣禅一如の思想はなく、
｢武芸者はいかに生き延びるか｣
のみをテーマにしている。
だから自分が生き延びるためには、相手を騙したり、惑わしたり、卑怯という手段も用いる。これが人間の本質だろう。ここに峰版｢宮本武蔵｣の人間性がある。
ところで宮本武蔵の佩刀、とくに大刀の刃渡りは標準的な二尺三寸五分(78.25��)である。対する佐々木小次郎の｢物干し竿｣は刃渡り三尺二寸(106.56��)もある。
その差28.31�臓�
刀柄の長さまで入れると、差は更にひらいて40�其瓩�になり、まともに渡り合ったら武蔵に勝ち目はない。
自分の間合いに入る前に、相手の間合いに入ってしまい、切り伏せられるのはわかりきっている。だから武蔵は小次郎の刀法を研究し、これを打ち破る方法を見つけ出すことに腐心したのだ。見つからなければ決闘を放棄して遁走する手はずだった。
武蔵も長刀を使えばいいのだが、長くすればそれだけ重くなるし、切り降ろしたり薙いだりするときの遠心力や加速度についていけない。それだけの筋力をつけるには、一年では不足だろうし、さらに自在に使いこなすまでには三年の歳月が要るだろう。
ここで武蔵は、何とか勝つ方法を工夫する必要に迫られる。
・相手の体格
・相手の刀刃の長さ
・相手の得意技の動き
これを徹底的に解剖して、対応し得る技を短時日のうちに生み出す必要がある。小次郎の方はというと、二尺三寸五分の刀を相手に、多数の経験を積んできているし、武蔵の刻限に遅れるじらし戦術は先刻承知。究極の戦術を考える必要に迫られたのはむしろ武蔵の方だった。
しかし、武蔵にはひとつだけ、名人級の武器があった。
見切り
である。武蔵の動態視力は格段に良く、これがために見切りの名手であった。相手の剣尖が眼前一寸(3.3��)を擦過する状態でも微動だにせず、避ける必要はなかったという。
小次郎の三尺二寸が振り降ろされるとき、その遠心力で剣尖が通常以上に伸びる。これと小次郎の身長を考慮して、どこまで近づいても安全かを瞬時に割り出す動物的な能力があった。
小次郎の得意技は｢燕返し｣と言われるが、これは別名で、｢虎斬り｣が本来の呼称である。戦国時代の斬り合いでは、鎧に刃が通らないから、無防備の股下を斬り上げる刀法が考えられていた。股間には太い血管が通っているので、ここを斬られれば致命傷になる。まずここに斬りつけ、弱ったところでその首をとればいいわけだ。
小次郎の｢虎斬り｣は、長刀を使うことに加えて斬り方を工夫したものだ。その斬りようは、上段から相手の膝近くまで斬り降ろすが、これは相手を怯えさせるための見せ太刀で、実際には斬らない。
振り降ろした｢物干し竿｣を途中で止めるだけでも驚異なのに、相手の膝近くまで斬り降ろした刀刃を上向きに反転させ、そのまま上方へ向かって担ぎ上げるように、逆に斬りあげるのだ。これが非常に迅速で、躱わせる武芸者は皆無なんだという。
これで斬られると、股間から入って骨盤を切り裂き、鳩尾(みぞおち)の辺りまで裂かれるという。
武蔵はいかにしてこの｢虎斬り｣に対処したか？
峰版｢宮本武蔵｣では跳び上がることで虎斬りを避け、そのまま櫂を打ち降ろすという派手な方法はとっていない。忍者でもない剣豪は、足が地についていなければならんのです。
峰隆一郎氏によれば、人を斬るのは足と腰であり、足場をしっかり確保したうえで、腰を据えなければ人は斬れないと述べている。どんな名人達人でも、大地に足を置かないまま骨まで両断することは無理なんだという。だから峰版｢宮本武蔵｣は跳び上がらないのです。
武蔵の櫂は標準刀の全長に近い四尺。
小次郎の長刀は柄まで入れて五尺二寸。
虎斬りの技を繰り出すとき、最初の一太刀を振り降ろして、再び振り上げるために小次郎は片膝をつく。このとき小次郎の体が少し前傾し、頭は武蔵の眼下にくる。だから武蔵はわざわざ跳び上がる必要はなく、四尺の櫂を片手打ちで振り降ろせばいいだけだ。両手打ちではとどかない。
武蔵には四尺以上の櫂を扱う筋力がなかったし、二尺三寸五分の全長四尺という長さに慣れていたからこの寸法にとどめたのであり、しかも片手持ちでなければならなかった。両手で櫂を持ったら、小次郎の頭にはとどかなかった。
武蔵は、わざと舟を遅らせ、その間に得物の櫂の幅広部分を一心に削り落としていた。軽くするためである。そして、船底が遠浅の海底をこすると舟から降り、小次郎に悟られないように櫂の先端を後ろに隠し、海水に浸していた。そして、ゆっくり岸に向かったのである。
櫂は水を吸う。
そして先端が重くなる。
これを武蔵の力で振り降ろせば、遠心力(伸びる力)と加速度(打つ力)は増すだろう。
武蔵は小次郎の刀の動きに一拍遅れて動作を開始し、最初の太刀筋を見切った後、小次郎が片膝をついた瞬間を狙いすまして櫂を打ち降ろした。ここに武蔵の緻密な計算があった。
小次郎は、棍棒でモロに殴られたのに等しかった。
―以下原文の引用―
武蔵は小次郎が動かないのを見て、長岡佐渡に一礼して、櫂をそこに置いた。その櫂を保管したのは佐渡であり、今日もなお残っているという。
武蔵は背を向けて、舟に向かって歩いて行く。このとき、小次郎はまだ生きていた。武蔵も小次郎が生きていることを知っていた。
だが、それでよかったのだ。勝ったのだ、殺すことはなかった。
蓮台野での吉岡清十郎との試合も、清十郎を殺してはいない。
武蔵は舟に乗った。
｢みごとでございましたね｣
と老船頭が言った。続きを読む
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2006年12月01日
唱導者の死
英国の禁煙活動家アレン･カー氏が2006年11月29日死去したという。72歳。肺がんだった。
彼は霧の都ロンドン出身。1日に100本吸っていたヘビースモーカーだったが、1983年に禁煙に成功。
2006年−1983年=23年前のこと。
72歳−23年前＝49歳での禁煙。
それでも肺癌。
50歳で禁煙しても遅いという良い見本を示してくれたのだろうか？
禁煙するくらいなら最初から喫煙しないか、吸っても一日10本が限度というところでしょうか。実際、
一本でも吸ってはダメ。
とおっしゃるガチンコ医師と、
10本以内ならいいでしょう。
という、ひらけた医師もいる。
これで思い出すのは、ジョギング唱導者（ジェームス･フィックス，医師）が50歳を少し越えたころ、ジョギング中に倒れて亡くなったという話や、17歳の日本人高校生がアイオワでジョギング中に死亡したという話。米国のカーター元大統領も走行中に倒れかかって、随伴の人に助けられたというから、喫煙しなくてもジョギングは危ない。とくに喫煙後のジョギングは危険とされている。
この事件があって、米国でのジョギングブームは終わった。それでも皇居の周囲は今でもジョギング野郎が数珠つなぎだというから、日本人の欧米崇拝はここきわまれりだ。ウェブで"ジョギング 皇居"を検索すれば50,000件がヒットする。走ることに命をかけるあまり、ブログも運営できないジョガーの数も考えれば、まだ相当数の皇居ジョガーがいるんだろう。ジョギングで一番寿命を延ばしたのはスポーツウェアメーカーだろうね。
そもそもジョギングとは、肥満対策から出発したものであって、瘠せ体質の人が実施する必要はないし、走ることが人間本来の姿でなはい。食物連鎖の頂点にいる人間が走る必要はなく、適当な食事と、適当な運動量さえ確保していれば、大切な臓器にわざわざ過度の負担（ストレス）を強いることはない。
心臓にしても肺にしても、無理に強化する必要などなく、自然状態でもかなりの寿命をまっとうできる。ジョギングで心肺を鍛えても、肺炎を患う人はいるだろうし、肺癌に罹る人もいるだろう。ジョギング中に心不全で倒れる人もいる。
2003年10月26日に行われた「諏訪湖マラソン大会」では、レースに参加した男性二人がゴール前後に倒れ、病院に運ばれたが死亡した。青梅マラソンも死者を出したほどマラソン中の死者は多い。また、こんな事件もある。
2004年4月4日･午前11時50分ごろ、秋田市浜田の遊歩道上に男性が倒れているのを、付近を通りがかった同市の男性が発見した。倒れていた男性は救急車で病院に搬送され、1時間後に死亡が確認されたという。秋田署によると、男性は推定50歳前後，身長約180�造里�っちりした体格で、白髪混じり。外傷や着衣の乱れがなく、ジョギング中に死亡したとみられている。
サッカーの試合中に急性心不全で逝く選手も多いし、高円宮殿下も、K1のアンディ･フグ（36才，骨髄性白血病）も、ソウル五輪女子100�辰離献腑ぅ福爾筺�東大出のボディビルダー･マッスル北村，ジョギングの教祖ジェームス･フィックスもみんな若くして亡くなっている。マラソンの由来になった男でさえ、走り終わって死んでいるのだ。
厳しい修行なら極真空手。
その教祖･大山倍達氏は69才で肺ガンを患い、逝っている。同じ極真の雄、芦原英幸氏は50才、同じく大西靖人氏は45才で亡くなっているのをみても、スポーツで体を鍛えるのと、病気に罹りにくい体をつくるのは別次元ということがわかるだろう。好んで苦しい目にあう必要はない。
会社を馘になって以来、ウォーキングを専門にしているあたしは、今までのところ風邪一つひいていない。まあ、ランニングハイといわれる高揚感を「健康の印」と勘違いしないことでしょうね。危ない、危ない。これくらい慎重に生きないといけません。
歩いてばかりでは上半身がお留守になるから、あたしは箒と熊手のお世話になっている。ダンベル運動など長続きするはずもないのは体験的に知っているので、ダンベルを箒と熊手に持ち替えて、大量の落ち葉に挑むだけでも飽きないし、またじゅうぶんな運動量になる。落ち葉の季節は晩秋以降とお考えなら、それは誤り。落ち葉は一年中あるものでございます。
掃き集めた落ち葉は一定の場所に運んで腐葉土となし、ついでにカブト虫の養殖もやっているのだ。これは団地住民や、めっきり数が減ってきた小学校低学年たちにも喜ばれている。
高齢に達すると、いやでもバランス感覚が衰えてきます。どれほど走り込んでも歩いても、その能力とバランス感覚は別ものです。そして、これが原因で転倒したりすると、信じられないでしょうけど、簡単に骨折します。しかも、高齢での骨折は治りにくいものです。また、骨折の治療に際して麻酔を用いますが、これがまたクセモノで、心臓に負担を強います。
ここまで脅かしておけばいいだろう。
ジョギングの代わりに言われ出したのが、速く歩くウォーキングですが、何も早く歩かなくても、目的とするところは血液循環と発汗です。だからゆっくりした速度でも、長距離を歩けば目的を達することはできます。
終戦後間もないころ、中京大学体育系の先生が米国に留学したとき､「日本は貧しく､栄養も悪いのになぜそんなに長生きできるのか」と問われ、「日本人は生活のために毎日歩くのが良いのでは」と彼は考え、答えたのが契機となってウォーキングに結びついたと言うから、日本人の根本は歩くことにあるんでしょう。生活のために毎日走り回るのは、飛脚や忍者にまかせておけばいいのです。もっとも、飛脚や忍者の平均寿命はそう長くはなかったと思います。
マイカーを手に入れる前の日本人は毎日歩け歩けの連続でしたから、肥満や成人病は関係なかったのですが、最近はマイカー所有と食生活の欧米化で肥満が増え、これが成人病の元凶となってきました。だから医者の勧めや、マスメディアによる啓蒙を通してジョギングやウォーキングが流行り始めたのですが、ただ
毎日○○歩あるけば良い
ジョギングは効果がある
を頭から信じてはダメで、足ばかり細く筋肉質にしても意味はないでしょう。人の命を制する臓器は上半身にあるのですから、歩いたり走ったりしているからと言って安心はできないのです。
あたしが適当に実施している上半身の運動は、それで万全という保証はどこにもありませんが、発汗を伴うことは確かです。
ちなみに落ち葉掃きの距離は約100�辰如�完全に始末を終えるまで2時間近くかかります。
さあ、今夜も酒が美味いぞっ。
zo_roku at 21:09｜この記事のURL│Comments(0)
