鋼鉄のアンセム (オムニバスすべて完結)

このくにはしんりゃくされている。



中東 某国

市民たちは包囲され
兵士が銃を突き付けている。

兵士の一人が少女を見つける。
父親が守ろうとするが引き離され連れて行かれた。


父親「الله(神よ)」


ゴウン
ゴウン

重低音が天から聞こえてくる。

市民
父親

兵士

少女は空を見上げる。


空、巨大な人型
300メートルはある。
西洋の鎧のような姿

音もなく静かに落ちてきた。
逃げ切れない戦車や兵士、市民は潰れた。

少女と兵士

巨大な頭から丸太のようなケーブルが少女に向かってくる。
ケーブルは細かく分裂し
少女を覆った。
少女の毛細血管、毛穴、ケーブルが浸食していく。
そのケーブルは頭の中へ引き込まれていく。

ブゥン!
鎧兜の中の目が光る。

巨大な指で弾かれた兵士は粉々になった。



日本
大きなマンション
805号室
表札は「百地」

ふああ!
タバコをふかしながらベランダで新聞を読む中年百地トシオ

洗濯物が干してある
ブレザー

トシオの娘 百地ナオミ「ちょっとお父さん!制服が臭くなる!!マジやめて!」

トシオ「ああ、ごめんごめん、、」

ナオミは勢いよく制服を取る。

新聞を読みながら

トシオ「中国まで壊滅してるってーのに出勤するとは思わなかったな、、」

新聞の見出しには
中国降伏
ライフライン
核施設壊滅

シルクロードを渡る悪魔の巨人
世界征服を目論む
中東のジャンヌダルク

巨大な人型
と鎧兜のひたいの中の少女の拡大写真。
(*ニュースはTVでも可)

トシオ「ナオミ、今日も部活あるのか?」

ナオミ「当たり前じゃん、大会前だよ?!いってきます!!」

トシオ「、、」


仏壇に手を合わせる
トシオの妻らしき写真「ヨシエ、世界の終わりが見れるかもしれんよ、」


電車に揺られ会社に着いた。
小さなビル
山室商会
第二営業部

トシオの前に並ぶ数名の社員たち。

社員「では部長から一言お願いします。」

トシオ「えー、、隣の中国が降伏したようですが、主要な機能は残したまま、ということで、私たちの生活にはさほど影響はないようです。
ま、中国の市民の方々は大変なご苦労をされておりますが、、
今のところ、、えっと、アメリカとの協定もあり、中東のジャンヌダルクは日本を侵略するつもりはないようです。。」

「ま、我々に出来ることは通常業務のみです、みなさん本日もノーミス、ノークレーム!顧客満足度業界ナンバーワン!を合言葉にがんばりましょう!!」

社員たち「ノーミス!ノークレーム!顧客満足度業界ナンバーワン!!」

トシオ、社員「よろしくお願いしまーす!!」


解散して
社員「部長、ほんとに大丈夫なんですかね?」

トシオ「うーん、、まあ、な」



社員「逃げなくていいんすかね?」

トシオ「逃げるっつってもなぁ、、どこに行く当てもないし、国も何も言わないし、、生活できないよね、、」

社員「、、ですよね〜」

トシオ「まぁ、、ほんとにやばくなったら国も何か言うだろ」




夕方

食卓には夕飯が用意してある。
メモ紙「酢の物は冷蔵庫だよ 」


トシオ「いい娘に育ったなぁ、、」


あの日
俺はナオミとヨシエと3人でドライブに出かけた。

ナオミはまだ3歳、、

トシオの運転するワゴン ボクシィ

トシオ「ナオミ、ほらもうすぐ海だよ」

と後ろを振り向いた。
フロントガラス越しに見えるダンプカーがカーブからはみ出してきた。


病院のベッド
トシオ「ヨシエ、、ナオミ、、」

看護師「大丈夫、お子さんは無事です」

トシオ「よ、ヨシエは?」

看護師は首を振る。


「俺はボンクラだ、、

家族の形を壊した。」

「俺が壊したんだ」



次の日

そうなるまでこんなことになるなんておもわなかった。



聳え立つ中東のジャンヌダルク
後ろにはおびただしい数の戦車、兵士、軍隊。

空には爆撃機、戦闘機。

トシオやナオミ
地域の住民らしき人間が学校の校庭に集められる。

ナオミ「お父さん、、」

トシオ「だ、大丈夫だ」
とナオミを隠すように抱いた。

兵士「テイコウシナケレバ コロサナイ」

兵士2「تجزئة وامرأة!!(女と分けろ!!)」

トシオ「ちょ、ちょっとまて!」

兵士はライフルで容赦無くトシオを撃った。

膝を撃ち抜かれたトシオ

ナオミ「お父さん!!」

トシオ「ナオミー!来るなー!!」
飛び出したナオミは兵士にライフルの尻で強打された。


トシオ「ああ!!、、」
目をかたくつむる。
心の声「どこかで大丈夫だって思っていた、、いや本当はわかってただろ、、何で俺はナオミと逃げなかったんだ、、」

ゴウン
ゴウン
「、、、!?」
トシオが目を開けた。

影が地面を覆う。
日本の鎧武者のような巨大な人型

音も無く降りてきた。
両拳を地面に、武士のような座り方だ。

中東のジャンヌダルク「、、、」



同じようにケーブルが出てきた。
トシオを包み込み、兜の中へ。



トシオの頭の中に流れてくるイメージ

鎧武者「モモチ、お前の脳内の記憶、言語をコピーさせてもらった」

「逆にわたしの記憶をトシオの脳に流し込んだ、もうわかったな?」

「一番近い人間をわたしのセンサーが選んだ」

トシオ「ああ、、」

鎧武者「わたしたちの名はアンセム」

「圧倒的暴力の行使者を揶揄してそう呼ばれていた。」

気が遠くなる昔

遠い遠い星

廃墟となった街

鎧武者の前に立つ
西洋の鎧

いろいろな形の人型。



鎧武者「中の人間が死んでしまった、対応年数を超えた。」



西洋の鎧「私もだ」


鎧武者「この星に人間がいなくなった今、わたしたちの存在意義は無くなった」


西洋の鎧「人が無くなれば国もない、もう「領土」を争う必要もない」

「、、だが「それ」だけがわたしたちの目的だ」

鎧武者「そうだな」


西洋は空を指差し
「宇宙のどこかに生物、、人間がいるかもしれない、
そこに「国」があれば、、」

鎧武者「また戦えるな、、領土を奪うために、、」


巨大人型たちは地面を蹴り、宇宙空間に飛び出た。



西洋「また会おう」


体操座りのように膝を抱え、球体になる。


それぞれが宇宙に散らばる。



トシオ「お前、そんなに来たら地球が滅びちまうよ、、」


鎧武者「、、、」

トシオ「ど、どうした?」

鎧武者「しまった、、この星の人間は2種類いるんだな、、」

トシオ「に、2種類?」

鎧武者「ああ、「雄型」はダメらしい、、拒絶反応だ」

ゴブウウ!!
ザバアア!!
鎧の隙間から液体が溢れ出す。


鎧武者「まずい、、冷却水が、、」


トシオ「ど、どうなるんだ?」


鎧武者「一度インポートしたらセットされた人間が死ぬまでリセットできない、、」

「人間が入っていないと「戦えん!!」

「ゴフッ!吐き出すぞ!!」

ワイヤーやケーブルが毛細血管から外れる。
ペッ!!
裸のトシオがゴロゴロと転がる。


トシオ「、、お前、どうすんだよ、、」


鎧武者「情報が同じ雌型なら大丈夫なのだが、、」
トシオ「同じって何が?」

鎧武者「名とDNAだ」

トシオ「DNA、、」


トシオと鎧武者はナオミを見る。


トシオ「いやいや!ダメだ!ダメだ!」

問答無用でナオミは包まれた。



ナオミは鎧武者の兜の中にセットされた。

ブウン!!
兜と面頬の間に目が光る。

鎧武者「モモチ、、、わかったな?」


ナオミは頷く。



鎧武者「いいぞ、前の人間は「これ」を使いこなせず中々決着がつかなかった。」

背中から日本刀のような大きな剣。


刀の刃が正位置になる。
右手の力は抜けているように見える。
中段の構え

ナオミ「あたし剣道部」


一刀両断
ジャンヌダルクは真っ二つになった。


鎧武者が空を見上げると
数百体の巨大人型
(巨人が宇宙から地球に落ちてくる図)


鎧武者「それぞれの国に降りてくるぞ」

ナオミ「ええー!?おっ、お父さ〜ん、、」

トシオ「ナオミー!!」


トシオの独白

この戦いを機に世界は巨人たちの戦場となる。


第三次世界大戦の始まりだった。



































外資系コーヒーショップ
silver surferのオープンテラス

サキ「こんど安藤に紹介する彼、めっちゃ素敵よ」

安藤「えー?どんな人ー?」

サキ「システムエンジニアでね、外人でめっちゃカッコいいよ」

安藤「えー?どこの国の人なん?」

サキ「えっと、たしか、カナダ人だったかな?」

安藤は急にテンションが上がり「きゃーマジでー!!」

サキ「えっ?!安藤、何!?」

安藤「あたしカナダ人がいなかったら今まで生きてなかったんよー!!」

サキ「え?カナダ人が?何で?」

安藤「あっ!仕事の時間だ!
ごめんサキちゃん!終わったらすぐ電話するけん!!」


ー 安藤弓は死んでいた。ー



ひとりの中年が街から一本離れた住宅街を歩いている。


その後ろを歩く眼鏡に帽子の女、安藤。
「え?こんなとこに旅館があるんだ?」

その旅館に入って行く中年。

安藤も続く。
カラカラ
「いらっしゃーい」
ドアを開けると太った中年の女が出てきた。
安藤の顔を見るなり険しい表情になる「面接はこっちじゃないよ!」

安藤「へ?面接??」

中年の女「名前は?」

安藤「あ、安藤デス!」

中年「下の名前は?」

安藤「ゆ、弓デス」(しまった本名こ言っちゃった)

中年の女「履歴書は?」

安藤「は!いや、もっ、、忘れました!」

中年の女「ふー、あんたね、こんな店でも仕事なんだからね、ナメてんじゃないよ」

安藤「す、すいません」

中年の女「まあ、簡単に説明するとね、20分で8000円、あんたの取り分が5000円
30分相手したら1万円で6500円」

安藤「え?なにをするんですか??」

中年の女「ああ、うちは本番の店だからね、ちゃんとセックスするんだよ、」

安藤「えー!!セックスしてそれだけしかもらえないんですか!?」

チッ!中年の女は少しイライラしながら「わかって来たんじゃないの?
まあここは普通の風俗店じゃないから、無理することないよ」

安藤「普通じゃない?」

中年の女「あんたまだ若いから知らないだろうけどね、ここはね、女郎屋って言うんだよ」


安藤「は〜、、聞いたことあります、、」

中年の女「部屋には風呂もシャワーもないからね、」
「たまにわざと歯を歯を磨いてこなかったり汚いまま来たりするロクでもない客もいるからね、やるなら覚悟しないと」

安藤はハッとしたあと「あ、あの、見学とかってできますか??」

中年の女は無言で四角いものに被せらた布を取った。
4つのテレビ、ひとつの画面に4分割された画像。
すべて6畳の部屋。

その中にさっきの中年の男がいた。

女郎屋の女「え?、
しなくていいんですか?」

中年の男「うん」


その画面を食い入るように見つめる安藤。
小型隠しカメラの眼鏡で撮影する。

30分後
女郎屋の女が部屋に入ってくる
「超ー!キモイ!!ありえん!」

中年の女はニヤニヤとしながら「ずっと脇とか足の匂い嗅がれてたね」

女郎屋の女「ああ!見てたの?」
「もーマジで気持ち悪い!!」

中年の女「きっとEDか何かなんだよ、お得意さんだからね、ま、大丈夫、うちは指名できないんだから今度からあんたは外してやるよ」

「絶対やけんね!うちシャワー浴びてくる!」女郎屋の女はズカズカと部屋を通り抜けて奥の控室へ消えた。


中年の女はチラリと安藤を見て
「やらなくていいから喜ぶ娘もいるんだけどねぇ、」「で?どうすんの?」

安藤「は、はいやー!ま、また来ます!」

スタスタと早歩き
「ぜったい非合法だわ!」


〜 安藤探偵事務所 〜

先ほどの画像をプリントアウトし、資料を作っている。

「ふー、今日の分出来た、」

仏壇に向かって
「おじいちゃん、あたしまだ知らないこといっぱいあるわ〜、、自分の住んでる街なのに、、」

メモ紙
NO.263
依頼主 中根佳澄様(41歳)
主婦

調査対象
中根光雄(夫 46歳)
伊藤錦 (商社)係長

調査内容

会社帰り何処へ行っているのか?
(残業はしていない)

目を細め、資料を見ながら
「これ渡したらきっと家庭崩壊しちゃうよね、、」

「でも、セックスはしてないんだよなぁ、、」

「まだ提出期限はあるし、、」

「たしか旦那さんのID調べてたよね、、」

パソコン画面にはSNS
「チェイン」

光雄のID
Lightning man1967

「あったあった」

「えーっと、はじめ、まして、、
ううん、ダメだ!なんか釣りっぽい!」
キーボードを打つ。


ピロリロー♪
スマートフォンの方に着信
「はやっもう来た♡」


画面を見ながら
「、、すっごい寂しがりや、、
で意思が弱い、頭もそんなによくない、」

安藤は無言でメールを打ち返す。

夜が開けた。

「ふああ、ねむ、
すごいなぁ、、光雄さん、レス早いし、、」
「めっちゃ語ってくれたからだいぶわかったけど。。」


オープンテラス

サキ「なにあんたそのクマ!?」

安藤「えへへ、ちょっと徹夜で仕事というか、、」

サキ「女がやる仕事じゃないよ」

安藤「うーん、でもおじいちゃんの事務所潰すわけにはいかないよ、」

サキ「じゃ継いでくれる旦那さんみつけたら?」

安藤「今度紹介してもらう人どうかなぁ、、あ、どんな人?」

サキ「デヴィンくん?28歳で目が碧くて、、外人だからかな、めちゃジェントルで、、って継いでくれんと思うし気が早いよ!」

安藤「だよねー」

サキ「そういえばあんたカナダ人がどうのって言ってたけど、」

安藤「うん、ほらあたし、、」
と時計を見る。
「やばっ!時間だ!ごめんサキちゃんまた!!」



NO.259
依頼主
君嶋康平 様(32歳)
医療法人
山盛会 レントゲン技師

調査対象
松田美佳(24歳)婚約者
同 医療事務

調査内容
交友関係

夜ー大雨ー
ヴアアア!
スズキ γ250ウォルターウルフに乗り安藤は高速道路を走っていた。
140キロ

前を走るメルセデス600SL

ホテルの駐車場
降りてきたふたりは中へ入っていく。

びしょ濡れのまま安藤は問面の雑居ビルの「軒」の上に登り寝そべる、ビニールシートを被り、カメラを持って。

夜が開けた。

安藤「うう、暑い、、気持ち悪い、」
ゴシゴシ
ブーツを脱ぎ、足の指の股をウエットティッシュで拭いている、そして脇と股間も。


望遠レンズでベンツがホテルから出てくる所を撮影した。
助手席の松田美佳


古い喫茶店
安藤はいつもここで報告をする。

安藤「君嶋さん、こっちが資料です。」

君嶋「ええ?こんなに?6人も?」

安藤「はい、あと撮影できなかった人も数人いるので、、」

君嶋「、、あ、ありがとうございました。。」


君嶋が帰ったあと安藤はひとりため息をついた。


ー非合法の風俗旅館ー
中年の女「体験入店?」

安藤「はい、
でもちょっと怖いんで、この前のお客さんが来たときにちょっと試してもらえれば、、」

中年の女「ん?この前の?」

安藤「あー、はい、あの匂いを嗅ぐ人、、」

中年の女「あー!はいはい!」
「あれだったらしなくていいもんね!あんたはじめてなんだろうから最初はちょうどいいかもね、あっはっは!」


安藤は露出度の高いワンピースを着て控室にいた。
中には数人の風俗嬢たち。
安藤はキョロキョロして落ちつかない。

中年の女が入って来た「弓、いっといで」

光雄が正座をして待っていた。
安藤「こ、こんばんは、、」

光雄「こんばんは、あ、服は脱がなくていいよ」

光雄は安藤の脇に鼻を近づけ深く息を吸った。
安藤は目を思いっきり閉じた。

足の裏に顔をあて、スカートの中に頭を入れてきた。
フガーフガー(鼻息)

ぞわわ!
安藤は思わず力が入る。



安藤「なんで?」

光雄「えっ?」キョトンとした顔。

安藤「ああっ!ごめんなさい、思ったことがつい口に出ちゃって、、」


光雄「、、しないこと?」

安藤「、、ええ」

光雄「僕は結婚していてね、
そして妻をすごく愛している」

「だからね、浮気はしない。」

安藤「こういうのは浮気じゃないんですか?」

光雄「うん、気持ちが入っていなければ浮気ではない!僕は気持ちが入らなければしない!」

「ただ若い女の子に触れたり会話はしたい!」
「ここは仕方ないの、本能だもの!」


安藤「え?」

光雄「あのね、浮気、いや恋愛というのはCDなんだよ」
「CDとか買う?」

安藤「いえ、あんま買わないです、、」


光雄「ジェネレーションギャップか、あれか?今の子はダウンロードとか?」

安藤「ええ、でもレンタルとかもしますよ」

光雄「それをiPodとかに入れて?」

安藤「そうそう」

光雄「ふーっ、、」
「、、で?何の話だったっけ?」

安藤「恋愛はCDって、、」

光雄「ああ、そうそう、
ほら、すごく好きな曲ってあるでしょ?はじめて聴いた時ドキドキして」

「それが恋人だとする」

安藤「ふんふん」

光雄「好きだから毎日聴くよね?
何度も何度も」

「すると最初に感じたドキドキはなくなるよね?」


「そして新しい曲を耳にする、
それが誰かとの出会いだとする」

安藤「、、」


光雄「それってまたドキドキするよね、だから買う。
でもね、その曲もすぐに最初のときめきは消える、、」

「それが浮気、キリがない」

「それと一緒、、」


安藤「へえーなんか、、わかる気がする、、」


光雄「、、、」
「わかってくれる?」真顔

安藤の肩を力強く掴む。
「えっ!?ちょっ!!」


光雄はワンピースを捲り上げ脱がそうとする。

安藤「わー!ダメダメ!!」

光雄「大丈夫大丈夫!」


安藤「浮気!浮気!!」

光雄「違う違う!!」

安藤「もう時間が!もう時間が!」

光雄「延長延長!!」


安藤はポーチからペンを出し、
光雄の尻に当てた。
カリカリ、という音がした。

転がったペンの先には針がついていた。

しばらく安藤は抵抗した。


光雄「あれ?」
はあ、はあ、
「あれ?なんかおかしいよ?」

「甘いものとかある?」


安藤「いや、無いです、
顔色悪いし、そろそろ時間だし、帰られた方がよくないですか?」


光雄「ううん、そ、そうだね、
あれ?何でかいな?めちゃくちゃお腹すいた、、」
はあはあ(冷や汗)

「うん、じゃ帰るわ、、」

「すごくコーラとか飲みたい、、」



控室の隣の事務所

中年の女「やっぱり無理だったろ?」

安藤「はい、、すみません、、」

中年の女「ほら!」
給料の封筒を差し出す。

安藤「あっ!いえ、もらえません、」

中年の女「なにいってんだ、あんたの取り分だよ」
と帳簿を付け出す。
安藤には目もくれず
「ここはあんたみたいなのが来るとこじゃないよ」

「元気でね、二度と来んじゃないよ」

安藤はお辞儀をして店を出た。


1921年
カナダの整形外科医バンティングと助手のベストがインスリンの抽出を成功させる。

安藤弓は中学校3年生の夏
昏睡状態に陥り、入院した。
体重は30キロ代前半まで落ち込んでいた。
灼熱の炎で焼かれるように喉が渇き、湖の水を飲み干したいとまで思った。
5分置きにトイレへ行き、起きているのが辛かった。

目が覚めたらベッドの上にいた。

1型糖尿病
ウイルスなど原因不明で膵臓が機能しなくなる病。
医者は原因は予防接種かもしれないが因果関係を証明することは難しく、裁判しても無駄だろうと言った。

そして弓はノボノルディクスファーマ株式会社製の注射器を持つことになる。
膵臓で作られるはずのインスリンを皮下注射して補うために。

女の子だからという理由で「ラグジュラ」という綺麗なペン型の注射器だった。
ラグジュアリーが語源らしい。

この病気は10万人に1.5人の割合で発症する、インスリンが抽出される以前は医者も患者もなす術はなかった。

弓の祖父
安藤慶次郎は弓に「せんいちになれ!(千人に一人の人間)」というのが口癖だった。

「まんいちになっちゃったよ」と笑う安藤を見て慶次郎は泣いた。


光雄は超速攻型のインスリンを打たれ血液中の血糖値が急激に下がった。
症状は飢餓感に似た強烈な空腹感と脱力感、めまい、冷や汗、意識障害など。
「何かカロリーの高いものを摂取したいと危険だ!」と脳から指令が下される。

蚊の針の形状にヒントを得た日本の金属加工会社が開発した「痛くない注射針」だったので光雄は気付かなかった。
その後 光雄はコンビニで大量のケーキや袋菓子を購入し、コーラをがぶ飲みしてことなきを得た。



いつもの古い喫茶店

中根佳澄「旅館?」
「まさか女と?」

安藤「いえ、旦那さんは一人で入って一人で出てきました」
「入口からはそれらしき女性は出てきませんでした。(裏口からはいっぱい出入りしてたけど)」

中根佳澄「なんでまた?」

安藤「最近は安い金額で仮眠とったり、できるホテルとかあるみたいで」


中根佳澄「あのひと疲れてるから、、家で寝ればいいのに、、」


安藤「、、まあ、よくわかんないですけど男の人ってネットカフェ行ったり隠れ家的なとこ好きですよね、、」

中根佳澄は深々と頭を下げ「ありがとうございました、、安心しました。」

中根佳澄が帰ったあと

安藤「ま、いいよね、調査依頼は「何処に行ってるのか?」だし、、」

「こっから先は光雄さんの責任でね、、」

「あっマスター!カフェラテー!」


マスター「だからそんなもんはねぇっつってんだろ!熱い珈琲牛乳な!」


安藤「ちょー!名前くらいいいじゃない!」
時計を見て

「あっサキちゃんにメールしなきゃ!カナダ人の彼と会うのいつだったけ?」



旅行じゃわからない、
住んでみないと。

何がって?
閉塞感だよ、
どこにも行けないって気持ちになる。

沖縄

俺とスティーヴンはガイジンさ

俺は内地(本土)から来たナイチャー
スティーヴンは沖縄で産まれたけどハーフだからアメリカーって呼ばれている。

沖縄の奴らぁ俺たちを「違う」って目で見やがる、、

めっちゃイラつくぜ、、

ー 沖縄エイリアンズ ー



「助手席」金髪リーゼント
童顔女顔のオカムラ

「運転するのは」アフロの黒人スティーブン

ふたりともバンダナで口を隠している。


オカムラ「なぁ〜、なんでこのセドリック左ハンなんだ?」

スティーブン「ウチナーは返還前はよー右側通行だったさ」


ヴァララ!
二ケツの改造車バイクがセドリックを左から追い抜く。


オカムラ「あー?返還って何?」

スティーブン「わったーが生まれた年までさ、ウチナーはアメリカだったからよ」

オカムラ「あー?アメリカ?なわけねーだろ!」
ぐううと腹が鳴る。

「ああ、腹減ったな、、」

スティーヴンもぐううと腹を鳴らし「わんもさ」
と言った。

海沿いの道に入る
一台の自動販売機

スティーヴンは自動販売機のコイン口にママレモンを入れた。
スティーヴン「お金出てこないな」

オカムラ「あー、めんどくせぇ、スティーヴンちょっとどけ!」
運転席にオカムラが乗る。

ゴボン!

セドリック斜めにぶつけ自動販売機が開いた。

ガチャガチャと音を立てて小銭が出てくる。

スティーヴン「オカムラお前むちゃくちゃするな」

オカムラ「ははっ、結局は銭盗るんだけなんだからかんけーねーだろ」

巾着に小銭を入れた。

ジャラッ、
その巾着を握り
オカムラ「おっ意外と入ってたな!」


A&W
(ハンバーガーファーストフード店)
山盛りのハンバーガー、ポテト

ボックス席
ガツガツと食べるスティーヴン
オカムラも黙々と食べる。

隣のボックス席
初老の男(神代)がオカムラの後ろから話しかけてきた。

神代「随分豪勢な夕飯じゃねぇか?」

オカムラ「神代刑事、、」

神代「お前、さん付けしたくねぇからって刑事っていうのやめれ」
神代と同じ席には若い刑事。


神代刑事「オカムラ、、お前、、バレないと思ってデタラメしすぎじゃないか?」

オカムラ「なんの話ですかね?」

神代「糸満の現場から一斗缶ガメて琉紋会のチンピラに売ったのお前だろ?」
*トルエンの一斗缶

オカムラ「はあー?何のことっすか?」


神代はコーラをカップが凹むくらいに音をたてて飲み干した。


神代「オカムラ、、あんま警察、、大人なめたらダメだよ、、」

「スティーヴン、お前もな」

と若い刑事と立ち去る。


若い刑事「あいつらが?」

神代「あー万引き車上、、窃盗フルコースさ」
「、、まあ、強盗傷害みたいなのはないんだけどよ、、」

若い刑事「何か別件で理由つけて引っ張れないんですか?」
「簡単に口割るでしょ」

神代はガラス越しにふたりを見ながら「割らないだろうね、」

ふたりの刑事はマークIIに乗り込んだ。

若い刑事「アメリカの軍人?」

神代「いー、スティーヴンの親父な、アメリカに帰っちまってな、連絡が取れないんだよ、、」

「スティーヴンの母ちゃんはアル中になっちまってまともに話ができねぇし、、オカムラも母親とふたり暮らしさ」

若い刑事「親父は?」

神代「あいつの親父は内地のヤクザでよ、あっちでヘタ打ってウチナーに逃げてきたんだよ」

「オカムラが中学に上がるころシャブで死んじまってな」

「まあ、シャブ中だったけどよ、異常な量だったからよ、殺されたんじゃないかな」

「あいつらどっちも貧乏でロクに飯も食ってねぇはずだよ」


若い刑事「、、神代さん、、まさかあいつらに同情して?」

神代は窓からタバコをポイ捨てし
「そんなわけないよ、、証拠残したらすぐに逮捕さ」



夜の那覇の街

スティーヴン「歩いて帰るか?」

オカムラ「おー、セドリック隠してて正解だったな、神代のやろうしつこいな、、」

前からチンピラが歩いてくる。

チンピラ(我那覇)「おおーオカムラ!スティーヴン!」


オカムラ「我那覇くんこんばんは」

我那覇「この前の一斗缶な、純トロだったから高く売れたさー」

オカムラ「あー、そのことだけど神代が知ってるみたいだけど、、」

我那覇「いー、大丈夫だよカマかけてるだけさ」

「それよりよー、やったーセドリック見なかった?」

!?

オカムラ「せ?セドリック?なんでっすか!?」


我那覇「、、、」

「誰にも言うなよ?」

「うちの組のな、取り引きする「大事な荷物」が入ったセドリックがよ、盗まれたさ」


オカムラとスティーヴンは顔を見合わせる。


我那覇「うちが世話してる族のコゾーがなー、助手席に黒人が乗ってたのを見たっていうんだけどな、、」

「ははは、黒人ってまさかやったーじゃないよなー」

「、、どうした?」

オカムラ「いやっ、、、ていうかどんなセドリックなんですか?」

我那覇「どんなって?」

オカムラ「いや、ほら特徴とか、、」

我那覇「上の人たちの話少し聞いただけだからよ、、たしか古い型って言ってたな。」

「、、まあいいや、見つけたらすぐわんに電話せれよ?」

オカムラ「は、はい」



夜の那覇を小走りするふたり
スティーヴン「やっやばくないか?!」

オカムラ「やべぇやべぇ!!」

団地の近くの石垣
シートを剥ぐ。

セドリック

ガコン!

トランクを開けると大きなキャリーバック。

オカムラ「スティーヴン開けるな!!」
とそのままトランクを閉める。


スティーヴン「ど、どうする?」

オカムラは近くの公園の時計を見る。
午前1時

オカムラ「、、、」

「今日はもう遅いから明日返しに行く。」

スティーヴン「琉紋会に?だ、大丈夫か?」


オカムラ「大丈夫なわけねぇけど、、どう考えてもこのままじゃやべぇ、、」

「見られてるから時間の問題だ、ぜってーバレる!」
「ソッコーあやまるのが一番いい」


スティーヴン「な、何時に行く?」


オカムラ「ああ、一番パーカーの少ない6時だ。」


スティーヴン「わ、わかった、夕方の6時だな?」


オカムラは頷く。


団地
11棟
スティーヴンが階段を上がっていくと、泡盛の一生瓶を抱え、露出度の高いワンピースを着た女が寝ている。
「母ちゃん、、」
平良サトミ36歳
スティーヴンはサトミを軽々と抱えた。
サトミ「ううーん、離せー!」

スティーヴン「こんなとこで寝たら風邪引くよー、、」

部屋は狭く、散らかっている。
低いタンスには軍服を着たスティーヴンそっくりの男と若き日のサトミが写った写真が飾ってある」

サトミは泥酔した目を開けた。
「ヴィンセント!迎えにきてくれた!!」

スティーヴン「違うよ、父ちゃんじゃないよ」

わあああ!とサトミは泣き声を上げ、
「ゆくしむぬいー!(嘘つき)!!」と叫んだ後、そのまま眠ってしまった。


オカムラは家にいた。
誰もいない散らかった台所でA&Wから持ち帰ったハンバーガーを食べる。

ポテトとハンバーガー
を一つずつ残してメモを書く。

母ちゃんへ
食べていいよ




次の日の夕方

4時半
オカムラがいた。
「な、ない」
石垣のセドリックが無くなっている。

石の下に紙がある。
汚い字で

捨ててくる


ぐしゃぐしゃと紙を握り
オカムラ「あのやろう!」


その頃ひと気のないスクラップ場

スティーヴン「ここならすぐ見つかるだろ、指紋だけ消せば、」

と消化器を車内に噴射しようとすると
チンピラ1「えーやめれやめれ!」

スティーヴンは数名のチンピラに囲まれた。

チンピラ2「ちょっと来てもらうよ?」


団地ではオカムラと我那覇が向き合っている。
我那覇「やっぱりやったーか、、張っていて正解だったねー」



琉紋会
大きな門が開いた。
セドリックが中に入って行く。
運転しているのはチンピラ、スティーヴンは後部座席でチンピラふたりに挟まれている。

広い庭にポツンと停まるセドリック。


ヤクザがゾロゾロと出てくる。

その中でも特に眼光の鋭い男が後ろから歩いてくる、
モーゼの十戒のようにヤクザたちが分かれ、道ができた。


ヤクザ1「巻類間のアニキ、すいません、、」

巻類間「、、、」
セドリックを見つめている。


巻類間はナンバーを見て
「これ、ナンバー付け替えてんのか?」

スティーヴン「、、はい、、」


巻類間「ふうん。」


スティーヴン「、、、」


チンピラ1「巻類間さん!」

キャリーバックをゴロゴロと引きながら巻類間の所へ持って来た。

巻類間はキャリーバックを指でタカタカと叩く。


ヤクザ2が巻類間に耳打ちする。

巻類間「連れてこい」

我那覇が嬉しそうにオカムラを連れてきた。「巻類間さん連れてきましたー!!」

スティーヴン「オカムラ、、」

「わんが「運転」してた時は誰も乗ってなかったんだからやーは関係ないないだろ」

オカムラは激怒してるのを抑えながら「お前マジふざけんな、、」と言った。



オカムラは巻類間を真っ直ぐ見つめ「盗んだのはオレなんですよ」

巻類間「、、どっちだっていいんだけどよ」

「開けてみろよ」

我那覇「えー!開けれ!!」
チンピラ「は、はい!」

バコン!
キャリーバックを開けた、
空だった。


スティーヴン、オカムラ、我那覇「えっ!?」

オカムラ「いやっ、それはオレたちじゃ、、」


巻類間はギロリと睨み
「おう、これ引っ張ってきたの誰よ?」

ヤクザ1「はい、すいません、我那覇たちのグループです」

巻類間「ふー、、」

「、、これうちのセドリックじゃないからよ、、」


我那覇、オカムラ、スティーヴン「ええっ!?」

ヤクザ1はバツの悪そうな顔をしている。

巻類間はヤクザ1においでおいでをして呼んだ。
「、、お前さ、、下のもんにちゃんと伝えてんのか?、、」

「黒人とセドリックしか合ってねぇじゃねぇか、、」



「ただでさえ神代に睨まれてんのにうちの敷地にわけのわからない窃盗車入れやがってバカヤローが、、」

ヤクザ1「す、すいませんアニキ!!」
「我那覇やーはフラーか!!」と何度も殴る。

我那覇「あがっ!あがっ!すいませんすいません!!」

巻類間「古過ぎるよ、だいたい何なんだよ左ハンドルって、、」


「、、、車ぁ置いていけ、片付けといてやるからよ、、帰れ」


オカムラ「は、はい、」
スティーヴンとオカムラが帰ろうとする。


巻類間「あー、のな、お前らだろ?悪さばかりして神代に目ぇつけられてるガキって」

「あの我那覇とかいうチンピラにシンナー流してんだよな」
黙り込むふたり

巻類間「、、そうなんだろ?」


オカムラ「、、あ、はい」


巻類間「あいつ盃もやってねぇのにうちの名前出してっけどよ、」

「もうシンナー流すなよ、て言うかもう盗むなや」

「だいたいお前らが盗んだ現場ぁうちが世話になってるとこなんだから、、」


ヤクザ2「いいんですか?そのまま帰して、、」

巻類間はふーと溜息をつき
「そのままって、よ、、あのガキたち追い込んでどうかなるんか?」

ヤクザ2「、え、、い、いえ」

巻類間「お前らなんかよりあいつらの方がまだマシだな、、」


その後の噂話
琉紋会のセドリックを盗んだのは在日米軍の不良外人だったという。

治外法権をいいことにやりたい放題の不良外人は
「沖縄ヤクザの治外法権」によって姿を消した。

失踪するのはよくある事らしく
「ニュースにはならなかった」


早朝
コンビニの前に積み重なるパンのトレー

オカムラはトレーごと持って行こうとすると

スティーヴン「全部はやばいだろ」

オカムラ「そうか?毎日やってもバレねぇんだから大丈夫じゃないか?」

スティーヴン「少しずつだからバレないんだよ」

オカムラ「ああ、そっか!」

と2個ずつ盗んだ。

パンを食べながら歩くふたり

スティーヴン「バイトしてみようかな、、」

オカムラ「なんだよ急に」

スティーヴン「昨日の夜考えたんだけどよ」

「わったーいつからこんな事してたかなってよ」


オカムラ「、、、」

スティーヴン「うり、中1の時にクラスのサイフが無くなっていきなりわったーのせいにされたあんに」

オカムラ「そりゃ、、オレがナイチャーでお前がアメリカーだったからだよ」

スティーヴン「そう、それで頭きて先生のサイフ盗んだんだよな」


オカムラ「おーやっぱ学生と違ってめっちゃ金入ってたよな」


スティーヴン「でもよ、いつかパクられるよな、こんな事続けてたら」

オカムラ「、、まあ、、そうだな」


スティーヴン「いー、一生盗み続けるのも難儀あんに」

「でよ、セドリックはいいきっかけじゃない?」

オカムラ「きっかけ、、」

スティーヴン「いー、めっちゃやばかったけどめっちゃツイてたよな」

「ちゃんとバイトしてよ、腹一杯食うさ」

オカムラ「、、それもいいな」

スティーヴン「な、バイト決まるまでは朝パンは続けないといけないけどよ」


オカムラ「そうだな、朝パンはな、決まるまではな、腹は減るからな」
「あ!そうだ、どうせバイトするならまかないついてるとこがいいな!」

スティーヴン「まかない?」

オカムラ「おー!飯食えるとこ、レストランとかよ!」

スティーヴン「お前頭いいな!」

オカムラ「あははーだろー?」

笑いながら歩くふたり。



神代がつけていた、
タバコを捨てつま先で消した。
ニヤリと笑った。



神代はコンビニに戻る。
筒状に巻いた千円をパンのトレーの網目にねじ込んだ。



沖縄エイリアンズ 了


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